第十一話
第十一話です!
「え?お父さんの研究でこの島に?」
見張り番を交代した相沢は、カレンと共に朝食をとっていた。
奥では明日香が今、仮眠をとっている。
「はい……私もお母さんも、どんな研究をしているのかは詳しく教えて貰っていませんが……とにかく、ここの地下を調べているそうです……」
カレンはまだ、相沢と話すことに慣れておらず、視線はどこか虚空を彷徨っている。
どうやらカレンの父は、考古学者らしい。
(考古学者がなぜ、この島に……?何か引っ掛かる……)
どうやら今この島で起きているパンデミックには、自分たちが想像だに及ばない裏背景と真実が隠されているような……そんな予感がした。
「今、お父さんがどこに居るのか…………そもそも無事かどうか、私には分かりません……もし、お父さんにまで何かあったら、私…………私……」
ふと、彼女の瞳の中から光が消え失せ、代わりに潤み出す。
カレンの精神状態は、まだ不安定なのだ。
ここは一先ず、安心させてあげられる優しい言葉を掛けるべきだ。
「大丈夫……君のお父さんは、必ず俺が助け出してみせるよ」
自信満々な表情で、相沢は言った。
無論自信など無いし、そもそも無事かどうかも分からない以上、確約できることでもない。
それでも敢えて、「絶対にできる」ような言い方をしたのは、ひとえに、カレンを安心させる為だ。
カレンとて、相沢が100パーセント自分の父を救い出せるとは思っていない。そもそも今生きているのかさえ分からないのだから。
それでも……他人から自信に満ち溢れた表情でそう言ってもらえれば、幾分か安心感を貰えた。
「ありがとう、ございます……相沢さん……」
目尻に涙をたくわえながらカレンは、少しだけ笑った。
「それで、今日はどうするの?相沢クン」
仮眠から目を覚ました明日香が、朝食をとりながら相沢に問うた。
「とりあえず……水と食料を探しに行った方が良いだろうな……手持ちの物は、大分心細くなってきたから」
「え?でも、助けはすぐに来るんでしょ?だったら、下手に動いて身を危険に晒すより、ここで救助が来るのを待っていた方が得策だと思うのだけど」
「確かにそう言ったが、それが今日か明日か、はたまた明後日かまでは分からない。食料と水は、有るに越したことはないだろう」
「………………」
納得したのか、明日香は押し黙った。
「この暑さだ。普通の食料はもう腐ってしまって食べられるものではないだろうから、保存の利く缶詰等を中心に探していこう」
「そう、ですね……」
今度はカレンが応じた。
「それじゃ、準備ができ次第、行こうか」
昨日の再現のように、暗黒に包まれたホテル内部を探索する三人。
水と食料の確保と同時に、生存者……つまり明日香の兄とカレンの父の捜索も同時に行っていた。
しかし……、
「………………」
二人の身内はおろか、他の生存者すら、見つけられない。
次第に重苦しい沈黙が、三人の間に漂い始めた。
無論、このホテルの内部を全て探索し終えたら、他の場所も捜索するつもりではあったが……。
やっぱり、もう……。
そんな考えが、三人の脳裏に過ぎったその時、思わぬ転機が訪れた。
それは、水と食料の調達をある程度済ませ、ホテルを後にしようと思った、その時であった。
三人が歩く廊下の遥か向こう、一階のエントランスに、人影を認めた。
「え……?」
その存在にいち早く気付き、また、それが誰なのかを理解できたのは、明日香だけだった。
「兄……さん…………?」