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機皇世界  作者: 小土 カエリ
全ての始まり
2/33

襲撃

よろしくお願いします。

 磨墨の里の探索から帰ってきた翌日、俺は町の外の廃工場に来ていた。


 ここは昔から俺の遊び場にしているところで、一通りの工具が揃っている。今はポータブルバッテリーを持ってきて、回収した機械兵の解析を始めていた。


 本当はお父さんに頼みたかった。だが、機械兵との戦闘で人手が足りないらしく、昨日も帰ってこなかった。


 昨日の内に抜き取って来たデータを調べたが、こいつはNo.ナンバーズ7─エーデルワイスという名前らしい。だが、データは殆どが破損しており、修復できたのは名前と武装の種類だけだった。こいつがどういった経緯で作られたのか、どうしてあそこに放置されていたのかは分からなかった。


 あの後町に帰った後で、子供たちの相手をした後ですぐにこいつの解析を始めた。


「結局これはなんなんだろうね?電気通しても起きないし。」


「それがわかれば苦労は無いんだがなぁ…」


 こいつ────エーデルワイスの本体は外からの接続を全てブロックしていた。動力炉は生きているようで、かすかな反応があるのだが、起きる気配はなかった。着ていた強化服は何とか脱がすことができた。だが、その強化服もプロテクトが掛けられており、その内部情報は知ることができなかった。


「そもそもNo.ナンバーズってなんだよ…マジで何にもわからん。」


 No.───普通に考えれば何かをナンバリングして管理する為に割り振られた番号のはずだ。だが、今までそんなナンバリングをされた機械兵なんて見たことがないし、お父さんも知らないと言っていた。


「個体名No.7エーデルワイスねぇ。このデータに書いてある武器も置いてなかったし、本当になんでこれだけ放置されてたんだろ…?」


 どうやらここのデータにある武器も、本当はあの研究所の一階にあったようだ。だが、俺たちが行った時にはすでになくなっていた。つまり俺たちよりも先にその武器を回収した奴が居るってことだ。


「もしかしてこれ電気じゃなくてスターダストで動いてるんじゃないの?」


 紫苑が横からパソコンを覗き込みながら、そんなことを言ってくる。


「スターダストか…あれ貴重だからあんまり使いたくないんだけど、背に腹は代えられないか。こいつからゲットできる情報がそれ以上の価値があることを祈るしかねえな。」


 スターダストというのは機械が反乱を起こす前に発見された物質だ。それは今までの常識を覆すほどのエネルギーを持っており、ありとあらゆる機械への使用が試みられた。その結果スターダストを動力炉にした機械兵が誕生し、彼らはメンテナンスを行えば半永久的に活動することが可能になった。


 スターダストは青く光る粉みないなもので、俺も機械兵から回収したものを今までちまちま貯め込んでいた。


 時間を掛けて何とか強化服から引っ張り出すことに成功した俺は、胸の中心にある動力炉の蓋を左右に開らく。


「こうしてみると殆ど人間だな。肌は肌色の鋼鉄だけど。」


 動力炉の様子を見てみると中にはスターダストの粉が僅かに付着していた。こいつはやっぱり機械兵のようだ。


 俺はスターダストを無駄にしたくないので、少しづつ動力炉の中に入れていく。


 少しずつ。少しずつ。


「…結構食うな。」


「もうなくなっちゃうけど大丈夫?」


 俺はちょっと不安になってきた。俺が持っているスターダストはここにある分だけだ。これで足りないと非常に不味い。残りは全部武器に使ってしまった。


 最後の一粒を入れた後、エーデルワイスの様子を見守る。


 だが、全く起動しなかった。


「終わった。」


 俺ががっくり膝をついていると、横の紫苑が笑いだす。起動に失敗したことを笑ってきたのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「ふっふっふっ。天童君、これが何かわかるかね?」


「おい、今はそんなアホなことに付き合ってる余裕、は…」


 そこには蓋つきの試験管の中に入ったスターダストがあった。


「スターダスト…」


「その通り!さあ、これを恵んでやろう。泣いて感謝しろ?」


「ありがとうございます、紫苑さん。」


 俺は紫苑から恭しくスターダストが入った試験管を受け取る。だが、紫苑から受け取ろうとする直前で上に持ち上げる。


「貸一ね。」


「…わかったよ。」


「よろしい。」


 そう言うと紫苑は試験管を渡してきた。俺は受け取ったスターダストをエーデルワイスに入れる。


 一定量を入れると胸部の蓋が自動で閉じて、全身の体の継ぎ目に青い光が走る。


「うおおお!?」


「来たー!」


 俺と紫苑が驚いていると、エーデルワイスは目を覚ます。目は深紅で、とても綺麗だった。


「再起動開始。」


 そう短く話すとエーデルワイスの上に大量のウィンドウが出現していく。そして最後の一つが開かれた後、再び喋り出す。


「設定を完了してください。設定を完了してください。────」


「これってどうゆうこと?」


「ちょっと待ってくれ。」


 俺は数あるウィンドウの中の一つに目をやる。そこには「姿勢制御装置を起動しますか?」と書かれていた。それのオンをタッチすると、そのウィンドウが閉じた。


「まさかこれ全部オンにしないといけないのか…?」


 俺はエーデルワイスの上に出ていた大量のウィンドウを見る。確実に百個以上はある。


「紫苑、悪いけど手伝って…」


「さっきの貸今使うわ。一人で頑張ってね~。」


 紫苑はそう言うと一人で帰っていった。なんて薄情者だろうか。折角二人でここまで運んだんだからもう少し手伝ってくれてもいいのに。だが、スターダストを紫苑から貰えなければ、そもそもここまでたどり着けなかったので、俺は諦める。


「…マジか。」


 俺は一人でコツコツとウィンドウを閉じていくことにした。


─────────────────────────


 俺が最後のウィンドウを閉じる時にはすでにお昼を過ぎていた。ほとんどのやつは読まずにほいほい処理していた。あまりに退屈な作業だったので仕方がなかった。


 一部が壊れた天井からは日の光が差し込んでいる。太陽の位置的にちょうど俺とエーデルワイスの位置に光が当たっていた。


 そのせいで暖かい陽気が俺の集中力をどんどん削いでいく。


 うつらうつらしながら最早流れ作業と化したウィンドウ処理を進めていく。


 最後に所有者の登録をしてくださいという表示と共に、手形の画面が出てくる。


『警告。最終確認になります。この登録はいかなる場合においても撤回することは不可能です。よろしいですか?』


 ぼーっとしていた俺は特に内容を読まずに手を前に出す。


「手をかざせばいいのか?」


 俺はウィンドウの前に手をかざすと、「最後の登録を完了しました。」と出た。


 そして、凄まじい音と共に、動力炉が動き始める。ウイイイインという音が鳴り響く。


「うるせええええ!?」


 俺は耳を塞ぎ、姿勢を低くして何とかその場に踏みとどまる。


 しばらくすると騒音は収まり、そこには立ち上がったエーデルワイスがいた。


「あなたが私の所有者ですか?」


 先ほどの機械的な声とは違い、抑揚をもって話すエーデルワイスがいた。まるで人間を相手にしているような不思議な感覚だった。


「はい…」


「指紋を見せてもらってもいいですか?」


 俺はさっきと同じように右手を前に突き出すと、エーデルワイスが両手で俺の手を掴んでスキャンしていく。


「確認しました。あなたのことはなんと呼べばいいですか?」


 俺はハッとして自分の名前を答える。


「俺の名前は夜花天童だ。よろしく頼む。」


 俺が自分の名前を言うと、その場で跪いて返事をする。


「天童様。これからよろしくお願いします。機皇神を倒すその時まで、私はあなたの盾となり、鉾となりましょう。」


(…なんの話だ?)


 状況が全く理解できない。機皇神というのは世界に数体いる、人類にとって代わった今の支配者たちだ。今はその複数の機皇神が世界を統一しようと日々戦争をしている。機皇神は機械兵と違い、比喩表現とかではなく本当に一騎当千の力を持っている。


「機皇神を倒すってどうゆうことだ…?あと様呼びは気持ち悪いからやめてくれ。」


「それは…」


 エーデルワイスが言葉を紡ごうとして押し黙る。次の言葉が出てこないのか小さく開いていた口が閉じられる。何か聞いてはいけないことを聞いてしまっただろうか?


「…わかりません。」


「え?」


「わからないです。記憶領域がほぼ破壊されていて、それ以外のことは一切わかりません。機皇神が何かもわからないです。」


 俺は予想外の回答に言葉を失う。だが、エーデルワイスも自分の状態に戸惑っているようで、動揺しているのが見て取れる。


「はぁ?」


(俺と紫苑の手持ちのスターダストを使って手に入ったのが、記憶が一切ない機械兵って冗談だろ!?)


 俺はあまりのことにその場で倒れ込む。


「申し訳ありません。あなたの知っていることを教えていただきたいのですが…」


「…わかった。俺が知ってることは全部教えるよ。」


 こうして俺はこの世界について話し始めた。


─────────────────────────


 五十年前世界は機械文明が発展し、あらゆるものが機械────AIに任されるようになっていた。かつて人がやっていたことは機械が代わりを務め、人類は快適な生活を送っていた。


 だがある日、日本、北アメリカ、中国南部に大きな隕石が落下した。そこで未知の物質が発見され、スターダストと公的に名付けられた。しかし、スターダストが発見されたその日から、その平和だった日々の歯車が少しづつ狂い始めた。


 スターダストは凄まじい物質で、理論上は無限のエネルギーを得られるはずだった。そのスターダストを使って作られた次世代のAI────ブレインが世界中に広まった。


 だが、時代が進むにつれて優秀なブレインの中から人類に対して反抗してくる奴が現れたのだ。そして、いつしかその優秀なブレインたちが機皇神と呼ばれ始め軍を指揮するようになり、世界中の人類は機械との全面戦争をすることになった。だが、あまりにも進化しすぎた機皇神たちに人類は次々と敗北していった。


「────国際社会は崩壊。一部の国では核を使ったらしいが、それでも勝てなかったらしい。そして、俺たち残った人類は密かに生き永らえて、ささやかな抵抗を続けてるって訳。」


「なるほど。天童はその人類の兵士ということなのですね。」


 俺は一通りのことを話し終えて、一息つく。思えば昔の人類ってマジでアホだったんだな。自分たちの作った相手に逆に乗っ取られるとか、間抜けすぎる。


「そうゆうこと。で、これを聞いても機皇神を倒すって言うのか?」


「世界の支配者たち…それを聞くと流石に気後れしますね…今の私では彼らに勝つのは無理でしょうか?」


 エーデルワイスはとても自然な動きで手を胸元に当てる。本当に人間を相手にしているような感覚だ。


「無理だと思うぞ。」


 俺は思っていることを素直に伝える。機皇神の元にたどり着く前に破壊されて終わりだろう。


「そうですか…それなら今はあなたの元にいようと思います。不束者ですがよろしくお願いします。」


 彼女はそう言うと正座して、手を正面で揃えて礼ををする。機械兵なのにやけに礼儀正しい。


(ていうか機械兵って礼節の概念ってあるんだ。)


 などとどうでもいいことを考えた。だが、礼儀正しいのは素直に好感が持てる。


「まあ、機皇神に届くかはわからないけど、俺たちと一緒に戦ってくれるなら嬉しいよ。」


「ありがとうございます。」


 俺はエーデルワイスと握手をする。俺が使った分のスターダストに見合う戦力かはわからないが、とりあえず無駄にはならなかったみたいだ。


(ていうかほぼあるだけ全部使ったから、少しでもリターンが無いと割に合わないぞ。)


 俺がそんなことを考えていると廃工場の外から誰かが駆け足で近づいてくる。エーデルワイスが立ち上がって構えを取るが、俺はそれを制止する。


「大丈夫だ。」


 この足音はあいつだ。俺は入口の方を見ていると案の定紫苑が顔を見せる。


「天童、大変だって…ええええ!?起動してるし!」


「おうさっき起動したぞ。」


 紫苑はこちらに近づいて来て、エーデルワイスを不思議そうに眺める。


「へー本当に人間みたいだね…じゃなくて!ヤバいよ、機械兵が町に攻撃して来てる!装備を整えたら戻部隊に合流して!」


「は?」


 何言ってるんだと言おうとしたとき、大地が揺れるような轟音が鳴り響く。この振動の仕方は爆発だ。


「もう敵が近い!天童急いでよ!」


 紫苑はそう言うと、自分だけ先に街に戻っていく。あまりにも急なことに驚いていると、エーデルワイスが俺に手を差し伸べてくる。


「天童、いや、マスター。指示をください。私はあなたの兵器です。」


 俺はその言葉を聞いて、すぐに手を掴む。手を引いてもらい、立ち上がると、何をすればいいか考える。


(本当に俺が指示を出してもいいのだろうか?)


 少し迷ったが、こいつを起動したのは俺だ。ならその責任は俺が負うしかない。


「とりあえず、強化服を着てくれ。その後俺の家に行くぞ。武器もそこにある。」


「はい!」


 俺はエーテルワイスが着替えるのを待ってから、バイクを放置して町に向かって走り出した。


─────────────────────────


 町に着くとたくさんの飛行機が、空を覆っていた。町のみんなは地対空砲を駆使して戦っているが、明らかに迎撃が追い付いていない。


 家の中に入ると、お母さんが、避難の準備を進めていた。


「天童!さっき紫苑ちゃんが来たよ。あんたは私たちと一緒に避難部隊だってさ。」


「わかった。エーデルワイス、こっちだ!」


「はい。失礼します。」


 エーデルワイスはお母さんに小さく礼をして、俺の後を付いてくる。お母さんは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに慌ただしく動き始める。


 俺の部屋に着くと、そこにはアサルトライフルが二丁、マグナムが一丁置いてある。どれも俺が修理したものだ。


 エーデルワイスの強化服には、ホルスターを始め何も付いていない。


「武器は何もないのか?」


「近接格闘なら…」


 俺はマグナムが入ったホルスターとベルトを渡す。


「これを使ってくれ。あと弾はこれな。」


 エーデルワイスがベルトにホルスターを通し、身に付ける。その後、俺が渡した換えのマガジンが入ったを専用のケースを腰に付ける。


 最後にアサルトライフルを渡す。即席の装備だが、どちらも俺が使い込んだものだ。機械兵なら簡単に使いこなすことができるだろう。


「そのアサルトライフルの名前はネイルガンナーだ。大事に使ってくれ。」


「ありがとうございます。」


「じゃあ、スコープの見方から教えるぞ。────」


 俺は照準の付け方、リロードの仕方をしっかりと教える。必要ないかもしれないが、戦場に出た後にこんなことをやっている余裕はない。できることは今の内にやっておくべきだ。外では相変わらず爆発が続いている。


「────最後にここの部分を前に倒せばマガジンが銃に嵌まる…今の説明で理解できたか?」


「はい。覚えました。」


 さすが機械兵だ。人間と違って一回の説明で理解するのは機械兵の長所のひとつだ。


 町では機械兵は全く使われていない。その大きな理由が、ハッキングを受ける可能性が高いからだ。敵の機械兵と戦闘した時にウイルスを使われたケースもあるらしい。その点、エーデルワイスの硬いプロテクトなら、ハッキングの心配も低いだろう。


「なら準備はこれで終わりだ。行くぞ!」


「はい、マスター!」


 俺たちは部屋を出て、戦場へ向かった。



読んでいただきありがとうございました。

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