8.妖精少女は準備する
幼いアリラリラが王に頼んだことは、ティティテアの中からアリラリラの記憶を消すことそれだけだった。国王は気の毒に思ったのか再びティティテアの友人になれるように計らい親に見捨てられて孤児になったアリラリラを保護してくれた
「君のあの時の選択には驚いたよ。私は消滅を望むと思っていた」
「生きることに執着しているだけですよー」
「本当に行くのかい?」
「止めるならもう一妖精叩かないといけなくなりそうね」
冗談めかして言ったが王は特に反対することもなかった。けれど不思議そうな顔をしている。不思議に思うことは何もないはずである
「君は怖くないのかい?もう二度とここに戻って来れないかもしれないよ。迷いの森の外は私でさえどんなところかわからない、未知の領域だ」
「怖くはないです。それに絶対戻ってくるって決めてるから」
「わかった。迷いの森の外には私の魔法で飛ばそう、向こうでは修行中の魔術師として行動するといい。それから人間で名前はおかしいらしいアリラとでも名乗っておきなさい」
アリラリラは首を傾げた、未知の領域と言っている割に知りすぎていないだろうか。名前がおかしく感じるなどなぜ王が知っているのだろう。アリラリラの疑問に気付いたのだろうかうなずくと口を開いた
「生まれつきの羽なしが外に行ってるんだ。もともと羽なしは差別用語でなくて外の世界に行くことができる妖精という意味であった。けれども月日が経つうちに迷いの森が広がっていくうちに外に出にくくなり役立たずになってしまった」
「それで差別され始めたと、今も外にいるの?」
「もちろん、私が転送魔法を生み出したからね。彼らにも連絡しておこう何かあれば頼るといい」
仲間が向こうにいるのなら心強いが、外の様子を伝える仕事をしているのなら国民に伝えればいいのに。そうすれば差別は和らぐのではないのだろうか。今考えてもしかたない。それよりも、旅立つ前にしておかなければいけないことがある、アリラリラは国王に背中を向けた。ちぎられボロボロになった羽が痛々しく残っている
「これ、消してもらえないかな」
「二度と元に戻れないよ」
「承知の上。覚悟はもう決めた」
国王は椅子から立ち上がり、アリラリラの背後に立つ。痛みに耐えようと歯を食いしばっていたが来なかった。むしろ、日向ぼっこをしているような暖かさがある
「これで消えたよ」
「ありがとう。家に帰って準備してくる」
アリラリラ箒に飛び乗って城を飛び出した。不思議と背中が軽く何かからとき放たれたような気分になった。空は変わらすに赤い雲がうごめき続けていた