買い物
よろしくお願いします。
俺たちが各務原の町に来て数日が経過した。その間に俺たちは大矢野の伝手を使って町の警備の仕事を斡旋してもらった。
決して多くはなかったがこれで収入をえることができた。あと今更だったが、エーデルワイスの右腕に俺たちが使っている物と同じデバイスを取り付けた。これでエーデルワイスも自分のお金を持つことができるようになった。
しかし、エーデルワイスは稼いだお金を俺に渡してきた。自分には必要ないと言っていた。
「私のお金は戦力の増強に使ってください。」
「お前が稼いだお金なんだ。自由に使っていいんだぞ?」
「必要ありません。私は機械ですから。」
俺はそう言われて、エーデルワイスが稼いだお金の半分だけもらうことにした。これは使わずにとっておいた方がいいだろう。いつかエーデルワイスがお金を必要とするときに返そう。
俺は今日も大矢野と一緒に警備をした。彼女とも随分仲良くなった。大矢野はちょっと抜けているところがあるが、いい奴だった。
この数日の間に俺はおじいさんと仲良くなった。同じ機械好きということで話が合ったのだ。
「あんちゃんわかってるなぁ!」
俺はそう言われてお父さん以外に初めて機械の知識を褒めてもらった。それはとても嬉しくて、俺はよくおじいさんに会うようになった。
そして、今日は俺は休日だった。二人は警備の仕事をしており、久々に一人だ。最近は紫苑がエーデルワイスの内一人は一緒にいることが殆どだった。
(一人の時間って何すればいいんだっけ…)
俺は久しぶりの自分の時間に何をしたらいいのかわからなくなる。
昔は使えそうな機械を拾いに行ったりしていたが、今は集めてもそれを置いておく場所がない。
何もやることがないと思っていると、俺は一つだけとある考えを思いつく。俺は自分の部屋を出て、大矢野がいる四階に行くことにした。
部屋のインターホンを鳴らすと、普段着の大矢野が出てくる。赤いスカートに白いシャツというシンプルな服装だった。
「何かあったの?」
「暇だから遊びに誘いに来た。どっか遊びに行こう。」
俺がそう言うと、大矢野は驚いた顔をしていた。
「私と遊びたいの…?」
「え、嫌だったか?」
俺は友達感覚で遊びに誘ったのだが、変な反応が返って来た。何かおかしいことを言っただろうか。
「フフッいいわよ!私が遊んであげる!着替えるからちょっと待ってなさいよ!」
そう言うと笑顔で部屋の中に戻っていく。
それを追おうとすると、横から知らない人に声をかけられる。
「おや?知らない人だ。彩乃の友達かい?」
俺はその人の方を向く。そこには短く切り揃えた茶色い髪に耳にピアスを開けた男の人がいた。
「はじめまして。夜花天童といいます。あなたは…?」
「おっとこれは失礼。僕は大矢野刀祢。彩乃の兄だよ。今ちょうど時間ができたから少し帰って来たんだ。でも安心したよ。」
刀祢さんは俺を見て、笑顔で頷く。
「ちゃんと、彩乃にも友達がいたんだね。いつも俺と一緒に遊んでいたから心配していたけど、杞憂だったみたいだ。じゃあ、俺はもう行くよ。彩乃のことよろしくね。」
「はい。わかりました…?」
何をよろしくすればいいのかよくわからなかったが、今まで通り仲良くしておけばいいだろう。
とりあえず俺も部屋の中に入って待つことにした。
─────────────────────────
私は笑顔で着ていく服を選ぶ。友達に遊びに誘ってもらったのなんて初めてのことだった。私のパパはこの町の偉い人だった。だからなのか周りから金持ちだなんだと言われて育ってきた。そのせいで友達も碌におらず、学校でもずっと一人だった。
「あいつは金持ちだから私たちと違う。」
「貧乏な俺たちを見下している。」
そういう陰口をよく叩かれていた。
でも、私は寂しくなかった。私にはお兄ちゃんがいた。お兄ちゃんは優しくて、ずっと私の相手をしてくれた。私は毎日お兄ちゃんと遊んでいた。それだけで私は満たされていた。友達がいなくても、私にはお兄ちゃんと夢があった。だから、大丈夫だった。
でも、それは一昔前の話だ。お兄ちゃんは戦闘員として活躍し、家に帰ってくることも少なくなった。そして、昔は笑って許してくれてたのに、パパもママも私が戦闘員になるのを否定し始めた。
「まだそんなことを言っているのか?」
「もう子供じゃないでしょ。しっかりしなさい。」
私はそれを機に二人に反発しだした。
二人の反対を押し切って無理やり戦闘員になったのだ。実際の戦闘員の仕事は地味なものだった。敵が来ない時はずっと座って待ってるだけだし、来るのも敵じゃなくて企業の輸送車などだ。
でも、私はそれでよかった。どれだけ地味な事でも町を守っていることには変わりない。
私は、それでよかったのだ。
─────────────────────────
部屋を出るとそこには夜花が待っていた。
「どう、変じゃない?」
淡い緋色のフィッシュスカートの中に、フリルが付いた白のペチコートがちょっとだけ見える。
上はシンプルに白いボリューム袖のカットソーだ。
「おお…すげえ可愛いな。」
「そ、そう…ありがと…」
私はあまりにもまっすぐな感想に少しだけ照れる。お兄ちゃん以外の男の人にこんなに褒められたのは初めてだ。ちょっと嬉しい。
「じゃあ、メイクもパパっとやってくれ。」
「え?やったことないけど。」
「…ちょっと待ってろ。化粧ポーチ取ってくるから。」
そう言って夜花は一回自分の部屋に戻っていった。少しするとポーチを持って帰って来た。
「ドレッサーどこにある?」
「こっちの部屋にあるわよ。」
私は自分の衣装室に置いてある全く使っていないドレッサーに案内する。言われるがままにドレッサーの前にある椅子に座る。
「ナチュラルメイクでいいか?」
私は今まで化粧なんてやったことがない。当然ナチュラルメイクと普通のメイクの違いだって知らない。
「ま、任せるわ!」
私がそう言うと、夜花は私の肌に何かのクリームを塗り込んでいく。目の下や口元に何かペンのようなモノで更に塗り込む。
次にふわふわしたブラシで、更に何かを上から塗っていく。ブラシの手触りが心地いい。
「ファンデーションはこんなもんで。次眉と目じりだから動くなよ。」
「わ、わかったわ。」
私は言われるがままに眉と目の周りにさっきとは違うペンのようなモノで色を乗せていく。夜花が前にいるせいで鏡が見えない。自分がどうなっているのかすごく気になる。
(ていうか顔、近い近い!メイクってこんなに顔近づくものなの!?私変じゃない…?変な風に思われてないかしら…)
私はあまりの恥ずかしさに横を向きそうになり、夜花が左手で耳の辺りをガシッと掴んでくる。
「もう終わるから動かない。」
私は何もできなくなり、その場でメイクが終わるのを待った。
「終わったぞ。」
少しすると、夜花がドレッサーの前を空ける。
そこには凄い美人の顔があった。
「これが私…?」
血色がよく、肌は一切くすみや汚れがない。ほっぺたはほんのり赤くなっており、言われなければ気づかないくらい自然だ。唇も淡い口紅を塗ったことで綺麗なピンク色をしており、つやつやだった。
「大矢野の服はあんまり派手じゃないから、メイクも抑えめにしたぞ。髪は…特に何もしなくても大丈夫か。どっか変なところはないか?少しなら修正できるぞ。」
「大丈夫…綺麗…」
私は白のショルダーバッグを手にして、そのまま二人で部屋を出る。エレベーターの鏡にも綺麗な私の顔が映っている。これが私なんて今でも信じられない。
私がエレベーターを出ると、ちょうどママがエントランスにいた。近所の人とおしゃべりしていたようだ。
「ママ、ちょっと出かけてくるね。」
私が話しかけると、ママがこっちに気が付く。そして、今まで見たことがないくらい笑顔になる。
「まあ!彩乃いつの間にメイクなんて覚えたの?物騒な事ばっかりやってると思ってたけど、ちゃんと女の子っぽいことしてるのね。ママ安心したわ。」
「彩乃ちゃん綺麗ね~!」
「可愛いわ~!」
褒められて嬉しくなる。私はそのまま夜花と一緒に町に繰り出した。
─────────────────────────
俺は大矢野と一緒に町を歩いていた。
町の男たちが横を通り過ぎるたびに、大矢野にチラッと目移りする。俺はそれが嬉しかった。大矢野が綺麗だと認められているということは、間接的に俺のメイクもおかしくないということだ。
「ねえ、なんで夜花はメイクなんてできるの?」
「紫苑にするからな。最近はあいつが自分でやることもあるけど、大体俺がやることが多いな。」
「ふーん…」
俺はそのまま大矢野と共に買い物を楽しんだ。とは言っても大矢野の服を見るのが殆どで、俺は何も買わなかった。お金が無いからだ。
ただ、買い物をしている間、大矢野の顔は明るかった。普段少し怒ったような顔をしていることが多かったので、この反応はちょっと意外だった。
ひょっとしたらストレスが溜まっていたのかもしれない。こういう時は自分が楽しむのではなく、どうすれば相手が楽しいのかを考えた方が良い。
俺は紫苑との研究で培ってきた知識を総動員する。
先ずは状況の整理だ。相手は一般的な少女。普通に買い物とかでも笑顔になるので、この町ブラが嫌なわけではないだろう。そして、メイクも喜んでくれた。だが、俺はこの町のことをあまり知らない。つまり、何をするかだけ提案して、具体的な事は相手に決めてもらう。
(よしこれで行こう。)
相手が提案してきたことに乗っかり、それを褒めれば相手の気分も上がる。
「そういえば、大矢野はイヤリングとかは付けないのか?そういう小物もあった方が良いと思うけど。」
「私、今までそういうの興味なかったから。でも、そうね…今日はちょっと見てもいいわね。」
俺は次の買い物先を提案すると、大矢野がそれに乗ってくる。
「ならあそこの雑貨屋がいいわ。アクセサリーも置いてたはずよ。」
大矢野が指さす先には植物に囲まれた店があった。
「あれ雑貨屋なのか…花屋かと思った。さすがにこの町については俺より詳しいな。なら行くか。」
一見すると完全に花屋にしか見えない店に入ると、中はちゃんと雑貨屋だった。手鏡やら小物やら色々と置いてある。
「こういう店ってなんかテンション上がるよな。掘り出し物がありそうな気がする。」
「その気持ちわかるわ。ここ、武器は置いてないけど機械兵のパーツとかも売ってるわよ。後で見に行きましょ。」
俺と大矢野は店の中を回り、何を買うか相談する。店を回っている間はとても楽しく、二人で笑いながら買い物を楽しんだ。
「こっちのはどう?」
大矢野は水晶の形をしたガラス製のイヤリングを手に取る。
「うーん…ちょっと微妙。もう少し主張があってもいいかも。これとかどう?」
俺は棚に置いてあった銀製のペンデュラム型のイヤリングを手に取る。細かい掘り込みが個人的にはとてもいいものだと思ったのだ。
「銀好きなの?」
「金より好きなくらいは好き。」
実際銀は素晴らしい。食器から機械の回路にまで使われている。銀はこの世になくてはならない物質だ。そして、金に比べて入手がしやすいのもありがたい。俺は金に比べて控えめな銀のことが大好きだった。
「ふーん。ならそれにするわ。」
大矢野はそのイヤリングを手に取った。
その後は二人で店の奥に置いてある機械兵のパーツを見て回った。
俺は機械兵のブレインなどに興味があったが、高くて買うことができなかった。俺に自由に使える範囲のお金では店売りのパーツを買うのはやはり難しい。
こうなると多少危険があっても、自分で取りに行った方が弾薬の値段から考えても安上がりだろう。
俺はパーツを棚に戻すと、横から大矢野が覗き込んでくる。
「私が買ってあげてもいいわよ?」
「いいよ。女性に奢ってもらうのなんか情けなくなる気がするし…」
「何それ。」
大矢野俺の返事を聞いて笑っていた。
実際男の子はこんなもんだと思う。格好つけれるならみんな格好つけたいだろう。ぶっちゃけ俺は大矢野に男らしいことなんてほとんど見せてない。せいぜい武器に詳しいことぐらいだ。
俺は結局何も買わずに店を出ることにした。
─────────────────────────
店を出るとすでに正午を過ぎていた。日は高くなっており、涼しい風に暖かい日光が差し込んでとても過ごしやすい。
「どっか食べに行くか?」
大矢野は時計を見て、時間を確認する。
「そうね。いい時間だし、お店探しましょうか。」
俺たちは良い店を探すために再び町をブラつこうとすると、後ろから声をかけられる。
「おい、あれ見ろよ。彩乃が化粧してるぞ。」
俺がチラッと振り返ると、指を指しながら大矢野のことを笑っている三人組の男がいた。
「誰だあいつら?」
「ただの同級生よ。人のこと馬鹿にするしかやることがないのよ。」
大矢野がそう言うと三人組が更に騒ぎ始める。
「今日は町を守ってくれないんですかー?」
「いつもみたいに戦いに行けよ戦闘狂!」
大矢野がそれにカチンときたのか振り返って反応しようとする。だが、俺はそれを自分の側に引き寄せることで誤魔化す。
「何すんのよ。あいつらに言い返さないと…!」
「いや、無視していくぞ。ああいうのは相手しないのが正解だ。俺は前の町でそれを学んできた。」
この手合いのやからは放置するに限る。正次の時は味方として最低限関わらなければいけなかった。だが、今回は一方的に絡まれただけ。無視できるならそれに越したことはない。
「でもそれじゃああいつらに好き勝手言われるだけじゃない。それでいいの?」
「逆に聞くがあんな奴らになんか言われたくらいでブレるくらいお前は弱いのか?そうじゃないだろ。お前はあんな奴らを相手にするくらいアホなのか?」
俺がそう言うと、大矢野はおとなしくなる。
「う…わかったわ。」
俺はそのまま腕を組んで、三人組がいる反対方向に歩き出す。
「怪しまれないようにこのまま歩くぞ。何言われても絶対に振り返るなよ。」
大矢野が小さく頷いて、一緒に歩く。後ろからは罵声が飛んでいているが、俺たちは振り返らなかった。
「言い返せないんですかー?」
「無視してんじゃんねーよ。」
俺の中であいつらぶん殴りたい欲が沸々と湧いてくるが、我慢する。
(ああいうのってやっぱりどこにでもいるんだな。)
俺はその場はそいつらを無視することで乗り越えた。
読んでいただきありがとうございました。




