皇妃になる決意 女装した弟が皇太子殿下との結婚を狙って卒業パーティに乱入致しました。わたくしは弟に譲る気はありません。
今日は王立学園の卒業パーティ。卒業生達やその保護者は、和やかにパーティを楽しんでいた。
そこへ、このフィレスト帝国のアレスティ皇太子殿下。金髪碧眼の美しい皇太子殿下であり、女生徒達にとても人気があった。
そんな人気者のアレスティ皇太子は皆に向かって宣言する。
「私は婚約者であるメリーディア・カルデルク公爵令嬢と、卒業を機に結婚を宣言する。
式はかねてからの予定通り、来月の一の日に行われるであろう。」
隣に立っているのは、黒髪碧眼の美しき公爵令嬢メリーディア。
寄り添うように立つ二人は、本当にお似合いで、卒業生たちは皆、拍手喝采で二人を祝った。
そこへ、ドレス姿で二人の前に憤然とした面持ちで進み出た人物がいる。
ミード・カルデルク公爵子息。
メリーディアの弟だ。
「この結婚に異議を唱えますう。ふさわしいのはあたしよ。あたしが皇太子殿下と結婚するの。帝国の皇妃になるのよぉ。」
皆、ミードをあきれたような顔で見つめる。
化粧は濃く、180cm越えの大男のミードが、ピンクのドレスを着て、アレスティ皇太子とメリーディアの前に立っているのだ。
「まぁなんて醜い。」
「さすが市井の生活が長いだけありますわ。」
「まったく、何かしでかすとは思っていたが…」
卒業生達は口々にミードの陰口を言う。
メリーディアはミードの前に進み出て、
「みっともない真似はやめなさい。わたくしは、貴方にアレスティ皇太子殿下も、帝国の皇妃の座も譲る気はありません。カルデルク公爵家の名を穢すつもり?下がりなさい。」
卒業パーティに出席していた、二人の父であるカルデルク公爵は青くなって、すっ飛んできて、
「ミード。下がるんだ。」
「いやですう。お父様っーー。私が皇妃になるのおーー。」
カルデルク公爵夫人は、扇を手に二人を睨みつけ、
「これだから、下賤の女の息子は…。だから、引き取るのは嫌だとわたくしは反対したのです。」
「しかしだな。ミードは私の血を引いているのだっ。だから。」
「おだまり。」
ミードはカルデルク公爵が平民の女と浮気して出来た息子である。
カルデルク公爵夫人に強く言われたら、黙るしかない。
そこへ、フィレスト帝国の皇帝と、皇妃が現れた。皆、頭を下げ、敬意を示す。
皇帝はアレスティ皇太子に寄り添うメリーディアに向かって、
「メリーディアよ。未来の皇妃としてのお前の決意。今、皆の前で話して欲しい。」
メリーディアはカーテシーをし、
「今更、わたくしが話さなくても、皆、解っております。皆の協力が無ければ、わたくし達は、結婚出来ていたかどうか。でも、皇帝陛下の命ならば、わたくしは皇妃としての決意をお話したいと思いますわ。」
顔を上げて、皆を見渡す。アレスティ皇太子がそっとメリーディアの手を握り締めて来る。
その顔を優しく見つめてから、メリーディアは2年前の事を思い出しながら、はっきりとした口調で話し始めた。
「皆が存じている通り、わたくしが皇太子殿下の婚約者として、指名されたのが今から2年前。カルデルク公爵家が帝国一の名門だと言う事が理由でした。そして、示された条件が、未来の皇妃になる事。それはもう、驚きました。だって…わたくしは、カルデルク公爵家を継ぐ為に、王立学園に入学して一年間、勉学に励み、自らを鍛えて過ごしてきたのですから。」
母であるカルデルク公爵夫人も、
「そうでしたわね。メリーディア。お前の婚約者をもっと早く決めておけばよかったと、この時ほど、後悔した事はありませんでしたわ。」
その言葉を聞いて、皇帝陛下は苦い顔をする。
メリーディアは頷いて、
「皇族の命令は絶対。その日からわたくしは、メラルドと言う名を捨てて、メリーディアと言う名で生きる事になったのです。
他国の公爵令嬢が、王妃教育が辛い、苦しいと愚痴っていると聞きましたが、それが何なのです?わたくしは16年間、男として生きて来たのに、卒業までの2年間。皇妃教育を受ける事になったのですわ。ドレスなんて着た事はない。化粧なんてした事もない。女性としての話し方なんて、した事はない。それなのに、マナーから、外国語から、ドレスの着こなしから、ダンスから。この二年間、毎日毎日、学園の授業の他に皇妃教育に追われてわたくしは苦しかった。」
メリーディアが涙を流す。
女子生徒達が皆、涙を流している。
男子生徒達もウンウンと頷いていて、
アレスティ皇太子がメリーディアを抱き寄せて。
「私が悪いのだ。だが私はどうしても皇帝になりたかった。この国を統べるのに、ドレスで出来るか。化粧に割いている時間などあるか。帝国の唯一の後継者である私は女である必要はないのだ。私に必要なのは王配ではない。私を支え、社交をしてくれる皇妃だ。だが、私は後継者を残さねばならん。フィレスト帝国の皇族の血が途絶えてしまうからな。だから、私が皇太子の間に、必ず男の子を産む。私と結婚する相手は褥では男性で無くてはならない。そして、皇妃として私を支えてくれる相手でなくてはならない。」
メリーディアは頷く。
「解っておりますわ。わたくしは入学当初から、皇太子殿下の事を尊敬しておりました。だから、辛くても苦しくても命とあらば、皇妃として、頑張って行こうと決意出来たのですわ。」
ルイス・ハミルトン公爵令息が近づいて、
「メリーディア様はよく頑張りました。心からお二人の結婚を祝福します。」
他にも数人の高位貴族達がメリーディアの前に進み出る。
「おめでとうございます。お二人に祝福を。」
「本当に良かった。」
メリーディアは涙を流して、
「お前達のお陰だ。お前達が時々、私を連れ出して気晴らしに付き合ってくれた。
一緒に、ご飯を食べたよな…。愚痴も聞いてくれた。本当に有難う。お前達は私の親友だ。」
思わず男言葉に戻ってしまう。
メリーディアにとって、この令息達は本当に仲の良い友だったのだ。
そこへ、レティシア・ミルディアルク公爵令嬢が数人の令嬢達と進み出て、
「おめでとうございます。アレスティ皇太子殿下はわたくし達の憧れでしたわ。
それからメリーディア様。おめでとうございます。」
メリーディアはレティシアに向かって、
「有難うございます。貴方には本当に助けられましたわ。」
アレスティ皇太子も礼を言う。
「レティシア。其方には本当に力になって貰った。」
ミルディアルク公爵家も名門である。
もし、アレスティ皇太子が男だったら、間違いなくレティシアが皇妃に選ばれたであろう。
しかし、アレスティ皇太子は女性だった。
レティシアは、二人の為に力になってくれたのだ。
「このクリームは肌を美しくするクリームですわ。どうか、メリーディア様、お使いになっては如何。」
教室で美肌のクリームを勧めてくれたり、隣国の言葉の習得にメリーディアが苦戦していた時、
「わたくしの母は隣国の出ですから、わたくしも隣国の言葉は得意ですの。わたくしとメリーディア様の会話は隣国の言葉で致しましょう。その方が習得が早いですわ。」
お昼ご飯を令嬢達と食べながら、隣国の言葉でレティシアと会話をしたりした。
他の令嬢達も、マナーの見本を見せてくれたり、メリーディアに協力的だったのだ。
「おめでとうございますっ。」
「本当にめでたいですわ。」
数人の令嬢達が二人を囲んで祝いの言葉を述べてくれた。
「有難う。皆様の協力のお陰でわたくしは、皇妃教育を耐え抜く事が出来ましたわ。」
令嬢達にも感謝の言葉を述べる。
すっかり無視されて、立ち尽くしている弟のミードは喚き散らした。
「だからってっ…あたしだってカルデルク公爵の血を引いているのよぉ。あたしでもいいじゃない。」
メルディーナは扇を手に、
「おだまりなさい。貴方は皇妃の器ではない。お話を聞いてはいなかったの?今やわたくしは、数か国語をマスターし、ダンスもマナーも全て習得したわ。警備員。この不届き物を摘み出しなさい。」
警備員がすっ飛んできて、不気味な女装をしたミードを両脇からがっちり拘束し、引きずっていく。
「あたしが皇妃になるのよぉーーー。離してっつーーー。」
野太い声が、会場の外へ連れ出されてからも、しばらく聞こえていた。
カルデルク公爵は皇帝陛下に向かって、
「息子が失礼をっ。」
「跡継ぎを考え直さないとならないのではないか?」
「そ、そうですな。」
ミードは3か月前に、公爵家に引き取られたばかりだった。
メリーディアが嫁いでしまうので、跡継ぎをミードにする予定だった。
しかし、このような騒ぎを起こしたのだ。
彼はカルデルク公爵家を継ぐことは出来ないだろう。
何よりも公爵夫人が許さないに違いない。
メリーディアは宣言する。
「わたくしは、皇太子殿下を支え、この帝国の繁栄の為に、身を捧げる事をここに改めて宣言致します。皆様、アレスティ皇太子殿下と、わたくしの為に、どうかお力をお貸しくださいませ。よろしくお願い致しますわ。」
卒業生全員が拍手をする。
皆に祝福されて、パーティも無事に終わり、
アレスティ皇太子とメリーディアは二人きりで、皇宮の庭を散歩していた。
アレスティ皇太子に声をかけられる。
「来月が結婚式だな。」
「そうですわね。あっという間の学生生活でしたわ。」
「本当にすまなかった。私の為に、メリーディアには苦労させた。」
「いえ、皇太子殿下の志に尊敬の念を抱いたから耐えられたのです。」
「メリーディア。お前は私の事を愛してはくれないのか?」
アレスティ皇太子が見上げて来る。
メリーディアはそっと抱き締めて、
「勿論、愛しておりますわ。わたくしも皇太子殿下の事が愛しくてたまりませんわ。」
その唇にキスを落としてから、
「結婚式が終わったら、急いて子作り致しませんといけませんわね。皇太子の間にお子を産んで頂かなくては…わたくし、うんと褥で頑張らせて頂きますわ。」
アレスティ皇太子は赤くなって、
「期待している。」
男としての全てを捨てて、この2年間生きて来た。
だが、褥では男であらねばならない。
メリーディアは愛しいアレスティ皇太子を、優しく抱きしめるのであった。
二人の結婚式は盛大に行われた。
全ての帝国民達に祝福され、帝国一の美男美女だと、口々に褒め称えられた。
結婚後、二人の仲は良く、アレスティ皇太子は男子を三人程産み、その後、皇帝へ即位した。
メリーディアは優秀で美しい皇妃として、諸外国に名を馳せた。
力になってくれた王立学園のクラスメイト達も出世をし、生涯、皇帝陛下と皇妃と交流があったと言う。
美しき皇太子殿下と、皇妃の銅像は、皇宮の庭に今も残されている。
婚約を申し込もうとした相手が、皇太子殿下にかっさらわれた上、性別が転換してしまいましたわ( ゜Д゜) レティシア視点書きました。