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死屍の島  作者: 鷲津飛一(わしづ とびいち)
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第十二話

第十二話です!

「兄さん!」

 気付けば明日香の両脚は、彼女の脳が命令を下すより早く、駆け出していた。

「明日香!待て!」

 背後からの相沢の制止も聞かず、ただ一心不乱に……。

 明日香が向かう一階エントランスには、確かに一人の男が立っていた。茶髪で、細身の男だ。

 妹である明日香が、見紛うはずは無かった。

 間違いなくそこに居る人物は、自分の兄だと。

(兄さん……界人兄さん……!)

 常磐界人(ときわ かいと)。それが、彼女の兄の名だ。

 彼の肌は血色が良く、ゾンビのような腐敗もしていない。人間だ。

 茶髪の男と明日香の距離が急接近した、その時だった。

「フッ……」

 男は小さく、笑った……ように明日香には見えた。

 その直後、男は……跡形もなく姿を消したのであった……。

(え……?)

 あと一歩で届く筈だった明日香の細い手が、虚しく虚空を掴む。

(消え、た……?)

 何が起こったのか理解できず、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた、その時、

「危ない、明日香!」

 相沢の鬼気迫るその声を聴いた直後、明日香は後ろから突き飛ばされた。

「きゃっ!」

 エントランスの床に転げた明日香は、肘を強く打ってしまったが、大きな怪我には至らなかった。

 上体を起こし、振り向いた明日香の視界には……相沢の携える愛刀に文字通り食らいつく、異形の怪物の姿が映った。

(な……何、こいつ……)

 よく見やれば……なるほどこいつもまた、ゾンビたちの仲間だというのは、語るまでもなく明白だ。

 しかし、他のゾンビたちと明確に違う点は三つ。

 彼奴は……まるで犬や狼のように四つん這いの状態であり、鋭い爪と牙を携えていること。

 二つ目は、尾骶骨の辺りから、六本の尻尾が生えていること。

 否、あれは尻尾などではない。……腕だ。六本の腕が、腰から生えているのだ。

 そして最も特筆すべき他との相違点は……頭が三つ有るということだ。

 その姿、その獰猛性。奴に敢えて名を付けるのなら……そう、「ケルベロス」だ。



「ぐっ……ちぃっ!」

 刀を横払いで振るい、ケルベロスの獰猛な牙を払い除ける相沢。

 後方へと飛んだケルベロスは、軽やかに着地をしてみせる。

 刹那、両者の間合いが開いた。

 鋭い眼差しで互いに睨み合い、緊張感がその間に漂う。

「……明日香。カレンと共に、少し離れてろ」

「………………」

 しかし、明日香からの反応は無い。

 立て続けに起こった急転直下の出来事の連続に、放心状態になっているようだ。

「明日香!」

 相沢の怒声に、はっとなる明日香。

「え……ええ、分かったわ!ごめんなさい」

 すぐさま立ち上がり、カレンのもとへと駆ける明日香。

 尚も相沢とケルベロスの視線は、交錯したままだ。

(不気味な奴だな、こいつ……頭が三つ有りやがる……まるで、三体のゾンビが合体したような……)

 その発想に至って、相沢もまた、はっとなった。

(まさか、本当にそうなのか?ゾンビたちは、こうして合体までできるというのか?)

 昨日戦った大型ゾンビは……確かに他とは一線を画していたが、それでも「一匹のゾンビ」という括りからは脱していない。

 しかし目の前に居る彼奴は、かつて一人の人間だった生命体が成り果てた姿と思うには、少々難かった。

(もし……ゾンビたちに合体できる能力があったとしたら、それは何の為?……いや、答えは考えるまでもない。強くなるためだ……!)

 相沢の頬を、一筋の汗の粒が伝った、その時だった。

 ケルベロスが、先の明日香の目の前で消えた人物よろしく、その姿を消したのだ。

(消えた!?)

 その直後、エントランスの至る所から、何かを蹴る音が響き渡ってきた。

(何だ……この音……)

 音は、右方から背後へ。背後から左方へ。左方から上方へと移動していく。

 何が起きているのかは分からないが、ともかくその「音」が、エントランスの至る箇所を高速で移動しているのは分かった。

(……まさか、これは……!?)

 相沢の脳裏に、一つの仮説が過ぎったその時、

(……え?)

 相沢の頭上から、鋭利な白刃の爪が煌めき、振り下ろされた……。


 

 


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