表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死屍の島  作者: 鷲津飛一(わしづ とびいち)
2/13

第二話

第二話です!

「あなたは……」

 少女が尋ねようとしたその時、少年は視線を逸らし、足元に広がる、惨憺たる光景に悲しき表情を浮かべた。

「一体……何が起こっているんだ……こいつらは一体何なんだ?」

 逆に向こうの方から質問を投げかけられてしまった。

 だが同時に、少女の胸中に、幾ばくかの安堵も生まれた。

 言葉を話している……おそらく人間だ。

「私に言われたって……そんなの分からないわ。私はただ、家族と一緒にこの島に旅行に来ただけであって……」

 「家族」と言うワードを口にした途端、少女の脳裏に、思い起こしたくもない悲惨な映像がフラッシュバックした。

 必死に首を振って、その記憶の映像と意識を切り離そうと努める。

(今は……悲しんでいる場合じゃない……)

 彼らは今、日本に居る訳ではない。

 ここはオリジン諸島。四方を海に囲まれた、小さな島だった。

 リゾート開発がされており、先に少女が申した通り、サマーバケーションのシーズンになると、旅行で訪れる人が多くなる。

「一度、凄く大きな地震が起きたかと思ったら、しばらくしてさっきの奴らが現れて、皆を襲い始めたの。だから、私にも何が何だか……」

「そうか……分からないか……」

「……?」

 少年はさも残念そうな顔を浮かべた。

「ねえ、あなたの方こそ何者なの?さっきのゾンビたちは、あなたがやっつけたのよね?」

「……ああ、そうだ」

「一体……どうやって?」

 少年はやおら右手を掲げ、そこに握られている銀色の四角い物体を見せた。

「……それは何?何かの玩具なの?」

「……分からない」

「え?」

 あまりに意外な返答であった。

「ちょっと……持ち主のあなたが分からないって、どういうこと?」

「気が付いたら俺はこれを握っていただけだ……そもそも、俺が持ち主なのかどうかも分からない」

「何よそれ……あなたの話、全く要領を得ないのだけど……」

 安堵から一転、少女は警戒の色を表情に滲ませた。

 一方、それと向かい合う少年の顔は、眉をハの字に下げた困り顔だった。

「……俺は、俺が誰なのかも、よく分からない……」

「……は?」

 突拍子もない告白であった。

(何よそれ……記憶喪失、ってこと……?)

 とは言え、こんな状況だ。少年の荒唐無稽な話を即座に真に受ける程、少女はお人好しにはなれなかった。

 常に警戒の色をその瞳に映していた。

 もしかしたら、言語を話すゾンビだっているかもしれない。

 或いは、仮にこの少年が人間だったとしても、およそ常人のそれを持ち合わせていない、狂乱めいた危険な人物という可能性だって考えられる。

「……とりあえず、今あなたは記憶を失っている……てことで良いのよね?」

「ああ、おそらくな」

「なるほど。一先ず信じるわ。それで話は戻るけど、その銀色の物で、どうやってゾンビたちを?」

「……話すより見せた方が早いと思う」

 そう言うなり少年の右手に一瞬力が込められた。

 と、その刹那であった。

 硬い物質で構成されているとばかり思っていたその銀色の物体が、グネグネと先の触手よろしく蠢き始めたのだ。

「ひっ!?」

 短い悲鳴を上げて、後ずさる少女。

(やっぱりこの人も、ゾンビ……!?)

 しかし、蠢く銀色の物体が、少女に襲い掛かることは無かった。

 銀色の物体は蠢きながら、徐々にその輪郭を変えていく。

 細く、横長に。

 やがてその物体が変貌した姿は、

「……刀?」

 そう、銀色の光沢を放った、鋭い刀であった。

「どうやらこれは、俺がイメージした武器へと変貌するようなんだ」

 少年は刀を携え、それをまじまじと見つめている。

「ここに来る前は、銃にも姿を変えることができた。明確なイメージがあれば、ある程度の武器には変化することが可能なんだと思う」

「…………………」

 言葉を失う、とは正にこのことだ。

 いくら現代の科学技術が進化しているとは言え、果たして今の文明のテクノロジーでこんなものを作ることが可能なのだろうか?

 その問いの答えを導き出せるほど、少女は科学や物理に精通していない。

 ただ分かることは、この物体は自分の想像だに及ばない、高度な科学技術で作られているということ。

 そしてこの過酷な極限状態の中を生き抜き、あの人を捜し出す為には、この未知なる物体の力と、それを操る少年の力が必要だということだけだった。

「……ほんと、何が起こっているのよ……もう嫌……」

「ん?」

 ぼそり、と少女が独り言ちた。

 あまりに声が小さかった為、少年の耳には届かなかったようだ。

「……何でもないわ。……ねえ、私たち、一緒に行動した方が良いと思うのだけれど、あなたはどう思う?」

 少女の方から、提案した。

「……そうだな。俺も状況が全く分かっていない以上、誰かと行動を共にした方が得策だと思う」

「決まりね。記憶喪失だと何かと不便だろうから、その点は私がサポートするわ。その代わりあなたには、私の人探しを手伝ってもらいたいの」

「人探し?誰を?」

「私の、お兄ちゃん。逃げる時に、はぐれてしまったの……」

「そうだったのか……分かった、協力するよ。でも、お兄ちゃんだけか?両親とかは……」

「………………」

 返事は無かった。

 返事が無いことが、何よりの答えだった。

「…………すまない、不躾な質問をした」

「気にしてないわ。それより、交渉成立ね。私は常磐明日香(ときわ あすか)。あなたは……て、記憶が無いんだったわね……何か身分証みたいなのって無いの?」

「……そう言えば、胸ポケットに何かカードみたいなのが入ってたな……俺の顔が書いてあった」

 そう言うなり、少年は胸ポケットからそのカードを取り出し、明日香へと差し出した。

「なんて書いてあるのか、読めないんだ」

「あなた、字も読めないの?」

 増々目の前に居る少年に対して不信感が募った。

 数舜、受け取るのを逡巡する明日香であったが、覚悟を決めてそのカードを受け取った。

 そのカードとは、学生証であった。

 思ったとおり、彼は自分と同じく、高校生であった。

 そこには、彼の顔と名前が記されていた。

 相沢一真(あいざわ かずま)、それが彼の名前だ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ