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田舎産まれの剣聖は王都に 夢を見る~変わってしまった村の日常~

第二話の始まりです

第二話 田舎産まれの剣聖は王都に 夢を見る


「う~ん、特に才能を感じるというところはないような気がするけど」


「もう少し、腰入れて、もっと胸を張って・・・ああ、違う違う!!そうじゃない!!」


クラウは、翌日日課の薬草摘みの後、教師役を買って出た門衛たちに剣の振り方を教えてもらっていた。クラウは、今まで剣を持ったことも持とうと思ったこともなかった。


「ええと?こうですか・・・あれ?」


すっぽ抜けた、木の枝をクラウは取りに行く。力の配分も、体のバランスも、何もかもが剣を振るためにできていないというしかなかった。


すっぽ抜けた剣は、剣の間合いの外で見守っていた門衛と子供たちの前の地面に浅く刺さっていた。




どっと笑いが起き、クラウは恥ずかしそうに俯いて、飛んでいった剣の方に歩いていく。



『ああ、やっぱり鍬を持ったり鎌を持ったりしていた方がよかったよ・・・』



門衛と子供は、仲がよさそうにこちらを見て笑っている。クラウは、心の中でため息をつくと、棒の刺さっているほうへ向かっていった。


その時だった、門衛が棒の方に歩き始めようとした時、子供がその脇をすり抜けるように走り抜け、棒に手をかけた。


『あ、投げられてしまう』


クラウはそう直感し、少し速度を上げて、棒の元に駆け寄ろうとする。


「ぐぅぅぅぅ・・・お、重ぇ、ぜんぜん、」


クラウが棒の元にたどり着いたとき、まだ子供は棒と格闘中だった。


「ええと、引き抜いていい?」


「お、お前に抜けるものかよ!!すげえ重ぇのに!!」


棒に手をかける。重い重いと聞いていたが、普通に動く。


「よっと」


ズボッ


間抜けな音を立てて、地面から棒が引き抜かれる。それには、土一つついていない。その光景に、また嗤いの輪が起きる。その子は何も悪くないのに俯いた。


クラウはそう思うと、門衛のところに戻ろうとした、そんな時だった、クラウの左手がその子供にがしっと捕まれる。


「何をするんですか?」


拒むために上げた声は、嫉妬を感じさせる声に阻まれた。


「な、なんで抜けるんだよ?さては、おめぇ、細工しやがったな、その棒切れに!」


酷い言いがかりだと、クラウは呆れた顔で突っ立っていた。


「あの、この棒は、今さっき門衛さんにもらったものです。これで訓練してやるぞって。だから、細工なんてしてないです」


「どうせ、その剣聖のクラスも細工して取ったんだろ、俺が、実力の差ってやつを見せてやるよ。」


子供が、腰に掛けている剣に手を伸ばそうとする、その手は、門衛により捕まれる。


「そこまでだ、お前も、そこから先はしてはいけない」


「けどよ、兄貴・・・いてて、放せよ馬鹿アニキ!!」


「お前が剣を抜いたら、皆抜かないといけない。剣を持つという意味が分からないのなら、剣士なんて務まらないぞ、ましてや剣聖に選ばれた奴がそんなざまじゃ、すぐに間違いを犯して討伐対象にされちまう。昨日クラスをもらったからじゃ、いいわけはできねぇぞ。」


門衛がそう言い聞かせるのを聞いて、クラウは初めてこの2人が兄弟だったことに気が付く。


「全く、すまねえ、弟が失礼した。練習に戻ってくれ」


「? いえ、すいません」


「は、落ち着いたかと思ったら相変わらずふらふらしていやがるな。俺達には、いやに愛想がいいかと思ったら、無愛想になって気が付いたら道具みたいな口の利き方しやがる。全く、不調好調の振れ幅がでかすぎるな・・・剣でも振って、いい加減落ち着いてくれ」


門衛の兄は、クラウに呆れたような表情を見せながら、弟の手をひねり上げる。弟から悲鳴にも似た怨嗟の声が上がるが気にもせずにクラウに背を向け、先の建物、門衛の詰め所へと向かっていく。


クラウは、内心釈然としないものを感じたが、教師役の門衛の元へ帰っていった。




その時は、剣に遊ばれているだけで終わってしまった。最初のこそ、剣聖となったクラウの様子を見ようと思う人の山ができていたが、あまり才能があるように見えないクラウを見ているのも飽きて遊びや仕事に戻っていった。教師役の門衛も一人だけ残り、クラウが剣を振るうのをただ見ているだけだった。


「はい、今日はここまでしか見てあげられないよ、もうあたしも仕事に戻らないといけないからね」


クラウの剣の振り方を教えてくれていた門衛が、腰を上げ、仕事へと戻っていく。クラウは一人残された。


村の日常が帰ってきつつあった。ここでブンブンと棒を振っていたら迷惑になるそう感じたクラウは、場所を移動することにした、3か月前に、ギターラを聞いた、領主の管理する森の近くで、練習を再開する。


握りを確認し、素振りを繰り返していく。その中で思うことがあった。


あの時感じた気配、一つじゃなかった。じゃあ、ほかのだれかが森の中にいたということ?アマンダさんが、言った裏切者ってどういうことだろう?何もわからないまま、私は過ごしているのだろうか?


物思いにふけながら、一心に木の棒を振っていると、視線を感じた。


「エイダ・・・様」


エイダが小川の向こうでこっちをじっと見ていた。つい手が止まり、クラウはエイダの方を見てしまう。昨日以来話をしていなかった。昨日以来・・・目を合わせてもいなかった。


「あの・・・エイダ様?」


クラウの伸ばした手の先にエイダの指からほとばしった炎の舌がかすめる。エイダは、怒ったような表情を見せ、クラウの元に詰め寄る。


「剣聖でしたらもっと毅然としなさい、そんな風にだらしなく、へらへらしないでください!」


エイダを見られたことで、少し顔が緩んでいたのだろうか?へらへらしていると言われ、クラウは、少しだけ表情筋に力を入れてみることにした。


「午後からは座学の予定でしたわよね?初日から遅れるおつもり?」


そういえばそんなことも言われていたと、クラウは思い出した。そして、お昼を食べたらすぐに移動しないといけないと言ことも・・・


「そんなつもりはないです」


クラウはそうはいったが、エイダ表情は予想以上に冷たい、そのことにクラウは戸惑ってしまう。

そんなクラウの心の動きですら、エイダは予想通りだというように、口を開いた。


「クラウ、あなたは剣聖なのです、皆の手本にならなければいけません」


エイダの冷たい声が、クラウに届いた。



「皆の手本ですか?わたしが?いいんですか?」


クラウの間抜けすぎる答えに、エイダは冷たい笑みを浮かべる。それは、肯定を示していた。


「ええ、剣聖となったクラウさんには、簡単なことでしょう」


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