21日目 ザリオとジュリオ
「なめやがってぇぇぇぇぇっ!!!」
「小賢しいんだよ雑魚がっ!!!」
大男2人の叫び声で戦場が静まり返る。
「ったくよお!!治癒士を探して連れてこいって言ってんのに連れて来ねえし!!!」
「斥候は帰って来ねえし!!」
「ちまちまちまちま攻撃してんじゃねえぞゴラァ!!!」
「おい!!!ジュリオ!!」
メイスを担いだ方の大男が、戦斧を持っている方に叫ぶ。
「なんだザリオ!!」
「やれ。」
ザリオのやれという言葉にジュリオがニヤリと笑う。
遠くに居るはずの俺の背筋にもゾクゾクとした悪寒が走る。
「”大旋斧”!!!」
ブゥンという大きな音が響くとジュリオの周りに居た傭兵達の上半身と下半身が一斉にお別れをする。
「下がれ!!下がれ!!!俺が出る!!」
クマズンの大きい声が響いてジュリオとザリオを囲んでいたはずの傭兵達がバラバラと後ろに下がる。
「誰が下がるかああ!!死ねえ!!!」
「”粉砕”」
メイスを持ったザリオがブンとメイスを振るとゴシャアと、飛び掛かった傭兵が肉片となって散らばる。
「ちっ!出過ぎるな!」
舌打ちと共にクマズンが前に出てくる。
「お、ザリオ。どうやら親分のようだぜえ。」
「そうだなジュリオ。こいつを殺しゃあ後は雑魚だ。」
「「ひゃはっはっは!!死ねや!!!」」
ブォンブォンと戦斧とメイスがクマズンに振り下ろされる。
ガギンという金属音を響かせて、クマズンがそれを受け止める。
「ちっ。2対1かよ。」
ザリザリと地面をこするように、2人のパワーに押しこまれてクマズンが後退してしまう。
「助太刀するっす!」
あれは、ヴァンスか。
2対1の状況にヴァンスが飛び込んだことで一旦ばらけてクマズンに余裕ができた。
「おいてめえら!こいつらを1人も逃すな!ザリオとジュリオは俺が殺る!他を頼む!!」
クマズンの掛け声で再び周りで戦闘が始まる。
人数的にはこちらの方が優勢だが、あの2人は不味いな。
ヴァンスも素早い動きで相手を撹乱しているが、一発でも喰らえばアウトだろう。クマズンは今のところ互角だが、ヴァンスが離脱したら厳しくなる。
援護するか。
魔弓を構えて矢を番え、ヴァンスとクマズンに当たらないようタイミングを見計らい、足元を狙って放つ。
「ちっ!街道にいた奴か!!ちまちまちまちま小賢しい野郎だ!出て来やがれ!!」
何か叫んでいるが無視だ。無視。
少し場所をずらしながら、連続して矢を放っていく。
「ああああああ!!!うぜえ!!!おい!誰か斧持ってこい!!」
一旦クマズンと距離を取ったジュリオが叫ぶ。
敵が持ってきて足元に置いた手斧を持ったジュリオと目が合った。
「“旋斧”」
「まずいっ!伏せろ!」
しまった!と思った時にはもう斧がギュルンとこちらに向かって横回転しながら飛んできていた。
動け動け動け動け動け間に合え間に合えと必死で身体を後ろに倒れるように傾ける。
間一髪で上半身を反らして躱すことに成功するが、手斧はそのまま後ろに居た傭兵達を巻き込んで後方へと飛んで行った。
「全員注意しろ!!」
大声で叫ぶ。
手斧の2つ目を投げようとしている。
まずい、態勢が崩れているし、避けると後ろに被害が出る。短剣で受け止められるか?
腰に手を回して、短剣を抜く。
少しでも受けられるように必死で態勢を整える。
ブォンと2投目が飛んできた。
ガギギギギという金属の擦れる音が響く。
「ぐっうぅ。」
身体強化も発動して何とか手斧を叩き落す。が間髪入れずに3投目が投げられた。
「ちっ。」
万事休すか。腕は痺れていて少しの間使い物にならなそうだ。
参ったな。と思った時だった。
目の前に頼もしい銀色に輝く鎧を纏ったキクリの背中が現われた。
ガギンッという金属音と共にキクリが手斧を止めた事が分かった。
「…ハント、無理しない。私が止める。」
「キクリ、助かる。」
まだ痺れる手をさすりながら礼を言う。すぐに、遠距離攻撃部隊に居るはずのマルを探す。するとかなり近くに居た。
「マル!やるぞ!」
「はい!」
マルを呼び寄せてキクリの後ろから牽制の火の矢を放ってもらう。
「キクリ!少しづつ前進だ!やれるか?!」
「…もちろん。」
キクリがいつも通り盾とメイスを打ち鳴らしながら前進する。
よし、腕の痺れも治ってきた。
「クマズン!そっちは1人で抑えられるか?!」
「おう!任せろ!死ぬんじゃねえぞ!」
「そっちもな!」
魔弓を構えて、メイスを構えてヴァンスとやりあっているザリオの方に向かう。
「ヴァンス!一旦こっちに来い!」
「分かったっす!」
分が悪いのは分かっていたのだろうヴァンスがこちらへと寄って来る。
「がっはっはっは!!何人来ても一緒だ!てめえらまとめて粉々にしてやるぜえええ!!!」
メイスを振り回しながらこちらに向かってくる間に会話をする。
「キクリ、少しの間、持ち堪えてくれ!マルは牽制!」
「はい!」
「…分かった。」
「ヴァンスこっちへ。」
その間にヴァンスを呼び寄せて話す。
「いいか、お前は遊撃だ。キクリが引き付けてくれるし守ってくれる。俺とマルが牽制をして隙を作る。その隙をお前の速さでぶち抜いてくれ。いいかヴァンス?」
「…任せろっす!たまには誰かと戦うのもいいっすね!」
少し嬉しそうに耳をぴくぴくさせながらヴァンスは飛び出していく。
さて、痺れは治ったしやるか。魔弓を構え直す。
「いいか!こいつはゴブリンキングと一緒だ!図体がデカいだけの鈍間だ!殺るぞ!」
「「はい!」っす!」
顔を真っ赤にしたザリオがこっちに向かってメイスを振り下ろすがキクリが盾で受け流すと、ズドンと地面に叩きつけられた。
「ふんっ!」
隙だと考えたキクリがメイスを膝に叩き込もうとするが、ザリオが脛に着けた金属製の脛当てで受け止めガギンという音が響く。
「ひひひっ。てめえの攻撃じゃあ効かねえよ。」
金属製の脛当てと籠手、胸当てを付けたザリオがのたまうが、気にせずに魔力でできた矢を放つ。
それをザリオはメイスで掻き消すが、間髪入れずにマルの火の矢が飛んで行く。
「ちっ!うぜえ!」
それをメイスでさらに掻き消そうとするが、キクリがメイスを膝に向かって振り抜く。
「くそが!」
ザリオは火の矢をメイスで迎撃するのを止めて、左手の籠手で火の矢を受け止めつつ、メイスでメイスをガードする。
そのタイミングで矢を放つ。
「”インパクトアロー”」
衝撃を放つタイプの矢をザリオの顔面に向かって放つと、ザリオはそれをメイスでガードしようとした。
ドンッという衝撃でメイスが弾かれる。
「ヴァンス!」
「ハイっす!」
その時、横から銀閃が閃いた。
ヴァンスは素早い動きでザリオのメイスを持った右腕を切り落として反対側へと駆け抜けていく。
「があああああああっ!!」
汚い悲鳴を上げるザリオ。
「油断するな!キクリ!守りを頼む!マルは火の矢!ヴァンスは撹乱と攻撃!」
「「はい!」っす!」
油断しないように気を引き締め直して矢を放つ。
「くそがくそがくそがぁあああ!!!」
ザリオは駄々を捏ねるように巨大な手足を振り回すがキクリがしっかり抑えている。
「がぁっ!」
マルの火の矢が太腿を貫く。
「ぐはっ!」
駆け抜けたヴァンスの剣が左腕も使い物にならなくする。
「グガっ…兄…き」
そして、俺の放った魔力の矢が右目を貫いた。
「ザ…ザリオォォォォォォ!!!」
クマズンと戦っていたジュリオがこちらを向く。
「お前の相手はこっちだ!」
クマズンの二の腕が膨れ上がる。
「”大斬斧”」
クマズンが上段からブォンと戦斧を振り下ろすと、決定的な隙をさらしたジュリオを縦に真っ二つにした。
「よっしゃあ!ジュリオとザリオは殺った!!絶対に一人も逃がすなよ!」
「「「「「「うぉおおおおおおお!!!」」」」」」
味方の傭兵達の雄叫びが響き渡る。
俺達の戦った場所は、誰も巻き込まれたく無かったのかぽっかりとスペースが空いていた。
ポーチから煙草を取り出して火を付ける。
「「ふぅ~。」」
「ん?」
「あ、これもらったやつっス!真似じゃないっす!」
ヴァンスが同じように煙草を吸っていた。
「あっはっは!!ハントやりやがったな!」
「ああ。無事に倒せて良かったよ。」
「そうだな。しかし、あれだな。やっぱりお前達、全員うちに入んねえか?」
「はははっ!入らん。ヴァンスに聞いてみたらどうだ?」
「ええっ!俺っすか?あのー、そのー…。」
嬉しそうだった表情から一転して困り顔になる。
「まあ、ここは戦場だ。打ち上げの時にでも話そうぜ!」
「始めたのはクマズンだろうが。」
「がっはっは!気にすんな!それじゃあ俺は後始末があるから行くぜ!お前らは少しゆっくりしても構わんが、後方支援部隊に先に戻ってもいいぞ?」
「ああ。分かった。クーチも待ってるし先に戻るとするよ。」
「ああ。それじゃあ、打ち上げでな!」
クマズンと拳を打ち合わせて別れる。
「さて、ヴァンス?一緒に行くか?」
「いいんすか?」
「ああ。一緒に戦ったんだから仲間みたいなものだろう?な?」
マルとキクリの顔を見渡すと「はい。」「…ん。」という肯定の返事が返ってきた。
「…そうっすか。一緒に行くっす!」
なんとなく寂しそうな顔から一転して嬉しそうについてくるヴァンス。
何か事情があるんだろうが、今は聞かないでおこう。
その後、後方支援部隊に戻るとクーチに抱き着かれ、それをニヤニヤと見つめるヴァンスに煙草を返せと冗談で言って慌てさせたりしながら町へと全員で戻った。
ハントLV22
クーチLV17
マル LV22
キクリLV21




