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機皇世界  作者: 小土 カエリ
各務原
16/33

絶望

よろしくお願いします。

「不味いな…」


 私はリニアモーターカー内の自分の執務室でそうつぶやく。


 裏切者のフォーカスは捕らえることができた。奴のブレインを強制停止させ、今は収容室に保管してある。


 だが、私たちが捕らえた時には全てが遅かった。


 包囲網を敷き、遠距離通信の監視もして後は追い詰めるだけはずだった。だが、奴は有線式の通信ケーブルを使って、データを敵側にアップロードしていた。その有線ケーブルを辿ろうとしたが海の中で切断されており、どの機皇神に情報を盗られたのかわからなかったのだ。


 しかし、その数日後には中国側からの攻撃が過激になった。しかも、そのどれもがこの国の海軍を的確に避けて進行していた。


 私は急いで防衛の為の哨戒ルートを再構築した。しかし、国内に敵の侵入を許してしまったことに変わりはない。


 敵が侵入した場所は複数箇所あるが、一番深刻なのが滑川なめりかわという場所だ。元は富山県の北部にあった町だ。現在は私たち機械兵の町もない。代わりに人間たちの漁村があったはずなのだが、航空機を使って調べたところ町は壊滅していた。


 その場には戦闘の跡があり、そこで中国製の機械兵の残骸が回収された。


 私はウィンドウを閉じて窓際まで歩いていく。外は凄い速さで景色が流れていく。


 美しい自然だ。この大自然の中を私の大切な日本人が生きている。


 情報を抜き取ったのは十中八九中国だろう。フォーカスの解析を待っていては更に後手に回ってしまう。


(絶対に守り切らなければ。)


 その為には戦力が必要だ。私は部下に通信を入れる。


「私だ。エーデルワイスの捜索を頼む。No.85気まぐれなストレイ本の使用を許可する。なるべく早く回収しろ。」


「了解しました。」


 できることなら私が直接捜索をしたいのだが、この国のトップとしてそんなことを言ってもいられない。


 私は早くエーデルワイスが回収されることを祈った。


─────────────────────────


 俺たちはいつも通り北側関門の警備をしていた。


「今日も暇ですね。」


「いいじゃーん?紫苑ちゃんは平和が大好きだよ。」


 エーデルワイスのつぶやきに紫苑がやる気なさそうに答える。


「世界一俺の平和を奪ってる奴が何言ってるんだ。」


 今日来る予定の輸送車も全て通したし、もうやることもない。俺たちが来た時のような機械兵の進行も時よりあったが、今は何も来ない。


「天童、お昼交代。休憩に行くわよ。」


「おう。じゃあ、行くか。」


 俺たちは他の戦闘員と交代して、バリケードの横にある休憩室に入る。そして、ソファに座り、家で作ってきたおにぎりを鞄から取り出す。


「今日は高菜と五目御飯な。」


 俺は紫苑と彩乃に二個づつ渡す。


「うぇーい。サンキュー。」


「悪いわね。私の分まで作ってもらって。」


「その分買い物に付き合ってくれてるからいいよ。ありがとう。」


 最近は四人で行動することが増えた。今月末にこの生活も終わってしまうかと思うと少し寂しくなる。


「紫苑ちゃんもちゃんと付き合ってるでしょ!感謝しろー?」


「紫苑もありがとうな。」


 俺は素直に感謝を言っておく。たまにはちゃんと感謝を伝えてもいいだろう。


「う、うん…」


 なんか微妙な返事が返って来た。それは置いておいて俺たちは雑談をしながらおにぎりを食べた。


「そういえばNo.90のコピーはできたのですか?」


「まだ。どうやってもそのサイズに落とし込むのが無理だ。データがあっても実際に作ってみると技術的に難しいな。」


「そんな簡単に作れるならみんな作ってるもんねー。」


 紫苑の言う通りだ。今まで発見されたNo.も複製されていないのだから、やはり難易度は高いのだろう。ロストテクノロジーというやつだ。


「それであなたたち、あとどれくらい各務原にいるの?」


「そうだな…もうこの町でできることはないかな。でも次の目的地はどうすっかなぁ…」


 俺は次に何をするのか決めかねていた。No.を集めるにしても手掛かりが何もない。人を集めるにもあてがない。


「もうしばらくここに居てもいいんじゃない?紫苑ちゃんこの町結構好きだし。」


「そうか…そうだな。こういう大事な事と焦って決めると後で後悔するしな。」


 おにぎりとお茶を一緒に飲み込む。俺はとりあえず次の目的を保留することにした。


─────────────────────────


 私は今日パパとママと一緒にとある料亭に来ていた。朝早くに起きて、天童にメイクをしてもらった。今日のメイクは天童曰く前のよりがっつりやったらしい。メイクが始まってから終わるまで一時間くらいかかった。時より紫苑に見てもらいながらやったので、傍から見ても大丈夫だとお墨付きをもらった。


「今日も可愛いぞ。自信持って行って来い。」


「彩ちゃんがんばー。」


 天童と紫苑はそう言って私を送り出してくれた。ああいうことを恥ずかしげもなく言えるのはすごいと思う。多分他意はないのだろうが、そういう感情を向けられているのではと勘違いしてしまいそうだ。ついでに策ももらった。


 だが、もしそういう感情を向けられていても、私はそれに応えることはできない。


 今日の服は前に天童とデートした日と同じ服だ。あの日と違うところは天童に選んでもらったイヤリングを付けていることぐらいだ。折角なら付けて行けと天童が言ったので付けてきた。


 ママは今日の私を見て、すごく喜んでくれた。メイクの出来がいいと言ってママにも教えてと言ってきた。私が天童にやってもらったと言うと、ママはびっくりしていた。


 横を歩いているママが話しかけてくる。


「それにしても天童君凄いわね。ちゃんと教えてもらいなさいよ?」


「わかったわよ…でも、ママからしてもすごいの?」


「すごいわよ。これが男の子がやったって今でも信じられないもの。プロのメイクさんに成れると思うわよ。」


 帰ったら天童にお礼を言おう。こんなメイクを毎日してもらえる紫苑が少し羨ましい。


(いや、羨ましいのはあの二人の関係ね。)


 言いたいことを言い合って、隠し事もなくて、お互いに信頼し合っている。相手が何を考えているのかすぐに察することができて、戦場では背中を預け合う。


 私もあの中に入りたかったのだ。お兄ちゃん以外まともに相手をしてもらえなくて、彼らが来るまで友達と言える存在なんていなかった。


(私にも彼らのみたいな関係を作れるのだろうか?)


 いや、彼らが実際にできているんだ。私にだってできる筈だ。例え最初は嫌いな相手だったとしても、いずれ好きになるかもしれない。なんでも言い合える中になれるかもしれない。


 私は少しだけ自分に自信を持って部屋の中に入った。


 そこに絶望が待っているとも知らずに。


─────────────────────────


「いやあ、いつもお世話になっております。お待ちしておりました。こちらが私の息子です。」


「私としてもこのような場を設けられたことを嬉しく思います。────」


 お父さんが何か難しいことを喋っている。聞いていてもわからないので、私は手の中に隠したメモを見る。


 そこには『紫苑ちゃんの男を乗せる為のアドバイス』と書いてある。


『男は性欲で生きています。少し暑いですねとか言って胸元を少し開くだけで簡単に釣れます。でも、それで止まると相手から股の緩そうな女だと思われてしまいます。大事なのはあくまでも自然に、会話の中でそれとなく演出することが大事です。例を出すと、少し疲れた雰囲気を出して腕を伸ばすときに脇を見せたりすると効果的です。男の視線はすごくキモいですが頑張って耐えてください。紫苑ちゃんからは以上です!』


 私は試しに少し前かがみになって胸元を少しパタパタしてみると向こうの男の視線がこっちに来る。紫苑のメモ通りすごくキモい。


(ていうかなんで向こうの父親もこっち見てくるのよ…私、義理とは言えあなたの娘になるかもしれないのよ?)


 私は髪を撫でながら時間が過ぎるのを待つ。正直これ以上性的アピールは私には無理だ。今の一回だけで相当精神が削られた。


「────それでは私たちは帰りましょうか。では後は若い二人で…」


 相手の父親がそう言って大人たちが退席していく。


 私は残された男と二人っきりになる。そういえばこいつの名前は何というのだったか。興味がないので忘れてしまった。


 私は記憶の中からなんとか相手の情報を引っ張り出す。


(確か…甘草らくと…だったかしら?)


 学校で一緒だったので歳は私と同じ十八のはずだ。


 何を話せばいいのかわからずに、私は髪を触る。私が何も言わずに黙っていると、向こうから話しかけてくる。


「おい彩乃。前に一緒にいた男誰だ?」


「天童のこと?あなたには関係ないでしょ。」


 私がそう言うと、甘草はドンッと机を叩いて怒りを露わにする。


「関係あるだろ!俺の女を抱きしめやがって!彩乃ももうあんな奴と関わるなよ。気軽に触ってくる奴なんてキモいだろ?」


 私はその言葉にカチンとくる。


「悪いけど、私と天童は友達だから。あなたにそれを干渉される謂れはないわ。」


 というか自然と胸に視線を寄せてくるお前の方がキモいわよ。と言いかけるが、流石にそれは飲み込んだ。喧嘩しに来たわけではない。すぐそこまで出かかったが何とか耐えた。


 だが、向こうは反抗されたのが気に入らなかったのか、席を立ち上がって私の横に来て怒ってくる。


「なんだと!お前は俺の物なんだよ!その体は俺の物だ。俺以外の男には絶対触らせない!」


 そう言いながら天草は私のことを強引に抱きしめてくる。


「いやぁあ!助けて、てん…」


 天童に助けを求めようとするが、後ろからがっちりつかまれて口を塞がれる。


「黙れよ!お前の体は俺の物だって言ってるだろ!そんな奴の名前を呼ぶなんてお仕置きが必要なようだな?」


 天草はそう言うと、右手は口を押さえたまま、左手で私の下腹部をさする。


 私は怖くなって叫びながら拘束から逃れようとするが、机に顔を押さえつけられて腕を拘束される。


 天草は私のポケットに手を突っ込み、中からハンカチを取り出す。


「ハンカチ持ってるじゃん。流石俺の女だな。スー。いい匂い…」


「やめなさい!それは大切な…!」


「うるさいな。お前は黙って股を開けばいいんだよ!」


 私は天童のハンカチを取り返そうとするが、逆に押さえつけられてしまう。そして、天草にお腹に殴られる。


「がはぁ…」


 私が立ち上がれずに悶絶していると、横で天草がベルトを外し始める。私は恐怖を感じて部屋から出ようとするが、電子ロックが掛けられていて開けることができない。


「なんでっ!?」


 何度もドアノブを捻ろうとするが、動かすことができない。


「バカが。ここはパパが用意した店なんだよ!俺が呼ばないと店員は来ないし、扉が開くこともない。」


 そう言って私は地面に押し倒される。頭に鈍い痛みが走って、意識が朦朧としてくる。


(早く、逃げないと…)


 私が床を這いずって扉を目指すが、下半身をまさぐられてペチコートを脱がされる。


「い、いや…」


 私はあっという間にみぐるみを剥がされる。甘草は股に顔をうずめて、息を吹きかけてくる。生暖かい息が気持ち悪い。


 ふと横を見ると、耳から外れたイヤリングが落ちていた。


 私は一生懸命それに手を伸ばす。私の輝かしい思い出。朝から晩までずっと楽しかったあの日のことを思い出す。


(ああ、こっちのイヤリング選んでよかった…天童を側に感じられる…)


 私がイヤリングを掴もうとしたその手は、甘草の強制的な恋人繋ぎによって阻まれる。


 私は自分の下半身を見ると、絶望して意識を手放した。


─────────────────────────


 私が目を覚ますと、そこには誰もいなかった。


 私は一人だけ裸で寝そべっていた。体中がベタベタする。意識を失った後、私は犯されたようだ。股に手を当てると、白いべたべたしたものが付いていた。


「は、ははは…」


(はあ…)


 これからどうしようか。もう何もかもどうでもよくなってきた。


 私はテーブルの上に置いてあったお手拭きで体中を拭く。冷たい布が体に触れるのは嫌なはずなのに、何も感じない。人は大きな絶望を知ると大抵なことでは動じなくなると言うがそれだろうか。


 私は落ちていたデバイスを拾いあげると空中に私のレイプされた画像が出てくる。そして、下にはこう書いてあった。


『これをバラされたくなかったら俺の言うことを聞け。あの男とは関わるな。』


「はぁ…」


 私はデバイスをポケットにしまってため息をつく。


 服を着て、立ち上がると、天童のハンカチを見つける。


 テーブルの上に投げ捨てられたハンカチを手に取ると私の視界が歪む。


「あれ…?」


 ハンカチを手にした瞬間、何故か今まで感じていなかった悲しさと絶望が溢れてくる。涙を拭っても目からどんどん溢れてくる。


 そして、私は地面に転がっていたイヤリングを見つける。私はそれに駆け寄り、手の中で大切に抱きしめる。涙は留まることを知らず流れ続ける。


 その誰もいない部屋に私のすすり泣く声だけが響いていた。


─────────────────────────


「らくと。お前が言っていた大矢野さんの娘さんな、家に帰ったそうだぞ。」


 俺はその言葉を聞いてにやりと微笑む。


「パパほんと?なら今度は俺が会いに行ってくるね。」


 そう言って俺は家を出る。


 俺が考えた作戦は完璧だった。彩乃を部屋の中に閉じ込めてそこで愛し合う。そしてそれを写真に撮ってやれば彩乃は俺の物だ。


(全く、俺の女なのに他の男と一緒にいるなんて最低な女だな。)


 だが、そんなやつを側に置いてやる俺は本当にいい男だ。学校時代から一緒に遊んでいたので向こうも俺の気持ちにそろそろ気付いているだろう。


 俺が町を歩きながら初体験のことを思い出す。女の体は最高だった。あまりに気持ち良すぎたのですぐに出して終わったが、もったいなかったかもしれない。


(今度はあいつの部屋でヤッてやるか)


 俺は清々しい笑顔で彩乃の家を目指した。


読んでいただきありがとうございました。

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