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理由

 この日は朝からとても晴れていた、だから俺は天気予報の確認すらしなかった。こんなに青々とした空が広がっているのに、雨なんか降るわけがないと思っていたからだ。

 しかしお昼を過ぎる頃には青々とした空は雨雲によって覆い隠され、朝の空模様からは想像もできない様な大雨を降らせていた。


「まいったな、帰る頃には上がると思ったんだけど……」


 お昼前から降り始めた雨は仕事を終えた時間になっても降り続け、傘を持って来ていない俺の帰宅を妨げていた。


「先生」

「あれっ? まだ帰ってなかったの?」

「うん、傘が無いから」

「そっちもか、こりゃまいったね……」


 俺一人ならダッシュで駅まで走る選択肢もあったが、シエラちゃんが居るとなるとそうはいかない。


「仕方ない、少し職員室で様子を見よう」


 俺はシエラちゃんを連れて誰も居ない職員室へ戻り、二人分のお茶を用意してしばらく雨の様子を見る事にした。


「ところでさ、今日も部活してたんでしょ? 赤井さんはどうしたの?」

「大事な用事があるって言って先に帰ったよ」

「そうだったの? それじゃあ赤井さんと一緒に帰れば良かったのに、赤井さんなら傘に入れてくれただろうし」

「言われたけど断った」

「えっ? どうして?」

「先生と一緒に帰りたかったから」

「そうだったの?」

「うん」

「そ、そっか……ところで、学校にはもう慣れた?」

「うん」

「何か困った事は無い?」

「……たまに男子から誘われるのが嫌」

「そういえば赤井さんに聞いたけど、男子にモテモテらしいね」

「もてもて?」

「人気があるって事だよ」

「そうなの? でも誘われるのはちょっと鬱陶しい」

「何で?」

「私には先生が居るから」


 シエラちゃんの物言いはいつもストレート過ぎて心臓に悪い。彼女の性格やいつもの振る舞いを考えれば、その言葉に嘘が無い事が分かるから。

 だけどシエラちゃんが俺の何を気に入って婚姻届けまで出したのかもよく分からないから、彼女が好意らしきものを向けてくれる度に俺は怖くなる。それが俺の家に居たいが為にそう言っているのではないか、その対象は俺じゃなくても良かったのではないかと、ついそんな事を考えてしまうからだ。


「……あのさ、シエラちゃん、どうして俺がいいの?」

「どうして?」

「俺は何の取柄もないしカッコイイわけでもない、歳の差だってある、でもシエラちゃんは可愛いからもっといい男を選べるはずなのに、そんな事を言ってくれるのが不思議でしょうがないんだ」

「……あの日、沢山の人が私が居るのを見たけど、みんな私の事を見て見ぬ振りをした。でも、独りで心細かった時に先生が声を掛けてくれた、凄く嬉しかった、あれからもずっと優しかった、沢山お勉強を教えてくれた、それが理由」


 聞いているだけで顔が熱くなる様な事を、シエラちゃんは俺を真っ直ぐに見ながら言った。それは俺にとってとても嬉しい事だが、俺はそんなシエラちゃんの真っ直ぐな視線を見続ける事ができず、そのまま視線を逸らしてしまった。


「先生」

「何?」

「雨、止んだみたい」


 その言葉を聞いて外へ視線を向けると、さっきまで降っていた雨がすっかり止んでいた。


「それじゃあ、止んでいるうちに帰ろっか」

「うん」

「せっかくだから帰りに何か食べて帰る?」

「ううん、先生の作ったご飯が食べたい」

「そっか、それじゃあ帰りにスーパーに寄ろっか。何が食べたい?」

「特大ハンバーグ」

「分かった、それじゃあシエラちゃんの分は飛びっきり大きくしてあげるよ」

「うん」


 その言葉を聞いて嬉しかったのか、シエラちゃんはにこっと笑顔を浮かべた。


「よし、それじゃあ行こう」

「うん」


 俺は使ったコップを片付け、職員室の明かりを消してからシエラちゃんと一緒に学校を出た。

 そしてシエラちゃんと初めて一緒に帰る中、横に並んで歩いているシエラちゃんの表情はどことなく楽しそうに見えた。

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