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機皇世界  作者: 小土 カエリ
各務原
19/33

防衛戦

よろしくお願いします。

「見つけた。」


 俺は自分の水陸両用の戦車の中でそうつぶやく。今回の侵攻の目的の一つを発見した喜びから思わず口に出してしまったのだ。


「急いで準備しろ。攻撃を仕掛ける。」


 私がそう命令を出すと、部隊の機械兵たちが隊列を整え始める。


 この日本への侵攻はとある目的があった。それは日本に存在するNo.の回収。


 日本の戦力を削ぐと同時にこちら側で兵器として運用し、戦争を有利に進めようという話だ。そして、その標的としたものがNo.7だった。もちろん可能なら他のNo.も回収するつもりではある。だが、No.7は現在弱体化しているとはいえ、無視できない存在だ。今は人間の手にあるようだが、これがシュネルヴァイスの手に渡れば戦争の均衡が破られる可能性もある。


 反応が弱いので探すのに苦労したが、ようやく捕獲作戦に移ることができる。


(この作戦を成功させて日本との戦争に勝てば、私たちの目的に大きく近づくことができる。)


 中国で待つみんなの為にも、失敗はできない。


 私は各務原に部隊を進めた。


─────────────────────────


 俺は今日も彩乃の横でパソコンを触っていた。


 甘草らくとの中に爆弾を埋め込んだというハッタリによって、奴を自首させてから一週間が経った。彩乃は徐々に元気を取り戻してきており、少しは一人で居ても大丈夫になった。


 左側には髪の色を元の黒に戻した紫苑がいる。だが腕を絡ませており胸が当たっている。


 俺は我慢できなくなって紫苑に話しかける。


「あの、紫苑さんちょっと近くないですか…」


「紫苑ちゃん頑張ったんだけどなー。何かお礼があってもいいと思うんだけどなー。」


 紫苑はそう言いながら胸を更に押し当ててくる。


「何すればいいの?」


「頭撫でて。彩ちゃんばっかりかまってて妬ける。」


「そりゃすいません。」


 俺はパソコンを触る手を止めて紫苑の頭を撫でる。今回は殆ど紫苑がやってくれた。これくらいのお礼でいいなら安いものだ。


「はぁ…好きな人に頭撫でてもらうの幸せ…あと一時間くらいお願いね。」


「はいはい。」


 俺がしばらく紫苑に気を取られていると、外からサイレンの音が聞こえてくる。


「何この音?」


「警報か?」


 俺たちがのんびりしていると、外から爆発音が聞こえてくる。俺はその衝撃を受けて、立ち上がる。窓から外を見てみると、北側関門に機械兵が群がっていた。このままではここも危ないかもしれない。


「紫苑、エーデルワイス、すぐに着替えて外に出るぞ。彩乃は早く避難するんだ。」


 俺は急いで自分の部屋に戻って、戦闘の準備をする。戦闘服に着替えて銃を装備し、腕のデバイスが問題なく動くことを確認する。荷物をまとめて外に見ると、町の人たちがシェルターに避難を始めていた。


「天童、彩ちゃんも着替え終わったよ。」


 紫苑にそう言われて振り返ると、そこには戦闘服に身を包んだ彩乃がいた。この格好を見るのも懐かしい気がする。


 彩乃に戦闘服を着せたのは少しでも生き残る確率を上げる為だ。戦闘服は丈夫に作られており、軽い爆風くらいでは破れたりはしない。


 彩乃が自分の身を守れるようにと考えてのことだった。


 俺は部屋にある武器を装備して一階のトラックを目指す。すると、エレベーターで強化服に身を包んだ灯りさんと、避難の準備をしたいろはさんと出会った。


「天童君。よかった。今呼びに行こうと思っていたところだ。町の北側から見たことがない機械兵が押し寄せてきている。撃退に協力してほしい。」


「わかりました。いろはさんは彩乃をお願いします。」


 俺はエレベーターの中で灯りさんから状況の説明を受ける。


 今機械兵たちは、今日の昼頃になって急に町に攻めてきたらしい。今は北側関門で食い止めているが、いつ突破されてもおかしくないとのことだった。


 俺はトラックが止めてある駐車場に着くと、彩乃のことを抱きしめる。


「行ってくる。彩乃は無理せずにな。」


 彩乃は俺のことを抱きしめ返してくれた。本当にいい奴だ。今はこんな状態だが、彩乃は強い。必ず戦いの場に戻ってきてくれる。俺はそう信じて彩乃から手を離す。


 次に紫苑が彩乃を抱きしめる。


「行ってくるね。彩ちゃんは自分の身を守ることだけ考えてね。」


 これが最後の別れになるかもしれない。彩乃と紫苑は強く抱きしめ合った。


 そして、俺たちは灯りさんの車を追って、トラックで北側関門を目指した。


─────────────────────────


 戦勝に着くと、そこではギリギリの戦いが繰り広げられていた。設置型の機銃がバリケードの上に配備されており、何人もの兵士が機械兵と戦っている。


 町からは次々と弾薬が運び込まれ、帰りの車には負傷者が乗せられていた。


「もうあんなに怪我人が…」


「天童君、こっちだ。」


 俺は灯りさんに言われて、テントが広げられた指揮所に入る。灯りさんが近づくと、机を囲んで話し合っていた人たちが礼をする。それを灯りさんが手を払って制止する。


「状況は?」


「かなり不味いです。敵は防御型の機械兵が多く、これ以上接近を許せば戦線が崩壊します。」


「…そうか。一番隊は機銃を使って攻撃を続行!二、三番隊は下のバリケード越しに一体ずつ確実に潰していけ!火力を集中することを意識させろ!」


「「「はい!」」」


 灯りさんから命令を受けた人たちが、銃を持って走っていく。


「天童君、君たちにはやってもらいたいことがある。」


「何をすればいいですか?」


「ここを見てくれ。」


 灯りさんがそう言うと、机の上に投影された地図を指さす。そこにはバリケードを迂回するように作られたルートが表示されていた。


「ここから敵を奇襲できるはずだ。君たちにはこの部隊に入ってもらいたい。危険な役目だが、引き受けてくれるか?」


「わかりました。」


 俺が返事をすると、灯りさんが頷く。


「よし。そうと決まれば、君たちは刀祢の下についてくれ。」


 そう言いながら灯りさんが指さした先には、自分の部隊に指示を飛ばす刀祢さんがいた。刀祢さんはこちらに気づいたようで、駆け寄ってくる。


「君は確か彩乃の友達の…?」


「はい。今日はあなたの部隊に入れと言われました。よろしくお願いします。」


 俺がそう言うと、刀祢さんは笑顔で迎え入れてくれた。


「そうか…人手が増えるのは大歓迎だ。こちらこそよろしく頼む。」


 俺は刀祢さんの部隊の人と顔合わせをして、出撃の時を待った。


─────────────────────────


 私は一体何をしているのだろう。


 避難する人たちが次々とシェルターに押し寄せてくる。私は本当ならここに居ていい人間じゃない。


 今までずっと頑張って来た。この町を守るために努力してきた。銃の使い方、整備の仕方をおじいちゃんに教えてもらって。戦い方をお兄ちゃんに教えてもらって。お父さんに戦闘員にしてもらって。


 なのになんて無様な結果だろうか。


 結局私は誰も守れなかった。逆に守られる立場になって、この悔しさが自分の中を満たしていく。


 天童に抱きしめてもらった時、私も行くと言いたかった。私もあなたと戦いたいと言いたかった。


 なのに、私の口は言葉を発してくれなかった。


 怖いのだ。また絶望の底に沈むのが。


 私が顔を上げると、泣いている女の子がいた。どうやら親とはぐれてしまったようで、周りの大人たちが声を掛け合っている。


「この子の親御さん知りませんかー?」


「サイドテールの赤いリボンを付けた女の子の家族はいらっしゃいませんかー?」


 そうやって声を上げてもその子の親は現れなかった。その子は泣いたまま、時間だけが経過していく。


 そうだ。結局誰もその涙を止めてくれる人はいないんだ。


「…」


 だが、ふと周りを見ると私の耳に自分の子供の名前を叫んでいる女性の声が聞こえてくる。そちらを見ると、その女の子が付けていたのと同じリボンを握っていた。


「ぁ…」


 私はそれに気づいて母親と子供を交互に見る。だが、人が多いせいでお互いの存在に気付いていない。これだけたくさんの人がいるのだ。周りは人の話し声で満たされており、母親のその声もその人ごみにかき消されていく。


 早く。誰か。あの子を。


「…」


(…違う。誰かじゃない。)


 私が、私が行かなきゃいけないんだ。他の誰かじゃない。あの子の涙を止めてあげられるのは私しかいない。天童が助けてくれたように、紫苑が寄り添ってくれたように。


 あの子を助けられるのは私しかいない。


「彩乃?ちょっとどこ行くの!?」


 私はいつの間にかママの制止を振り切って、女の子のところに走っていた。


 そして、私は精一杯息を吸って深呼吸をして、声を出す。


「こっちにあなたのお母さんがいるわ。」


「お母さん…?」


 私はそれだけ短く言うと、女の子の手を引いてさっきの女性の元に歩いていく。人ごみをかき分けていくのは大変だったが、私は絶対に女の子の手を離さなかった。


(確か、こっちに…!)


 私がその女性の服を掴むと、こちらに振り返ってくる。


「探してるのこの子じゃないですか?」


「さやか!よかった本当によかったわ!ありがとうございます!助かりました!」


「お母さん!!」


 その親子は抱きしめ合って、私に感謝を伝えてくる。


 それは奇しくも私が目指していた戦闘員の姿に重なって見えた。


 誰かから感謝される感覚なんて、久しく忘れていた。


 私の目に涙が溢れてくる。


「いえ、こちらこそ見つけられて本当によかったです。それじゃあ、私はこれで。」


 そう言うと、私はその親子のいる場を後にする。そして、涙を拭って、ママが待っているところに急ぐ。


「彩乃!急に走り出すから心配したわよ!」


「ママ、ごめん。私、行かなきゃいけない。」


「え…?」


 私は部屋から持ち出したバックを開けて、その奥底に入っている愛用のグレネードランチャーを手に取る。昔からずっと使ってきたマガジン式のグレネードランチャー。最初は重くて扱いきれないと

言われたが、この武器に相応しい使い手になるために私は頑張って来た。


「ほったらかしにしてごめんなさい。」


「彩乃、今のあなたはここに居ていいのよ?」


 ママは私のことを心配してくれているのだろう。しかし、私はその差し伸べられた手を振り払う。


「だめ。私今日戦わなかったら絶対後悔する。だから、行ってきます。」


「彩乃!」


 私はママの制止を振り切ってシェルターの外に出る。戦闘服を着ていてよかった。


(待っていて天童。今行くわ。)


 近くを通った弾薬の運搬車に拾ってもらい、戦場を目指した。


─────────────────────────


「撃て撃て!弾はどんどんくる!とにかく敵を撃ちまくれ!」


「「「おおー!」」」


 俺たちは刀祢さんの指示に従って、敵を攻撃し続ける。敵の側面から攻撃を仕掛けるのは成功し、ある程度の打撃を与えていた。


 敵の残骸が廃墟の中に溢れていく。話を聞いてはいたが、確かに見たことがないタイプの機械兵ばかりだ。


 殆どが人型の機械兵だが、どれも装甲が厚い。


 機体には漢字のような文字が刻まれているが、読むことができなかった。


 敵の素性が気になったが、今は調べている余裕はない。


 機械兵と銃撃戦を続けていると、奥から大型の機械兵が姿を現す。戦車型、大型四足歩行型、装甲車型、と選り取り見取りだった。


「さすがにこの数は…!」


 俺が敵の圧にたじろいでいると、横にいたエーデルワイスがNo.90を手に取る。


「マスター。私が行きます。援護してください!」


 そう言うと、エーデルワイスは銃弾が飛び交う中に飛び込んで行った。


「おい、エーデルワイス!くそ!紫苑、エーデルワイスを援護するぞ!」


「了解!」


 俺は刀祢さんに通信を入れて、エーデルワイスを援護してもらうように頼んだ。



読んでいただきありがとうございました。

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