プロローグ
よろしくお願いします。
魂まで喰らい尽くしてを書き直そうかと思いましたが、新作でやります。あっちの更新は…やる気があったらやります。(最初の作品なのに、大風呂敷を広げ過ぎた感ありますねぇ!)
魔境冒険の経験を生かして、主人公の目的はわかりやすく、主人公を応援できるような話にできるように頑張ります。
「天童!早く起きなさい!早くご飯食べないと、紫苑ちゃん来ちゃうわよ!」
「うー…」
今日も俺はお母さんの大声で目を覚ます。
目の前にあるパソコンはスリープモードになっており、画面が真っ黒になっている。マウスを握っていたはずの右手は机から落ちかけており、作業中に寝てしまったのがわかる。
昨日も夜遅くまで銃の解析をしていたせいで、作業机に突っ伏したまま寝てしまったようだ。
俺はデジタル時計を見ると時刻は朝七時を示していた。横には拙い漢字で、夜花天童と書いてある。この時計を作ってもらってから随分と経ったものだ。お父さんが誕生日のプレゼントとしてくれたのが懐かしい。
マウスを少し動かして作業の進捗が保存されているのを確認する。昨日寝る前にしっかり保存した自分を褒めてやりたい。
(小さくても一歩は一歩だ。)
俺は椅子から立ち上がって伸びをする。座って寝たせいで体がバキバキだ。
肩を回して体の調子を整えつつ、カーテンを開けて日の光を浴びる。日光の強さに一瞬怯むがすぐに目が慣れる。
外はいつも通りの山の中で緑がいっぱいだ。そして所々にくず鉄の山が築かれている。近所の家もカーテンが開いているところが散見される。防壁が街を取り囲んでおり、壁の上には固定式の重火器が設置されている。
「よし。何も起きてないな。」
部屋の扉を開けてリビングに向かう。リビングでは俺の両親が朝食の準備をしていた。お母さんが俺に気付き料理の手を一瞬止める。
「やっと起きてきた。おはよう、早くシャワー浴びてきなさい!」
「おはようお母さん。わかったわかった。」
俺はお母さんのうるさい声に気だるげに返事をする。それを見て、座っているお父さんがケラケラ笑っていた。手にはタブレットを持っている。恐らく今日の仕事の連絡が来ているのだろう。
「天童、またディアノート弄ってたのか?もう諦めて他の銃を使った方が早いと思うぞ。」
ディアノートというのは俺が昨日の夜も解析していたアサルトライフル型の銃だ。数年前にお父さんが戦利品としてくれたものだった。最初は殆どの部分がロックがかけられており動いておらず、まともに弾を撃つこともできなかった。
「ごめんお父さん。俺まだ諦められないんだ。だから、もうちょっと挑みたい。」
三年だ。ディアノートの解析を始めてもう三年も経った。そして、アホほど堅いディアノートのシステムプロテクトに挑み続けてようやく銃として使えるようになった。
お父さんはタブレットを机の上に置いて、マグカップを口元に持ってくる。お茶を一口飲むとお父さんは諦めたような笑顔をする。
「まあ、お前がそうしたいならそれでいいさ。しかし、機械兵からディアノートを奪って三年か…よくそれだけの間他の武器に浮気せずに向き合えたな。」
「いや、普通に他の武器も使ってたから。」
正直暇な時間があれば俺はずっとディアノートの解析をしていた。遊ぶことが許される子供だからできることだ。とは言っても俺ももう少しで成人なのであと二年で仕事をしなければいけない。そうなれば解析できる時間も減ってしまう。それまでにはなんとか解析を終わらせたかった。
「そうか。なら、腐らず頑張れよ!」
「うん!お父さんも仕事頑張って。」
俺はお父さんと笑顔で頷き合った。
俺のお父さんは、日々機械兵との戦闘に明け暮れている。最近はなぜか敵の数が異様に増えてきているようで、毎日疲弊していた。
そんなお父さんを激励しているとそこにお母さんが怒鳴りつけてくる。
「いつまで立ち話してるんだい!さっさとシャワー浴びてきな!あんたも天童を引き留めるんじゃないよ!」
「はい…」
「ご、ごめん…」
俺とお父さんは無事げんこつをくらってしまった。朝からツイてない日だった。
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シャワーを浴びて朝食を食べ終えた俺は、自分の部屋に戻って外出の準備をしていた。長袖長ズボンにヘルメットを着けて、リュックの中にノートパソコンをしまう。最後に弾を込めたディアノートを肩にかけて準備完了だ。腰のポーチににちゃんとマガジンもセットした。
俺は正直言ってあまり戦闘は得意じゃなかった。だが、銃をはじめとした機械を触るのが大好きで、戦闘に参加しなければいけない時以外はいつも機械いじりをしていた。
「天童、紫苑ちゃん来たよ!」
「今行く。」
今日の予定は特に決めていない。最近はあいつ次第で俺の予定が決まるので、無理難題が来ないことを部屋を出る前に祈る。
俺は机の電気を消して、玄関に向かう。
そこには黒い服を着て、スナイパーライフルを肩に背負った女の子がいた。黒いロングの髪は後ろで縛ってポニーテールにしてあり、目は綺麗な青色をしている。黙っていれば本当に世界でも有数の美しさを誇っているだろう。百八十センチの身長に出るとこは出て引っ込むとことは引っ込んだ完璧なスタイル。
「やっほー。超絶美少女の紫苑ちゃんが来てやったぞー。ほれ、泣いて感謝しろ?」
「はいはい。今日も世界一可愛いよ。」
俺は適当に海楽紫苑の話を受け流す。こいつの自分に対する自信にはほとほと呆れ果てる。こいつ以外に自分のこと美少女とかいう奴を俺は見たことがない。昔はこんな奴じゃなかったのにどうしてこうなってしまったのか。
「うっわ超ーてきとー。まあ、可愛いって言ったので今日はこれくらいで許してやるか。」
「わーい許されたー。で、今日はどっかいくの?」
俺は話を合わせながら今日の目的地を聞く。その間に俺はスパイク付きの戦闘靴を履く。
「今日はね。磨墨の里跡地に行こうかなって。」
俺はその目的地を聞いてピクッと反応する。靴紐を結ぶ手を止めて顔を上げる。
「あそこ結構危ないだろ?許可出たのか?」
「ふっふっふー。出たんだな―これが。ほれ!この許可データを見たまえ!私の交渉術に泣いて感謝しろ?」
紫苑はドヤ顔をしながらふんぞり返る。
「えぇ…それはマジで感謝するわ。紫苑さんマジパネェ。」
俺も今までに何回か磨墨の里への探索願いを出していた。だが、俺では危険度が高すぎると許可が下りなかったのだ。
「あ…ま、まあ、紫苑ちゃんにかかればこれくらい余裕余裕。」
何故か顔を赤くして焦っていた。何か変な事言っただろうか?こいつのことは本当に理解できん。子供の頃からずっと一緒にいるが、何考えてるのか今でも理解できない。
俺は立ち上がってお母さんの方を向く。
「それじゃあ、行ってきます。」
「おばさん、行ってきます。」
「行ってらっしゃい!紫苑ちゃん、天童のことよろしくね!」
「はーい。」
俺と紫苑は行ってきますを言い、家の玄関を後にした。
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家から外に出ると、寒い空気と暖かい日の光が俺を出迎えた。
「今日はいい天気だな。」
腕のデバイスの表示を切り替えて温度計にする。空中にウィンドウが出現し、気温は10℃を示していた。
「これも紫苑ちゃんが日々頑張ってるおかげだねー。」
「はいはい。それで、ルートはどうするんだ?」
紫苑の日々の頑張りと天気の良さは一切関係がない。それをスルーして今日の探索ルートを聞く。磨墨の里は昔道の駅として使われていたらしい。数十年前に今の建物が作られたらしく、昔と違ってこの辺りを訪れる人も減ったらしい。
「あーそれね。472号線を通って行こうかなって。天童のバイクなら余裕でしょ?」
俺はデバイスに連絡が来ていないかを確認しながら紫苑の話を上の空で聞く。
「あーバイクねバイク…ん?」
俺はそのまま流されそうになるのを踏みとどまって、引っかかる単語が含まれていたことに気がつく。確かに俺はバイクを持っている。そいつは廃屋の中で密かに修理していたものだ。もちろん家族をはじめ誰にも言っていない。
「ちょっと待った。俺お前にバイクのこと話したか?」
紫苑はにんまりと笑ってデバイスの画面を見せてくる。そこには地図アプリが開かれており、俺のバイクが隠してある廃屋が映し出されていた。
「はははっ。紫苑ちゃんに隠し事できると思うなよ。」
(こいつほんとに…!)
生意気なドヤ顔がムカつくが、ぶん殴るのをなんとか我慢する。
一体どこから嗅ぎ付けてくるんだ。出来ればもう少し調整したかったが、確かに現状でも走れなくはない。
「だってしょうがないじゃん!探索の条件に何か乗物を使えって言われちゃったんだもん!」
「わかった、わかった!全くもう…取りに行くぞ。」
俺は諦めて廃屋の方に歩き出す。
「やったー!流石天童。よ、男前!」
「もっと褒めてくれていいぞ?それでバイクの情報をどこから仕入れたのか吐けば、殴るのはやめてやる。」
俺は紫苑の茶化した言い方にムカついて頭を拳で挟んでぐりぐりする。
「痛い痛い!ちょっと後付けたら偶々見ただけだってば!」
俺はぐりぐりするのをやめて、紫苑からすすっと距離を取る。
「…ストーカー。」
「ストーカーちゃうわ!」
いや、今の話を聞いてそれ以外の感想が出る奴はいないだろう。
「お前なあ、俺は別にいいけど、他の人には絶対やるなよ?間違いなく通報されるぞ。」
「それくらいわかってるって。ストーカーは天童にしかやってないから安心して。」
「今認めたな?」
「…認めてない。」
俺はため息をついて廃屋の扉を持ち上げて横にずらす。呆れて相手をするのがアホらしくなってくる。
シャッターを上げて、バイクが出れるようにする。黒色のバイクが火の光を浴びて鈍く輝く。
「おおーサイドカー付けたんだ。かっこいいね。もしかして私の為?」
「そうだよ。」
俺はバイクの状態を確認しながら、返事をする。
「え…?」
「だから、お前の為に付けたんだよ。中にはお前の銃の弾も積んである。俺が探索に行く時なんて、一人かお前とかの二択だからな。」
俺はバイクの状態の確認を進めながら紫苑の会話に合わせる。
「そ、そうなんだ…キ、キキキッ!」
(うわ…出たよ。あの変な笑い方。)
声だけであいつがどんな顔をしているのかわかる。
「お前その笑い方人前でやるなよ?」
「今顔に出てた!?き、気を付ける。」
バイクのチェックが終わり、キーを回してエンジンをかける。
ブロロロとエンジン音が鳴り、マフラーから煙が出る。いい感じだ。ハンドルを回してふかしてみるが、いいエンジン音が鳴り響く。
「失礼しまーす。」
紫苑はスナイパーライフルを手に持ち、サイドカーに乗り込む。座席の感触を確かめながら、中の様子を確認している。
「それじゃあ、行くぞ。」
「オッケー。」
廃屋から出ると、エンジン音を聞いてきたのか子供が何人かいた。
「すげー俺も乗りたい!」
「俺も俺も!」
バイクの周りに野次馬が集まってくる。自分が直したバイクが褒められるのはちょっと嬉しい。
「今日は重要な探索があるからまた今度な。」
俺は子供の頭をぐしぐし撫でて、なだめる。こうなるから今まで隠していたんだが、帰ってきたらサイドカーに乗せる必要がありそうだ。
「はーい。」
「なんかお土産採ってきてよ。」
「てかデートなの?」
それを聞いてすかさず紫苑が返事をする。
「そうなんだよデートなんだよねー。いやー紫苑ちゃんとデートできるなんて幸せ者だね。泣いて感謝しろ?」
「はいはい。それじゃあ、行ってくる。」
「「「「いってらっしゃーい。」」」」
俺は子供たちに手を振って、町のゲートの方にバイクを走らせる。道中町の人たちが手を振ってくる。俺たちはそれに手を振りかえしながら町中を走った。
ゲートに着くと警備員の人が探索許可のデータを確認する。
「はい、確認しました。それじゃあ、気を付けてな。」
確認を終えた警備員は他の警備員に合図を送り、ゲートを開ける。
そして、俺たちはゲートの前に敷かれた砂利道をバイクで駆け抜けていった。
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俺たちは山の中の砂利道を抜けて、舗装された道路を走っていた。
「風が気持ちいいね。」
「そうだな。バイクの調子も悪くない。」
俺はバイクギアを上げて、ハンドルを回して加速する。体を凪いで行く風が心地いい。流れる景色を楽しみながら、俺達以外誰もいない道路を走っていく。信号は折れているし、壊れた機械兵の残骸が落ちているが平和な景色だ。
機械兵は嘗ては人間の作った兵器だった。だが、とある一体の機械兵が人間に対して反旗を翻した時、ネットワークに接続されていた全ての機械兵が人間に襲い掛かった。機械たちに都市部を制圧された人間は山の中に隠れ里を作り、機械に対する反抗を続けている。
この機械の反乱は世界規模で起こっており、外国との通信は途絶。お互いの生存を確認することも難しくなっていた。
俺はバイクで磨墨の里を目指しながら周りの警戒をする。こんなド田舎に機械兵が常駐してるとは思わないが、以前は輸送隊とかち合った時もあった。なので警戒は怠らない。
「今磨墨の里って廃墟なんでしょ?」
「だな。でも、日本海側と太平洋側の連絡路として使われていたらしいから、それなりにデカい建物があるはずだ。はいこれ最後に撮られた衛星写真。」
実際、昔は高速道路も鉄道も人間のものだったらしく、それ使って陸路を素早く移動していたらしい。
紫苑は受けとった写真のデータを確認しながらニヤッと笑う。
「なら、何かお宝もあるかもね。ちょっと楽しみ。」
「そうだな。俺も楽しみだ。」
できれば昔の機械があれば尚嬉しい。俺はバイクを軽快に走らせる。
今日も楽しい探索になりそうだ。
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磨墨の里に着くと、そこには金属製の3階建てのビルがあった。木の裏から単眼鏡で入口の様子を確認する。
そこにはぎこちない動きをしながら、入口の周辺を歩き回る四足歩行の機械兵がいた。背中には小型のミサイルポッドとガトリング銃を装備している。遠くから見ると大型犬のようにも見える。
「なんとなく予想はしてたけど、警備兵がいるな。」
「でも動きが鈍い。それに電波からしてネットワークには接続されてないみたい。あれなら頭部のブレインを撃ち抜けばいけそう。」
ブレインは機械兵の頭脳に当たる部分だ。機械兵は生き物の形をしているものが多く、その頭部にブレインが入っている。
「ここからいけるのか?」
「スナイパー嘗めんな。」
紫苑が肩にかけていたスナイパーライフルを構える。
俺は紫苑が集中できるように目標以外の機械兵がいないか確認する。
ここは以前から危険な場所だと教えられてきた。ならあの一機以外にも警備兵がいると考える方が自然だ。
俺は周りに落ちている残骸に生きている機械兵が混ざっていないか念入りに確認していく。
「…あれ一体だけみたいだ。」
「オッケー。紫苑ちゃんに任せとけって。」
俺は単眼鏡で機械兵を見る。横からズドンッという音と共に、紫苑が発砲する。スナイパーライフルを飛び出した弾丸は見事に機械兵の頭部を撃ち抜き、機能を停止させる。
「後続は?」
俺は紫苑からの問いかけを、よく確認してから答える。
「…なし。レーダーの反応も後は建物の中にいる奴らだけみたい。」
俺たちは木の影から出て、倒した機械兵の近くまで歩いて行く。確実に死んでいるのを確認してから銃を下げる。そして、機械兵の装備を取り外していく。愛用の小型バンカーを使い、本体と武装の接続部を破壊していく。
周りの警戒をしていた紫苑はあくびをしながら、周りに落ちている残骸を蹴飛ばしていた。錆び付いた金属が崩れてバラバラになる。
「町の大人たちは何をビビってたんだろうね。こんなに手薄なのに。紫苑ちゃんの力量を持ってすればこんなもんよ。」
「さあな。でも、実際昔は危険だったんじゃないか?そこら辺にあるのってこいつと同型機だろ。」
俺は周りで倒れている他の四足歩行の機械兵を指さす。辺りには十体以上の機械兵が落ちている。
「それはあるかもねー。でも、情報はアップデートしないと。昔のことを妄信するのは人間の悪い癖だよ。」
それはそうかもしれない。俺は背中に背負ったリュックにミサイルポッドとガトリング銃をしまう。
「じゃあ、ここからは俺の出番だな。」
建物の中ではスナイパーライフルは取り回しが悪い。俺のアサルトライフルが生きる場面だ。
「了解。今度は紫苑ちゃんが索敵やってあげる。泣いて感謝しろよ?」
「感謝するからしっかり頼むよ。」
俺たち二人は慎重に建物の中に入っていった。
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「クソ!これで何体目だ!?」
「十二体目!次、角から三体来る!」
建物の中に入って俺たちは激しい銃撃戦をしていた。外にいたやつらはどうやら雨風にさらされていたせいで弱っていただけだった。中にいるのはどれも都市を守っているのと遜色ないレベルの機械兵だった。特に人型の奴が強い。俺のディアノートの攻撃では歯が立たない。この中距離で紫苑のスナイパーライフルでなんとか仕留められる感じだ。
今は金属製の机を倒してバリケードにして、立てこもっていた。
角から出てきた四足歩行型の機械兵の頭を撃ち抜く。何匹か弾幕をかいくぐってこちらに抜けようとするが、俺は手榴弾を投げ込んでまとめて吹き飛ばす。
「紫苑、次は!?」
「とりあえず今ので反応は全て消失したっぽい…お疲れ。」
「そうか…」
俺たちはその場に座り込んで、拳を突き合わせる。危ない場面だったが、なんとか乗り切ることができた。想定より数がいたせいで手こずってしまった。レーダーではそんなに数がいないように見えたが、どうやら反応が被っていたようだ。
(これも帰ったら改善しないとな。)
俺が建物を襲うのは初めてだった。今までは輸送隊などを攻撃していたので、こんなことは無かったのだが、注意しなければいけないだろう。
倒した敵から使える部品をできる限り回収していく。今日はバイクで来たので、いつもより多く持って帰ることができそうだ。特に人間型の機械兵の動力部は貴重だ。ちょっと重いので普段は持って帰れないが、今日は外と中を往復してバイクの収納ボックスの中に入れておく。
「さて、じゃあ最後にお待ちかねの探索行くか!」
「おー!」
俺たちは建物の中をから全ての敵の反応がなくなったのを確認して、中の探索を始める。
「ここは何かの研究所みたいだね。何を研究してたのかは分からないけど、武器とかじゃなさそう。」
紫苑が施設の電気を復旧させて、建物のデータを抜き取る。俺も紫苑の電子パットを確認する。すると、そこに何かの設計図があるのを見つける。
「これ見てもいいか?」
「はいよ。」
俺はその設計図を見る。そこには人間のようなものが書かれている。だが、心臓部は見たこともない動力炉が付けられていて、ブレインも全く訳が分からんものが使われていた。
「なんだよこれ…」
これでも紫苑の相手をしている時以外は基本的に機械の勉強ばかりしていた。この歳にしては機械に詳しいと自負している。
俺は吸い上げたデータに細かく目を通していく。
「何かわかったの?」
「…これ多分限りなく人間に近づけた機械兵だ。」
そいつが使う武器は全て無くなっているが、どうやら本体は地下にまだ置いてあるようだった。
「えーなにそれ!破壊しとく!?」
「…いや、それはちょっと早計すぎる。こんなにデータの揃っている機械兵は見たことがない。上手くいけば機械兵の脆弱性を発見できる、かもしれない。」
この場ではわからないが、町にいるお父さんなら何かわかるかもしれない。
「大丈夫なの?それ、人間に近い見た目でも機械兵なんでしょ?」
「それは…わからん。もし攻撃してきたら破壊してくれ。」
俺も自分のパソコンにデータを抜き取って、地下室を目指すことにした。
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地下に着くと一番奥にある部屋はロックが掛かっていた。
「ちょっと待ってろ。今解除する。」
俺はパソコンを出して、ハッキングで扉のプロテクトを破壊する。ここのプロテクトは相当古いもののようだった。
「やけに固いな…」
プロテクトの種類的にはかなり高度なものが使われていた。昔の俺なら無理だっただろうが、今の俺ならなんとか突破できる。
少し時間がかかってしまったが、最後のプロテクトを突破する。
「開くぞ。」
「ナイスー。」
俺はちょっと手こずりながらも扉のロックを解除する。
扉が開き、中にある部屋に電気が付く。
そこにはベッドの上に寝かされている一人の女性がいた。女性は白髪のショートに、ごつい強化服を着ていた。強化服は本来人間の身体能力を上げる為のものだ。身長は百五十センチくらいだろうか。女性というより少女と言った方がいいかもしれない。
「…マジで人間みたいだな。」
俺がそのベッドを覗き込むと、その体には無数のコードが繋がれていた。
「天童離れて。そいつ機械兵なんだよ?」
紫苑は距離を取って、スナイパーライフルを構える。だが、俺はその機械兵の側を離れなかった。
「天童…?」
「落ち着け紫苑。こいつは完全に機能を停止してる。現にほら。」
俺は機械兵の体をこんこんと叩く。だが、機械兵が起きることはなかった。
「本当だ…それ、どうするの…?」
「持って帰る。こんな完璧な状態の機械兵見たことがない。それに人間型っていうのがどうも気になる。こんなタイプの機械兵、情報を回収できるならしておくべきだ。」
「まあ、それはそうか。女性型っていうのがちょっと気に入らないけど仕方ないか。」
俺たちは部屋の中にある端末を全て回収し、大型の機械のものはパソコンにデータを抜き取った。これで後で解析できるはずだ。
俺はリュックを前に背負って、女性型の機械兵を背負う。
「お、重い…」
(一体何キロあるんだ…?絶対に六十キロは超えている。)
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない…リュックと銃を頼む。」
ここら一帯の機械兵は全部始末した。だから多少無防備になっても大丈夫なはずだ。
こうして俺はクソ重い機械兵を背負って、建物を出た。運んでいる最中、何度か休憩をはさみながら、バイクまで運び込む。
「はぁ…めっちゃ疲れた。このサイズでなんでこんなにも重いんだよ。」
「でもこれで私の乗る場所無くなっちゃたんだけど。」
俺は腰を叩きながら紫苑にバイクの後部座席を指さす。
「悪いが俺の後ろに乗ってくれ…あー腰痛い…」
「え、それって…キ、キキキッ。」
俺は体操をして体をほぐし、調子を整える。
「銃とリュックありがとうな。じゃあ、帰るか。」
俺たちの荷物をサイドカーに放り込んで、バイクを出した。
読んでいただきありがとうございました。