表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

5.此処は過去で出来た檻の中

ツァガナとリーネが出会いを果たした同日。星彩から離れたナムルマティア自治区に存在する本家の屋敷にて、私は縁側に座り込んで、不機嫌なまま団扇を仰いでいた。背中が向く方向、電気が消された座敷にはやりかけで投げ出された紙の課題が転がっていた。

庭に面した、些か大きすぎる其の部屋は所謂自室だった。

風流の粋の様な、此の大自然を凝縮させて作り上げた庭をぼーっと眺める。軒先に遮られた日光が縁側から垂らした両足をピリピリと焼いていく。

昔から何も考えずにぼーっとするのが好きだった。感情も思考も一旦脇に置いて、頭を空っぽにして自分を休めるのだ。

又1度団扇を仰ぐ。風が起こって、心地よくマルサラカラーの髪を舞い上げさせて、宙に遊ばせた。


団扇を仰ぐのにも飽きた私は、課題の近くに転がしておいた“装備”へ四つん這いでにじり寄った。


「どうかしました、シューテさん?そんな項垂れながら、這い寄ってきて。汗だくでそんなポーズっなんて扇情的!私はそんな子に育てた覚えはありませんよ!」


「あんたに育てられた覚えはない。エロじじいかあんたは。セクハラで訴えるぞ」


「短い装備人生でした。解体される時になったらせめて看取って下さいね」


「バカなこと言ってないで。ほら微希釈展開。除湿と温度調整ほらはやく」


「全く装備使いが荒いことでございまして」と装備は花色(藍色の一種。決して桜色じゃない)の煌めきを蒔いて希釈を開始する。瞬間、体感温度は寝心地の良い暑さまで下がっていった。


「あぁー、希釈様様。素晴らしいー」


「ナムルマティアが州国家を離脱したらこれも出来なくなりますけれどね。次期代表のしゅうてさま」


「わかってるって。でも現代表様は早々私に代替わりはしてくれる気はなさそうだし。義兄様らも代表の座を狙ってるし。明確に速さの違いを見せつけて早く代を譲ってもらわないと」


「そのためにもより速く、ですね。応援していますよ。こうして何年先もシューテ様の装備でありたいですから」


私は其の言葉が妙にこそばゆく思えて、ぶっきらぼうに「気に入られたもんね」と言い捨てた。


「それでツァガナはいつ帰ってくるの?」


こそばゆさが流れていき、先ほどまで頭を占めていた話題が私のところに舞い戻ってくる。此の話題を考えると決まって、些細な凹凸のせいでどうも収まりの悪い椅子に座らされている気分になった。

私は緩んだ顔を不満げに戻して“装備”に聞いた。


「あらあらあら、気にかけますね。余程この前の事が引っかかっているご様子で」


「茶化すことしかできないの?」


「怒らないでくださぁい。それでツァガナさんの帰省時期ですかー?ヴェーヌァさんは未定だと言ってますね。進路を決めに出て行って、それが順調だとの事で、もしかしたらそのまま向こうで生活するかもしれませんね」


「帰省?生活?嘘でしょ。ちょっと旅行に行ったんじゃなくて?」


「そりゃツァガナさんも進路を決める時期ではありますから。ナムルマティアがどちらに転んでも、彼は州国家に残るのが確定している様なものですし。幾ら助生制度がありましても、娯楽通貨がなければ味気なくて仕方ないですから。お仕事という古い表現改め趣味”を探すのも当然ですよ」


「だからってーーー」


此の儘では仲違いを解消することできないなんて、と言いかけて口を噤む。何処か口に出すのが癪に触ったのだ。

確かに私が仲違いの原因で、暫くの間は見栄を張って、ツァガナを無視しようともしていた。其の気があるなら私から行動を起こしてもよかったはずなのだ。今更私が仲直りを望むには、道理に合わないかもしれない。


けれど、元はといえば、過去に手を伸ばすなら、ツァガナが悪いのだ。ツァガナが先に居なくなったのだ。だから私は。


過去の事がフラッシュバックする様に思い出されて感情が荒れ立つ。声にならない怒りの呻きを漏らしながら、私は畳の上でバタバタと手足を振り回した。

不快というよりは、心の堰が、水をかけられた砂場の城の様にボロボロと崩れて、嗚咽が上がってくる感じだった。

そうなのだ。本来ならばツァガナが私に謝りに来るべきなのだ。其れなのに如何して私が会えないことを残念がって、謝れない事を心残りとしなければならないのか。

思えば思うほど怒りが湧いてくる。其の儘私はむしゃくしゃした感情を心の隅に投げ捨てて、この話題は保留っと思考を打ち切った。





「配信が見たい。なんか適当な番組流して。スポーツ関係がいい」


縁側に仰向きで寝転がり、手を天井に伸ばしてながら“装備”に我儘を言う。拗ねと震え声が抜けきらない声だった。


「はいはいお嬢様。ああ丁度スポーツ特集やってますね。それでいいですか?」


「んー」


「じゃあそれにしますね。シューテさん、手下げて下さい。そのままだとスクリーンが宙に形成できないので」


「はいはい」


伸ばしていた手の力を抜くと、手が重力に従ってぺたりと床まで落ちる。其の直後、私の視線の先に、光の粒が密集しスクリーンを展開して、番組を再生し始めた。


最初は陸の、次は海の、最後は空の、多様なスポーツが有名無名に関わらず次々と紹介されていく。私は其の中で、番組の最後に、最も印象が強く残るだろう位置で紹介されたスポーツが気にかかった。

興味が湧いたのではない。嫌悪感があったのだ。明確な拒絶感を覚えたのだ。通常なら処世術として、そんな事は口にしない。しかし、今日はポロリと口から漏れ出てしまった。


「騎翼走、ね。嫌な感じ」


「ナムルマティアの歴史を思えば、そう思うのは仕方ないかもしれませんが...」


「何?だってこんな賭け事。順位を競うだけなら未だしもそれで賭け事なんて!馬鹿げてる!」


「シューテさんッ!」


“装備”に反感を露わにされたのが納得できなくて、私の感覚は間違ってない、と声を荒げた。直後、“装備”は今まで見たことがない様な剣幕で私の名前を叫びあげた。

私は思わず身を縮ませて息を飲んだ。“装備”がそんな態度を取るなんて想像したこともなかった。


「私たちは寛容を自称しますが、鈍感ではありません。私たちは侮辱を許しません。ナムルマティアの歴史に何があろうと、他人種の文化を貶める理由にはなりません。今の言葉を取り消して下さい」


私は口をパクパクと開閉した。余りの衝撃で声が出ず、“装備”が言う内容も十分に理解出来た訳ではなかった。冷や汗が肌を這った。

“装備”はそんな私の様子を見て、声のトーンを下げ、一転穏やかな声を出した。


「少し話しましょうか。騎翼走は悪質な賭け事ではありません。何より元を正せば、騎翼走に賭け事の要素はありませんでした。今でこそ希釈技術の確立で州国家は州内で完結出来る様になりましたが、建国当時は外貨獲得の手段が必要で。その際に州外向けのアミューズメント一種として、騎翼走は賭け事の要素が付け加えられました」


「それが、優秀な対州外政策として残り続けてしまっただけなのです」と“装備”は申し訳なさそうに言った。


「それにですね。競技者やそれに関わる関係者は、ただ競技自体に夢中になっているだけなのです。速く飛びたいだとか猛禽馬と触れ合っていたいだとか、そういう心持ちでやっているだけなのですよ。脚が遅かったから殺処分だとか、理不尽な暴力がのさばっているだとか、そういうことはないんですよ。ナムルマティアの皆さんには一見同じに見えてしまうかもしれませんが、過去が重なって苦痛に思えるかもしれませんが、思い込みだけで語ってはいけませんよ。シューテさん」


”装備“の話が終わると、私は庭に視線を投げた。“装備”の方は見ていたくなかった。

口の中で舌を転がして、動きの少なくなっていた肺から吐息を漏らした。

“装備”が言っている事は理解出来た。けれど直ぐに、心の中にすとんと受け入れられるわけではなかった。

先ほどの発言に後ろめたさがないかといえば其れも嘘になる。言い過ぎたとも思うし、軽率であったとも思う。反省する所は確実に存在する。


だからと言って、今すぐに自分たちの過去と其れとを割り切って考えるのは無理だった。

過去は私たちを簡単には離してくれない。今の自分から切り離すにはかけがえのない物で、乗り越えるには肌にへばりつき泥濘みすぎている。

そう易々と、過去の軛は引き抜けない。其れが出来たら、ナムルマティアはとっくの昔にこんなに情けない文化体系を改革できただろう。

理性と感情の板挟みになって、首が回らなくなる。どうすれば良いか分からなくなって、不満と心細さだけが目の前に残るようだった。


私は、重くなった頭とは対照的に、感覚が薄くなった身体を持ち上げる様に立ち上がると「散歩に行く」と縁側を去った。今はただ時間が欲しかった。

“装備”は取り消しの催促をすることもなく「いってらっしゃいませ」と一言だけ発して、私を見送った。




散歩がてら、屋敷内の庭園を横切る赤塗りの木橋通路をペタペタと歩く。

真上から幾許かずれた太陽が庭を照らして、極彩色の反射光が視界の端を撫でていく。

其の光につられて立ち止まって見渡せば、薄緑や濃緑の植物の数々が目に入り、視線を下ろせば、岩で縁取られた池が水晶の様に鎮座している。強い色は多くない。全体に数点、空間を引き締めてメリハリを付ける為だけに存在している。まさに森林と品を重視した空間だった。


気持ちの整理は考え込んでいても進まないというのが私の持論であり、其の点、目の前に広がる庭園は意識を変えるのに丁度良かった。


最初に目に付いたのは、やはりゆらゆらと日光を反射して、飴細工の様に輝く、巨大な池であった。風が吹いては、水面に紋様を描き出して、消える。如何にも儚く幻想的だった。

気持ち良さそうだ、冷んやりしてそうで、と私は膝を抱えて座り込んで湖面を眺めた。水面に私の顔が映って、その下には湖底が見える。

湖底が見える程に透き通った薄青色の水はさぞ清らかなことだろう。焼けた肌についた汗を、過去への蟠りや正論に対する抵抗感ごと洗い流して、冷やし清めてくれるかもしれない。


そういえば、最後に水浴びをしたのは何時だっただろうか。州国家の学校では体育は科目選択制で、水泳より陸上を率先して選んでいた事もあって泳ぎ損ねてしまった。友人から海辺の都市に泳ぎに行かないかと誘われた事もあったが、仕来りが邪魔して行く事はできなかった。

となると最後になるのは、ツァガナが未だ本家に居た頃に此の池で共に水遊びをした、あの時になるのだろうか。

結局は何を考えても思い出話になればツァガナが出てくるのかと、我ながら呆れてしまう。


けれど、本当にあの頃は良かった。ツァガナはよく笑っていた。ツァガナの父親も長い期間家を空ける事はなかった。私の父や母も娘として私を可愛がってくれたし、比較的家の違いを気にせず、子供達同士で遊ぶ事が出来た。其れで。其れで。


そんな時間がもう帰って来ないと思うと、自然と涙がポロポロと落ちて、水面に波紋を描いて、池に溶けていく。一度決壊を始めれば、涙腺は何処までも緩みだして、紅涙を阻むものはもう何もなかった。

私は涙を掻き消そうと何度も手で顔を拭った。何時もなら2、3回深呼吸をすれば治るのに、今日は中々治ってくれない。


今日は心が忙しい日だ。様々な事を思って、其れのコントロールが上手くいかない。

普段なら、ツァガナの事なんて大して気にしない。騎翼走にもあんなに噛み付かなかった。思い出を振り返って泣く事だってなかったのに。

嗚呼本家なんてやだな、と贅沢な悩みが身体のうちから上がってくる。分家の生活を鑑みたら、本家の生活は楽しかないというのに、如何してこんな事を思ってしまうのだろうか。

嗚呼、嗚呼、と今迄とは比にならない様な感情が込み上がってくる。もう既に固く閉ざした唇を突き破ろう、と熱い何かが喉を満たしている。

最後の理性が、視線を周囲へ散らして、目の付く所に人は居ない事を確認する。屋敷に誰もいない事はないだろうが、目に入る範囲で居ない事が分かっただけでも十分だった。


「走る事なんて全然好きじゃナイノニッッ!!!」


内に溜め込んだ何かが爆ぜる様な悲痛な叫びだった。

叫んだ拍子に、前のめりになった身体は池の中に滑り落ちて行く。

若干の浮遊感。状況が分からず、頭が真っ白になる感覚。後に来る軽い衝撃と着水音。

ぶくぶくと気泡の動きが鼓膜を揺らして、自分が池に落ちてしまった事を理解する。

池の水は見た目通り澄み渡って冷たくて心地よかった。

水に熱を奪われて、荒ぶっていた筋肉が安らいで行く。力が抜ければ、自然と身体は水面へと押し上げられていた。

顔が水上に出て、息ができた。水滴が頬を伝って池へと戻って行く。水面を漂いながら、何の悩みもない様に燦々と輝く太陽に手を伸ばした。水面下の涼しさと太陽から来る暖かさが本当に心地好い。

一度吐き出して仕舞えば、心は凪の様に穏やかになった。

最近少し負荷が掛かり過ぎていただろうか、此の儘永遠に漂っていたいな、と私は目を閉じた。


私は今も昔も、ただ私の前に居た彼に追いつきたかっただけで。追いつくには走るしかなかっただけで。最速だった彼が居なくなってしまったから、其の後ろにいた私が最速になってしまっただけで。本当に嫌になる。




涼しさを堪能し終えて池から上がる頃、屋敷の中から怒号が聞こえた。怒り心頭に発するといったものではなく、寧ろ声色は嬲る要素が強いものの様に思えた。場所は私に当てられた生活スペースの外ではあるが、其処まで離れているわけでもなさそうだった。

私はさっぱりとした顔に眉間の皺を刻んで「今日もか。領主モード領主モードやれるやれる」と呟くと、怒号の方向へ向かおうして。

今の自分の服装に意識が行った。私服で、しかも濡れた所為で肌に張り付き、下着さえ透けて見える。予測が正しければ。此の儘では迎えない。けれど、身形を整え上げる時間もない。


「ああ、もう仕方ない」


私服を脱ぎ捨てて、肌表面の水滴を払う。流石に下着は脱げないので此の儘着続ける。髪は絞ってから、かき上げて最低限の外聞を取り繕った。服は近くにあったシーツを掴み取って、古代のドレスの要領で身体に巻きつけ、私服の中から簪と引き抜いて、刺し留めアクセントとした。

何時もは無駄としか思えなかった上質なシーツも今ばかりは価値あるものに思えた。

最低限の体裁は整えた。湿り気が残っていた所為で、所々生地が身体に張り付いて体型が出てしまったり、下着が透けて見えてしまっているが、仕方がない。

我ながら整った身体をしていると思う。見られて恥ずかしいものではない筈だ。領主は度胸。やるしか無いの!と意を決して、私は怒声の方向へ向かった。


声の出所が見える頃には予想は確信に変わっていた。1人の本家側の人間と、私の世話役の関係者、今回は子供が3人が向かい合っている。状況としてみれば、子供を大人が叱っている様にも見えるが、大方今回も、兄様派の人間が私の従者に何癖を付けているのだろう。

子供たちは今にも泣きそうで、反面大人は得意げに声を荒げている。本当に気分が悪かった。


私は両者の間に身体をねじ込ませると、声を張り上げながら、兄様派の人間を睨みつけた。


「何があった、説明しろ!」


割り込んできた私に、兄様派の人間は一瞬たじろぐが、私の格好を見ると舌舐めずりをする様に下卑た笑みを浮かべた。

顔が熱くなって視線から逃れたい思いに駆られるが、同時に湧いた侮辱された様な怒りに背を押されて、生娘の様な舐められる反応を押さえ込んだ。

「説明しろと言った。聞こえないのか!」と堂々としながら剣幕を強めた。

そいつは数秒間をおいて堪能したという顔で態とらしく声を上げた。


「これは、これは、シューテ様。どうもこうもございません。そこのこわっぱどもが、この辺りをうろちょろしていまして、お役目はどうしたのだと問いただしていたところでして」


私の背の陰に庇う様に隠れさせた子供達を指して、そいつは愉快そうに笑った。

私は背後に隠した子供達をちらりと見やる。

彼らの顔には見覚えがあった。数日前に本家の清掃係に当てられた子供達だったか。本家の屋敷は広い。大方慣れない屋敷に迷って、義兄様派の敷地に迷い込んでしまったのだろう。屋敷に来て早々何癖の対象になるとは運の悪いことだった。


「彼らは私の世話係の子らだ。怪しいものでは無い。私が軽食を食べたくなったので、彼らに取りに行かせていたのだ。ここの近くに台所があるだろう。そこへ向かわせたのだが、細かく道を言わなかった故、道に迷っていたのだろう。このことは私から言いつけておこう。だが彼らは新前だ。そう目くじらをたてるな」


勿論嘘だ。そんな事は一切ない。相変わらず下手な嘘だ。派閥争いで裏をかき合う悪辣な本家の人間には一瞬の躊躇を稼ぐことが限界だった。だが、此の場合、真偽も巧妙さも重要ではなかった。

ただ相手が僅かにでも気後れすれば其れで良かったのだ。


「ですが、こちら側の敷地に迷い込みなど普通は......」


「私の発言が信じられないという気か貴様は。まあ良い。貴様も思い違いで今の地位を失いたくはないだろう。去れ。気が変わらないうちにな」


食い下がろうとしたそいつを追い返す様に脅しを掛ける。最初から地位を奪うなど行う気もなければ、やり方も知らなかったが、脅しとしては十分効いた様だった。そいつは不服そうに頭を下げるとおずおずと此の場を去っていった。

そいつがしっかり離れた事を確認すると、私は顔を覆って「恥ずかしい最悪あんな奴に」と小声で本音を漏らす。だが、此処ではおちおち羞恥してもいられない。早く自分の敷地に戻るべきの様に思われた。

何回か咳き込むと、私は直ぐに気を取り直して「そこの付いて来い」と怯えが抜けぬ子供達を引き連れて、自室へ戻った。


部屋に戻ると置いていっていた“装備”が「お早いおかえりで」と出迎えてくれた。私は「いつのもいびりがあって、その関係で」と背後隠した3人の子供を部屋に招き入れた。


「ヴェーヌァーあ?ヴェーヌァー?ゔぇええなあああ?」


と大声でヴェーヌァを呼びつけるも、一向に彼女は来ない。普段ならば、声を上げる直前に「どうかしましたか?」と声を掛けてくることすらあるというに。

そういえば今日ヴェーヌァはライブに行ってるからいないんだった、と今更になって私は思い出し、間の悪いことだと歯噛みした。


私は子供が苦手だった。難しい事を考えなくて可い屈託さは好きであったが、距離感の分からなさから相手をするのは苦手であったし、今迄そんな機会もなかった。

こうして、何癖から子供達を助ける事はあったが、其の後、直ぐにヴェーヌァに相手を投げていたので、ヴェーヌァが居ないというのは痛い誤算だった。

取り敢えず甘い物でも食べさせておけば、とお菓子入れを覗くも、


「ああ私がいつも噛んでるガムしかない」


と此れ又間の悪い事に中は空だった。

子供達の親、つまり私の世話役たちのスケジュールを見ると丁度今は出払って居て、誰かに相手を変わってもらう事も出来そうになかった。


深くため息をついてから、発想を変える。

どうしようもないのだから一緒に街にでも出るか。此の子たちの好い思い出にもなるだろうし、気分転換として街に脚を伸ばす為お側付きの代役も探さねばならなかったし、と半ば諦めの入った吹っ切れ方を見せた。


「おい、そこの、じゃなかった。ねぇ君達髪結いはできる?私さっき池に落ちちゃって。身なり整えたら一緒に街に出よう。よそ行きの服とか靴とかある?ない?じゃあそれを買いに行こうか」





メリークリスマス、聖なる25日いかがお過ごしでしょうか。私は普段の平日と変わらず、夜飼い猫に慰めて貰う予定です。

クリスマスプレゼントとして長所短所感想等下さってもいいんですよ...?

今年もあと僅かですが、皆様が平穏無事に過ごせる事を願っています。


次回の更新は2019/1/1を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ