狭間で揺れる
よろしくお願いします。
俺が目を覚ますと、そこには何もない真っ暗な空間だった。いや、それは正確ではない。俺の目の前にポツンとあの箱が置いてあった。エーデルワイスがいつも持っているあの開かない箱。
(なんでこれがここ、に…)
俺は声を出そうとして、自分が喋れないことに気が付く。自分の体が酷く曖昧で、今まで味わったことがない感覚だった。
俺は他に何もないのでその箱に触れてみる。
すると、空中にウィンドウが表示される。それを読んでみると、なんだか訳のわからないことが書いてある。
アイテム番号──No.90福音の滅連銃。解除コードは極封火弾────
説明──当アイテムは20縺<年に製造された特別な9㎜ハンドガンです。当アイテムはNo.7エーデルワイス────以下No.7と表記────の専用装備の一つとして設計されました。当アイテムの解除コードはNo.7が手にした時にNo.7に送信されます。当アイテムの解除コードを使用した場合、形状が大きく変化し、火力は通常時の五倍になります。また、当アイテムはNo.8廃天使のクロスビットと併用することで火力を更に上昇させることができます。しかし、当アイテムは解除コード使用後には一分後に機能を停止し、全ての機能がロックされます。その後、五分間の排熱を完了した後、再使用が可能となります。このクールタイムは当アイテムが抱える排熱機能の限界がある為に存在しています。当アイテムが作られた時、製作者────縺ゅ>縺はこの排熱問題を最後まで解決することができませんでした。よって────
何かの説明が長々と書いてある。だが、固有名詞のところが部分的に酷く文字化けしており、読み取ることができなかった。
(これ、なんだか前にも見たような気が…だめだ。思い出せない。)
俺は自分の記憶を探ってみるが、思い出すことができない。これに似たものをかつて見たはずなのだが、どこで見たのかわからなかった。
そうこうしているうちにだんだん眠くなってくる。
(だめだ。もっと見ておきたいのに意識が…)
俺はウィンドウに書いてあること読めるだけ読んでそのまま意識を手放した。
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次に俺が目を覚ますと、目の前に紫苑の顔があった。頭の後ろには柔らかい感触がある。態勢からして紫苑の太ももだろう。
紫苑が俺の頭を撫でながら、微笑みながら話しかけてくる。
「いい夢見れた?」
「なんか変な夢だった。」
俺はそう言うと、紫苑はフフッと笑った。
「どんな夢?」
「なんかNo.90なんとかなんとかっていうやつ。」
「なにそれ。でも、大丈夫みたいでよかった。死んじゃったかと思った。ああ、安心して。もし死んでたらすぐに後を追ってあげるから。紫苑ちゃんは優しいねー。」
「それを優さと捉えるのはお前だけだっつうの。」
俺は紫苑の膝枕から起き上がると、そこには箱を持ったエーデルワイスがいた。ここは何かの建物のようで、俺はソファに寝かされていたようだ。
その箱はやはり夢に出てきたものと同じだった。
「天童、意識が戻ったのですね。よかったです。」
「ああ。なあ、エーデルワイス。No.90って知ってるか?」
「知っています。その箱に触れた時、それに関する情報を入手しました。」
俺はそれを聞いて、一瞬言うべきか迷う。だが、わからないことは他の人の意見も聞いた方がいいだろう。
「No.90なんとかかんとかってやつの説明が、夢に出てきた。多分、その箱の中身のことだと思う。」
「これの中身がNo.90?ですが、私の記憶にあるものは、このサイズではない気がするのですが…」
「…マジで?じゃあ、俺の夢はなんなんだよ…」
そもそも訳がわからん夢だったしな。急にウィンドウが出てきて長々とした説明見せられて、それの中にも文字化けしているところもあったし。
訳の分からない夢だったが、もう忘れてもいいだろう。所詮は夢だ。そんなに重要な事でもないはずだ。
そんなことを話していると、扉を開けて大矢野が入って来る。俺が起きているとこに気が付くと、こっちに歩いてくる。
「目が覚めたのね。よかったわ!」
「大矢野も無事でよかったよ。怪我はなかったか?」
「おかげさまでね。で、でも、別に助けてもらわなくても大丈夫だったんだからね!」
なんだかんだ元気そうでよかった。あの時大矢野を守った甲斐があったというものだ。
「それで、あの後どうなった?」
大矢野に俺が気絶した後のことを聞いた。
バリケードが崩落した後、俺たちは瓦礫の中から引っ張り出されたらしい。その後は負傷した人だけ先に各務原に向かったようだ。
「そこの白髪の子がいなかったら持ち上がらなかったわよ。彼女に感謝しときなさい。」
俺はエーデルワイスに向けてお礼を言う。
「また助けられたな。ありがとう。」
「いえ、天童を守るのは当然ですから。本当なら落下する前に気付ければよかったのですが…」
「十分助かってるよ。」
実際今回の戦闘でもエーデルワイスがいたおかげで火力面で押し負けることはなかった。
「それで、あなたが町に入る件なのだけれど。私が同行するなら許可してもいいそうよ。」
「本当か?よかった。」
俺たちが三人で喜んでいると、大矢野がなんだかもじもじしながら口を開く。
「だから、その、これからはよろしくね…」
俺はそれを聞いて、右手を前に出す。
「よろしくな。」
大矢野は俺の手を握るか一瞬迷ったが、握手をしてくれた。
その後は紫苑とエーデルワイスが自己紹介をして、各務原に向かうことになった。
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俺は後部座席に大矢野を乗っけてから各務原に向けて出発した。
「外から見た時も思ったけど、結構いいもの乗ってるわね。」
「鹵獲品を修理した奴だけどな。機械兵が使ってた奴だけど、何故かシートもこれだったんだ。まあ、クッション置く手間も省けたし、状態がよかったのは確かだ。」
俺が道を曲がると、そこに防壁に囲まれた町が見えてくる。
「そういえば、機械兵は荷台に乗ってるの?」
「言ってなかったっけ?エーちゃんが機械兵だよ。」
「はい。私が機械兵です。」
紫苑とエーデルワイスがそう言うと、後ろから声が聞こえなくなる。しばらくしてそんなわけないという顔をしながら話し始める。
「いや、いやいや、だってエーデルワイスって女の子でしょ?」
「レーダー見てみ。」
紫苑からそう言われて、大矢野は自分の腕のデバイスをレーダーに切り替える。そして、エーデルワイスがいる方向を三度見くらいして、ようやく納得する。
「すごいの連れてるわね。本当に人間だと思ってたわ。あなたが作ったの?」
「俺はちょっと直して起動しただけ。製作者は不明だ。」
「ふーん。あなたたちって意外とすごいわね。」
なんだその感想と笑いながら俺たちは各務原の町に入っていった。
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町に入ると、エーデルワイスは全ての武器を所持するのを禁止された。これは町に入る条件なので仕方がない。
ゲートを抜けると、そこには工場が立ち並ぶ大きな町があった。
「おお、すげぇ…」
「都会って感じだねー。紫苑ちゃんもびっくり。」
「今まで見た町とは規模が段違いですね。」
俺たちが思い思いの感想を言っていると、後ろの席から大矢野が顔を乗り出してくる。
「すごいでしょ!元々各務原の金属団地っていう場所にこの町が作られたのよ!物作りでここより規模が大きい町は中々ないわよ!」
大矢野は嬉しそうな笑顔で説明してくれた。
町の中央に行くほど建物の高さが高くなっている。まるで要塞みたいな作りの町だ。防壁の高さもしっかりしているし、人も今までの町よりたくさんいる。町のいたるところから煙が上がっており、金属の加工音が聞こえてきた。
「それじゃあ、先ずは私の家に行くわよ。」
「え、いや、俺たち探し物があって…」
「パパが会いたがってるの!いいから行くわよ!」
「はい…」
俺は言われた通りに町の中を進んで行く。町の道路も綺麗に舗装されており、座席が揺れることもない。これだけでこの町に余裕があることがわかる。物資、時間、人手、どれも余力がなければこんなことをしている余裕はない。現に上之保も郡上も砂利道だった。それらと比べてみると凄い町だ。
道を進んで行くと、どんどん町の中に入っていく。
「本当にこっちで合ってるのか?」
「合ってるわよ!あ、ほら、見えてきたわ!」
俺が道を曲がった先にあったのは、五階だけの建物だった。
「あー、なるほどな。このマンションの中か。」
「そうよ。四階は全部私の部屋よ!」
「は…?」
俺は一瞬言っている意味が分からなかった。俺が言った意味はこのマンション中の一部屋に大矢野の部屋があるのかと思っていた。だが、彼女の口ぶりから推測するに、このマンション全部彼女の家族の家なのだろう。
「おいおい、富豪か?紫苑ちゃんも始めて見たぞ。」
「裕福なのですね。」
俺はとりあえずマンションの駐車場に止めてマンションの玄関に歩いていく。表札には大矢野一つしかなかった。
一階は何かのお店になっており、たくさんの人が来ていた。
大矢野がエントランスの扉を解除して、中に入る。そのままエレベーターで二回に行く。
すると、大矢野よりちょっと大きい女の人が出向かてくれた。
「おかえりなさい彩乃。怪我していない?大丈夫だった?」
「ママただいま!夜花が助けてくれたから大丈夫!」
二人が抱き合った後、その女性が俺の方に来て自己紹介をする。
「はじめまして。娘がお世話になりました。大矢野いろはです。よろしくお願いします。」
「はじめまして。夜花天童って言います。お礼を言うのはこちらの方です。娘さんのおかげで町に入ることができましたから。本当にいい娘さんですね。」
俺はとりあえず当たり障りのない自己紹介をした。だが、それを聞いて、いろはさんは感激したように俺の手を握ってくる。
「まあ、なんていい子なの。あなた、彩乃の彼氏になってくれない?お似合いだと思うわ!」
「ちょっとママ!何変な事言ってんの!!」
「ええっとなんて言うかそれは…」
俺は背後から流れてくる殺気を感じ取り、言葉を濁す。このままでは非常に不味い。俺が焦っていると後ろから手が伸びてきて、耳元で死にそうなくらい冷たい声で話しかけられる。
「私以外の彼女とか絶対認めないから。」
俺はその言葉を聞いて背筋が凍りつく。なんとかして話題を変えなければいけない。
「そ、そうだ!他の二人の自己紹介がまだでしたね。こっちは海楽紫苑です。こっちはエーデルワイス。」
「はじめましてー。紫苑って呼んでくださいね!」
「エーデルワイスと言います。よろしくお願いします。」
二人が前に出て自己紹介をするときには、紫苑の声のトーンも元に戻っていた。怖すぎる。
「まあ、綺麗なお仲間さんね。あなた達にも娘がお世話になったわね。ありがとう。それより、天童くんとお付き合いしている人はいるの?いないなら…」
「ママもういいでしょ!三人共、五階に行くわよ!」
そう言って俺たち四人は再びエレベーターに乗って、五階に向かう。さっきは危なかった。紫苑が笑顔じゃなくなると本当に怖い。
「五階には何があるんだ?」
エレベーターの中で大矢野に聞いてみると、何故か沈んだ表情をしていた。
「パパがいるのよ…」
エレベーターの扉が開くと、そこには二階と違って長い廊下が続いていた。その先にある扉まで歩いていく。その扉を開くと、椅子に座っている男の人がいた。手前にはテーブルとソファが置かれていた。奥にその人のデスクがあり、手を払ってウィンドウをすべて閉じる。
「帰ったか。君が娘を助けてくれたそうだね。礼を言わせてくれ。ありがとう。大矢野灯りだ。」
「夜花天童っていいます。よろしくお願いします。」
席を立ちあがってこちらに来た灯りさんと握手をする。そして、灯りさんはエーデルワイスの方を見る。
「それが報告にあった機械兵だな?」
「はい。No.7エーデルワイスです。」
エーデルワイスがそう言うと、灯りさんは目を細める。そして、席まで戻り、背もたれに寄りかかる。
「天童くん。君はそれがどれだけ貴重な存在か理解しているのかね?」
「正直わかっていません。ですが起動した者の責任として捨てたりはせず、俺は彼女を最後まで側に置きます。」
「そうか…責任か。ついぞ大人の口からきかなくなった言葉だな。よかろう。私が知ることを君たちに教えよう。そこに掛けてくれ。」
俺たちがソファに座ると、使用人のたちが部屋に入って来て、お茶を出された。
「ありがとうございます。」
俺はお礼を言ってから飲んだ。緑茶だったが、すごくおいしい。仄かな苦みがあり、それでいてなめらかな舌触り。濃すぎず薄すぎずちょうどいい旨さだ。
「さて、ではNo.についてだったな。それについて本職の人を呼んだ。そろそろ来るだろう。」
灯りさんがそう言うと、部屋の扉が開き、作業着を着た老人が姿を現す。腰が曲がっており、それなりに歳がいってることがわかる。
「灯り。呼んだか?」
「私の父の十志だ。機械に関しては私より何倍も長けている。」
そう言われた老人は彩乃の方を見て、安堵の表情を見せる。
「彩乃も大丈夫じゃったか?高い所から落ちたと聞いたぞ。」
「大丈夫よ。おじいちゃんこっち座って。」
おじいさんは俺の対面に座ると、エーデルワイスの方をじーっと見る。
「お主じゃな?新しく発見されたNo.は。番号はいくつじゃ?」
「私はNo.7です。」
「なんと、一桁番号か!まだそんなものが残っていたとは驚きじゃ。しかし、よくできとる。言われなければ人間と見分けがつかんな。」
おじいさんは驚きながらエーデルワイスのことをしげしげと見つめる。
「それでおじいちゃん、No.って何?」
「そうじゃのう。わしも全てを知っているわけではない。」
そう言いながら、おじいさんは鞄からパソコンを取り出し、テーブルの映像機器に接続する。そこには三つの画像が表示される。それぞれNo.65、No.67、No.59と書いてある。
「わしは今までに三つのNo.を見たことがある。No.とはスターダストともう一つ、メテオニスという特別な物質を用いて作られた兵器たちの総称だ。かつて人間が機皇神に主権を奪われる以前、に少なくとも八十五個作られたと言われている。今人類側で活躍している戦闘員たちの武装はほぼNo.じゃ。じゃが、その性能はピンキリでの。滅茶苦茶強い性能を持っている物から普通の性能のものまで千差万別じゃ。」
俺はその説明でふと疑問に思ったことをおじいさんに聞いてみる。
「No.って90まであるんじゃないですか?」
「なんじゃと?一般的には一番大きい番号は85だったはずじゃ。」
それを聞いたエーデルワイスが否定する。
「それは誤りです。私が取り戻した記憶にはNo.90福音の滅連銃が存在しています。」
「他のNo.のことを知っているのか?」
「私の記憶領域は破壊されています。今の情報はこの箱から得た情報です。」
エーデルワイスは膝の上に置いていた箱を差し出す。
「これは…ロックが掛けられておるな…」
「俺たちそれの解除キーを探してこの町に来たんです。」
俺はその箱を手に入れた経緯を三人に話した。偶然上之保で手に入れたこと。エーデルワイスが触ったらキーの位置が表示されたこと。夢にNo.90が出てきたこと。
「それ、おそらく持ってるぞ。」
「本当ですか!?」
エーデルワイスがその言葉に食いつき、席を立つ。おじいさんも興奮しているようで、椅子から立ち上がる。
「一階のわしの店にあるはずじゃ。今すぐ行くか?」
「お願いします。」
俺たちはおじいさんに続いて部屋を出ていく。扉を閉める前に、俺は振り返ってお礼を言う。
「灯りさん、いろいろありがとうございました。」
俺はそれが言うと、扉を閉めて部屋を出た。そういえば大矢野はついてこなかったな。
「天童早くー。」
少し気になったが、みんながエレベーターで待っていたので先を急ぐことにした。
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私は自分の目の前にいる男が怖い。私にとって最も身近な男の人。なのに私はこの人に理解されたと思ったことが一度もない。
夜花たちが出ていった後、私は座っているパパに話しかける。
「パパ、私今日頑張ったよ。みんなに指示出して、敵を倒して。凄く頑張ったんだよ。」
「そうか。それで、満足したか?」
私は褒めてもらえるかもしれないと思っていたのに、予想とは違う言葉が飛んできて驚く。
「…え?」
「お前が頼んだとおりに私は北側関門の責任者にお前を推薦した。もういいだろう?町の警備兵なんてやめて、家にいなさい。」
パパはそう言って、私を褒めてくれることはなかった。
「あんなに頑張ったのに…」
「他に何かあるのか?何もないなら機械兵の警備に戻れ。それもお前の役目だ。」
私の目からはいつの間にか涙が流れていた。本当になんでわかってくれないんだ。パパもママもみんな私が戦うことを褒めてくれない。どれだけ敵を倒しても、どれだけ頑張っても、みんな私を褒めてくれなかった。
「もういいでしょう?」
「危ないのはやめた方が良い。」
そんな言葉もう聞き飽きた。なんで私はダメなのか。兄は普通に街を守る戦闘員として活躍している。私だってそうやって活躍したいのに。
「お前は女だ。安全な家の中に居ていいんだ。そこで、暖かい家庭を築けばいい。」
違う。私がしたいのはそんなことじゃない。私は戦いたい。人類の為に、町の為に、私は前線で戦いたいんだ。
私はこの町でずっと、戦い続ける人たちを見ていた。倒した敵の一部が広場に展示され、町のみんなが彼らに歓声を送っていた。私もいつかああなりたいと思った。
私も誰かから必要とされる人間に。
「パパの馬鹿!!」
私は泣きながらパパの部屋を出た。
読んでいただきありがとうございました。
書き始めたはいいがNo.の個別の設定を考えるめんどい…めんどくない?




