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3.あたしのご主人様の婚約者について

朝食も後片付けも意外と早く終わった(あたしは何もしなかったけど、ご主人様の手際がいいのだ)。


ご主人様はまた座って新聞を読み始め、あたしはその膝の上に頭を預けてうっとりと目を閉じている。ご主人様が時々、あたしの頭や背中をもしゃっと撫でてくれる。幸せ。


でもそんな至福の時も長続きはしない……玄関のチャイムが鳴り響けば、それで終わりなんだ。


現れたのはご主人様の婚約者のダーナさん。丸顔で鼻がちょっと低くて、柔らかな鳶色の髪と瞳のチャーミングな女性だ。


顔立ちだけで言ったらあたしの方が美人だけど、彼女の魅力はそんなところじゃない。そこ分かっているあたり、ご主人様ってさすがだと思うのだ。


「こんにちは」


春の日差しみたいなきれいな声と笑顔でダーナさんは挨拶してくれた。


「こんにちは、ダーナさん」


あたしも普通に挨拶する。ご主人様の婚約者とかじゃなかったら、あたしこの人けっこう好きなんだけどな。


「シュクルちゃんにおみやげ」


いつもお土産にオモチャと新鮮なお魚のサラダをくれるところとか。


なんだ餌付けされてるのか、って思うかもしれなけど、大変だよ?朝早くから市場に行って、生でも食べられるくらい新しいお魚を買ってきて調理するのって……今日のドレッシングはバジル入りみたい。


「わーい、ありがとにゃ」


でもお礼にどうしても心が込められないんだよね(気付かれちゃってるかな?)。だってどうしても思っちゃうんだもん。


あたしが家でオモチャと戯れつつお魚食べてる間に、オマエら楽しくデートしてイチャイチャするんだろーが、とか。


こんな気持ち誰にも気付かれたくないなぁ、特にご主人様には……ってことは自然、ダーナさんにも好意的に接しなきゃいけないってことで。


あたしはダーナさんの手を握り、ほっぺを軽くペロッとなめておいた。


「ダーナさん、ほんと優しいよね!前にくれた本も面白かったにゃ」


「そう?じゃあ続き持ってくるわね」


「ありがとにゃ!嬉しいにゃ」


友好的な感じにできて良かった。でも、彼女がご主人様と結婚した後でもこんな感じにできるかな?


ご主人様とダーナさんって本当に良いカップルだと思う。それだけに、毎日目の前に2人が揃っていることを考えると憂うつだ。


「では行ってくるよ。チャイムが鳴っても出ないようにね。怖い人がきたら、隣の家に逃げるように。セキさんには頼んであるから」


帽子を被り、コートを着たご主人様が細々と注意してくれる。


あたしのことがそんなに心配なら、デートなんか行かないでほしいのにゃ。


今日はもともと機嫌が悪いあたしは、なんだかムカムカしてご主人様に抱き付く。行ってらっしゃいの挨拶と見せかけて……


「あ」


さすがのダーナさんも声を上げた。


あたしがご主人様の口をペロペロッと舐めてやったからだ。


「……大丈夫大丈夫。ぎりぎり、法律すれすれだから」


ご主人様は口を押さえて、自分に言い聞かせるみたいにそう言った。


法律すれすれ。それって意外と便利に使える言葉みたいだにゃ。

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