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死屍の島  作者: 鷲津飛一(わしづ とびいち)
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第七話

第七話です!

(なッ……!?)

 さすがにこの想定外な状況を前に、相沢の総身には動揺と戦慄の念が走った。

 彼の今視界に映っているもの……それは無残にも切っ先を失った、愛刀の痛々しい姿であった。

 尤もこの武器は、メカニズムこそどうなっているかは知れないが、相沢が脳裏でイメージすれば、即座に元の形へと修復することが可能だ。

 そう、今最も驚くべき事象は、破壊された己が武器ではなく、「ゾンビの首を切れずに刀が折れてしまった」という事実であった。

 着地と同時に踵を返し、今しがた仕留めたはずの大型ゾンビのいる方を見やる。

 しかしそこには無情にも、傷一つ無い太い首で頭部を支えている、彼奴の姿があった。

(な、なんてことだ……こんな展開は予測していなかった……。まさか、硬すぎて首をはねられないゾンビがいるとは……。こんなの、実質無敵じゃないか……)

 ゾンビたちの唯一の弱点である首。そこが強固にできており、絶対に切り裂けないとなると、最早目の前に居るこの大型ゾンビは、不死身と言って差し支えなかった。

 大型ゾンビは消耗した様子こそ見せてはいるが、これで戦況の優劣は、圧倒的なまでに逆転してしまっていた。

(ま、まずいぞ……いよいよ詰み、か……?)

 悲観的な思想が相沢の脳裏を掠めるが、それでも尚彼は、次の一手の思考を止めることはついにしなかった。

 最期の最期まで、足掻くのだ。



「………………」

 明日香は今、何も言わずに相沢のことを見据えていた。

 それは彼を信頼している故か、はたまた絶望し、言葉を失ってしまった故か……その判別は、もう明日香自身にもできない相談だった。



(……これしかない、ラストチャンスだ……!)

 一つの策が、相沢の脳裏に過ぎった。

 一か八か。文字通り運命を決める最後の作戦。

 折れた剣を「とあるモノ」へと変化させる相沢。もう片方の手には、細身の刀身。

「グオアアアアッッ!!」

 余程余裕が無いのか、今初めて、大型ゾンビが声を上げた。それは敵に怖れを抱いて威嚇しているのか、はたまた屈辱と怒りに身を焦がした雄叫びか。

 いずれにせよ、彼奴は鬼気迫る表情で相沢のことを見据え、全身全霊の力で突進してきた。

 これ程までに体力を削られて尚、再び瞬間移動と見紛うほどの超スピードを体現してみせる。

 まさしく脅威。恐ろしい敵だ。

 だからこそ、今ここで仕留めなければならない。失敗は即ち……。

「ゴガアアアアアッッ!!」

 相沢の間合いの内にその巨体を滑り込ませ、獰猛なる拳を振るおうとする大型ゾンビ。

 それより一寸早く、相沢は動いた。

 とあるモノを、ゾンビの口の前へと放る。

 それは……手榴弾であった。

 間髪入れず相沢は、もう片方の手に携えていた刀身を目の高さに構え、鋭い「突き」を放った。

 細い刀身の切っ先が手榴弾を捉え、突き刺さる。

 勢いそのままに切っ先は、大きく開いた大型ゾンビの口の中へと吸い込まれていった。

「ゴガアッ!?」

 驚きを感じているのか、彼奴の双眸が大きく見開かれた。それと同時に、ほぼ無意識に口が閉じる。

 動揺した時に思わず口を閉じてしまうのは、人でもゾンビでも同じだったようだ。

 ……これで、準備は整った。

「さて質問だ。筋肉バカなお前は、果たして内臓まで筋トレしているのかな?」

「!?」

 相沢の策に気付いたか、狼狽した様子を見せた大型ゾンビは、急いで口を開いて、中の異物を取り出そうと試みるが……最早それが叶うことは物理的に不可能だった。

 彼奴が狼狽えた刹那……文字通り大型ゾンビの肉体が、内部から爆散した。

 外側から首を切り落とせないのなら、内部から破壊するしかない……これこそが、相沢の考えた最後の策であった。

 爆発の衝撃で、後方へと吹き飛ぶ相沢。

 しかしその背を……、

「くッ!」

 後ろから明日香が受け止めていた。

 狭い通信室内で、濛々と立ち込める黒い煙。

 煙が晴れていき、やがてそこから姿を見せたのは、気色の悪い色に染まった、無数の肉の塊であった。

 バラバラになって辺りに飛び散っている現在、果たしてこの肉塊たちが、元はどんな輪郭を描いていたのか……その答えは今となっては、相沢と明日香の記憶の中にしか無い。

「ざまあ、みやがれ……クソ野郎……」

 最早死体とも呼ぶのが難しい残骸たちに、相沢は捨て台詞を浴びせるのであった……。

 

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