表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/50

捜し人はどこですか?

 チワワのリリーを保護してから、早くも一週間が過ぎた。

 俺もシエラちゃんも犬を飼うのは初めてだから、保護してからは色々と大変な事も多かった。だけどそんな大変な日々も、俺はなぜか楽しく感じていた。そしてその理由は、シエラちゃんが傍に居るからだという事は自覚している。

 毎日毎日、大して変わらない退屈な日常を過ごしていた俺にとって、シエラちゃんが来てからの日常は、大した事がなくてもちょっと楽しく感じる日常へと変化していたからだ。


「先生、リリーの散歩に行って来るね」

「分かった。でも、暗いから気を付けるんだよ?」

「うん、行こうリリー」

「わんっ♪」


 俺の仕事の都合などもあり、五日ほど前からリリーの散歩はシエラちゃんにお任せしている。

 最初の頃は散歩一つでもおぼつかない感じのシエラちゃんだったが、今では朝と夜にやるリリーとの散歩をとても楽しみにしているみたいだった。それが証拠に、リリーが来てからはあまり感情が表情に出ないシエラちゃんに笑顔が増えていた。これはとても良い変化だ。

 それにシエラちゃんもリリーもお互いに慣れてきたおかげか、今では一緒にベッドで寝るほど仲良くなっている。その光景は俺にとってとても微笑ましく、どこまでも癒しを感じさせる。


「それにしても、リリーの飼い主はどこに居るのかな……」


 リリーを保護してからずっと、俺は空いた時間を使ってリリーの飼い主を捜していた。もしもリリーの飼い主が近場に住んでいるなら、迷子犬の張り紙なんかを出しているかもしれないし、今ならインターネットで迷子犬情報を出している可能性もある。だから考えうる全ての可能性を考えて飼い主探しをしているけど、今のところ手掛かりは掴めていない。


 ――もしも飼い主が見つからなかったら、ペット可の家でも探してみるか。


 大家さんには飼い主が見つかるまでとは言っているが、いつまでもここで保護を続けるわけにはいかない。かと言って保健所へ連れて行くのは嫌だし、シエラちゃんもリリーと仲良くなってるから、もしもの場合は一緒に住める場所を探してみようと考え始めていた。


× × × ×


「先生、最近シエラちゃん早く帰ってますけど、何かあったんですか?」


 リリーを保護してから三週間が経った金曜日の放課後、活動報告書を持って来た赤井さんが唐突にそんな事を聞いてきた。


「ああ、それはきっと犬の世話をする為だよ」

「えっ? 先生達って犬を飼ってたんですか?」

「飼ってたって言うか、迷子の犬がシエラちゃんについて来て、それで飼い主が見つかるまで保護してるんだよ」

「迷子の犬ですか……ちなみにその犬の犬種は何ですか?」

「チワワだよ」

「チワワ……あの、もしかしてそのチワワの首輪に、リリーって名前が書いてませんでしたか?」

「えっ!? どうして知ってるの?」

「やっぱりそうでしたか。実はそのリリー、私の知り合いの子の飼い犬なんですよ」

「そうだったんだ……で、その人はこの近くに住んでるの?」

「先生達の住んでる地域からはちょっと遠いですね、三つくらい隣の街です」

「三つも隣の街か……」


 ――それじゃあ近所を捜してても見つかるはずないよな。


「あの、先生、さっそくその子にリリーが見つかった事を教えてあげたいんで、ちょっと外しますね」

「あ、ああ、分かった、よろしく頼むよ」

「はい」


 いつまでも見つからなかったリリーの飼い主は、こうしてあっさりと判明した。それはとても良い事だけど、同時にこれはリリーとのお別れを意味するわけで、それが俺にとってはちょっと寂しかった。


「先生、今リリーの飼い主と連絡が取れたんですけど、これから引き取りに行ってもいいですか?」

「あ、ああ、いいよ、リリーも早く飼い主に会いたいだろうし」

「それじゃあ、先生の家の場所も伝えておきますね」

「分かったよ、あ、それとできれば、引き取りに来るのは二十一時頃でお願いできないかな?」

「分かりました、それも伝えておきますね」

「ありがとう」


 こうして俺はやっていた仕事を早々に切り上げて帰り支度をし、急いで自宅へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ