5日目 討伐
窓から差し込む光で目が覚めた。
ムクリと身体を起こしてベットを見るとクーチはまだ寝ているようだ。
ボーっとする頭をシャワーでスッキリさせようと着替えをもってシャワールームに行く。
シャワーを浴びてスッキリし、着替えて戻るとクーチが起きていた。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「私もシャワーを浴びていいですか?」
すこし乱れた髪を恥ずかしそうに触りながら聞いてきたのでもちろんと伝えて椅子に座る。
シャワールームへ行ったのを見送り、水筒の水を飲んで煙草に火を付ける。
ふぅーと息を吐き出し、西の森に行って採取と討伐をしよう。
その前に、クーチの武器を買わないとな。
「先に一階に行ってるぞ」
「はい!」
シャワールームに声を掛けて部屋を出る。念のため鍵を掛けてから一階へ降りる。
アイス珈琲を頼み朝食が出てくるまでの時間をプカプカと煙草を吸って潰す。
朝食が届いたと同時にクーチも降りてきたので果実水と朝食を頼む。
「今日は西の森に討伐と採取に行こう。その前に、クーチの手荷物を揃えないとな。」
「はい。案内をお願いできますか?」
「ああ。一緒に行動するんだから当たり前だろう?」
「…はいっ!」
すこし嬉しそうに返事をするクーチに苦笑しているとクーチの分の飲み物と朝食が届いた。
「さて、食べよう。いただきます。」
「いただきます。」
2人で食べ始める。
「食べながらでいいんだが、クーチは武器は何を使うんだ?」
「んぐ。ごくり。私は治癒士用の杖と短剣ですね。杖は魔力効率が良くなります。短剣はいざという時に身を守る為に持っていました。」
「分かった。じゃあ、それと鞄ぐらいは買ってから行こう。」
「分かりました。」
「ご馳走様。女将さん弁当を二人分頼む。」
「はいよ。1000ドルグね。毎度あり。」
簡単に打ち合わせて朝食を食べ終える。
一服して珈琲を飲んでから準備をしてくると伝え部屋に戻る。
腰のベルトを確認して、バックパックを背負って部屋の鍵を閉めてから一階へと降りる。
カウンターの女将さんへ鍵を預け弁当を受け取る。
「あんた、クーチちゃんに怪我させるんじゃないよ。」
「分かった。任せてくれ。」
女将さんの母親のような発言に苦笑しながら弁当を受け取りバックパックへと詰め込む。
ああ、インベントリもまだバレないようにしなきゃな。
「さて、行こうか。」
「はい!」
クーチに声を掛けて一緒に宿を出る。
「まずは武具屋だな。杖と短剣を買いに行こう。」
「そうですね。」
クーチは物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回しながら付いてくる。
まあ、まだ街も見れてないものな。
そのうちゆっくり見て回るのもいいかもしれんな。
そうこうしているうちに傭兵ギルドの傍の武具屋へと到着した
「へいらっしゃい!」
元気のよい口髭のおっさんが対応してくれる。
「治癒士の杖と、取り回しやすい短剣を探してるんだが。使うのはこっちの女性だ。」
「はいよ!杖はそっちの棚をみてくんな!短剣はいくつか持ってこよう!」
そう言われて指さされた一角をみると杖が何本か壁にディスプレイされていた。
素材は木製で頭頂部に何かの石が付いている。形状は下にいくほど細くなっている。漫画やゲームなどで見られる杖らしい杖だ。それが何本か壁に掛けられていて手に取って見れるようだ。
クーチと一緒にそちらに行って職人の目を使って眺めると一本の杖が目に止まった。
モビキの杖:モビキをメインに使った杖。
耐久性に優れており鈍器としても効果を発揮する。
頭頂部には水の魔石が付いており治癒との親和性が高い。
魔力効率付与
「これがいいんじゃないか」と言いかけるとクーチがそれを手に取って確かめていた。
「これが良さそうです。サイズもちょうどいいですし、この青い魔石は水の魔石なので治癒と相性が良さそうです。」
「そうだな。」
説明する前に説明されてしまった。
まあいいか。
「短剣を持ってきたぞ!」
おっさんに呼ばれたのでカウンターに近寄っていく。
5本ほど持ってきた短剣のうち一本をクーチが選ぶ。
鋼鉄の短剣:鋼鉄でできた短剣。
うん。ベーシックだな。まあそんなに使う事も無いだろう。
「これとこれをお願いします。」
「こっちの杖が120000ドルグ、短剣が3000ドルグだが2つ買ってくれるんなら短剣用のベルトをおまけして120000ドルグでいいぞ。」
思ってたよりも高い。俺のドルグ残は40300ドルグだ。
「はい。これでお願いします。」
クーチはそう言って手首についたタグを引っ張る。
どうやらブレスレットのようにしているようだ。
クーチは俺よりドルグを持っていたのか。
「毎度あり!杖はそのままでいいかい?」
「はい、大丈夫です。」
クーチは短剣とベルトを渡されるとローブの中へと身に着け、手には杖を持った。
そのままクーチを連れて西門へと向かう。
西門を出ると煙草に火を付けて森へと向かって歩き出した。
「その杖はいい物なのか?」
「はい!大体の杖には魔石が付いているんですが、これは水の魔石がついていて治癒の効果が上がります。あと手に持った時に少し魔力を流してみたんですが、すんなり通ったので魔力効率か操作が付与されていますね。母が持っていたのも大きな水の魔石が一つとそれを囲むように小さな魔石がいくつかついていて、魔力効率と魔力操作が付与されていたので少し似ていたんですよね。」
そう言って少し悲しそうにクーチは笑った。
「そうか。俺が怪我をしたらすぐ治してくれると助かる。」
「もちろんです!」
ふんすっと気合をいれるようにグッと手を握って構えるクーチに思わず笑ってしまう。
「さて、もうすぐ森なんだが。この森にはゴブリンとウルフがいる。今回俺は短剣と体術をメインで使う。クーチはどうする?」
「ゴブリンとウルフなら私でも大丈夫です。任せて下さい。3頭以上になると厳しいかもしれませんが時間は稼げます。」
「分かった。まあそうならないようにするのが斥候の役目だがな。”気配察知”」
森が近くなってきたので立ち止まりスキル名を発して気配察知を発動する。
煙草に火を付けて大きく煙を吐いて気持ちを落ち着かせる。
「クーチのレベルはいくつなんだ?」
「私は今レベル7です。」
「俺よりも高いのか。それじゃあ今日から5日の間に10を目指そうか。」
「はい!」
「その後どうするかはその時に考えればいい。無理せずにやっていこう。」
緩めに声を掛けて力を抜いてもらう。
水筒を取り出し、水を飲む。
あ、クーチの水筒を買うのを忘れていた。
「少し待ってくれ。」
バックパックの調理道具一式から木製のコップを取り出す。
「クリーン、ウォーター」
念のためクリーンでコップを綺麗にしてから生活魔法のウォーターで水を注ぐ。
「ほら。後で水筒と小さな鞄も買った方がいいな。」
「ありがとうございます。そうですね。帰りに雑貨屋に寄ってみます。」
気配察知に街道の方をあるく傭兵が2人引っかかっているが気にせず森へと入る事にする。
森に足を踏み入れる。
ふと気になって
「クーチは身体強化は使えるのか?」
「いえ、私は使えません。身体強化はかなり熟練の傭兵じゃないと使えないそうです。魔力を身体に循環させるように常に流しながら行動するうちに覚えるそうですから。」
「そうか。なら帰り道にでも練習しながら帰ってみよう。」
「分かりました。ハントさんは使えるんですか。」
「まあ、な。」
神様からもらったなんて言えないので思わず歯切れ悪くなってしまう。
「お、正面にゴブリンが3体だ。ちょうどいい。2体は引き受けるからもう一体を頼む。」
気配察知と合わせて隠密行動を発動して素早く進むとゴブリンが見えてきた。
腰から短剣を抜いてそのまま後ろから接近する。
「先に殺る。」
一匹目の延髄に短剣を刺すと「グギャ」という悲鳴をあげた。
悲鳴に気づいた2体のゴブリンがこちらを向く前に一歩後ろに下がる。
完全にこちらを向く前に手前のゴブリンの手に切り付けて少し離れる。
手を傷つけられたゴブリンはこちらを追って前に出てくる。
そのタイミングでクーチが横から無傷のゴブリンに杖で殴り掛かった。
ゴスっという鈍い音を立てて頭を殴られたゴブリンが倒れこむと、クーチは杖を放し短剣を抜いて止めを刺した。
少し唖然としつつももう一匹のゴブリンと対峙する。
慌てるように飛び掛かってきたゴブリンから一歩下がり地面に叩きつけるようにハイキックを叩きこむ。そのまま倒れこむゴブリンの首に短剣を刺して止めを刺す。
「ふぅ~」と息を吐きバックパックから討伐部位を入れるための皮袋を取り出す。
クーチも問題ないようだな。しかし、杖で殴り掛かるとは。確かに丈夫と書いてあったが。その内杖術を覚えるんじゃないだろうか。
「大丈夫そうだな。」
「はい。ゴブリンとウルフなら問題ないです。」
ゴブリンの右耳を切り落として皮袋に仕舞いバックパックに仕舞う。
「それじゃあこの調子で続けようか。薬草と毒草も採取していきたいから見つけたら教えてくれ。」
「分かりました。」
ついでと思い、ゴブリンの巣になる兆候の見られた場所を見に行くと既に討伐された後なのか、燃えたような跡があるだけだった。
昼の弁当を食べ、討伐と採取を続けるが思ったよりも獲物が少ない。
「日が落ちる前に切り上げよう。」
「そうですね。」
成果はゴブリンが18体、ウルフが6体、薬草が10束、毒草が10束だ。
クーチのお陰で採取の効率は上がっているが、討伐できそうな魔物は少ないような気がする。
まあ二人で分担した分手ごたえが無かっただけかもしれないが。
討伐部位の入った革袋を担ぎ、採取物がはいっているほうがクーチに持ってもらう。
森の浅いところに人が2人いる気配がするが野営組だろうか。
できるだけ通る道が重ならないように、2人の気配から離れるように森から出る。
薬草煙草に火をつけて大きく吸って煙を吐きだす。
「さて、街へと戻るか。」
「はい!」
疲労感はありそうだが少しだけスッキリした顔のクーチと一緒に街への道を戻る。
クーチは魔力循環をしながら歩くようだ。
「ハントさんはレベルいくつなんですか?」
「俺か。さっきレベル3になったな。」
「レベル3ですか?!」
「ああ。」
酷く驚いた顔をするクーチに返事をする。
「レベル3であんな動きができるんですか?!」
「身体強化も使えるしそんなもんなんじゃないか?」
「いえいえ、レベル3だとあそこまで動けません。10になってあれぐらいでしょうか?少なくともその辺の一般的なレベル3ではないですね。」
「ふむ。まあそういう事もあるか。訓練ばかりしていたしな。」
そういう事にしてごまかす事にした。
気配察知はつづけたまま、日が落ちる前に西門に着いたのでそのまま一緒にギルドへと向かう。
冒険者ギルドへ入る前にクーチにフードを被らせる。
カウンターにはブルクスも居て、行列も一番少ない為、そこに並ぶ。程なくして俺たちの番になった。
「西の森で討伐をしてきた。査定を頼む。」
そう言って皮袋を4つカウンターの上に置く。
「ドルグは2人で折半にすることはできるか?」
「もちろん大丈夫ですよ。少々お待ちください。」
皮袋を持ってブルクスは裏へと引っ込んでいった。
「お待たせしました。ゴブリンが18体で9000ドルグ、ウルフが6体で4800、薬草が10束で5000、毒草が10束で3000ドルグ、合計で21800ドルグなので一人10900ドルグですね。」
「ありがとう。」
礼を言ってタグに入金してもらう。
「それと質問なんだが」
「はい。どうされました?」
「傭兵同士の争い、例えば喧嘩を売られたりした場合はどうなる?」
「街中で行われた場合は当事者は一旦拘束されます。酔っ払いの殴り合いなどの些細な喧嘩ですとそのあと取り調べで終わりますが、刀傷沙汰になると拘束されたのちに、門番や衛兵の持っている『善悪の板』でそれぞれのタグをチェックします。板が赤くなった時点で問答無用で処刑もしくは労働奴隷として売り払われます。」
「なるほど。了解した。」
「何かあったんですか?」
「いや、何かあるかもしれないが正解だな。」
ちらりとクーチに目線を向けて答えると、ブルクスも「彼女が…」と言って納得するような顔をする。
「分かりました。何かあればまた相談に来てください。」
「助かる。また来る。行くぞ。」
ブルクスに礼を言ってギルドを出ると同時にフードを被らせる。
気配察知の反応に注意しながらクーチの手を引き宿へと戻った。
宿へ戻るとそのまま2階へと上がり部屋へと入る。
部屋に入ってバックパックを下ろし水筒の水を飲んで一息つく。
「どうかしたんですか?」
「ああ、思い違いだと良いんだがな、なんとなくつけられている気がしてな。」
そう言って煙草に火を付けてふぅ~と煙を吐き出すと、目を閉じて気配察知に集中する。
「ああ、その水筒の水飲んでいいぞ。少し待っててくれ。」
深く集中して周辺を探る。
宿の前で足を止める気配は無いな。慌てて誰かを探しているような気配も無い。裏手も問題なさそうだな。
「よし。」
目を開けると、顔を赤らめて水筒から水を飲んでいるクーチがいた。
「わわわわっ。」
慌てた様子で水筒をテーブルの上に置く。
その様子に子供っぽいところもあるのだなと苦笑し、煙草を吸う。
「勘違いだったようだ。ただ、暫くは一人で外に出るのは止めよう。窮屈かもしれんが我慢してくれ。」
「分かりました。」
「飯でも食おう。」
そう言って、下に降りて食事を摂り、クーチはベットで、俺は床で寝た。
明日からは2人部屋でベットで寝れるらしい。
名前: ハント LV:3
ランク: 1
性別: 男
種族: 人種
スキル: 魔弓術 短剣術 体術
身体強化 気配察知
隠密行動 鷹の目
魔力操作 職人の目
所持金:51200ドルグ
名前: クーチ LV:7
ランク: 3
性別: 女
種族: 人種
スキル: 体術 治癒術
魔力操作
所持金:107400ドルグ