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6.あたしの転生病と心因性○○症について

「転生病は魂の病ですので、人間でも獣人でもかかります」


獣人医の先生はそう説明した。


前の診察から1週間経っても、あたしはあんまり変わらなかった。それでもう一度来てくれた先生は、転生病の診断を下したのだ。


『魂の病』ってにゃんだにゃ。


「ご存知のように万物に宿る魂とは、その器に死が訪れるとまたリサイクルされて別の器に宿るものなのですが、その過程で前の生の記憶は魂の深部に記録されると考えられています」


「確か通常ならその記憶は死ぬまで再生されることがないが、現世において何らかのショック等の原因により再生されてしまう――― ということでしたね」


あぁ、きっと今ご主人様はまた眼鏡をクイッてやってるところにゃ。


あたしは丸まってご主人様のシャツをガジガジ噛んだ。この1週間、ご主人様に触れなかった分、丸まったりスリスリしたりカミカミしたりしたシャツはもうボロボロになりかけている。


「再生でも良いですが、私たち医師は『フタが開く』と考えています」


と先生。細かい訂正だにゃ。


「何らかのショックでフタが開く――― 例えば死ぬほどの身体的または精神的な衝撃、あるいはもう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの強い負の感情、などだとされていますが……思い当たりはありますかな」


ご主人様はしばらく考えて、元気なくこう言った。


「不甲斐ないことに……さっぱりです。子猫の時からもう10年も一緒にいるのに……」


あたしには思い当たりがあったけれど、それが分からなかったからってご主人様がションボリすることない。


だってあたしはずっと隠していたんだ―――あたしだけのご主人様でいてにゃ、ほかの人と仲良くしにゃいで――― っていう汚い気持ちを。


ご主人のことが大好きな獣人(ペット)なら誰だってそうすると思う。


ご主人って人種は、どんなに優しくてもあたしたち(ペット)よりほかに好きなものがあったりするものだから。


「まぁ、ひとまずはフタを開きにくくする薬を出しましょう。症状の進行をある程度押さえられますから」


「……治らないんですか」


「治ったケースはありませんね。それで困る人ばかりではなく、医師にかかる患者が少ないのも理由の1つでしょうが」


先生とご主人様の話し声を背に、あたしはいっそう身体を丸めた。


(これはきっと罰なのにゃ)


大好きなご主人様の幸せを、どうしてもいちばんに祈ってあげられないから、いちばんの幸せを取り上げられちゃったんじゃないだろうか。


あたしはご主人様に聞こえないようにそっと、たくさん泣いて、そして眠くなった。


ウトウトしていると、ご主人様がこんなことを言っているのが聞こえた。


「それから脱毛症の薬はないでしょうか。どうもストレスがたまっているようなんです」


ご主人様、あたしの毛皮にハゲができてるの、気付いてたんだ……あたしは恥ずかしかったけど、さっきまでの暗ーい気持ちが軽くなるのを感じた。


全然近くにいられないのに、ちゃんと見てくれてたんだ、と思うから。それってけっこう、幸せなことだよね。


ご主人様があたしのご主人様である以上、世の中悪いことだらけ、って感じにはなかなかならないのにゃ。


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