1.転生しました。
眼が覚めるとそこは知らない場所だと直ぐに気づいた。
え?なんでかって?天幕が張られた寝台の上ですから。普通の一般民のOLがそんな寝台に寝てるなんて有り得ないでしょう?
取り敢えず、まだ眠りからきちんと覚醒していない頭をフル回転させるべく、目をゴシゴシと擦る。
・・・なんか、私の手、小さくない?
目の前にある手をジッと見つめるとそれはまぁ、なんとも小さなおてて!雪の様に白い肌にふっくらとした可愛らしいおててはマシュマロみたいですね!
って、おい!縮んでるぞ⁉︎と言うか、私は黄色人種の日本人だよ!
よくわからない状況でパニックな私は自分の手をまじまじと見つめている事しか出来ていない。
すると、ドアをノックする音が聞こえて、女性が入ってきた。
・・・おー⁉︎美人なメイドさんー⁉︎それも外人さんか!茶髪に緑の瞳が素敵ですね⁉︎
そんな、メイド喫茶とかにいるJKが着る様なメイド服でなくて、シックで上品なメイド服を着たお姉さんが私を見て目を丸くする。あ!私、不審人物確定⁉︎
私がピシリと固まっていると、目に涙を滲ませて私に駆け寄ってくる。
「お嬢様!お気づきになられたのですね⁉︎ああ!良かった!旦那様達を呼んで参ります。お嬢様はそのまま安静にしてらしてくださいね!」
そういって、私を置いて出て行ってしまった。
・・・お嬢様?えっと、どう言う事?
先程のメイドさんの言っている意味が分からないんだけど・・・。
うん、取り敢えず落ち着け私。
えっと、確かいつも通りに仕事を終えて、んで、コンビニでお酒買って。ああ、そうだ、確か雪が降り始めたから急いで家に戻ろうと思って青になった信号を渡ろうとして雪で滑ったトラックが突っ込んで来て・・・。
・・・絶対死んだな。なんだろう、事故の時の痛みとか全然覚えてないけど、何故か確信がある。
って事は何?転生したって事かな?どう見ても、日本人じゃないよね・・・。
また、手をジッと見つめるが答えはもちろん出てこないし、歳さえも解らない。
と言うか、私が乗っ取ったとかじゃないよね⁉︎
そんなこんなしているうちに扉がバーン!と開いた。
「「ユーフォリア!」」
もの凄い勢いで入ってきた美男美女に名前を呼ばれると、ぐわっと記憶が鮮明に蘇る。
そうだ、私はユーフォリアで、確か今年3歳だっけ?
そんな事を考えつつ情報量が多すぎで頭がクラクラしてきた。
「・・・っ。」
私が頭を抱えると目の前にいるユーフォリアの両親(流れ込んできた知識)が慌てて私に駆け寄り背中を摩りながらメイドさんに医者を呼ぶ様に指示をだす。
「カンナ!今すぐ侍医を!」
「かしこまりました!」
「あぁ!リア!」
「リア!?直ぐに医者がくるからもう少しの辛抱だ!」
「おとーさま、おかーさま・・・」
頭を駆け巡る情報は私が生まれて、自我がはっきりして来た3歳くらいかの記憶。
私は、レアネーク公爵家の長女、ユーフォリア現在5歳。私の上に10歳と8歳のお兄様がいて、第三子であり上が男だった事もあって家族や公爵家の使用人達から愛されて育った。
蝶よ花よと育てられた私は最近ちょっと我儘になっていて、使用人の言う事を聞かずに1人で庭に出て池に落ちたのまで思い出した。
言うなれば私は自業自得である。足の付かない池の中は恐怖でしか無く、纏わり付くドレスの重みで身動きが取れずに沈みゆくなかでみんなに誤り倒した。涙ぐみながら心配そうに私を見つめる両親には、本当に申し訳なく思った。
「おとうさま、おかあさま、ごめんなさい・・・」
「リア・・・。いいんだよと言いたいところだが、今回は本当に私達は胸が張り裂けそうになる程にリアの事を心配したんだ。それは分かっているかな?」
「はい」
「あなた、今はリアの体調が・・・」
お母様は私の味方になろうとするが、これで許して貰うのは私自信の為にはならない。同じ過ちを繰り返さない為にもちゃんとお叱りを受けたい。
「おかあさま、りあが悪いことしたの。だからちゃんとお叱りうける。おにいさまたちも悪いことしたらごめんなさいしてたから」
「リア・・・」
「お水の中でおもったの。カンナたちがダメって言ってたのにお池に1人でいった悪い子でごめんなさいって」
幼児らしく私の感情はコントロールが利かずに涙目になる。前世の記憶が戻っても新しい生を受けて5年が経つ私自信がユーフォリアであると言う事実を受け入れている。
前世は前世、今世は今世なのだ。私の生きる世界はここであると私の心はそう言っていた。
我儘に育つ前に矯正がを行わされたのだ。有り難く受け止めて行こう。
そんな私に、お母様は目を瞠り、お父様もびっくりしているようだ。まぁ、今までなら癇癪とまではいかないが、私は悪くない!ってくらいは言ったかと思う。
「・・・リア、悪い事だと分かったかな?」
「はい」
「もう、1人で勝手な事しては駄目だよ?」
「はい、ごめんなさい」
「・・・ふぅ、今回はリアは深く反省しているようだね。仕方ない、今日のところは許してあげる」
「でも!」
ちゃんと叱ろうよ!?お父様!!
「反省している子にグチグチ言うのはお説教とは違うんだよ。そうだなぁ、そこまで言うなら罰として1ヶ月間午後のお勉強を少し増やそうか」
「・・・それだけでいいの?」
「リアはお勉強嫌いだろう?」
「ゔっ。そうだけど・・・」
苦虫を噛み潰したような私の顔をみてお父様はニヤリと笑う。
「じゃあ、それで決まりだな。リア、頑張りなさい」
「・・・はい」
しゅんとする私の頭を優しく撫でてくれるお父様。今世の家族は貴族としては珍しい程に仲良しであり陽だまりのような家庭である。前世では得る事の出来なかった愛情に心が暖かさを感じる。
「おとうさま、おかあさま、あのね、心配してくれたみんなにもごめんなさいをいいたいの」
「そうだな、でも先ずは元気にならないと」
「ええ、母もリアに着いて行ってあげるわ」
「本当!?おかあさま、ありがとう!」
1人ではちょっと不安と思っていた私にお母様は同行してくれるそうだ。嬉しくて顔が綻ぶ。
「ああ、やっと笑ったな」
「ふふっ。リアはやっぱり笑顔が一番ね!」
にこにこと私を見つめる両親にまたより一層笑顔が深まる。ああ、幸せだなぁと感じていると、廊下から騒々しい足音がこちらへと向かって来た。