10日目 グロース最終日
ごそごそという物音で目が覚める。
窓から差す光を見るに昨日よりも遅く起きてしまったようだ。
まあ今日は明日の出発の用意と決めていたから構わないのだが。
ふと横を見るとクーチもぼんやりとこちらを見ていた。
「おはよう。」
そう言って軽く口づけをすると覚醒したようで、顔を真っ赤に染めながら
「おはようございます。」
と微笑んで返してくれる。
身体を起こして「シャワーを浴びるが一緒に行くか?」と声を掛けると「はい。」と嬉しそうな返事が返ってくる。昨日の一件からかなり距離も近くなった。
一緒にシャワーを浴びてスッキリとしてから一階へと降りる。
いつも通りアイス珈琲と果実水と朝食を頼んで椅子に腰かけ煙草に火を付ける。
「ふぅ~。」
息を吐き出してのんびりしていると女将さんが朝食を持ってやってきた。
「はいお待ちどうさん。ドルグは今日までの分しかもらってないけどアンタたちどうするんだい?」
「ああ。明日から迷宮都市メイズに行こうと思っている。」
「そうかい。クーチちゃんが居なくなると寂しくなるねえ。」
「世話になったな。まあ、出発は明日の朝の予定だが。」
「そうかいそうかい。乗合馬車で行くのかい?」
「いや、折角だし野営もしながら歩いて行こうと思う。」
「そうかいそうかい。それじゃあ夕食は何かサービスしてあげるからちゃんと帰ってくるんだよ。」
「ありがたい。」
「クーチちゃんも無理するんじゃないよ!この男が嫌になったらいつでも戻っておいで!」
「はい!」
女将さんの冗談に笑いながら返事をするクーチ。最初よりもだいぶ元気になったと思う。
「よし、それじゃあブルクスにも挨拶して買出しに行こうか。」
部屋に戻ってクーチはこの前の休みとはまた違った洋服に着替えていた。
俺はいつも通りだ。昨日、ウルフに噛まれて穴の開いたシャツはバックパックに入れておいたら元に戻っていた。ロンググローブは穴が空いたままだが、これはメイズで何か買おうと思う。
「さて行こうか。」
バックパックを背負って街へと出る。
するとクーチが腕を組んでくる。チラリとみると「えへへ。」と笑うのだからしょうがない。そのままギルドまで歩く事にする。
クーチは残念そうだったが、組んでいた腕を離してもらいギルドの中に入ると一瞬視線を感じて、そちらの方を見ると何人かが目をそらした。昨日の一件が伝わっているのだろう。
気にせずカウンターのブルクスのところへと向かう。
「おはようございます。ハントさん。今日はどうしました?」
「いや、明日メイズに向かおうと思ってな。挨拶に来た。」
「そうですか。お二人には荒鷲団に入って欲しかったんですがね。」
「ありがたいが、今はまだだな。」
「何か目的が?」
「いや、強くなって大陸を見て回りたいというぐらいだな。」
「そうですか。そのうち戻って来てくださいね。」
「ああ。」
「クーチさんも。」
「はい!」
「それと、メイズに付いたら傭兵ギルドで情報収集はした方がいいですよ。普通の街の傭兵ギルドと違って迷宮の方に力を入れているギルドですから。」
「ああ。ありがとう。世話になったな。」
「こちらこそありがとうございました。」
挨拶をしてギルドを出る。
その後は、食料品やクーチの着替えを買って宿へと戻った。
女将さんの美味い料理と酒を飲んでクーチと二人でシャワーを浴びてぐっすりと眠った。




