自首
よろしくお願いします。
「…ふぅ。マジでなめんなよクソが。」
俺はパソコンの画面に映った画像を見て思わず悪態をつく。
彩乃が絶望のどん底に突き落とされた日から二日が経った。彩乃のことは紫苑たちに任せて俺は休憩もとらずにずっとデバイスと格闘していた。
永遠のように長い時間だったが、そんなことは関係なかった。
何時間もかかってしまったが、俺はようやく全てのプロテクトをこじ開ける事に成功した。
最初は見たことがないプログラムに手こずったが、慣れててくればどうということはなかった。
部屋の扉が開き、外から人影が現れる。
「開いたの?」
「俺が何年機械弄ってると思ってるんだ。これが中身。」
俺は部屋に入って来た紫苑にパソコンの画面を見せる。
そこには一枚の写真が入っていた。紫苑はその写真を見て真顔のまま立ち上がる。そして俺の頭をぐりぐり撫でてくる。
「よし。よくやった天童。じゃあ、行くか。」
「そっちはなんとかなりそうなのか?」
「それこそ紫苑ちゃんを舐めるな。天童がくれた前情報があれば組み立ては余裕。あとそれがあればもう勝てる。」
紫苑はそう言って静かに笑った。
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俺はイライラしながら町をブラついていた。あの男がさえいなければ彩乃は俺の物になったのに。
(大体俺の家になんで他の男が居るんだよ。不法侵入だろ。)
パパが言うにはあの男は外から来た余所者らしい。最近は町の警備をしていると言っていた。戦うことしかできない脳筋のくせに女を侍らせてムカつく奴だ。
(あいつの女もすぐに俺の物にしてみせる。)
特に黒髪の女は胸がデカくて最高だった。チラッと見えた足も綺麗だったし、早く俺の物にしたくて堪らない。
俺が笑顔でいると、前からいいスタイルの女が歩いてくる。黒いレギンスに茶色のブーツを履いており、上はロングのTシャツだった。足の付け根の辺りに視線が吸い寄せられる。髪は黒っぽい茶色で、緩いウェーブがかかっている。
何より胸がでかい。あの女と同じくらいの大きさだ。
俺が目で追いながら横を通り過ぎるとその女が話しかけてくる。
「あの、これ落としましたよ。」
俺が振り返るとその女がハンカチを差し出していた。それは彩乃のハンカチだった。
(あれ…?俺これ持って帰ったっけ?)
俺の中にふとそんな疑問がよぎったが、その女は俺の手を握ってハンカチを手渡してくる。
肌がすべすべでとても良い手触りだった。
「気を付けてくださいね。」
「そんなことよりこれからどっかにお茶でも飲みに行かないか?」
その女は俺の誘いに少し迷うそぶりを見せて、時計を確認する。
「え?そうですね…少しならいいですよ。こっちに良い場所があるんです。」
そう言って女は俺の前を歩き始める。それにしても柔らかそうな尻だ。早くこれを俺の物にしなければいけない。
(やはり俺はすばらしい人間だな。こんな美人な女が向こうからすり寄って来るんだから。)
自分の溢れ出る人望のせいで美人は全部俺の物になる。本当に他の男が可哀そうに思えてくる。
今日中に絶対にこの女を落とすと心に決めて、その尻を追いかけた。
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俺が目を覚ますと、目の前には誰かが立っていた。
俺は自分の目を擦ろうとして、手が動かせないことに気が付く。自分のことをよく見てみると、体が椅子に拘束されていた。
「ようやくお目覚めか。」
その男は彩乃の部屋にいたあの犯罪者だった。
「ぅ────!?」
俺はなんでお前がいると叫ぼうとするが、口に布を噛ませられており、うまくしゃべることが着なかった。
(なんでこんなことになってんだ!)
自分が直前まで何をしていたのか思い出す。あの女の後を追って、どこかの建物に入ったのは覚えている。だが、その建物には店なんてなく、ただの空き家だった。そしてそこからの記憶がない。
「お前をここに運び込んだのは話がしたかったからだ。ああ、そのままじゃ口が利けないか。紫苑、口の布を外してやってくれ。」
男がそう言うと、横からあの茶髪の女が出てくる。そして、俺の口に巻いてある布を外してくれた。
「お、お前!裏切ったのか!?」
俺がそう聞くと、女は嘲笑しながら男の元まで歩いていく。
「裏切るも何も私は最初から天童一筋だから。生憎とレイプ魔を彼氏にするような趣味は持ってないんだよねー。」
喋り方も歩き方も声色も何もかもがさっきとは別人のようだった。だが、あの髪型は間違いなく町で会ったあの女のものだ。
「ど、どういうとこだ?お前は俺に惚れてるはずだろ!なんでよりにもよってその男につくんだ!そいつは俺の女に手を出したクソ野郎だぞ!今ならまだ間に合う!俺の女になれば幸せな生活が待ってるんだ!欲しいものはなんでも買ってやる!だから、俺の物になれ!!」
俺はその女に寛大な心でもって語り掛ける。ここまで言えばこの女も俺の方が良いと言うに決まっている。
女は俺の方にゆっくり歩いてくる。その雰囲気は町で出会った時と瓜二つだった。
「何か勘違いしてるみたいだから教えてあげるけど、私はあなたに惚れてない。あなたの物にもなりたくない。あなたがくれる物より天童の方が欲しい。理解できた?」
女は町で会った時と同じ声色で俺に話しかけてくる。まるで別人だ。さっきまでの低い声はどこに行ったのかというくらい高い声で妖しく笑っていた。
「紫苑、もういいだろ。さっさと本題に入りたい。」
「ごめんごめん。あまりに可哀そうだったから現実教えてあげようと思ってさ。もう譲るから。」
俺が何も言えずにいると、女が男の方に戻っていく。そして、男がマグナムを持って立ち上がる。
「さて甘草らくと。いくつか聞きたいことがある。」
「お前みたいな犯罪者と話すことなんて何もない!早くこの縄をほどけ!これは犯罪だぞ!」
俺はなんとか縄から抜け出そうと身を捩るが、固く結ばれていて逃げる事ができずにいた。
「お前ただで済むと思うなよ!パパに言いつけてお前を死刑にしてやる!お前のよこにいる女も彩乃も全員俺の奴隷にして飼ってやる!後悔したってもう遅いんだよ!俺はお前よりも素晴らしい人間なんだ!」
その男は俺の目の前まで来ると、俺の眉間に銃口を当ててくる。そのまま一言だけつぶやく。それは凍えるような声でまるで生気が感じられなかった。
「死体がどうやって喋るんだよ。」
俺はその言葉に初めて恐怖を覚える。周りを見てみるがここは俺を含めた三人以外は誰もいない。
「お前…やめろ!そんなことしたらお前は死刑だぞ!俺が帰らなかったらどうなるか…」
「今の時代、人の命なんて紙切れよりも軽いって知らないのか?可哀そうに、今まで何不自由なく生きてきたんだろうな。お前が話をするなら待とうかと思ったが、話すことはないらしいからな。」
そう言って男はマグナムの撃鉄をあげる。
(こいつ本気だ…おおお俺を殺す気で…不味いなんとか、なんとかしないと!)
俺はどうしたら助かるのか必死に考える。とりあえず時間を稼ぐんだ。一日経っても帰らなければ、パパが俺のことを心配して探しに来てくれるはずだ。
「待て!話す!俺の知ってることならなんでも話すから!だからその銃を降ろせ!」
「わかった。じゃあまず一つ目だ。大矢野彩乃をレイプしたことを認めるか?」
俺はそう聞かれて一瞬ポカーンとなった。こいつは一体何を言っているんだ。
「そんなことしてない。ただ抵抗するからちょっと抑えてヤっただけだ。あいつは俺の女なんだぞ?俺の物ということは俺が何をしたって問題ないだろ?なんでそんな当たり前のことを聞くんだ?」
俺は当然のことだと言わんばかりに断言する。将来俺の女になるのだから、もう俺の物と言って差し支えないはずだ。
「はぁ…なら次だ。お前は大矢野彩乃をこの写真で脅迫したと認めるか?」
男がため息をつきながらとり出したのはパパから貰ったデバイスだった。そこからは彩乃を犯した後の彼女の裸の写真が写っていた。
「なんでお前が持ってるんだよ!それは絶対に正しい解除方法を知らないと開かないってパパが言ってたのに!」
「苦労したよ。と言っても一晩で開いたけどな。それは置いておいて、認めるのか?」
「脅迫なんてしてない。その写真を使ってちょっとビビらせただけだ!だから脅してなんてない!」
俺は自分がやったことを正直に話す。俺は脅迫なんてやってない。その写真を暴露するぞと言っただけだ。実際にバラ撒いてないし、彩乃もそれはわかってるはずだ。
「そうか。じゃあ最後にお前に言っておくことがある。お前に体に小型爆弾を仕掛けた。無理に摘出しようとすると反応して爆発するやつをな。あとこのリモコンでも爆破できる。」
男はそう言いながらスイッチが一つだけ付いたリモコンを手にする。
俺はさすがにあり得ないだろと思い、笑いながら馬鹿にしたように話す。
「な、なに言ってんだお前。そんなことできるわけないだろ。」
俺がニヤニヤしながらそう言うと、男はもう一つのリモコンを取り出す。そして、俺の目の前にビー玉のような大きさのものを見せてくる。
「おい、なんだこれは?」
男は無言でそれを離れた場所に置いてある木箱の上にそっと置く。
何が始まるんだと見ていると、男は最初に見せたスイッチをしまう。
そして元の位置に戻ると、もう一つのスイッチを押す。
するとパアンという音と共に木箱が粉々に消し飛んだ。
俺は青ざめた表情でそれを見る。
「わかったと思うけどあれと同じものがお前の中にある。そして摘出も不可能。この意味わかるよな?」
俺はだんだん呼吸が荒くなっていく。
あれと同じものが俺の中に入っている。
俺は視界が歪むような変な感覚がしてくる。妙に吐き気がするし、座っている筈なのに倒れそうな感覚になる。
「た、頼む、死にたくない!助けてくれ!どうしたら助けてくれる!?なんでもする!なんでもするから助けてくれ!」
俺は泣きながら必死に頼み込む。銃を降ろしてくれたので少し安心していたが、こいつが本気で俺を殺すつもりなのが嫌と言うほど伝わってくる。なんとかしてこの場を切り抜けないといけない。
「なら大矢野彩乃をレイプしてその写真で脅迫したのは自分だと自首しろ。そうすればスイッチは押さないでおいてやる。だが、大矢野彩乃にもこれと同じスイッチを渡してある。もしお前がまた彼女に近づくなら…わかってるな?」
「する!自首する!彩乃にももう近づかない!だから頼む!早く解放してくれ!解放してくれたらすぐに警察に行くから!」
俺がそう言うと、首のあたりに何か衝撃が走る。
「その言葉忘れるなよ。」
俺はそれだけ聞くと、意識が闇の中に沈んで行った。
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甘草らくとを監禁して自首させた日から一日が経った。テレビのニュースでは物流の大手の息子が逮捕されたとあって大々的に報道していた。世間からしたら叩くものができて万々歳だろう。
そして俺は一人で灯りさんの部屋に来ていた。
「以上があなたがいない間に起きたことです。何故かあなたに連絡が付かなかったので俺が自分で手を打ちました。」
椅子に座った灯りさんは厳しい表情をしていた。
「そうか…私のせいでそんなことになっていたとは…」
そこからは灯りさんの話が始まった。
「私は彩乃には戦いとは無縁の生活をしてほしいとずっと願ってきた。私自身が戦場に立ち、そこがどれだけ凄惨なのかをよく知っていたからだ。だから、今回のお見合いは渡りに船だと思った。多少強引ではあるが、これで彩乃も戦うことをやめてくれるだろうと。今回のお見合いの後に入っていた重要なパーティーもそれが理由だ。彩乃が町で暮らしていくにはこの町のトップたちと繋がりを持っていた方が良いと思ってのことだった。全てが裏目に出るとは…」
俺はそれを黙って聞いていた。灯りさんも自分なりに考えて彩乃を戦いから遠ざけようとしていたのだろう。だけどそれは────。
「それはあなたの勝手な言い分ですよ…俺は彩乃さんから話を聞きました。パパもママも戦うことを否定してくると言っていました。灯りさんは彩乃さんを戦いから遠ざけようとするあまり、その理由を説明損ねていたのではないですか?彩乃さんはあなたに恐怖していると言ってましたよ。」
「私のことをそんな風に思っていたのか…これでは父親失格だな。」
灯りさんは自虐的にそう笑った。
彼の言い分も理解できる。大切な娘に平和に暮らしてほしいというのは親としては切実な願いなのだろう。だが、そこを意識しすぎるあまり、灯りさんは何故戦いをやめて欲しいのかを説明しなかった。彩乃は灯りさんが怖くて自分の気持ちを話せなかった。
このすれ違いが今回の悲劇を引き起こした。
「身近な人間だからって全てを理解しているわけじゃないんです。だからこそあなたは彩乃さんの意見をもっと聞くべきだった。あなたの言い分を押し付けるのではなくしっかりとその理由まで話し合うべきだった。俺はそう思います。」
俺がそう言うと、灯りさんは悲しそうな顔をしながら項垂れた。
「君の言う通りだ。なんでもっと早く気が付けなかったのか…」
俺は礼をして、灯りさんの部屋を後にする。
もしもあの悲劇が起こることをわかっていてお見合いを組んだのなら、ぶん殴ってやろうかと思っていた。だが、そうではなかった。彼の中にはちゃんと彩乃を思いやる心があって、それゆえの過ちだった。
「やるせねえな…」
俺は誰もいないエレベーターの中でそうつぶやいた。
読んでいただきありがとうございました。




