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シルフの書  作者: 松田 飛呂
第一章
8/92

囚人シルフ=ベルーサ 

共和国の侵攻は全面的に敗北に終わり半年の月日が流れた。


シルフは南のドリアス大陸の囚人施設プリズンで炭鉱の仕事をしていた。


「今日もいい汗流すぞ!!」


相棒はドワーフのタロース=デーマン。


見た目は強面だがかなり心優しいドワーフだった。


彼がなぜこんなところにいるのかは知らないが、他の囚人も少し怖がっている。


「シルフ、今日は休みだ。 何かするか?」


そうは言ってもできることは限られている。


「剣を振りたいな」


自分の剣は取り上げられたのでタロースが作ってくれた木刀を振る。


タロースは大抵横に座り話をする。


タロースは全大陸に行ったことがあり色んな種族に会っているのでシルフにとっては尊敬できる人物だった。



冒険譚と言ってもいい話の数々の中で一番興味を持ったのがアルゴー船海賊団の話だった。


タロースと神族の兄弟、他の種族が船で世界を旅する話は憧れそのものだった。


「海賊ってまだいるのか?」


「いや、我々はあくまでも自由の地を求めて旅していただけだ。 後から海賊などと言われているだけなのさ」


「自由?」


「あぁ、どの種族も分け隔てなく楽しく暮らせる、そんな国が欲しいんだ」


「そっか。 じゃあ創るか!!」


「は?」


「だから俺にタロース、海賊の仲間集めてみんな平等な国を創るんだよ」


「そんなことできるわけないだろう? それに過去に失敗したんだ」


「まだ生きてるじゃねぇか!! また夢見てもいいんじゃないのか? 夢は果てないさ」


タロースはこの小さな友人と話しているとなんだかやれそうな気がしてくる。


「俺も振るハンマー作るかな」


タロースは岩でハンマーを作り2人で休みの日は振り続けた。


次の日からは仕事で炭鉱で石炭を掘る。


シルフとタロースの組はいつも大量に掘削するので囚人の中でも優遇され始めた。


そんな日々を3か月ほど過ごした時、いつものように仕事を終え食堂に入るとみんなが掲示板に群がっていた。


「何かあったのか?」


シルフが声をかける。


「あぁ、俺たち自由になれるかもしれないんだよ!!」


「これ、参加した方が良いぞ!!」


「どれどれ」


タロースが掲示されている紙を読み上げる。


「迷宮攻略者はこのプリズンからの出所の許可を与える。 またパーティで6人までいいだと!?」


「6人で迷路を攻略するだけだろ?」


「いや、迷宮には色んな敵が潜んでいる。 元々は神族がやってた遊びなんだ。 人間を放り込み獣人やドワーフ、オークから逃げ出せるか賭けるな」


「それで6人か……」


「命の欲しい者はやめておけ。 こんな危険なことに賭ける必要は無い」


「だけどいつここから出られるかわからないんだぞ!?」


「俺ももう5年もいるんだ。 外に出たい」


「俺たちはほとんど元戦士だ。 獣人くらい6人もいれば倒せる!!」


みんなやる気になっているようだがタロースは何とか止めたかった。


しかし話を聞く者はいない。


そこへプリズンの所長が入ってくる。


「そのままで。 掲示した通り人数を集めて迷宮を攻略した者は釈放だ。 もし途中で危険を感じたらこの発煙筒を使えばすぐに救助が行く。 なので安心して参加するように。 また6人でなくても構わない、以上」


それだけ言い出て行くとみんなは更に目を輝かせる。


「参ったな……」


「なぁ、タロース何がそんなに心配なんだ?」


「ミノタウロスだ。 あの種族はドワーフでも手に負えない化け物なんだ。 救助が来る前にミンチになるのがオチさ」


「ミノタウロス……戦ってみたい」


「やめとけ、アレフドール家の人間でもかなり手こずっていたんだ。 まず普通の人間では勝ち目がない」


「神族より強いか?」


「神族は少し特殊で眼の色が変わるんだ。 紅い色やその上があるみたいだが紅いのしか見たことないしその上にはほぼ到達はしていない……だが紅い眼ならミノタウロスくらいどうってことはないだろうな」


「あれは強い」


あの紅い眼は頭から離れないくらの強さだった。


「神族の中でもべリオサス家は一番強いとされているんだ。 次がムーリアスだが彼らは戦う気がない」


「ここの大陸の神族は?」


「ジョウ家は何て言うか少し変わっていて、他の神族は魔法と身体強化、武器を使うがジョウ家は基本的には肉体強化のみで戦うんだ」


「素手ってこと?」


「武器を使うこともあるが、基本は素手だ。 それもめちゃくちゃ強い」


「迷宮の入り口にミノタウロスがいて出口付近に神族がいたら最高だな!!」


「いや、それはもう地獄だよ」


タロースはシルフにお茶を渡す。


「サンキュー」


「自家製だからな」


タロースはプリズンの一角に畑を作り色々育てている。


その中の1つがこのお茶だった。


「うまいなぁ」


「そうだろ」


2人は周りの喧騒からは想像できないくらいほのぼのとしていた。



その頃ノークスは再び正規兵を率いてスーリカから少し西の地点に陣を張っていた。


「敵残党2000です」


「よし、このままこの地域を取り戻すぞ」


帝国は徐々に共和国を押し始め領地を取り戻しつつある。


しかし戻ってくるのは土地だけである。


そこに住んでいる者たちは基本的に共和国の領地に逃げ込んでいく。


「なんで逃げるんですかねぇ」


「みんな人間なんだ。 神族の下僕にはなりたくないのさ」


「そんなこと言っていいんすか? 正規兵だらけですよ」


「気にするな。 シルフを助けるどころか交渉の使者を斬り殺したんだぞ!! シルフが今どんな扱いを受けているかと思うとここにいるのすらもどかしい」


「副隊長……おっと、隊長はシルフが相当お気に入りですね」


「ハリスは嫌いか?」


「俺は好きですね。 なんたって俺の言うことをちゃんと聞いてくれますからね」


新たに白狼運に入った連中は使い物にならない者ばかりだった。


ヒルキン曰く、相手が上司だから断れないとのことだった。


「体に爆弾巻きつけて突っ込ませますよ」


ハリスは笑いながら言っているが本当にやりかねない。


ハリスは過去に正規軍作戦本部に所属していたが小隊を囮に使い、処分されたところをヒルキンに拾われた。


「冗談はほどほどに。 それよりも何か情報は無いのか?」


「今のところは何も無いです」


「そうか……」


「そういえば共和国で行われている囚人の迷宮攻略が実施される予定だそうです」


「人権は無いのだろうか」


「今回は発煙筒を渡すので死の心配は少ないかと……まぁ、共和国側の言い訳でしょうけれども」


「そうであろうな。 なかなか平等とはいかないな」


「まぁ、俺の考えからすれば永遠に無理な話ですよ。 もし可能性があるとしたら全部の生き物を殺すしかないでそうね……」


「そうだな」


2人は敵兵が消えたのを見ると軍を撤退させる。


帝国領となり新たな領主が任命されるが、今のところは適正者がおらず保留地となった。


保留地は基本的に王の直属となるため、正規兵が数多く導入される。


ノークスはドラーにてヒルキンに報告する。


「敵は排除しました。 新兵は使い物にならないとハリスが愚痴を言っております」


「気持ちはわかるが……仕方がないんだ。 その代わりに良い情報を教えよう。 シルフはプリズンに入っている。 それで今度の迷宮脱出に参加すると教えてくれた」


「その情報は確かなのですか」


「この情報を送ってきたのはシン=レミオアール本人だ」


「それって……」


「もしかしたら嘘かもしれない。 しかし、私に直に手紙を寄越したのには何か理由があるはずなんだ」


「そうですが……」


「ノークス、彼が何を考えているのかは知らないが、彼はこの世界の事を誰よりも考えていると私は思うよ」


実際に何人か人を送り込んで探ってみたが誰も戻らなかった。


なのでこれを信じるしかなかった。


しかし希望を持つのはまだ早い、迷宮から脱出するには怪物級の獣人達を倒さなくてはいけないのですよ!?」


「それについてなんだが、今回パンフレットが送られてきた」


「これは!!」


そこに書かれていたのは怪力の王様ミノタウロス、スピードと魔力の王様魚人、そして声を聞けば絶命すると言われるマンドレイク。


「マンドレイクなんて伝説上の生き物では無いのですか!?」


「いや、彼らは存在しているよ。 今では数を減らしてしまっていて絶滅危惧を心配されているがね」


「そんなのが出てきていいんですか?」


「まぁ……あれは……なんていうか……」


ヒルキンの歯切れ亜悪い。


「声を聞くと死ぬんですよね!?」


「うん……まぁ……なんだ……そうだな……でも、まぁ大丈夫だ。 問題は魚人とミノタウロスだな」


「他にはいないのですか?」


「他はそんなに書いても盛り上がらないと判断したんだろう。 それか秘密かどちらかだ」


ノークスはシルフが生きて出られる確率が限りなくゼロに近いことを悟った。





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