次の町
よろしくお願いします。
俺は次の町、各務原に向けてトラックを走らせていた。紫苑は昼寝しているので、代わりにエーデルワイスがレーダーに目を向けていた。
「天童、少し、お話ししたいことがあるのですがいいですか?」
「なんだ?」
俺は直線に差し掛かったのでギアを五速にしてスピードを上げる。
「この間見つけた箱、あるじゃないですか。」
「おう。」
俺はエーデルワイスが膝の上に置いている箱を思い出す。中に何が入っているのかはまだ分からなかった。おそらくハンドガンだと思うのだが、確認はできていなかった。今俺たちはそれの鍵を探すために各務原に向かっていた。
「それに私がシュネルヴァイスと共闘している記憶がありました。」
俺は唐突なカミングアウトに驚いてハンドル操作を一瞬誤ってしまう。今こいつなんて言ったのか理解できなかった。
「言いたいことは色々あるけど…それって、やっぱりエーデルワイスは機械兵側の存在ってこと?」
「わかりません。でも、私は今は天童たちの兵器です。それを曲げる気はありません。ですが、少しシュネルヴァイスのことが気になるのです。私と一体どういう関係だったのか。何故私のことを知っているのなら、郡上で会った時に攻撃してきたのか。私の中に残っていた命令はなんの為のものだったのか。」
俺はそれを聞いて複雑な思いになる。シュネルヴァイスを許すつもりはない。俺と紫苑から全てを奪い去った奴をどうして許せるというのか。だが、エーデルワイスの気持ちもわからなくはない。自分が失った記憶の中に唯一出てきた既知の存在。それが気にならないわけがない。もしかしたらエーデルワイスが記憶を失う前は、シュネルヴァイスに近い存在だったのかもしれない。
そうだとするならエーデルワイスからすれば、シュネルヴァイスと戦うのはつらいことになるだろう。
俺はどうすればいいのか悩む。奴を許すことはできない。だが、エーデルワイスのことを蔑ろにすることもできない。彼女はもう立派な俺たちの仲間だった。強力な身体能力を持ち、それでいてどこか人間っぽい彼女を俺は認めていた。彼女は他の機械兵とは違うと。
俺は嘗て自分の手で機械兵を直したことがあった。しかし、そいつはハッキングを受けてしまいだんだん挙動がおかしくなった。そして、気付いた時には居なくなっていた。だから、エーデルワイスが起動してから何日経っても一緒にいてくれた時、俺はとても嬉しかったのだ。
「それは、また今度考えよう。」
俺は一先ず結論を先延ばしにすることにした。今はそれを決めるのは早すぎる。俺はスピードを少し落として、自分の中でよく考えることにした。
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地図を頼りに各務原を目指していると、町の手前にある関門が見えてくる。
「そこで止ままりなさい!止まらないと撃つわよ!」
そこには銃を構えた一人の少女がいた。何故か道のど真ん中に立っており、ふんぞり返っていた。
茶髪のショートヘアに青いメッシュが入っている。背は150センチくらいだろうか。そのせいなのかやけに幼く見える。
(あんな開けた場所に立って、撃たれるとか考えないのか?)
俺はシートベルトを外して、トラックから降りる。俺は銃を向けられながら、両手をあげて近づく。
「あの、俺たち各務原に行きたいんですけど。」
「お前、機械兵を持っているわね?」
俺はそれを指摘されてチラッと背後を見る。
(あっちではスルーされたけど、ここでは無理か。)
上之保では戦闘員が不足していたのと門番が男だったのもあって、紫苑のおかげで何とかなった。だが、ここではそうはいかないみたいだった。
「…持ってますけど。」
「この先に行きたいならそれを今すぐ破壊しなさい。」
俺はそう言われて、少し考える。
(さて、どうする。)
箱の中身は必ず見なければいけないという訳ではない。だが、折角中に武器があるんだから、手に入るのなら欲しい。
だが、それでエーデルワイスを破壊しなければいけないなら、本末転倒だ。
「どうしてもだめか?」
「だめよ。」
「町にいる間、武装を完全にロックしてもか?」
「…ちょっと待ってなさい。」
少女はそう言うと耳に付けた通信機を起動する。
「もしもし、パパ?機械兵が中に入りたいって言うんだけど…うん。うん。んーん、連れてるのは人間、武装は完全にロックしてもいいって言ってる。うん。うん…」
誰かと通信しているようだ。最初は融通の利かない頑固な奴かと思ったが、わざわざ上に問い合わせてくれるなんていい奴なのかもしれない。
「え?私が!?で、でも、私なんかが…うーん…うん、うん。わかった。バイバイ。」
そいつは通信を終えたみたいで、構えていた銃を降ろす。
「もう手を降ろしていいわよ。」
「で、入ってもいいのか?」
「それなんだけど、一つ条件があるわ。私…」
その少女が続きを話そうとした時、俺たちの背後からクラクションが聞こえてくる。俺たちがトラックの横から顔を出すと、一台の別のトラックがこちらに向かっていた。
「なんだあれ?」
「うちの巡回の兵よ。でも、何か様子がおかしいわね。」
少女がそう言うと、腕のデバイスで通信先を選んで、再度通信する。
「もしもし、こちら北側関門よ。何かあったの?」
すると俺にも聞こえてくるくらい切羽詰まった様子で返信が返ってくる。
「すぐに門を開けてくれ!もう二人やられた!そこのトラックもどけてくれ!」
短かったが、何を言いたいのかは大体理解できた。だが、少女はオドオドしており、どう対応したらいいのかわからない様子だった、
「え、ええ!?そんなこと言われてもど、どうしたらいいの?」
慌てる少女に俺はどうすればいいかをすぐに考える。
「とりあえずゲートを開けてくれ。俺のトラックを退かさないと。」
「そ、そうね。時間がないし!細かいことは後でいいわよね!」
俺はそう言われてトラックの運転席に戻り、ゲートが開くのを待ってから中に入る。横の席では二人がすでに起きていた。
「天童、紫苑を起こしておきました。何か緊急事態なのですね。」
「何々?なにかあったの?」
「戦闘だ。ここで活躍すれば、すんなり町に入れるかもしれない。二人とも銃を持って降りてきてくれ。」
それだけ言うと、俺は運転席から降りて、さっきの少女の元に行く。
「ねえあなた、戦えるの?」
「もちろんだ。」
「え、えっと確か…各務原の戦闘員として正式に依頼するわ。今、こっちに負傷した味方が戻ってくる。でも、機械兵に追われてるみたい。それの撃滅を手伝ってほしい。報酬は消費した弾薬と一人につき十万円です。やってくれる…?」
「やるしかない。俺も死にたくないしな。」
俺はお互いのデバイスを通して、正式に各務原からの依頼を受け取る。これは後から揉めないようにするための証明書だ。そのデータを受け取った後、俺たちは軽く自己紹介をする。
「大矢野彩乃よ。よろしく。」
「夜花天童だ。よろしくな。」
俺が送られたデータを確認してると、後ろから紫苑が抱き着いてくる。そして、耳元で、絶対零度の声で囁く。
「何イチャイチャしてんの?」
「イチャイチャなんてしてない。自己紹介しただけだ。あと近い。」
俺が紫苑を払いのける。大矢野はその様子を見て、顔を赤くしていた。
「男の人とあんなに近く…!」
何か小声でぶつぶつ言っているがよく聞こえない。尚も紫苑は疑いの眼差しを向けてくる。
「紫苑ちゃんがいるんだから他の女とイチャイチャすんなよ?」
紫苑がそう言うと、大矢野が大声で否定する。
「イ、イチャイチャ!?そんなことしてないわよ!なんで私がこんな奴とイチャイチャしなきゃいけないのよ!」
こんな奴呼ばわりされたのは普通に傷ついた。俺の第一印象ってそんなに悪いのかな。
「冗談、冗談。さて、これで緊張もほぐれたでしょ?そろそろ味方さんが来るよ。」
「マスター、指示をください。」
俺は紫苑が指さした方を見ると、トラックがもうそこまで来ていた。後ろからは四足歩行の機械兵と、戦車型の機械兵が追って来ていた。
「大矢野、バリケードの上に登ってもいいか?」
「も、もちろんよ。」
「なら二人ともバリケードの上に行くぞ。今回は弾は各務原持ちだ。好きなだけ撃ちまくるぞ。」
「おー。」
「了解。」
エーデルワイスはバリケードの上に一気にジャンプで上る。
「ええ!?なにその身体能力!?」
「説明は後だ。敵に大分追いつかれてるみたいだ。トラックが入ったらすぐにゲートを閉めてくれ!」
「わ、わかったわ。もしもし、私よ、敵が近いみたい。味方を迎え入れたらすぐに閉めて。」
俺と紫苑はバリケードの上に行き、腕のデバイスを切り替えてレーダーを表示する。
「何だこの数!?」
そこには五十機以上のスターダスト反応があった。上之保に比べて各務原の方が大きいと言っても、いくらなんでも多すぎる。只の巡回であの規模の部隊に戦闘を仕掛けるようなことはしないだろう。
(なら…向こうから攻めてきた?)
「今回はやけに多いね~。紫苑ちゃんも疲れちゃうよ。」
「一人称が自分の名前の人初めて見たわ…」
「可愛いでしょ?もっと褒めてくれていいわよ。やる気が出るから。」
などと紫苑たちがどうでもいい会話をしていたが、トラックがゲートの中に入り、顔つきが変わる。紫苑とエーデルワイスは真面目な顔つきに、大矢野はなんだか小声でぶつぶつ言っていた。
「戦闘…これから、戦闘…」
「どうした?大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ…!それより、来たわよ!」
俺は小型から中型の四足歩行型の機械兵を倒していく。
「エーデルワイスは俺と一緒に小型から、紫苑は大型を狙え!」
「「了解!」」
俺は二人に指示を出した後、戦闘に集中してると、横から服を引っ張られる。
「わ、私はどうしたらいいの?」
俺は一瞬迷ったが今は一分一秒が惜しかった。俺は大矢野に対しても指示を出した。
「お前の武器は…グレネードランチャーか。なら敵が密集してるところを狙ってくれ。無理に大型を仕留めなくていい。敵の陣形に穴を空けてくれれば十分だ!」
「敵の密集してるところね。わかったわ!」
大矢野は俺の指示を受けると、すぐに攻撃に移った。命中率もかなりいい。腕はいいが指示が無いと迷ってしまうタイプなのかもしれない。
俺は大矢野が吹き飛ばした敵のブレインを撃ち抜いて行き、どんどん倒していく。体制が崩れた敵を狙うのは格段に戦いやすかった。
だが、敵もやられっぱなしではない。戦車型を中心に火力を集中させて攻撃してくる。バリケードとして作られているのでそう簡単には破壊されないみたいだが、それでも時間を掛けてる余裕はなかった。
俺たちがバリケードの上で戦っていると、後ろの階段から人が昇ってくる足音がした。
「待たせた。すまない敵を引き連れてきちまって…」
「大丈夫よ。早く倒しましょう。」
大矢野がそう返事をして、合流した五人と一緒に戦う。人数が増えたことで火力も上がり、小型の奴は殆ど倒すことができた。
「よし、大矢野、お前は紫苑と一緒に大型の奴を狙ってくれ。残りはアサルトライフルで十分だ。」
「わかったわ。」
俺は大型の敵を他の奴らに任せ、自分にできるとこをやる。一体ずつ倒していくが、敵の砲撃が激しくなってくる。特に戦車型の攻撃が強い。一撃受けるごとに床が揺れた。その度に態勢を崩されて、うまく狙いを付けられない。
「クソ、強すぎる!大矢野、敵の駆動部を狙えるか?」
「やってみる。」
大矢野は静かに狙いをつけて、敵の足元を狙い撃つ。グレネードランチャーによって、敵の無限軌道が破壊され、砲身を上にあげることができなくなった。
敵の姿勢を崩すことができたので、動力炉があるであろう場所に集中攻撃する。火力が低いアサルトライフルでも、これだけの人数が集まればさすがに装甲を突破できる。
ボコボコになった装甲を大矢野のグレネードランチャーで吹き飛ばし、中身を露出させる。
「紫苑、撃て!」
「りょー。」
紫苑がその動力炉を撃ち抜いて、機械兵は爆発した。
だが、その戦車型は最後にバリケードに向けて一発入れてきた。ドカァンという音と共にバリケードの一部が崩壊する。そして、それは俺と大矢野の真下だった。
「ま、不味…!」
俺が言い終わる前にバリケードの上部が崩落して、二人で瓦礫の山に落ちていく。
「嫌ああああ!」
「クソ!」
落ちたところは三メートルくらいの高さがあり、俺は大矢野を抱きしめて瓦礫に背中から落下する。
凄まじい衝撃が背中から体中に走る。骨がミシミシと音を立てているのがわかり、全身が痺れたように動かせなくなる。
「ぐ、ぉ…大矢野、大丈夫、か?」
「え、ええ。大丈夫。」
俺は大矢野が無事な事を確認したら安心し、そのまま意識が遠のいて行った。
そして、それを最後にバリケード上での戦闘は終了した。
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私は負傷した人にナノマシン入りの回復薬を渡していた。これは警備兵が町から支給されているもので、申請すればすぐに補給を受けることもできる。
バリケードの内側にある休憩室のソファには気を失ったままの天童がいた。
「夜花天童…」
私はこの人に助けられた。あの時、すぐに受け身を取れなかった私を庇って、彼は私を抱きしめてくれた。そして、守ってくれた。
初めて男の人に抱きしめられたが、悪い感じはしなかった。
(それに…)
急な事に慌てふためく私に指示をくれた。
初めての戦闘になって、頭が真っ白な私に的確に命令を出してくれた。
私は初めて歳が近い男の人に興味をもった。
読んでいただきありがとうございました。




