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8日目 休み


窓からの日差しで目が覚める。

どうやらいつもより長く眠ってしまったようだ。

むくりと身体を起こしてもう一つのベッドをみるとクーチはまだ寝ていた。

ぐっと身体を伸ばして、バックパックから着替えを取るとシャワーへと向かう。


シャワーを浴びてさっぱりしてから部屋に戻ると、ベットの上で上半身を起こしてボーっとしているクーチが目に入る。さらさらとした金髪に寝ぐせを少しつけて、綺麗な青い瞳に白い肌の治癒士だ。容姿は整っていて日本でならモデルやアイドルでも通用するだろう。


「おはよう。」

「…おはようございます…。飲みすぎました…。」

「今日は休みにするつもりだからゆっくりでいいぞ。」

「…はい。シャワー浴びてきます…。」


ふらふらとシャワールームに向かうクーチを見送って椅子に座る。

水筒から水をゴクゴクと飲んで薬草煙草を取り出して火を付ける。


「ふぅ~」と少し甘い香りの煙を吐きだす。


今日は、とりあえず傭兵ギルドに寄って情報収集とまだバックパックに入っている素材の持ち込みだな。

それが終わったら街でもぷらぷらするか…。


神様からもらったインベントリ機能のついたバックパックに手を突っ込んで中身を確認する。

野営道具一色、調理道具一式、傷薬類、女将さんの作った弁当、討伐部位の入った皮袋、薬草の入った…。その中から、討伐部位の入った皮袋と薬草、毒草の入った皮袋を取り出しておく。ウルフが6体分に薬草が4束で毒草が2束か。まあ、いろいろあったから少ないのもしょうがないな。

幸い収納している間は腐ったりはしないようだから弁当も後で食べればいいか。


用意をしていると、クーチがシャワールームから出てきた。

ほんのりと白い頬をピンクに染めている。


「ふぅー。スッキリしました。」

「そうか、朝食を食べに行くか?」

「はい、そうしましょう!」


最初に出会った時よりも元気な返事を聞きながら部屋を出て鍵を閉める。

1階に降りて食堂の適当なテーブルに座り女将さんに声を掛ける。


「アイス珈琲と果実水と朝食を2人分頼む。」

「あいよ!ちょっと待ってな!」


この宿『鷲の止まり木』の女将のセーラさんの威勢のいい返事を聞きながら煙草に火を付ける。


「今日はギルドへ行って、査定と情報収集をしよう。あとは自由時間にしようと思うんだがどうだ?」

「はい!大丈夫です!」


ニコリと返事をするクーチに頷き返すとちょうど朝食が配膳された。


「お待ちどうさん!」

「ありがとう。」


女将さんに礼を言って朝食に手を付ける。

野菜と何かの肉を煮込んだスープにサラダとパンのシンプルな朝食だ。


食べ終わってアイス珈琲を飲みながら一服しているとクーチも食べ終わったようだ。


「ご馳走さん。クーチ、荷物を取ってくるからここで待っててくれ。杖は今日は要らないだろうからそのままでもいいぞ。」

「せっかくなので着替えます!」


そう言ってクーチも立ち上がった。

まあいいかと思い、一緒に部屋に戻って腰のベルトについているポーチと短剣を確認して、皮袋を手に持つ。

ごそごそと自分のバックパックをあさっているクーチに「先に行ってるぞ」と声を掛けて一階へと降りる。


一階に降りて煙草を吸いながら待っているとクーチが降りてきた。


「驚いたな。」


今までクーチは常にローブを着ていたから傭兵と言える見た目だった。

だが、白い長袖のシンプルなシャツに濃い青のロングスカート、ウエスト部分はベルトでキュっと締めてあって短剣がさげてある。靴はいつも通り黒いショートブーツだがそれが短剣とマッチしていて良い。

モデルのようだとは思っていたが、スラっとした体形だし出るところはしっかり出ていて思わず見とれてしまう。


「えへへ。どうですか?この前買っておいたんです。」

「ああ、よく似合ってる。綺麗だな。」


思わず口をついて出た言葉に、ボンっと音がしそうな勢いでクーチの顔が真っ赤になった。


「ほら!あんたら食堂でいちゃつくんじゃないよ!いちゃつくなら部屋でやっておくれ!」


女将さんが茶化すように声を掛けてくる。


「すまない。ほら、行こうか。」


クーチをエスコートするようにして宿を出る。


2人でギルドに向かって歩いているとやたらと通行人と視線がぶつかる気がした。

まあそれもそうかとニコニコと隣を歩くクーチの方を見て納得する。

それに皮袋を担いだ傭兵といいところのお嬢様に見えるクーチが歩いていれば嫌でも興味をひくだろうな。


特に絡まれる事も無くギルドに着いたので中に入ってブルクスのところに行く。

幸い朝なのでカウンターは全く混んでおらず、酒場のほうも少人数で騒いでいる傭兵がいるぐらいだった。


「おはようございます。」

「ああ。おはよう。査定と昨日の追加情報を聞きに来た。」

「分かりました。皮袋をお預かりしますね。」

「頼む。」


荒鷲団から出向しているというブルクスに査定をお願いして少し待つとブルクスが戻ってきた。


「お待たせしました。ウルフが6体で4800、薬草が4束で2000、毒草が2束で600ドルグなので合計で7400ドルグですね。お二人で分けますか?」

「ああ。分けてくれ。」


クーチと一緒にタグを出して、ブルクスの持っている板と重ねると、青く光った。

無事にドルグを受け取れたようだ。


「さて、昨日の追加情報についてですが。あの集団以外のバンデットレイヴンは北部のアジトにいるようです。特にこちらに南下してきているという事も無く、しばらく襲撃などの心配はないでしょうね。というのもですが」


ブルクスはちらりとクーチの方を見てから話しを続ける。


「彼らは治癒士を手に入れてこいという命令に従って動いていたそうで、連れてくるまで帰ってくるなと言われていたそうです。ハントさんが廃墟で見掛けた後、団長を含む本体はアジトへと戻り、残された者だけで探して来いと命令されたのが今回の経緯のようですね。なので、しばらくは襲撃は無いと安心してもらっていいですよ。とは言っても、傭兵は血の気が多いですから絡まれる可能性もあるかもしれませんが。」


ブルクスの報告を聞いて内心ほっとするが、いつ絡まれてもおかしくは無いなと、クーチを見て思う。

美人というだけで注目されるのに、治癒士ともなれば強引に仲間にしようとするやつもいるだろう。


「あ、危ない。忘れるところでした。今回のハントさんの働きと普段の依頼のこなし方が評価されて傭兵ランクが2に上がりましたのでタグを更新しますね。」


ブルクスはそう言って俺が取り出したタグに先ほどとは別の板を重ねる。


「はい、これで傭兵ランクが2になったはずです。」


言われた通りにタグの表面をみると確かにランクが2になっていた。


「傭兵ランクは5を一つの目標として下さいね。5を超えて初めて一人前です。クマズン団長はああ見えてランクは9なので超ベテランの扱いですね。」

「ああ。適当にやってくよ。」

「そうですね。ただ低いままだと下に見られる事が多いので上げておく事をお勧めします。」

「分かった。それで聞きたいことがあったんだが。」

「はい。なんでしょう?」

「迷宮都市に行ってみようと思ってるんだが注意することはあるか?」

「迷宮都市ですか…。そうですね。南門に乗合馬車があります。ドルグはかかりますが早朝に出ればその日の夜には着きますね。歩いて行くとなると2日はかかるでしょうか。2人だと野営も大変だと思うので、乗合馬車か馬を借りて行くのがおススメです。あとは…」


ブルクスの話しを纏めると

外で魔物や盗賊を相手にしている傭兵と違って、迷宮の魔物にばかり挑んでいる傭兵はレベルが高い傾向にある。迷宮では魔石を落として魔物の死体は消えてしまうので、命に対する考え方が軽い。迷宮の中で命を落とすと、迷宮に吸収されてしまう。迷宮産の珍しい武器や防具、アクセサリーがある。最下層は何層かも分からない、現在の最高到達階層は92層である。パーティー結成という特別なシステムがある。詳しい事は迷宮都市の傭兵ギルドで。

との事だった。


「ちなみになんだが、参考で聞きたい。一般的に熟練と呼ばれる傭兵のレベルはどれぐらいなんだ?」

「ふむ。スキルや本人の賢さでも変わってきますが大体30前後ですかね。この前のバンデットレイヴンのキャンプ地に居たのは10を超えたぐらいの者ばかりでしたね。」

「なるほどな。参考になった。ありがとう。」


礼を言うとブルクスが耳を寄せるように合図してくる。

耳を近づけると


「ちなみにクマズン団長のレベルは64です。スキルは少なくて脳筋ですけどね。」


小声でぼそっと教えてくれた。

64か。10倍とちょっとか。


「すまないブルクス。参考になった。ここを出る前にまた声を掛けるよ。」

「はい。それではまた。」


礼を言ってギルドを出る。


「さて、この後は自由時間なんだが。」

「どこに行きましょうか!」


被せ気味にクーチが言ってくる。


「それじゃあ、適当にぶらぶらするか。」

「はい!」


ニコリと嬉しそうに笑うクーチに思わず笑ってしまう。


その後適当に買い食いをしながらプラプラと散歩をして宿へと戻った。

宿の部屋へと戻り煙草に火を付けて一息つく。

女性となんの心配もなくデートのような事をするなんて生前でも無かったな。

まあ心臓に持病があったからいつ死ぬかも分からなかったし、彼女ができても結婚等考えている余裕が無かった。デート中に発作が起きて病院に行ってそのまま入院ってのもあったからな。

それ以来、女性と付き合うとかは一切しなくなったもんな。


ちょっと暗くなった気持ちを「ふぅ~」っと煙と一緒に吐き出す。


「今日は楽しかったです!」

「そうか。なら良かった。」


そんな考えもクーチのにこにことした顔を見るとそんな考えも馬鹿らしくなるな。


「さて、明日と明後日は西の森で路銀を稼いでその後で迷宮都市に向かおうか。」

「はい!私も頑張ります!」

「そうか。一緒に強くなろう。」


クーチに優しく微笑んで、煙草の煙を吐き出す。


「さて、飯を食って寝るか。」


照れ隠しにサッと立ち上がって、一階へと降りる事にした。


ハント LV6

クーチ LV7

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