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洒落にならない事態

 悪魔を自称する少女、シエラちゃんと過ごす生活が始まってから早くも四月を迎えた。

 俺としては少しでも早くシエラちゃんに自宅へ帰ってほしいところなのだが、日が進むにつれてどんどんそんな事を言い辛い状況になってきてたし、シエラちゃんの行使できる権力ちからがどの程度のものなのかよく分からない以上、下手な真似はできないという思いもあった。

 それにシエラちゃんが毎日真面目に勉強に励むところが俺としてはとても好印象で、それがシエラちゃんに何も言えなくなってしまった最大の原因だった。


「それじゃあ仕事に行って来るから」

「うん、行ってらっしゃい」


 いつもの様にシエラちゃんに見送られながら、俺はかなり早めに自宅を出た。なぜなら今日は新入生の入学式で、俺が受け持つ事になる一組の生徒達との初顔合わせになる日だからだ。


「さてと、今日も頑張りますかね」


 俺は手に持っていたリュックをしょってから両手を上へと伸ばし、身体をほぐしながら職場へと向かい始めた。


× × × ×


「――と言うわけで、特に新入生の担任になる先生方は様々な点で注意をし、新入生達が少しでも早く高校生活に慣れる様にして下さい」

「「「「「はいっ!」」」」」


 職員室ではいつもより早い朝礼が始まり、校長先生、教頭先生に続き、各学年の学年主任からそれぞれお言葉が告げられた。


「それでは朝礼を終わります。皆さん、今日も一日頑張りましょう。あー、それと早乙女先生はこのあと教頭先生のところへ行って下さい」

「分かりました」


 かなり長めの朝礼が終わったあと、俺は言われた通りに教頭先生の居る場所へと向かった。


「教頭先生、ご用は何でしょうか?」

「あー、早乙女先生、実は先生が受け持つクラスなんですが、一人生徒が追加で入ったんですよ。だから渡しておいたクラス名簿をこちらと取り換えて下さい」

「分かりました、それじゃあ名簿を持って来ますね」


 俺は急いで自分のデスクへと戻り、前の名簿を教頭先生に手渡してから新しい名簿を受け取った。

 そして追加された生徒が誰なのかを確かめようと名簿を開こうとした瞬間、校内にチャイム音が鳴り響いた。


 ――あっ、もう時間か。仕方ない、追加の子は教室で確かめるか。


 俺は新しい名簿を開くのを止め、急いでデスクの上に用意していた荷物を持ってから一組の教室へと向かい始めた。

 そして階段を四階まで上ってすぐの位置にある一組の教室内へと入った俺は、ちょうど教卓のすぐ前にある席に座っている人物を見て我が目を疑った。


 ――な、何でここにシエラちゃんが居るんだ!? あー、いやいや、慌てるな、他人の空似ってのはあるもんだ、名簿を見ればすぐに別人だって分かるさ。


 俺は動揺する中でそう思いながら名簿を開いたが、その中に『シエラ・アルカード・ルシファー』という名前を見つけて思わず固まってしまった。


「先生、どうかしたんですか?」

「えっ!? ああ、いや、どうもしないよ。えっと、自分はこれから三年間、みんなの担任を務める事になる早乙女涼介と言います。みんなよろしく。本当なら続けてみんなの自己紹介もしてもらいたいんだけど、それは入学式の後にやるとして、これからみんなには入学式を執り行う体育館に行ってもらいます。それではさっそく廊下に出て、出席番号順に二列に並んで下さい」


 緊張の面持ちを見せる生徒達にそう言うと、みんなそわそわしながら廊下へと向かい始めた。そして生徒達が廊下へと向かう中、俺は目の前の席に居るシエラちゃんに小さく声を掛けた。


「シエラちゃん、これはいったいどういう事? どうしてここに居るの?」

「先生が『人の気持ちを理解するには学校へ行くのが最適』って言ったから、先生の居る学校に通う事にしたの」

「通う事にしたって……もしかして、これも権力ちからを使ったの?」

「うん、能力ちからを使った」


 ――なんてこった、まさかあの言葉がこんな事態を招くとは……。


「それじゃあ先生、学校でもよろしくね」


 シエラちゃんは短くそう言うと、みんなが居る廊下へと向かって行った。


「何事も無ければいいけどな……」


 こうしてシエラちゃんのとんでもない権力ちから行使により、俺は職場でもシエラちゃんと関わらざるを得なくなってしまった。


× × × ×


「みんな、入学式お疲れ様。あとはみんなに自己紹介をしてもらって、高校生活の諸注意をしたら今日は終わりだから、もう少しだけ頑張ってな。それじゃあ予告通り、みんなに自己紹介をしてもらうよ。では、出席番号順にお願いします。まずは赤井さん、よろしくね」

「は、はいっ! 私は赤井早矢香あかいさやかと言います。趣味は不思議探しで、常識では考えられない様な事に興味があります。皆さん、これからよろしくお願いします!」


 とても簡潔な自己紹介を終えた赤井さんが席に座ると、そこからはあまり変わり映えしない感じの自己紹介が続き、いよいよ問題のシエラちゃんの番が回ってきた。


「私の名前はシエラ・アルカード・ルシファー。人間界の事を勉強する為に魔界から来ました」


 ――あちゃー、言っちゃったかー。


 シエラちゃんの口にした中二設定を前に、教室内が少しざわつき始める。家の中ならともかく、学校で中二設定を出さなければいいなと思っていたが、その思いも虚しくシエラちゃんはそれを口にしてしまった。


「あのー、シエラさんは別の世界から来たって事ですか?」


 シエラちゃんの発言で教室内がざわめく中、一番最初に自己紹介をした赤井さんが恐る恐る手を上げ、シエラちゃんに向けてそんな質問をしてきた。


「うん、それで今は先生の家に住んでる。ねっ、先生」

「ちょっ!?」

「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!」」」」」


 シエラちゃんの不用意な発言に生徒達は一斉に大きな声を上げた。


「い、一緒に住んでるって、先生とシエラちゃんは親戚とかですか?」

「ううん、私と先生は結婚してる。だから夫婦」

「ふ、夫婦!?」

「ちょ、ちょっと!! 何言ってんのっ!?」

「何って、本当の事じゃない」


 シエラちゃんのした夫婦発言により、今日一番のどよめきが教室内に起こった。

 そしてこの後、俺は騒ぎを知った校長に呼び出しを受け、シエラちゃんとは別々に聴取を受ける事になってしまった。

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