4,妖精少女は城へ行く
「ティティテア、はいるよ」
「どうぞという前に入ってきたわね。それで、何か収穫あったのかしら」
「見ればわかる」
ティティテアの部屋の窓は開いていた。アリラリラが来ることをわかっていたかのような、実際はわかっていただろう行動に普段なら皮肉の一つや二つ言っていてだろうが今回はそんなことをしている暇はない。ティティテアもアリラリラの箒の後ろのカイタンタを見て何かあったことを察して口を開いた
「まあ、どうしてそうなったのか説明してくださる?」
「私があの赤い雲の正体を突き止めようと飛んであそこまで行ったんだ。近づくと雲が形を変えて手になった。それでカイタンタ、このガキが捕まってそれで」
アリラリラが言いにくそうにしていることが分かったのだろうティティテアうなずいた。カイタンタの赤黒く染まった羽を見ればすぐに理解できるはずだ
「あの雲からは魔力を感じた。でもあれだけ大きな魔法を使えるのは国王様しかいない」
「あら、お父様のことを疑っているのかしら?」
「茶化さないでよ。解ってるでしょう」
「人間のそれも魔術師の仕業。エルフや精霊がする理由もない、それに空の上からなら迷いの森に入る必要もないわね」
「そういうこと。どうするの」
「どうするも何も、まずはお父様に報告ね。カイタンタもついていらっしゃい」
「え、俺?はい」
カイタンタは驚き軽く飛び跳ねた。いつもなら羽をピクリと動かすところだっただろうが、今は動かない。ショックを受けないように羽のことはこのまま伏せておいたほうがいいだろう。大きな扉を開き花が咲き乱れる廊下を通る。ティティテアの魔法は植物と相性が良いらしく使っていても疲れないらしい。そのため、アジサイの花の隣にチューリップが咲いていたりもする
「それにしても、あなたが危険なところに妖精を連れて行くなんてね。私のことは連れて行かないのに」
「立場が違うでしょ。一般市民の私とティティテアとでは」
「そうね。この子の親にはなんて説明するつもり?」
「私が遊びに連れて行った先でたまたま事故にあった」
そう言うとティティテアはあきれた目をアリラリラに向けた。さすがにそれでは無理があるとわかってはいるものの本当のことを言えるはずもない。羽なしのアリラリラが何を言おうと聞く耳を持たないはずだ
「お、お姫様違うんだ。俺勝手についていったんだ、だから羽なしのねぇちゃんは悪くない!」
「それはわかっているわ。アリラリラがそんなことする筈ないもの、でもあなたがついて行ってることに気付かなかった彼女の過失よ」
「それはいくら何でも」
「それと彼女にはアリラリラという名前があるの、そんな差別用語で呼ぶのはやめなさい」
ティティテアがきつい口調で言うと、カイタンタはしょんぼりとしてしまった。アリラリラが言っても聞かないのにさすがにティティテアに言われると聞くようだ。
「だって、名前知らなかった」
「教えてなかったの?」
「え、だって聞かれなかったから」
ティティテアは立ち止まり、春の日差しのような温かく慈しみを感じさせる笑みを浮かべてカイタンタと目を合わせた
「彼女のことはバカとでも呼んでおけばいいわ」
「ちょっと、ティティテア」
「差別用語で呼んではいけないわ。でも、バカと呼ぶにはふさわしい頭をしているの」
カイタンタは困惑したように、ティティテアを見つめ返していた。アリラリラがどうやり返そうかと考えていると大きな扉が自動で開いた
「部屋の前で何をやっているんだい」
「お父様、ごきげんよう」
「ごきげんようじゃない、またアリラリラを困らせているのかい?」
この世界で一番美しく大きな羽をもつ国王が机に座りながら笑みを浮かべていた。残念ながら大きな羽は移動に邪魔ということで魔法で小さくなっている。それでもため息が出るほど美しい羽だ。
「今回はアリラリラのほうからですわ」
「その後ろにいるこのことかい」
国王は苦しそうな顔をした。カイタンタの姿を見てそう思ったのだろう。この王なら解決してくれるそう思わせてくれる強く優しい人だ。ゆっくりカイタンタのは羽に触れた
「いでえええええええええっ」
カイタンタは絶叫をあげて転げまわった。そして原因を見ようと後ろを振り返り驚愕で目をいっぱいに見開いた。赤黒く染まった羽を見てしまったのだ。叫んだあとは放心して気を失ってしまった。三人は急いで部屋を飛び出すと医務室へ向かった