閑話─正次─
よろしくお願いします。
天童たちがこの町を去った翌日、俺は自分のベッドの上で目を覚ます。いつもと同じ朝だ。
昨日は帰ってからシャワーを浴びて、泥のように眠った。いろんなことがあって疲れていたのだろう。
俺は自分の部屋を出て洗面所に行って顔を洗う。俺が全て正しいという考え方は昨日捨てたんだ。今日からは他人を見下したりするのはやめだ。
俺は自分の頬を軽く叩いて気合を入れる。
両親が待っているリビングに行くと、今まではしなかった挨拶をする。
「二人とも…おはよう…」
普通に挨拶をしようと思ったのに、うまく声が出なかった。
俺がそう言うと、二人は衝撃を受けたような顔をしていた。父親は銃を弄るのをやめて、母親もご飯をよそう手を止めている。
「あんた…ああ…おはよう!早くご飯食べちゃいなさい。」
「おはよう直道。なんだか今日はいつもと雰囲気が違うな。」
「昨日ちょっと色々あって。」
俺は正直に言うのが恥ずかしかったが、ご飯を食べた後に両親に話した。俺が今まで間違っていたこと、これからはちゃんと人に敬意をもって接すること。全てを話した。
そして、俺はずっと両親に対して思っていたことも話した。母親に対してはいつも怒ってばっかりで怖いこと。父親はいつも仕事と趣味ばかりで俺を見てくれないと感じていたこと。
全てを話し終えた後、俺は目線を下から二人の顔へ戻す。二人は沈んだ表情をしていた。
最初に口を開いたのは父親だった。
「そうか。すまなかったな。お父さんは勘違いしてたよ。お父さんは最初、直道に対してどう接していいのか分からなかった。だから、物をあげることでお前との関係は良好に保っていると勘違いしていた。お父さんからしても物というわかりやすく目に見えるのがあったから、それでいいと思っていたんだ。だけど、お前はずっと待ってたんだな。」
俺は無言で頷く。父親もやはり悪気があったわけではなかったのだ。自分の子供に対する接し方がわからず、物を与えるという安易な結論に至ってしまった。俺も悪かった。お父さんが俺と遊んでくれないのは俺のことが好きじゃないからだと思っていた。お互いに言い出すことができなかったんだ。
「お母さんも悪かったよ。お母さんは直道が間違った方向に成長しないようにといつも思っていたんだ。だから必要以上に厳しくし過ぎたみたいだ。直道が歪んで行った原因がお母さんにあったなんて考えたこともなかったよ。ごめんね。」
お母さんも謝ってくれた。お母さんが俺を怒っていたのはやっぱり俺の為だったんだ。俺はそのことを理解していなくて、ずっと俺を馬鹿にしたいからだと勘違いしていた。
俺は家族と向き合って話すことで俺は初めて二人と向き合えた気がした。
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町に出た俺は外周のバリケードの哨戒をしに行く。町の門のところに行くと、由香里がもう待っていた。
「おはよう。すまん。遅れたか…?」
「時間通りよ。それと、おはよう。」
俺は挨拶を返されて少し気分が高揚する。挨拶をするってこんなにも気持ちが良いことだったんだな。俺は挨拶なんてしなくても一緒だろと思っていた。むしろ挨拶している奴をダサいと見下してさえいた。
天童も斎藤さんに会うたびに挨拶をしていた。俺もこれからはそうしよう。
俺と由香里は二人一組になってバリケードの周辺を歩き始める。今日やることはバリケードが壊れていないかの点検。周辺に機械兵がいたら掃討。大きく分けてこの二つだ。
これも今までは由香里一人に任せてきたことだった。哨戒なんて有能な自分がやることではないとお高く留まっていた。
そうじゃない。有能がどうとか、無能だからという話してはないのだ。ここではみんながそれぞれの役割を担って生活している。なら俺のやることは町を守ることだ。そこに有能も無能も関係ない。
俺は由香里に頭を下げて点検の仕方を教えてもらう。
「そこの有刺鉄線は切れてないか確認して。そう。切れてたらそこから機械兵が流れ込んでくるからしっかり見てね。」
俺はゆっくり、確実に少しづつ点検を進める。俺に比べて由香里の点検のスピードは何倍も早かった。俺も必死に食らいついたが、どんどん離されていく。
俺が焦りながらやっていくと、近くに由香里が歩いてくる。
「そんなに焦っちゃだめよ。ゆっくりで大丈夫よ。最初はみんなそこから始まるものよ。」
「ああ、すまん…」
俺は由香里に謝って、一緒に点検を手伝ってもらった。
(こんなことすらまともにできなんて俺は…いや、違う今始められたんだからこれから頑張って覚えるんだ。)
俺は過去を後悔するのではなく、これからのことを考えた。
そして、目の前のことに全力で取り組んだ。
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点検を八割方終えた俺たちは少し休憩していた。
持ってきた水筒から水を飲むと、体に染みわたる感じがした。只の水なのにすごくおいしい気がした。
そして、俺は昨日から由香里に謝ろうと思っていたことを口にする。
「由香里、すまなかった。お前に対して今までしたセクハラも許されないことだと分かってる。気が済まないなら警察に突き出してくれてもいい。」
俺は由香里に向かって頭を下げる。
これは絶対に謝らなければいけないと思っていたことだ。俺がやってきたことは普通に犯罪だ。許される事じゃない。
俺が頭を下げて待っていると、肩をぽんぽんと叩かれる。俺はゆっくりと顔を上げると、由香里から平手打ちが飛んでくる。
「ぐぁ…」
「これで許してあげるわ。女の尻はね、安くないのよ。でも、反省しているようだし、いいわ。このままなあなあにしようとするなら許さなかったけど。」
そい言って由香里はバリケードの点検を再開する。
俺は許されたことを感謝して、由香里の後に続いた。
だが、そこで茂みから一体の犬型の機械兵が現れる。由香里はまだ気づいていないようで、バリケードの方を向いていた。
「由香里!!」
俺は急いで由香里を突き飛ばして、敵の攻撃を回避する。由香里を押し倒すように倒れ込んだ俺は、そのままの態勢でアサルトライフルを発砲する。何発か撃つと機械兵は機能を停止して倒れる。
俺は他に敵がいないことを確認して銃を下げる。すると、銃身を抑えていた左手が由香里の胸に触れてしまう。
俺はその場から飛びのくが、手には柔らかい感触が残っていた。
「す、すまん!敵を倒すのに必死で気付かなくて…本当にすまん!」
俺がその場で頭を下げて謝るが、今回は由香里は怒らなかった。
「いいわよ。むしろ助けてくれてありがとうね。気が付いてなかったから助かったわ。」
俺は許されたことに驚いたが、なんいせよよかった。俺は倒した機械兵の動力炉を開き、中にある僅かな青い砂を回収する。
「それって…」
「天童が回収してたから。今度会ったらお詫びの意味も込めて渡そうかなってさ…俺が自分の力で手に入れてお詫びになりそうなのがこれしか思いつかなかったから。」
天童はわざわざ機械兵からこの青い砂を回収していた。ならこれは多分あいつにとって必要なもののなずだ。お父さんからまた弾を貰おうかとも思ったけど、それはなんか違う気がした。なんとかして自分の力で手に入れられる物にしたかったのだ。
「そう。ならそうしたらいいわ。次会う時までにしっかり集めておかないとね。」
俺は試験管の中に少ない砂を入れて、バリケードの点検に戻った。
読んでいただきありがとうございました。
スターダストちゃんと集めとけよ~。




