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シルフの書  作者: 松田 飛呂
第一章
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スーリカ防衛戦 終結

ノークスは勢いに任せて敵を斬り殺しては引いてを繰り返し、魔法が復活し火の玉が飛んでくると、剣に火を纏わせはじき返し敵兵にあてる。


更に後方のハリス達は油の入った瓶を投げて火矢を放ち離脱する。


「前はどうだ!!」


「矢が凄い勢いで飛んできます」


それでも一番戦果があるのは前線だろう。


もう10メートルで鉄亀にぶつかる。


「よし、もう少しだ!!」


残り5メートルという時、轟音と共に山の上から岩がゴロゴロ転がってきてかなりの兵が押しつぶされる。


「ふざけるな!!」


もう今すぐこの場から逃げたい思いを押し殺し、次の策を考える。


「シン様自らご出陣です」


伝令が伝えると一気に表情が明るくなる。


しかし、兵の被害は甚大だった。


既に2万人も残っていなかった。


「おやおや、これはさすがに驚きましたね」


「シン様、お早いご到着で」


指揮官の男は頭を下げる。


「兵は半分くらいまで減っているね」


「すいません……」


「いやいや、真ん中にこれだけの戦略家がいると思わなかった僕の失態だよ。 それよりも機械兵は?」


「……全滅いたしました」


「なるほど、オークも治療中みたいだね。 いやぁ、さすがノークス君だね」


「いえ……オークも、機械兵も甚大な被害を出したのもすべてシルフ=ベルーサという無名の男です」


「はいはい、シルフ君ね。 彼の話も聞いたよ。  まさか、そんな若者が出てくるなんてねぇ……」


どこか嬉しそうに話すシンはシルフを探す。


「彼は?」


「体力切れの様で砦まで撤退しました」


「ほぉ……残るはあそこで頑張ってるノークス君と、ハリス君だね」


シンはハリスの攻めている後方に向かう。


「あれは……駄目だ撤退だ!!」


いち早く気が付いたハリスは全軍を引き上げる。


「良い判断だ。 後はノークス君か」


ノークスが攻めているところにシンが着いた時にはすでにノークスにより被害が増えていた。


「久しぶりだね。 君がここまでできるとは思わなかったけれども……成長したね」


「シン様……」


ノークスは反射的に膝をつきそうになる。


その瞬間を狙ってシンはノークスを殴り飛ばした。


「いやぁ、よく飛んだね。 あれなら半日は目覚めないだろう」


圧倒的な力を見せつけ前線に向かうシンは砦と鉄亀をみて感心している。


「いいね。 少人数ならこれが一番いい作戦だ。 オークを潰したのも見事だ」


帝国兵の1人がシンに気が付く。


「シン様だ!! シルフさんを呼んでくるんだ」


シルフは呼ばれると高台の上からシンを見る。


「あいつは?」


「べリオサス家の次男のシン=べリオサス様です。 今ではシン=レミオアールと名乗っておりますが」


「神族か?」


「はい、それもかなりの実力者です。 どうしますか?」


「向こうはやる気満々だぞ?」


シルフは砦を出てシンの前に立つ。


「シルフ=ベルーサだ」


「シン=レミオアール……決闘かい?」


「あんたは強いんだろ? 俺だけで見逃してくれ」


「成程……勝てるとは思ってないんだね」


「流石に力の差はわかる」


決闘を受けると他の者に手が出せなくなる。


「いいよ。 受けるよ」


食料が尽きた今、戦いを長引かせるわけにはいかないのが現状だった。


シンは大刀を抜くと正面に構える。


シルフは柄に手をかける。


「居合か……いつでもいいよ」


「居合・一閃斬り」


しかし受け流されるとシルフは倒れる。


「懐かしい技だ。 他にはあるのかい?」


シルフは立ち上がると構えなおす。


「突技・滅界」


突きをすべて払いのけるとシルフは右肩を突かれる。


「これが突きだよ」


シンの両方の眼が紅く輝く。


シルフは立ち上がり構える。


「突技・滅界」


「同じ技は喰らわないよ」


シンは次も受け流すが右頬に傷がついた。


「さっきよりもかなりスピードを上げたね。 僕に傷をつけるとは……少し本気出すよ」


次の瞬間シルフの体がくの字にまがり鉄亀まで吹き飛び鉄亀すらも破壊される。


シルフが気が付くとすでにシンは真上から大刀を振り下ろそうとしていた。


シルフは地面を転がり避けると大地が抉れ他の兵に被害が出る。


「降参だ……」


シルフは声にならない声で絞り出す。


「まぁ、いいだろう。 この戦争自体は君たちの勝ちだ、だが君は僕に負けた。 君だけ連れて行っても構わないね?」


「あぁ、問題ない。 好きにしてくれ」


こうしてスーリカは防衛されたがシルフは共和国の捕虜として捕まり連行されることとなった。





ノークスが砦に戻るころにはハリスもすでに戻っていた。


共和国兵は全軍撤退したので完全勝利のはずが、なぜかみんな神妙な顔をしている。


「何があったんだ!?」


ハリスに問い詰めるとハリスは酒瓶を目の前に置きノークスの前に座るとグラスを渡す。


「まずは、祝杯だ副隊長」


「あぁ……」


シルフがいないことが気になるが、言われるまま乾杯をして一気に飲み干す。


「それで……」


「それが……シン=レミオアールが戦場に現れたのはご存知ですよね?」


「あぁ、吹き飛ばされて気を失ってた」


「そのあと、俺の指示通り岩雪崩を起こしたところまではよかったのですが、彼が現れて状況が変わりました」


「それは彼が1人で破壊したということか?」


「いえ……シルフが決闘を申し込んだみたいです」


「私闘にしたわけか」


「はい、戦争自体は食料が尽きた時点でこちらの勝ちです。 しかし共和国側も何か理由が欲しい。 そんな時のシルフの決闘には応じるでしょう」


「相手は神族だぞ!!」


「知ってます……シルフは戦闘中に体力を使い果たし敵の攻撃を有志の20名が助けに向かったそうです。生き残ったのは1名で後は死にました。 それも彼に影響を与えたのでしょう」


「……自らを犠牲にしてか?」


「はい。 ただし、シルフは捕虜として連れていかれたので殺されることは無いでしょう」


「こちらの王がどう対応するか……見捨てるだろうな」


「副隊長、飲みすぎです」


「すまん……情報が入ったら知らせてくれ」


「わかりました」


「明日はこの地の砦を作り直す職人との打ち合わせを頼む。 私は先に戻りヒルキン大佐に伝える」


「了解しました」


「話は終わりだ」


「はい、失礼します」


ハリスは退室する。


ノークスはその晩1人で酒瓶を全部飲み干しながらも後悔し続けていた。


朝ほとんど眠れずにノークスはヒルキンが待つドラーの町へ戻った。


「お疲れさま。 ノークスだけか?」


「はい、シルフがシン様と決闘し敗北しました」


「死んだのか!?」


「いえ、捕虜となりました」


「……そうか、その他の被害は?」


「500名が死にました。 シンの攻撃、突撃……シルフを助けるため19名などです」


「辛いだろう? 我々には彼らに何もしてやれない」


「はい……」


「これからもっと増えるぞ、耐えられるか?」


「……耐えます。 すべては未来の為に」


「そうだな……未来の為だな。 そうだ、いい酒が手に入ったんだが飲むか?」


「いえ、昨日ハリスにもらったのがきつくて。 今日はやめておきます」


「あいつのは安酒だからな。 またハリスが戻ったら顔を出すように言っておいてくれ」


「わかりました。 失礼します」


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