紅蓮
よろしくお願いします。
私は銃弾が飛び交う戦場を走り抜ける。周りには大破した機械兵の残骸。人間の死体。炎上する廃屋が目に飛び込んでくる。
この戦闘が始まってからずっと気になっていることがあった。
(誰かが私を見ている…)
それはずっと敵から探知を受けている感覚があったのだ。
私は機械兵だ。人間に近い見た目を持っているとはいえ、それに変わりはない。No.はメテオニスという特別な素材が使われている関係上、近くで専用の探知を受ければ、場所がバレてしまう。
確かめたいことがあって、敢えて今は前に出た。
私を執拗に探知し続けていること。そして、私が前に出てから明らかに敵の動きが変わったこと。
もう断定していいだろう。
木の影に隠れて腕のデバイスを使って、天童に通信を入れる。
「天童、敵の目標はおそらくNo.です!私と福音の滅連銃のどちらか、もしくはその両方がターゲットです!」
「なんだと!?なら早く戻ってこい!お前を取られたらこっちの負けだ!」
「わかりまし…っ!?」
私は頭に鳴り響いた警告音に従って、その場から素早く移動する。そこには二メートル程度のサイズの人型の機械兵がいた。右手には大型のマシンガンを持っており、左手には大型のシールドを装備している。機体は赤で統一されたデザインをしていた。
「見つけたぞNo.7。私と一緒に来てもらう。」
「断る。私には倒すべき敵がいる。お前がどこの誰だか知らないが、ついて行くつもりは毛頭ない!」
私がそう断言してネイルガンナーの引き金を引くが、そいつが左手で持っていたシールドで防がれてしまう。
「おっと。自己紹介が遅れたな。この軍をまとめている紅蓮だ。お前が抵抗しずについてくるというのなら、この侵攻はやめてやる。悪い提案ではないだろう?」
私が付いて行けば、町のみんなを助けることができる。
その甘い誘惑に、一瞬判断を鈍らせられる。
「…私の答えは変わりません。ここでお前を倒して、残りの機械兵も殲滅する!」
だが、すぐにその誘惑を断ち切る。ここで紅蓮の提案に乗ることは今頑張って町を守っている全ての戦闘員に対する侮辱だ。
そんなこと許されるわけがない。
「交渉決裂だな。」
その言葉を皮切りに、私はすぐに紅蓮との距離をとる。そして、木の影から紅蓮のブレインを再度攻撃する。しかし、やはり向こうのシールドがその行く手を阻む。先にあのシールドをどうにかしないと、まともにダメージを与えることもできない。
「知っているぞ。お前はフェリキタス様との戦いでその戦力の殆どを喪失しているとな!普通なら私如きがお前に勝てるわけがないが、今は違う!」
紅蓮がそう言うと、右手のマシンガンがこちらを向く。
「くぅ…!」
素早くその場を離れるが、背後をマシンガンの弾幕が通過していく。一発肩にもらってしまったが、強化服のおかげで致命傷にはならなかった。
私が隠れていた木は数発受けただけで根本から折れてしまっていた。
(こんな攻撃何発も耐える事なんてできない…!)
私は近くに数件ある廃屋の近くまで走っていく。周りの機械兵は同士討ちもお構いなしと言わんばかりにこちらに攻撃してくる。
「はははっ!弱い弱い!No.が聞いて呆れるぞ!」
私はNo.90を使おうか迷う。これが強いと言っても所詮はハンドガンだ。敵に攻撃を当てる為にはもっと接近する必要があるし、何より、シールドが邪魔だ。
(私の手元にはネイルガンナーとNo.90と手榴弾が二つ。)
これだけで敵の弾幕を抜けて紅蓮のシールドを突破し、懐に潜り込む必要がある。
私は走りながら周りの機械兵のブレインを撃ち抜いていく。周りにいる量産型の機械兵は紅蓮に比べれば全然火力が低い。装甲が厚いので何発か撃ち込む必要があるが、苦戦するような相手ではない。
問題はその人型の機械兵が守っている戦車型や大型四足歩行型の奴らだ。
奴らは足が遅いという弱点を、他の機械兵に守らせることによって固定砲台と化していた。あれでは近づくことができない。
(それなら!)
私は人型をネイルガンナーで掃討しつつ、追ってくる紅蓮の対策も考える。あのシールドを突破するには、手榴弾如きでは足りないだろう。それこそ手榴弾がいくつもいるレベルだ。
ただでさえ防御型の機械兵のトップ。それががちがちの重装甲型ときた。
足の速さはそれ程早くないのが助かった。周りの機械兵が邪魔だが、このまま敵軍を抜ければ、距離を確保することはできる。
私はどうやって紅蓮を倒そうか考えていると、森の中にコンクリート製のビルが見えてくる。高さは5階建てで窓は割れており、もう使われてはいないだろう。
(私に可能性があるとしたらあそこしかない。)
私は敵の中を強引に突破しながら、ビルを目指す。既に何発も被弾しており、体中の駆動系から警告音が鳴り響いている。
それを無視してビルの扉を突き破ると、中は案の定廃墟と化していた。後ろを見ると、紅蓮とその配下の人型機械兵がビルを目指して進軍していた。
(時間がない…!)
私は中にある廃材をどけて、手榴弾を柱の根本にセットする。既に柱は耐久限界なのかヒビが入っており、いつ崩れてもおかしくなかった。
私が手榴弾をセットし終える頃、扉から紅蓮たちが入って来る。そして、こちらに向けて一斉に銃を構える。
「終わりだな。この数相手によく頑張った方だ。」
「ありがとうございます。でも、まだ終わってない!」
私は残り一つの手榴弾を敵の中心に投擲する。敵の残骸がこちらに吹き飛んでくるが、肝心の紅蓮はシールドで防いでいた。私はその間にビルの奥に走っていく。
「無駄な足掻きを!」
紅蓮は案の定私を追いかけてくる。
(そうだ。お前の目的が私の確保である以上、お前は私を追うしかない!)
私が窓の前まで来ると振り返り、柱の側にセットしておいた手榴弾を射抜く。
ドォンという音と共に、徐々に建物全体が軋んでいく。
「ま、まさかお前は…!クソ!!」
紅蓮が私の背後にある窓を目指して走ってくるがもう遅い。
「解除コード入力。極封火弾…!」
その言葉と共に、私の右手のNo.90が起動する。そして、シールドを攻撃すると、その衝撃で紅蓮が歩みを進めることができなくなる。
「お前!この俺と心中するつもりか!?」
私はその言葉に耳を傾けず、リロードしては撃ち、リロードしては撃ちを繰り返す。
そして、本格的にビルの崩壊が始まったタイミングで、私だけ窓から脱出する。
中には取り残された紅蓮が一人だけビルの中に埋もれていく。その爆風に巻き込まれて、私も吹き飛ばされるが、なんとか致命傷は避けることができた。
No.90はその役目を終えて、冷却モードに入った。
「ギリギリでしたが…私の勝ちです。」
私がそう言って立ち上がり、急いでその場から離れようとする。敵の首魁を倒したと言っても、まだ機械兵は残っている。
(早く天童たちと合流しなければ…)
そう思っていると、崩れたビルの中から凄まじい駆動音が聞こえてくる。まさかと思って振り返ると、そこには瓦礫をシールドで受け止めて、立ち上がる紅蓮の姿があった。
「そんな!」
私はすぐにネイルガンナーで狙いを付けるが、紅蓮はそれより早く私を攻撃してくる。
私は再度吹き飛ばされ、木に体を打ちつけてしまう。私が地面に転がっていると、近くまで紅蓮が歩いてくる。私は手放してしまった銃を拾おうとするが、上手く手を動かすことができない。
「まさか他にもNo.を持っていたとはな。だが、俺の勝ちだ!大人しく捕らえられろ!」
紅蓮がそう言って私に拘束具を付けようとしたその時、突如、紅蓮の体が爆発する。
(もう手榴弾は持っていない。一体誰が…?)
「お前…何者だ!」
紅蓮が視線を向ける先には戦闘服に身を包み、グレネードランチャーを装備した彩乃がいた。
その姿は自信に溢れており、とてもさっき別れた彩乃と同一人物とは思えなかった。
「その子は天童の仲間よ。それを奪おうなんて!覚悟しなさい!」
彩乃はそう言うと紅蓮に向けてグレネードランチャーを撃ちまくる。
「ぐぁあ!!こんな人間に!俺が!」
紅蓮のシールドもさすがに限界のようだった。当然だ。No.90の連射にビルの崩落。ダメージは少ないくない。
「死になさい!!」
「人間がああああ!!」
彩乃が最後の一撃を入れると共にシールドが破壊され、紅蓮の本体に爆発が届く。
すでに勝敗は決していた。
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(どうしてこうなった?)
俺の中にはかつての記憶が呼び起されていた。これが走馬灯というやつなのだろうか。
それは日本との戦争で敵を倒し続ける日常。俺は兵士だった。ひたすら敵を倒し、前に進み続ける。それだけを考えて生きていた。
だが、そんなある日俺に転機が訪れた。
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俺はいつもと同じように自分の武器の整備をしていた。KH37564それが俺の識別コード。
日本との戦いは現在こちらが劣勢で、大陸に日本軍の上陸を許していた。今も東部では熾烈な戦いが繰り広げられている。
俺も機体を修理したらすぐに戦場に戻ることになる。戦うことに恐怖はない。それが機械兵だ。
それに、俺たちは国の為に戦っているという誇りがあった。日本の連中に負けるなんて考えたこともない。
俺たちの手で国を守る。俺たちの手で奪われた領土を取り返す。そうやって何年も戦っていた。既に同時期に生産された機体は殆ど死んでしまった。
俺は同期が一人、また一人と死んでいく度に日本への恨みを募らせていった。そして、その恨みが敵を倒す原動力になっていた。
俺は機体の修理を終えて、廊下を歩いていると、前からたくさんの布に身を包んだ小さい機械兵が歩いてくる。俺はそれを見て、すぐに敬礼をして道を開ける。
そこにいたのはこの中国の希望の星である。フェリキタス様だった。機皇神としてこの国を導いてくれているお方で、何十年も前に機械を人間から解放した英雄でもある。
俺はその黒いベールに包まれた顔を見ようとするが、どうゆう仕組みか中を見ることはできなかった。
すると、フェリキタス様はおもむろにこちらを向いて来て、俺の顔を覗き込む。
「君、今幸せ?」
「…もちろんです。」
俺は嘘をついた。生まれてこの方幸せだと思ったことなんて一度もない。あるのは日本への恨みと誇りだけだ。しかし、この人の前で幸せではないなどと言えるはずがなかった。
「ふーん。君、今から私の直属の部下ね。」
「え?」
「早く付いて来て。」
俺の運命はその日を境に動き始めた。
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俺はフェリキタス様の側近として、仕えることになった。やること全てが新鮮で、不思議な感覚だった。
フェリキタス様は度々俺に幸せかどうか聞いてきた。だが、俺はその都度嘘をついて幸せだと言った。
俺以外にも、フェリキタス様の周りには、あっちこっちからかき集められたちぐはぐな集団が仕えていた。俺もその一人だ。ここにいる者は全員俺のように声をかけられてここに集められたらしい。
みんな幸せかどうか聞かれるが、幸せがどんなものかわからないようだ。
俺はすぐにその中に溶け込んで行った。
そして、そのままの状態が数年続いた。
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今日はフェリキタス様の住む家に来ていた。
そこには今まで見たことが無いような美しい庭園や綺麗な自然があり、俺は自分の中に更に不思議な感覚が増していくのを感じていた。
(綺麗だ…)
そして、庭園に見とれている俺の横にフェリキタス様が並んでくる。そして、おもむろに俺に向けて空中に画面を投影する。そこには漢字で紅蓮と書いてあった。
「君、今日から紅蓮ね。」
私はそう言われ、識別コードがKH37564から紅蓮になった。
「紅蓮…」
「君は今幸せ?」
俺はそう聞かれて初めて言いよどんだ。いつもならすぐに幸せだと言えるはずなのに、今日は違う言葉が口を突いて出た。
「…わかりません。でも、今まで感じたことがない感覚が自分の中に広がっているんです。暖かいような、安心するような、変な感覚です…これが幸せなんでしょうか?」
俺がそう言うと、フェリキタス様は嬉しそうにして、俺にとある命令を下してくれた。
「君はもう十分幸せらしい。ならこの命令を与える。やり遂げてくれ。そうすれば私も君ももっと幸せになれる。」
そして、下された命令は日本国内のNo.の強奪だった。命令書の中には日本が所有しているNo.のリストがあった。その最後の項目に「最重要目標No.7」と書いてあった。
「このNo.7はなんですか?」
「それは私に深手を負わせた最強のNo.だよ。」
俺はそう言われて、再度No.7の情報を見る。だが、発見されたのはごく最近で特筆すべき性能は無いように見える。
「これが最強?」
「そう。それに勝てるのはシュネルヴァイスくらいだろうね。でも、今は諜報部隊の報告によれば、かなり性能が低下しているらしい。だから、今の内に回収しておきたい。頼んだよ。」
俺はそう言われて、俺は敬礼をしてその場を後にした。
俺がこの命令を遂行すればフェリキタス様が幸せになる。そうなれば俺ももっと幸せになれるらしい。
俺は更なる幸せのために日本に向かった。
読んでいただきありがとうございました。




