7.妖精少女は思い返す
ティティテアの提案はいつも突然で面白いものだ。一緒に湖にもぐったり秘密基地を作ったりいたずらしたり、まだ幼いからこそ許されることもした。けれど、やっていいことと悪いことは区別をつけているつもりでいた
「今日はまよいのもりへいくわよ!」
「いちおう言っておくけど危ないよ」
「つまらないこといわないの」
いつもの調子で言うティティテアの後をついていく。今までも大きな問題はなかったから油断していた。入ることを禁じられていた森で妖精を刈ろうとしていた人間に運悪く出くわしてしまった。人間は目に喜びと狂気と欲にまみれた笑みを浮かべて刃物をを手にじりじりとと近づいてくる。恐怖で足が地面に縫い付けられたような感覚であったがカラスの鳴き声を合図にティティテアの手を引いて羽で飛び出した
「アリラリラ苦しい」
「だめ!後ろは見ないで」
妖精がいくら人より早く移動できるとしても大人の足では追い付かれてしまう。何とかティティテアだけでも逃がしたい。ぐっとティティテアの手を引きふわりと枝の上に乗る。今は撒けたがいずれ見つかるだろう
「いい、私があいつをひきつけるからティティテアは花びらで空にたすけてって文字を作って。私の魔力じゃできないからたのんだよ」
「たのまれたわ」
ティティテアは泣きそうになりながらもしっかりとうなずいてくれた。アリラリラはゆっくりと地面に降り立つと男と向かい合った。血走った眼がアリラリラを捕えて離さない
「人間ってほんとうにかわいそう私のようなこどももつかまえられないんだね。はねもないのよね」
「なんだと」
「悔しかったら追い付いてみてよ。ほーらこっちだよ」
人間は挑発に乗りアリラリラを追いかけてくる。羽を閉じて広げて光を撒き枯れ葉が頬をかすめても飛び続けて距離を稼ぐ。ここまでくれば十分と思い油断したとき何かが肩を矢が貫いた。痛みのあまり地面に転げ落ちのたうち回る。背中に見えるのは銀色の矢だ
「よくやったな」
「分け前は約束どおりもらうからな。これがあればあの子も助かるんだ」
「まあまあ、落ち着けって。まずは羽をもがないと」
頭と足を押さえつけられて抵抗できない状態になってしまった。やめろと力なくつぶやいてもやめることはない。木を切り倒したような音と共にアリラリラの羽がもがれる
「があああああああああああああっ」
とても自分の声とは思えない醜い声が森にこだました。経験のない痛みに頭がちかちかする、今にも気絶してしまいそうだ。いっそできたら楽だったのに痛みでまた覚醒してしまう
「そこまでにしなさい」
「な、お前はだれだ」
「君たちが追いかけまわしたこの子の親だよ」
「アリラリラ!しっかりして」
穏やかな声と共に暗かった森に眩しい日差しが降り注ぐ。王は美しい羽を大きく広げた。その美しさに人間も目を奪われ口からため息を漏らす。王は怒っているように見えないが相手を圧倒する雰囲気を出していた
「命が惜しいのならその子を解放しなさい」
「死ぬことは覚悟の上だ。それよりも」
「あぎいいいいいいいいああああああ」
もう片方の羽根までもちぎられてしまった。声はかすれて息も絶え絶えになってきた。このまま消滅してしまいそうだ
「これ以上私の怒りを大きくしたいのでないなら今すぐに去れ」
「ひぃいいいいい」
男たちは大きく輝きだした羽に恐怖を覚えたのかよろけながらも逃げ去ってしまった。国王がアリラリラに近づきそっと破けてしまった羽を撫でた。ティティテアも木の根につまずきながらもゆっくり近づいてくる
「これは、治せない」
「そんな、私のせいで。私がおくびょうでアリラリラをみすてたから?」
ティティテアが動揺してぶつぶつと何かつぶやきだした。何を考えたのか彼女自身の羽に手を伸ばして引きちぎろうとした。子供の力でちぎれるはずもなくその前に止められた。こんなこと夢だ醒めて醒めてと唱え続ける
「壊れる、ティティテアがこわれちゃう。おうさまこの羽は治せないの」
「すまないがここまで酷いと王の力をもってしても治せない」
「じゃあ、これはできる?」
国王はアリラリラの提案に目をわずかに見開いていいのかいときいた。いいのとアリラリラは返した