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機皇世界  作者: 小土 カエリ
各務原
17/33

時代が違えば

よろしくお願いします。

「彩ちゃん遅いね。」


 俺が時計を見ると、時間はすでに十五時を過ぎていた。朝の九時に出ていったのにさすがに遅い。


「そうだな…」


 俺たちは今、彩乃の部屋で帰りを待っていた。嫌な相手とのお見合いと言っていたので少しでも元気づけられればと思い、俺ができる最高のメイクをした。


 間違いなく最高に可愛い彩乃がドレッサーの鏡に映っていた。そのおかげか家を出る時には笑顔になっており、今日のお見合いは間違いなく乗り越えられるだろうと思っていた。


 部屋の玄関の鍵が開いて、誰かが入って来る。


「はーい。」


 俺がリビングを出て玄関に行くと、そこには沈んだ顔の彩乃がいた。しかもメイクもぐちゃぐちゃに崩れている。耳にイヤリングはしてないし、服にはしわが寄っている。


「何があったんだ!?紫苑!早く来てくれ!」


 俺はすぐに紫苑を呼ぶ、だが、彩乃は感情が抜けたように棒立ちだった。


「彩ちゃん…」


 紫苑が玄関に来ると、彩乃のことを抱きしめる。


「もう頑張らなくていいよ。」


 紫苑がそう言うと彩乃は黙ったまま膝から崩れ落ちる。そして、紫苑の腕の中で静かに泣いていた。


「天童、お風呂沸かしてきて。」


「わかった。」


 俺は急いで風呂場に行ってお湯を張る。お風呂が沸くまでの間、彩乃を紫苑がずっと抱きしめていた。


 すすり泣くこともなく、静かに涙を流している。


 何があったらこんな風になるんだろうか。


「紫苑はなんかわかるか?」


 紫苑は彩乃を抱きしめながら、手で作った丸を指で貫くジェスチャーをする。俺はそれで全てを察した。


「紫苑、お風呂湧きました。」


「オッケー。彩ちゃん、一緒に入ろ?」


 彩乃は小さく頷くと、紫苑と一緒に洗面所にゆっくり歩いて行った。


 その足取りはとても重く、朝送り出した同一人物とは思えないくらいだ。


「天童!ちょっと来て!」


 俺はそう言われて洗面所の扉を開けると、何かのデバイスを持った紫苑がいた。


「これ、解析よろ。」


「わかった。」


 それは今まで見たことがないタイプのデバイスだった。


 エーデルワイスに紫苑を手伝うように指示を出し、俺はリビングに戻る。


 ひし形のデバイスは右下にコードの差込口があった。


 俺はディアノートに繋いでいたコードを差し替えて、デバイスの内部情報を見ようとする。


「…なんだこりゃ?」


 そこには今まで見たことがないプロテクトが掛けられていた。俺はプロテクトのロックを解除しようとするが、見たこともないプロテクトが次から次へと出てくる。


 俺がしばらくプロテクトと戦っていると、玄関のインターホンが鳴る。


 一旦手を止めて玄関に行くと、知らない男がドアの前に居た。俺は念のためにチェーンをかけてから少しだけ扉を開く。


「誰ですか?」


「なんでお前がここに居るんだ!ここは俺の家だ!出て行け!」


 そう言って男は扉の隙間から手を入れてくる。俺は急いで扉から離れることで何とか掴まるのを回避する。


「ここは彩乃の家だし、そもそも誰だよお前!?」


「うるさい!俺の女のものは俺のものだろ!出ていけよ!」


 俺がその不審者を追い返そうと戦っていると、後ろから声が掛かる。


「天童お風呂あがったよ。誰その人?」


 そこにはバスローブ姿の紫苑がいた。そして、その奥には彩乃がいた。


 だが、彩乃の様子がおかしい。その男を見た瞬間、その場で座り込み、頭を抱えだす。


「彩乃!こいつと関わるなって言っただろ!あの写真ばらまくぞ!いいのか!?」


 俺はそいつの腕をぶん殴ってその口を強引に閉じさせる。


「不審者だ!エーデルワイスを呼んできてくれ!こいつを押し返す!」


 俺がそう言うと、紫苑はすぐに事情を察したようで、リビングに戻っていく。俺が振り返ると、不審者が紫苑を目で追いながら鼻息を荒くしていた。素直に気持ち悪い。


「お前!あんないい女を…!開けろ!ぶっ飛ばしてやる!殺してやる!」


 目を血走りながら不審者はこちらに手を伸ばしてくる。すると今度は後ろから裸のエーデルワイスが濡れた状態で駆け寄ってくる。


「天童、呼びましたか?」


「エーデルワイス!頼む、こいつを押し返してくれ!」


「わかりました。マスター!」


 エーデルワイスはそう言うと、男の腕を握りつぶす勢いで掴む。男のエーデルワイスを見て緩んだニタニタした表情が苦悶の表情に変わっていく。


「痛い痛い痛い痛い!」


「去れ!人間!」


 エーデルワイスはそのまま腕を扉から押し返し、そのまま扉を閉める。俺は即座にインターホンの電源を入れてドアの前を見てみると、男が腕を抑えて泣きながら帰っていった。


「戦闘終了です。」


「助かったよ。」


 俺たちが戻ろうとするとリビングの前にで座り込んでいる彩乃がいた。ガクガクと震えており、背中を紫苑がさすっている。


「彩乃。もう大丈夫だ。寝室に行こう。」


 俺がそう言うと、彩乃はゆっくり頷いて、俺に掴まりながら立ち上がる。そのまま彩乃を支えて、寝室に歩いていく。今の反応で大体何があったのか把握した。


 ベッドに着くと、俺は彩乃を寝かせる。ふかふかのベッドで眠れば少しは楽になるだろう。俺がベッドから離れようとすると、彩乃が服を掴んでくる。だが、その力もすごい弱くて今にも手放しそうな握力だ。


「…わかった。寝るまで手を握っておくからゆっくり休んでくれ。」


 俺はそう言うと、彩乃は少しだけ笑顔になって眠りについた。相当疲れていたのだろう。すぐに寝付いてくれた。


 俺はゆっくり手を離して、静かに寝室の扉を閉める。


 リビングに戻ると、普段着に着替えた紫苑とエーデルワイスが待っていた。


「彩ちゃん寝た?」


「今はな。それより、これからのことを話そう。彩乃のこと、どうする?」


 俺はソファに座って、本題を切り出す。正直言って今の状態の彼女を放置しておくことはできない。


「もう連れてこうよ。彩ちゃんの為にもそっちの方が良いよ。」


「それには賛成です。ですがこの問題を放置してここから逃げてもいいのでしょうか…?」


 俺は自分の手元に残ったデバイスを見つめる。本人が口をきけないなら残った手掛かりはこのデバイスだけだ。これだけ厳重なプロテクトなら、中には重要な何かが入っている筈だ。


「とりあえず、数日はこれの解析をする。その間彩乃の相手を頼む。それと、明日は病院に行こう。」


 これしかないだろう。この中身が分かった後で今後のことを決めるしかない。


「りょーかい。しかし、お見合いでレイプとは斬新だねぇ。相当捕まらない自信があるのかな?」


「わかりません。しかし、あの男の口ぶりからするに、何かで脅しているようにも見えました。」


 俺はあの男が言っていたことを思い出す。


「あの写真をバラ撒くぞ、か。」


 俺はこのデバイスの中身に対して嫌な予感がした。こんな予感は外れてくれた方がいいのだが、それ以外に中身が思いつかなかった。


 とりあえず、俺はプロテクトを一つづつ解除していくことにした。


─────────────────────────


 私は自分のベッドで目を覚ます。横を見ると天童が椅子に腰かけてパソコンを叩いていた。私が起き上がると、天童がこちらに気付いてくれる。


「起きたか?夕飯の卵雑炊だ。まだ暖かいはずだから今の内に食べとけ。」


 彼は笑顔でお盆に載せた鍋の蓋を開ける。そこには美味しそうな卵雑炊があった。


「ぁ…ぃ────…?」


(…あれ?)


 ありがとうと言おうとしたのに、声が出なかった。


「気にするなって。今日のは上手くできた自信があるんだ。ほら、口空けて。少しずつ食べさせるからな。」


 なんでと思ったが天童は普通に反応してくれた。私の気のせいだろう。


 天童は少し冷ました後、スプーンを私の口の前に差し出してくる。私はそれを口の中で咀嚼して、ゆっくり飲み込む。


「食べれそうか?」


 私は頷いて天童にスプーンを口まで運んでもらう。こんな穢れてしまった私に対しても、彼は優しいままだった。


 私はその優しさが嬉しかった。


 思えば最初に会った時からそうだった。天童は私に指示をくれて、守ってくれて。彼の優しさは深く、今もこうして側に居てくれる。


 あの男が家に来た時、必死に食い止めてくれて本当に安心した。


 三人共何があったのかはもう気付いているだろう。なのに私に対してこんなに寄り添ってくれてる。


 ママもパパも全然来ないのに。


 でも、みんながいて本当によかった。


 ここに居ていいんだ。まだここに居られるんだ。


 私は彼の優しさに沈んでいった。


─────────────────────────


 彩乃が壊れて帰って来てから一晩が経った。結局俺はずっと彩乃の横にいた。男の俺より紫苑の方がいいんじゃないかと聞いたが、答えはノーだった。


 俺はその日は床に布団を敷いて寝た。


 朝になり、俺が目を覚ますと彩乃はすでに起きていた。


「おはよう。今日は早く起きたのか。健康な生活でなによりだな。」


「ぉ────。」


 彩乃は疲れたような笑顔で何かをぼそぼそ口元を動かす。


 やはり何を言っているのかわからなかった。


「何か飲み物でも入れるか。紅茶でいいか?」


 彩乃は頷いて、ベッドから立ち上がる。足元がたどたどしいが自分の力で歩けるようになったようだ。


 俺は布団を畳んで、彩乃の手を握ってリビングに行く。リモコンのスイッチを入れてカーテンを開けると、まだ日が昇る前だった。


(いくらなんでも早すぎる…)


 寝つきが良かったので油断していたが、これだけ早く目が覚めるのは異常だ。やはり喋れないのも含めて彩乃の中で何かが狂っている。


 紅茶を入れている間、彩乃はずっと俺の服を掴んでいた。座っていていいと言ったのだが俺の側から離れなかった。


 俺は茶葉が広がる間にエーデルワイスに通信を入れて、紫苑を起こすように指示を出した。


「紫苑たちももうすぐ来るって。それまで日の出を見ながらゆっくりしよう。」


 俺は紅茶をマグカップに注いで、テーブルまで持って行く。そして、リビングに置いてあるソファに腰かける。


 彩乃も横に座って来て、肩に顎を乗せてくる。俺はそれを黙って受け入れた。


 無言の時間が流れる。


 紅茶からは湯気が立ち上り、茶葉のいい香りが部屋に広がっていく。その湯気を辿って視線をあげれば、明るくなってきた空が目に入る。山の間からは太陽が見え隠れしていた。


 時計の針が進む音が一定のリズムを紡ぎ続ける。彩乃の顔をよく見てみると、僅かに目の下に隈ができていた。やはり眠れなかったのだろう。


(なんでこんなことに…)


 紅茶がいい温度に冷めたかマグカップを持って確認する。


「もう飲めるぞ。ゆっくりな。」


 その後は紫苑たちが起きてきた。エーデルワイスは紫苑を起こすことができたようだ。


「少々手こずりましたがなんとか起こせました。」


 そして三人で朝食を食べて、今日やることを話す。


「今日は両親に話をしてから病院に行こうと思うけど、大丈夫か?」


 彩乃は下を向いたまま、何も反応がない。


「なら、両親には天童から話してもらうのはどう?彩ちゃんは私と一緒に待ってよ?」


 紫苑がそう言うと、彩乃は少し間をおいて頷く。


「わかった。俺が話してくる。紫苑たちは外出する準備をして待っててくれ。エーデルワイスはここに残ってくれ。あの男が来た時はお前が頼りだ。」


「わかりました。」


 俺はそう言うと席から立ち上がる。


 彩乃は不安そうな顔をしていた。俺と離れるのが怖いのだろうか。彩乃の精神状態が心配だったので、俺は急いで5階を目指した。


 エレベーターを抜けて、灯りさんがいるはずの部屋に行く。インターホンを鳴らして待つと、使用人が出てくる。


「どうされましたか?」


「彩乃さんのことで灯りさんに話があります。」


 俺がそう言うと、使用人は残念そうな顔をする。


「申し訳ありませんがご夫妻は現在重要なパーティーに出席しており、明後日まで帰ってきません。彩乃様に何かあったのですか?」


「…そうですか。実は────。」


 俺は現在の状況を使用人に話す。話している内に使用人の顔がみるみる悪くなっていく。


「という感じです。警察も捜査をしていますが、まだ決定的な証拠は何も出てきていないです。彩乃さんが会った相手のことを何か知りませんか?」


「…今回のお見合いは灯り様が、相手様から押し切られる形で決まったと言っていました。私が知っているのことは少ないですが教えましょう。」


 使用人に中に招き入れられて、俺はある程度の情報を得ることができた。


─────────────────────────


「うつ病、というよりは依存症ですね。あなたたち二人が彩乃さんの心をつなぎ止めている。特に天童さん。あなたにはすごい陶酔っぷりよ。彼氏なの?」


 年配の女医が書類を見ながらそんなことを言う。


「いや、俺は…」


「親友です。」


 俺が否定する前に紫苑が横から返事をする。


「若いっていいわね。まあ、それは置いといて、薬は出しとくわね。話を聞く限り寝つきは良いみたいだからエスゾピクロンとセルトラリン、あとは…ヒルナミンでいいかしら。最初は量を少なめでいくからまた来て頂戴。」


 そう言って診察は終わった。初診だったこともあり昼を過ぎてしまった。


─────────────────────────


 自分の部屋に帰って来た俺はパソコンと向き合っていた。


「相手は甘草らくと。十八歳。相手はこの町の物流を支えている大企業の息子。この町の警察、防衛、商売、諸々のトップとズブズブ。まあ、こんな権力者なら、今の時代事件一つ握りつぶすのなんて簡単だろうな。このまま行けば勝機はほぼゼロ。」


「ふーん。で?早く勝つルート教えてよ。」


 俺は紫苑から催促されて警察に提出しなかった例のデバイスを机の上に出す。


「こいつ。あとは盤外戦術。」


 勝ち目があるとしたらここしかない。


読んでいただきありがとうございました。


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