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6日目 金髪の斥候


ごそごそという音で目が覚める。

慌ててはっと身体を起こした。


「あ、すいません。起こしちゃいましたか?」

「あ、ああ。大丈夫だ。」

「シャワーお先に失礼します。」

「ああ。」


ムクリと身体を起こして、ボーっとする頭でシャワーを浴びに向かうクーチを見送る。

窓からは朝日が差し込んできているので朝のようだ。

ぐっと身体を伸ばしてほぐす。

起きて椅子に座り水筒の水を飲んで薬草煙草に火を付ける。


「ふぅ~。」


紫煙を吐き出しながら気配察知を発動する。


「周辺に変な気配はないか…。」


昨日、森に行く前に感じた2人組の気配と森で感じた2人組の気配が気にかかる。

俺たちが森から出たあと、ついてくるように移動していたからな。

念のためクーチにフードを被せてみたが付け焼刃過ぎたしな。何事も無ければそれでいいが…。


「すいません!お待たせしました!」


クーチがシャワーから出てくる。

少し濡れた髪にほんのりとピンク色になった頬が色気を出している。


「ああ。」


できるだけ意識しないように着替えを持ってシャワーへと向かう。


「ああ待ってるのもあれだろうから、先に飯を食っててもいいぞ。」

「少し休んだら行ってますね。…水筒お借りしていいですか‥?」


少し恥ずかしそうにしながら首を傾けるクーチに思わずドキッとしてしまう。

おっさんなのに何やってんだ俺はという気持ちになる。


「ああ。好きに飲んでくれ。」


できるだけ平静さを装いながらシャワーを浴びてスッキリとする。

シャワーから出るとクーチはもう部屋を出ているようだ。

腰にベルトを巻いて、一階へと降りる。


「おはよう。アイス珈琲と朝食を頼む。」


ちょうどクーチのところに配膳していた女将さんに注文する。


「あいよ!ちょっと待ってな!」


クーチの向かい側に座って煙草に火を付ける。

先に食べていいと促してから声を掛ける。


「今日は先に買い物をしてから森へと行こう。水筒と鞄と着替えも必要だろう?」

「はい!」


元気に返事をして、朝食をパクパク食べている様子をみるとだいぶ元気になったなと思う。

まあ、俺と違ってこの世界で生まれて生きてきたのだから死が身近だからある程度は早く切り替えられるのだろうな。


「強いな…。」


ぼそっと声に出てしまう。

幸い、クーチには聞こえなかったようでパクパクと小動物のように朝食を食べている。


「はいよ、アイス珈琲と朝食だよ!そうそう、2人部屋には今日から入れるから荷物は全部持って行っておくれよ!帰ってきたら新しい部屋を案内するよ!」

「ああ。ありがとう、助かる。昼の弁当も2人分頼むな。」

「はいよ!毎度あり。」


女将さんに礼を言って、朝食に手をつける。

食べ終わって部屋へと戻り、忘れ物が無いか確認してからバックパックを背負う。

2人分の弁当を受け取ってカギを返しクーチと2人で宿を出た。

念のため気配察知を発動することも忘れない。


「さて、まずは雑貨屋に行こうか。」

「そうですね。水筒と鞄を買いましょう。」


クーチを連れて以前に立ち寄った雑貨屋に入る。

クーチに言って水筒と水筒が入るポーチ、少し小さめのバックパック、念のために傷薬と毒消し薬も買わせる。

次に近くの服屋に寄って着替えを買ってこさせる。

その間、店の外壁に寄りかかって気配察知を続ける。


特に怪しい気配も無い為バックパックが多少膨らんだクーチにローブのフードを被らせて西門を目指す。

西門の辺りからは傭兵らしき気配が出たり入ったりしているのが感じられる。

真っ直ぐに西門に向かい門番にタグを見せて外へと出る。


外へ出て煙草に火を付けて一息吐き出す。

門の辺りの気配の動きに集中しながら西の森へ向かって歩く。


「ハントさんどうかしたんですか?」


少し気を張っているのに気づいたのだろう、クーチが声を掛けてきた。


「いや、少し気配察知に集中してみようと思ってな。クーチも魔力循環しながら移動しよう。疲れる前にやめるようにしよう。」

「そうでしたか。分かりました!」


そう言って、魔力循環に集中し始める。


気配察知には昨日と同じぐらいの距離でまた2人組の反応があった。

どうやら門の辺りから移動してきているようだ。昨日よりも少し距離が近い気がする。

気のせいだといいんだがな。


昨日と同じ森の入り口に着いた。

煙草に火を付けて煙を吐き出しながら鷹の目を発動する。


2人組、金髪と茶髪、一人は弓、もう一人はショートソードと盾か?恰好は傭兵。だが、少し薄汚れている感じもするな。こいつは心配してたことが当たるかもしれんな。


切り替えるようにクーチに声を掛ける。


「よし、昨日と同じだ。採取をしながら討伐していこう。まずは正面の方向にいる3体のウルフらしい気配からだな。」

「分かりました。」


ふんすと気合を入れるクーチを見て少しほっこりとするが、気持ちを切り替える。

気配察知で2人組の動きを把握しながら魔物のいる方へと進む。


薬草や毒草を採取しながら進むと前方にウルフが見えてきた。地面の匂いをしきりに嗅ぎながら3体でうろうろしている。

後ろの2人組の気配の動きを考えるにゆっくりもしていられない。


「クーチ、弓で2体仕留める。もう1体は任せていいか?」

「はい。」


小声でやり取りをして魔弓を構えて魔力の矢を番える。

ヒュッという音を出しながら一射目。すぐに構え直して二射目を放つ。

それに合わせてクーチが杖を構えながら走り出す。


ドッドッと魔力の矢がウルフにあたり無事に仕留める。

もう1体もクーチが杖で不意打ち気味に殴り掛かり、ふらついたところを短剣で止めを刺した。

ウルフの皮を剥ぎ取って仕舞ったところでだいぶ近くに2人組の気配を感じた。


「クーチ!」


小声でクーチを抱き寄せて身体強化を発動。

隠密行動を発動してウルフの死骸がギリギリ見える木の上に上る。

お姫様抱っこのようになってしまったクーチが、頬を染めながら何がと目で問いてくるが、口に話さないように指をあてる。コクコクと頷くクーチを見ながら、死骸の方に目を向ける。


すると二人組の傭兵が茂みの中から現れた。


「お、ウルフを倒してるな。」

「ゴブリンやウルフだ。誰だって倒せる。」

「ぎゃっはっはっは。ちげえねえや。それよりもどっちに行った?俺の気配察知に引っ掛からなくなっちまった。男の方はともかく、クーチの方は気配を消せないはずなんだけどなあ。」

「なに?少し離れすぎたか。探すぞ。」


そう言って、走ってその場から去っていく。

気配が十分遠ざかるのを待ってからほっと息を吐く。

クーチを見るとガタガタと震えて青ざめていた。


「大丈夫か?」

「ああ…あああいつは…あいつが父さんや母さんを…仲間を…」


ちっ。当たりか。


「落ち着け。ほら水を飲め。今は俺の隠密行動の効果で俺たちの場所はバレない。大丈夫だ。」


そう言って、ポーチから水筒を取り出し水を飲ませる。


「深呼吸しろ。大きく吸ってゆっくり吐くんだ。」


子供をあやすようにトントンと背中の辺りを叩きながらクーチを落ち着かせる。


「もう…大丈夫です。」


そう言って少し離れたクーチは未だ顔色が悪かった。身体も少し震えているようだ。


「危険だから今日はもう戻ろう。バックパックを貸せ。」


木から降りてクーチのバックパックを、俺のバックパックのインベントリに収納する。

そして自分のバックパックを背負って、無理矢理クーチを抱きかかえる。


「街に着くまで我慢してくれ。」

「はい…。」


ギュッとしがみつくようにしたクーチを抱きかかえ、気配察知、隠密行動、身体強化を発動させる。

2人組の気配は遠くにあってまだ気づかれていないようだ。


「行くぞ。」


クーチに一声かけてから全速力で走り出す。

できるだけ上下に揺れすぎないように走る。

結構なスピードを出したからか、あっという間に街についた。


クーチは足を怪我した事にして抱きかかえたまま、門番にタグを見せて街に入る。

そのまま宿へと戻った。


「あら、どうしたんだい?!怪我したのかい?!」


抱きかかえられたままのクーチにびっくりして女将さんが慌てて駆け寄ってくる。


「大丈夫だ。色々あって抱えて戻って来たところだ。果実水とアイス珈琲を頼めるか?あと新しい部屋の鍵も頼む。」

「そうかい?無茶させるんじゃないよ!」


ホッとしたような顔で俺に注意してきたので「ああ、気を付けるよ」と返して鍵を受け取る。


「飲み物は部屋に頼む。」

「新しい部屋は2階の一番奥だよ!」

「分かった!」


女将さんに返事をして二階へと上がり一番奥の部屋へと入る。

抱きかかえていたクーチを下ろして部屋を見渡すと、テーブルに椅子が二脚、シャワールーム、窓が二つにベットが2つある。だいぶ広くなった。


「一度、落ち着こうか。」


顔がほんのりと赤いクーチを促して椅子に座らせる。

背負っていたバックパックを下ろして俺も椅子に腰かける。ポーチから煙草と水筒を取り出して、煙草に火を付ける。


「ふぅ~。」


と息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

コンコンとノックの音がした。


「飲み物を持ってきたよ!」

「ああすまない。今行く。」


扉を開けて女将さんから飲み物を受け取り会計を済ませる。

飲み物をテーブルに置いて煙草を吸って吐く。


「ふぅ。痛めたところは無いか?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございました。」


なら良かったと付け加えてアイス珈琲に口を付ける。



「とりあえず一息ついてから話をしよう。」


俺は、少しだけ思い詰めるようなクーチに声を掛けてぷかぷかと煙を吐き出して、飲み物で口を潤す。


「それで、」

「はい。」

「あの金髪のやつが、クーチ達を裏切った斥候であっているか?」

「はい…。間違えようがないです。喋り方はもっと大人しかったのですが隠していたのでしょう…。」

「そうか。幸いと言っていいのか分からんが、まだあちらは俺を調べている最中のようだ。それに街へは入ってこれないらしい。門番のチェックを抜けられないのだろうな。」


ふぅ~と煙を吐き出す。


「まあ、あいつらは今日のようにこちらの様子を伺いながら仕掛けてくるつもりだろう。俺が間違っていなければ昨日も見られていたはずだ。昨日今日と見れば大体のこちらの戦力は分かる。クーチの情報はもともとバレてるだろうし、俺の戦力さえ分かってしまえば人数を増やしたり奇襲したり、作戦を立てやすくなるからな。幸い、スキルのレベルは俺の方が高いようだから事前に気配察知で気づけるし、隠密行動で隠れることもできるから今回は助かったが、囲まれていたらどうなるか分からん。」

「…はい。やはり別行動をした方が良いのでしょうか…。迷惑ばかり掛けて…。」


苦しそうな顔をしてクーチが言った。


「クーチを見つけたのは俺で、保護したのも俺だ。気にするな。それよりも、だ。」

「なんでしょう?」

「仕返ししたくないか?」


そう言って俺はニヤリと久しぶりに悪い笑みを浮かべた。

後日のクーチによるとかなり悪そうな顔ではなく、イタズラっ子のような満面の笑みを浮かべていたそうだ。


ハント LV3

クーチ LV7

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