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騎士爵領立志編 2ー10


 ジオ伯爵はこの様子では少し前から気付いていた様だ。


「ペレス卿が先程、失言をしたんですよ。先ず確認したいのは、ブレンダから聞いている話ではターナー卿とペレス卿は賊の容姿に関する報告は受けていない筈ですよね?」

 

「うむ、その通りじゃ厨房で殺人があったこと、執務室に賊が入った事しか知らん。いつでも拘束出来る様に見張らせておったからのう」


「では先程ペレス卿はこう言っておられました。「賊といえども所詮女が一人」と、これはシエナから報告を受けた者がペレス卿に伝えたのでしょう」


 ジオ伯爵は「儂もそう思う」と満足気だ。

 

 「伯爵一つ気になっていることがあります。伯爵はその発言前からペレス卿を疑ってらっしゃったのですよね?」


「ああ、その件かそれはあれじゃ。最後通牒げぇむ、じゃよ。

あの話を聞いてからずっと思っておったのじゃ、幾ら金のためとはいえペレス卿は何処まで我慢出来る物なのかと」


 クリフが興味深そうに話を聞いている。


「何ですかその最後通牒ゲームとは?」


「ああ、それはな」


 ジオ伯爵が説明を始めた時、扉の外を走る足音が聞こえた。


 コンコン 扉がノックされ返事を待たず開く。外套を纏った兵士が急いでいる様子で報告を始める。


「クリフ大尉、ターナー卿とペレス卿が動きました」


「ご苦労様引き続き監視に戻ってくれ、私も直ぐに向かう」


 兵士は一礼すると廊下を駆けて行った。


「さて、では我々も向かうとするかのう」


 伯爵の言葉に全員が立ち上がった時、廊下から先程よりも慌ただしく走る足音が聞こえてきた。


 扉がノックも無く乱暴に開けられる。兵士が息を切らしながら報告を始める。


「緊急辞退です!国境に公国の軍隊が現れました!二千は超えるとの事です、率いているのはバルド将軍、傍には糸使いも見られるとの事です!」


 公国のバルド将軍か聞いた事がある公国軍が大敗した時に殿を勤め千人の部隊で一万を二日足止めした猛将であると。


 ジオ伯爵が額から汗を垂らして考え込んでいる。


「歩兵八百と騎兵百を選出直ぐに門前に集合!準備させよ!」


「ハッ」兵士が返事と共に命令を伝達に行く。


 「すまぬがペレス卿は後じゃ、停戦がまだ六年残っている中で国境に布陣などどういうつもりじゃ、取り敢えず皆、門に移動じゃ!」


 全員が無言で頷くと走り出した。母様とクリフは武器を取りに一度部屋に戻る為別れた。


 階段を駆け下り兵達が急ぎ外に出て行く人の波を走って行く。ジオ伯爵の表情には焦りの色が強い。

 

「ジオ伯爵、このタイミングで公国が動くとなるとシエナは公国に雇われている様ですね」


 ジオ伯爵は苦虫を噛み潰したような表情をしている。


「そうじゃな、ペレス卿が怪しいと感じた時点で公国の存在を考えるべきじゃった」


 ジオ伯爵とブレンダと共に門に向かうとそこではペレス卿が門から飛び出していく所だった。


「ペレス卿これはどういう事じゃ!」


 ジオ伯爵がペレス卿に声を掛けるがペレス卿は更に加速し単身門から飛び出した。


 ブレンダが「追いますか?」と確認をして来る、伯爵を確認すると考え込んでしまっている。「まだ待機だ」とブレンダに返す。


 門を抜けたペレス卿にシエナが東から盗賊らしき風体の者達と馬で駆けてくる。

 

シエナとペレス卿は合流し何やら話している様子が伺える。次の瞬間シエナは野盗の一人にナイフを投げた。野盗は頭にナイフが刺さり馬から落下する、その馬をペレス卿が乗ると東の国境に向け馬を走らせた。


 シエナがこちらに一歩馬を歩かせた後声を張り上げた。


「これから私達はシルワ村を襲う!守りたければあの化け物共々追って来るがいい!だが!我々を追えば砦は公国軍の手に落ちるぞ!」


 シエナは野盗を連れ北西のシルワ村に駆ける。


「ユウリ!追うよ!」といつの間にか母様が後ろに来ていた。


 ジオ伯爵が前に立ち塞がった。


「待つんじゃ!今ブレンダ殿に砦を離れられては公国が停戦を破った場合この砦は落ちる!バルド将軍は現状の戦力では止められぬ!」


 母様が魔力を迸らせ伯爵を睨みつける。


「ジジイ、なら策を出しな!時間は無いよ!」


「主力をターナー男爵領に向かわせてしまっておる、現状策は無い、ここを抜かれればどの道村は焼かれるんじゃ・・・それに村にはハインツがいるじゃろう」


「何をいってるんだい流石に野盗に扮した正規兵が五十騎は居る被害はでるよ!」


 その時後ろから多数の蹄の音が聞こえ振り向くと先頭にクリフがいた。


「ユウリ殿乗って下さい!」


 意味を理解しクリフの馬の背に飛び乗る。

 

「ミランダ様、ユウリ殿をお借りします!猟犬部隊(ハウンドドッグ)十騎着いてこい!残りはミランダ様の指示を仰げ!」


 クリフは指示を出し馬を走らせる。


 ブレンダが「ユウリ様私も!」と声を上げたが「母様の補佐を頼む」と叫ぶと頷いてくれた。


 クリフは「すみませんが野盗退治を手伝ってもらいますよ」とシエナを追う。


 母様は安心したのか落ち着きを取り戻し声を響かせる。


「クリフ、ユウリ任せたよ!こっちはアタシが一兵たりとも通さない前だけ気にしてな!」


 ジオ伯爵はミランダがが残ると分かり平静を取り戻した様だ。


 「ミランダ殿先陣を頼む!儂は百騎連れ別働隊がいないか確認してから向かう!」


 「任せときな!歩兵八百行軍を開始するよ!猟犬部隊(ハウンドドッグ)二十騎はアタシの近くにいな!クリフからの借り物だしっかり使ってやるよ!」


 「騎兵百は儂に続け!出撃!」

猟犬部隊(ハウンドドッグ)とはウォード卿も奮発したな、ユウリ君もエライのに目をつけられたのう)


 シエナを追いつつ、クリフと現状確認をする。


「クリフこれは追いつけるのか?」


「相手の狙いが不明ですが挑発した以上引っ張り出すために速度はそんなに出さない筈です、ほら見えてきましたよ!」


 シエナの部隊に近付くと速度を上げられ距離が開く。


「シエナ!こちらは母様も居ない!子供から逃げるのか、臆病者が!」


 シエナが馬上から腕を上げ部隊は停止しシエナを筆頭に馬を降りた。


 シエナが止まった事により此方も追いついた。


「私が誰から逃げるって言うんだい?クソガキが!執務室で少し戦えたからっていい気になってるのかい?だとしたら世間の厳しさってやつをお姉さんが教えてやろうじゃないか!」


 よし!取り敢えず止まらせる事には成功したが相手は五十騎勝てるのか・・・


 不安が顔に出てしまっていたのかクリフが此方を見ている。


「私がシエナの相手をしましょうか?」


少し惹かれる提案だがシエナだけは譲れない。


「有難い申し出だけどシエナは俺が相手をする。それより敵兵を全てお任せしても?」


 クリフは五倍差の敵にも臆することも無く自信を漲らせる。


「ユウリ殿、猟犬部隊(ハウンドドッグ)相手にそこらの雑兵が五倍いた所でなんら問題にはなりません。お任せください」


 クリフが馬を降りる、それをみて俺と猟犬(ハウンドドッグ)の面々も下馬する。


 シエナは猟犬(ハウンドドッグ)と聞き狼狽える。

 (猟犬部隊(ハウンドドッグ)だって、冗談じゃないウォード侯爵家の特務部隊じゃないか!何でこんな東まで・・・いや・・・ハッタリだ!)


猟犬部隊(ハウンドドッグ)がこんな東まで来るはずがない!全員ブチ殺してやりな!」


 クリフはそれを見て不敵に笑う。


「我々が偽物などと笑えますね、総員戦闘体制!シエナ以外は皆殺しにしていい。噛み殺せ!」


 両陣営が正面から激突した。

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