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死屍の島  作者: 鷲津飛一(わしづ とびいち)
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第六話

第六話です!

「な、なんという戦いなの……きゃあっ!?」

 思わず悲鳴を上げる明日香。

 無理もない。

 今、通信室内部では、幾度となく衝撃波が反響し、空気を震わせ、地面や壁に亀裂を生じさせていた。

 年端も行かぬ少女にとってこの戦場は、あまりに恐ろしいものであった。

 今、彼女にできるのは、物陰に身を潜めて、その肢体を震わせながら、勝敗が付くのをただ待つことだけだ……無論、相沢の勝利を祈って。



 唸りを上げて、次々と繰り出される拳の数々。二本の剛腕が、絶え間なく相沢を仕留めようと彼に襲い掛かる。

 対する相沢は、剣を即座に二本に増やし、真っ向からそれを迎え撃つ。

 力と力のぶつかり合い。拮抗するパワーゲーム。

 気付けば戦局は、長期戦へと移行していた。

 そして、この展開こそが、まさに相沢の狙いであった。

 彼の狙いは、筋肉量の差による体力の消耗具合の違いを生かした、一撃必殺の決着だった。

 例えば、馬と人間が長距離マラソンで勝負したとしよう。

 勝つのはどちらか?……答えは、人間だ。

 距離が長くなればなるほど、人間側の勝率が飛躍的に上がる。

 その理由こそが、先に述べた、筋肉量の差による体力の消耗具合の違いなのだ。

 筋肉とは、時として爆発的なパワーとスピードを生むが、残念ながらそれは長く持続することはできない。

 スタミナをみるみる削っていく、いわば枷でもあるのだ。

 事実、大型ゾンビの表情に、焦りと苦悶が滲んでいるように、相沢には見えた。

 とは言え、苦しいのは相沢もまた同様であった。

 息つく暇もない鍔迫り合いを延々と繰り広げていくのは、集中力という名の水を入れたコップの底に穴を開けられるようなものだ。水は止めどなく滴り、流れ落ちていく。

 集中力が切れてしまえば、必ず隙が生まれる。その隙こそが、相沢にとって勝算であるのと同時に、彼奴の攻撃を捌き切れず、必殺の決め手を食らう怖れのある、懸念材料でもあった。

 完全なるパワーゲームかに見えた戦局は、いつしか体力と集中力とが鬩ぎ合う、根競べの段に突入していた。

 先に焦れた方が、敵の必殺の一撃を食らう羽目になる……その一触即発の恐ろしき事実を、両者は痛いほどに痛感していた。

 ただこの状況の場合、この展開を自ら望んだ相沢の方に分があった。と言うよりやはり、精神的余裕に差があった。

 片や、自らが思い描いたシナリオ通りに敵を動かした者。片や、己が剛力に自惚れ、まんまと敵の術中にはまってしまったモノ。心のあり様がまるで違かった。

 とうとう、攻撃の雨に先に隙を伺わせたのは……やはり大型ゾンビの方であった。

 繰り出される拳のリズム、パワー、キレ……いずれも最初の頃とは似て非なるものへと落ちていた。

 そして彼奴が見せたその一寸の隙を、相沢は決して見逃しはしなかった。

 横殴りの拳の雨を搔い潜り、突進するように跳躍。

 銀色の一閃が横払いで煌めき、その軌道が的確に大型ゾンビの太い首をとらえた。

「やった!」

 少し離れた場所から、明日香の歓喜の声が聞こえた。

 程なくして、虚空を円を描くように舞い躍ったのは……誰しもの予想に反して、相沢が携えていた得物の、折れた切っ先であった……。

 

 

 

 

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