始まりの始まり ~ 裁定式の日~ エイダside
「・・・よ、お前は『農民』とする」
村一番の腕白のクラスが決まった瞬間、教会の中は、一瞬騒然としたように感じた。私、エイダ=マグサは、悔しがっている戒壇の上の腕白を、蔑んでみていた。
農民は貴い職だ。1人いればいい王族よりも、万の農民が、支えとなってくれるそういう国こそが、父の願いだった。
「国なければ、民はなし、民なければ、君主なし、君主なければ、忠誠なし。忠誠なければ、国もなし」
私のお父様の口癖だった。貴族としての教育・・・そして、万が一があったときのための王族としての教育の時に、この言葉を最初に言っていた。
本当は、兄や姉の下についたり、城へのお勤めに上がることを考えていたのかもしれないが、私のお父様は・・・マグサ男爵は・・・それでも、私に好きに生きてほしいと思っていてくれている。
多分自分ができなかった、自由というものに憧れているのだろう。
こんな小さな私を尊重してくれている。
お父様は、本来、王兄という立場であって、本当は私が、手元にあってほしいとおもっていたとしても・・・私は、お父様に今日まで育ててもらった恩を報いる義務がある。
家のために、武勲を上げなければならない。兄と姉は不幸にも戦う力に恵まれなかった。討伐に参加できない貴族は、侮蔑される。
どの貴族も、3人目以降の子供は、討伐隊に志願するものだった。
私は隣で震えているクラウを見る。きっと、私は、あの子の将来を考えてあげているのだろう。
『この子も強い子だ、私とは違う、意志の強さがある』
クラウは、決して、自己主張は強いほうではなかったが、けっして簡単に折れる子ではなかった。
私は、クラウを見ながら、こう生きることができたらなと思った、たった3年だったが、数えることすらできない。
決して折れず、安易に下らず、でも、他人を立て、自分を通す。素晴らしい生き方だと思う。決して、自分にはできないと知っている。
『ありがとう、クラウ・・・あなたが私を作ってくれた』
そっと、隣の子に、心の中で礼を言う。変に大人びて、冷静なところがあるクラウは、私の密かな手本だった。私はそう勝手に思っている、真面目なのか、慌てるギャップが面白いからついからかってしまうけど。
そうやって、後悔して、素直になれない自分が少しイヤだった。
多分私は、今日目的のクラスを得て、クラウに自慢するだろう。でも、クラウは、それを素直に祝福してくれる。それでいいんだ。きっと、大人になるってそういうことで、きっと時間がたてば、クラウとも素直に向き合える。
そうだ、勇者パーティーか、討伐ギルドを引退したら、クラウに雇ってもらってもいいかもしれない。
そんな未来も考えて、私は、居残りのいる戒壇の上を見上げた。
さすがに、見かねたのか、腕力自慢の司祭補佐たちが、腕白の肩を叩き、降壇を促している、やがて、肩を落とし、腕白は長椅子に力なく座った。
「農民なんていやだ・・・農民なん・・・て」
小さな声で、弱弱しく頭を抱えている。明日からどう生きていこうかと考えているのか、子分たちの中に、狩人や兵士がいたことに絶望しているのかどちらか私にはわからない。
私はそう思い、席を立ち、クラウの方を向く。
「じゃあね、クラウ先に行きますわ」
クラウは、驚いたような表情を浮かべ、頷いた。
『本当にいい子・・・きっと、みんな受け入れてくれる』
クラウはきっと農民や薬草摘みになって、長い時間をかけて、この村にもっとなじんでくれるだろう・・・その時を楽しみにしている。
戒壇に上りながら、そっと、クラウの方を見てみると、必死に祈っていた。自分のことを心配しないのだろうかと逆に心配になるくらいに。
「大丈夫よ、クラウ・・・私はズルをしてでも、どんな手段を使ってでも、私の望むクラスにつくから」言えない言葉が、喉まで登ってくるのをそっと飲み込んだ。この時から私は男爵・・・王兄の娘。でも、望みは貴族でもなく、ましてや王族でもない・・・
望むは、戦いを誉とするクラス・・・討伐隊の花形や、勇者の隣に並び立つにふさわしいクラス・・・
「では、エイダのクラス裁定を始める」
私は、そっと魔導士の首飾りにふれる。最近は、効果がうすくなっているらしく、なかなか、アイテムの効果のみでは、選ばれないことも増えてきたらしいので、私は、祭りの夜に、討伐ギルドの裁定員であるアマンダに相談していたのであった。
あの祭りの夜に、アマンダは、私に教えてくれた。
アイテムと意思の力でクラス裁定の結果を変えることはできると。
この3か月の間、私は準備を進めてきた。お父様が王家に掛け合って、特別に借りた、某所から押収した魔導士の首飾りを3つに重ね一つにしたこの違法改造品と、この3か月の間、王都で討伐ギルドに通い、アマンダや、鑑定の神官に、アイテムの活用方法と、アイテムに意志を伝える方法を伝授してもらい、訓練を受けていた。
『私は、魔導士になる・・・なって見せる』
強い心で、念じながら、神官の前に座る。
「では、よろしいか?」
「はい、お願いいたします」
私は、頷き、手を前に組み祈りの姿勢をとる。
「始めますぞ」
神官の手が、額にかざされる。私は、目を閉じ、魔導士の首飾りに通して集中を始める。
『私は、魔導士になる・・・私は魔導士になる・・・魔導士になってみせる』
それは、私の決意が見せた幻覚だったのか、それとも、事実だったのかはわからない。
その瞬間、私は黒い海に祈りの姿勢のまま、座っていた。空に紅い稲妻が走り、現実感のない感じがただひたすらに続いていた。私は、立ち上がり、首飾りがそこにあることを確認する。
その瞬間だった。『エイダ=マグサは、・・・・のクラス・・・強・拒否・確認・・・ザッ、ザザッ・・・裁・・・に・重・・・作・を・・・・て修・・始・・・・・・能・・・』
酷く雑音の入った声が、頭に直接響いてくる。一瞬神様かと思ったが、神様の声にしては弱弱しく、ところどころが雑音で。聞き取ることができない。
ここが、私のクラス裁定の場だと、思い、私は、心を新たにする。そう、絶対になって見せる。
「わたくしは・・・魔導士に成りたいのです、魔導士に成るのです」
沈黙が続いた。
『意志を確認・・・、エイダ=マグサのクラス・・・本来の・・・・より、・・クラス魔導士へ変更を行う。裁・使・・・・増大、・・・・・・・・へ使用予定の認定システムを強制起動、エイダ=マグサのクラス・・・・から魔導士に認定。・・・・・・負荷増大、・・・・・ウ・、・・・・修復・・・、再起動・・・重・・エ・・・生・・・』
「エイダ=マグサ」
いつの間にか、神官の声が聞こえている・・・あの光景の意味を知ることはできなかったが、私は、そっと目を開けた。そこには、目を閉じる前と変わりない光景が広がっていた。
「お前を、魔導士とする」
歓声が教会を覆った。
私は、内心ほっとした。この首飾りの力を使用しても、最近は3割くらいは、望んだクラスを得られないことがあるという。
私は、ほっとして立ち上がると、クラウの方をむく。ほっとした表情を浮かべて、拍手をしている。
神官たちに頭を下げて、降壇し、クラウの隣に座る。
「エイダさん、魔導士のクラス、おめでとうございます。」
私は、その言葉を心地よく受け入れた。できるだけ、優しく、クラウの方をむく。
「さあ、クラウさん、最期は、あなたの番ですわ、クラスを受けていらっしゃい」