第一ノ巻 その男最高と謳われて
晴明の式神は『十二天将』と呼ばれる干支を基盤とした式神です。
それぞれの式神がどの様な能力を持っているかは、この第一ノ巻では書いては
いません。
一つ、能力として出てきているのが“十二天将辰アジラ”の能力。
アジラは『治癒』の能力を持っています。
ファンタジーで言えば『ヒーリング』という感じでしょうか。
しかし、アジラはその能力で病気は治せません。
他の式神の霊力回復も出来ません。
出来る治癒は、簡単な擦り傷やかすり傷を治す程度です。
※今後、こちらには前回のあらすじと登場する式神の能力等を紹介して
いきたいと思います。
「随分、派手にやらかしてくれたぜ。お陰でおれの睡眠時間削りやがって」
その男の目の前には数十メートルもある不気味な化け物が丸い口にびっしり生えた鋭い歯を見せ、体を揺すりながら自身の力強さを暗い闇夜に響き渡る低い声を出しながら誇示しているかの様だった。
さもそれは宇宙外生物の様に感じられた。
月が照らし出す化け物の体はテカリと光、その不気味さと気持ち悪さを増す。
その化け物の前にその男はいた。
真っ黒な髪に白いメッシュ、自信とも取れた表情
ややつり上がった目の金色に光るその瞳は化け物以上の力強さを見せつけていた。
男は一枚の札を胸元から出すと
「このおれの顔を拝めただけでも感謝しろよ」
と軽く笑いながら言った。
美しい庭が広がり、暖かな日差しが降り注いでいた。
その一部屋から声が聞こえてきていた。
「我一存での願いとはいえ、都を脅かす妖は放ってはおけぬ。
その妖を払い申せる者はお主しかいなかった。感謝致す」
と気持ちの良い風が部屋を一周すると簾の奥の方から声がした。
その声の主の顔は分からない。
なぜなら、この主こそ“平安京”という場の今でいう天皇に位置する“主上”であった。
その前に正座しているのは昨夜の男であった。深々とお辞儀をした。
そして背筋を伸ばすとはっきりとした声で述べた。
「私は都を脅かす妖を払う為に師賀茂忠行の元にて修行を積んだ身。
今後もこの力、京の人々を守る為に尽くしましょう」
「その言葉、頼もしい言葉だ。それでこそ最高とまで謳われる陰陽師
《安倍晴明》だ」
「もったいなきお言葉。ありがとうございます」
と晴明は深々と再び頭を下げた。
その様子を外廊下の端に前脚を乗せて、体を伸ばして部屋の中を覗く様にして見ていた一匹の犬
その横にはこの京にて見た事がない異国の服を着た背の高い青年が腕を組んで寄りかかって立っていた。
犬はヒョイと男の足元に座った。
『なにが“京の人々を守る為に尽くしましょう”だよ』
低い声で呆れた声で呟いた。
「仕方ないさ…実際、除霊して悪霊を払ったのは晴明だ。俺たちはそのサポートをしたに過ぎない」
『だけどな~納得いかないぜ』
とプイと横を向いた。その様子を男は軽く口元を緩めて見ていた。
と頭の上から
「それでは私はこれにて失礼致します」
晴明の声が聞こえた。ギシと音が男の耳元で響く。
少し離れた場所から下りて来た晴明は彼らの元に歩いてやって来た。
普段はド派手な狩衣を着ている晴明も流石に主上のいる内裏に来て主上と面会する際には白い正装の狩衣を着ていた。
「アンチラか?なんで、お前がここにいるんだ?」
晴明は眉を寄せた。
「アジラからの指令。
“晴明様が主上に失礼のない様なお言葉を話されているのかどうか確認して来て
下さい”だってさ」
『まぁ、俺とアンチラが聞いていた限りではなかったと思うけどな』
晴明は口をヘの字に曲げ
「だからなんでおれがそんなアジラに心配されなきゃならないんだ?」
アンチラは肩を軽く上げると言った。
「アジラが晴明のお世話係だからだろ?それに晴明は別にアジラの言った言葉に反抗したっていいんじゃないか?晴明の方がアジラより立場は上なわけだし…」
『だけど、それを言ったら返り討ちにされるに決まってら。俺の中じゃアジラの方が晴明より上手だと思ってるからな』
隣にお座りした細身の灰色の大きな犬が荒い毛の尾でポフポフ地を叩きながら晴明を見上げながら言った。
その言葉に晴明は舌打ちすると、いきなりその犬が叩くのをやめた尾を踏みつけた。
『ギャー』
とその犬は大声を発した。その声に内裏にいた者たちが部屋から顔を出し、歩いていた者は晴明たちの方を不思議そうな表情で見ていた。
「全く、このバカ犬が…帰るぞ」
晴明はアンチラを見てから振り返るとスタスタと歩き出した。
アンチラが足元の犬を見ると、踏まれた尾を必死に舐めていた。いつもはりりしい立ち耳も今はペタンとしていた。
「(あーこりゃ、また夜一騒動起こるな~)」
アンチラは晴明の背を見て息を大きく吐くと共に肩を落とした。
そしてやはり一騒動は起きた。
「それでショウトラに当たったって事ですか!?」
そこには自室の自分の漆机に頬杖を付き、そっぽを向いている晴明ともう半笑いしかしてないアンチラ、黒いチャイナ服を着た綺麗な顔立ちの長いストレートの黒髪をした者の膝枕に顎を乗せて昼間晴明に踏まれた尾に手をかざしながら、もう片方の手でショウトラの頭を撫でていた。
「はぁ?ショウトラが余計な事言うからおれもイラっときたんだよ」
「そのイラッをいつも何かしらにぶつけられるの止めて下さいませんか!!
ショウトラは晴明様の文をいつも届けてくれる大切な式ではないですか!!」
晴明がショウトラの方をチラリと見ると膝の上で片目を開けて晴明を見た後顔を
背けた。
その行動にまたイラっとした晴明は事もあろうに机の上にあった返信を書いた文の巻をショウトラの方に向かって投げつけた。
『キャイーン』
暗闇の中に響き渡る痛々しい声。
その瞬間、ボンっと犬は人間になった。
「イッテー、晴明“動物虐待”すんじゃねぇーよ」
銀色のもさもさヘヤーの中から膨らむ赤いたんこぶを両手で押さえながら涙目の
青年が口を必死に痛さに我慢する様に唇をキュッと強く閉じていた。
「てめぇーがおれを苛立たせる行動ばっかりすっからだろうがっ!?」
遂に晴明もブチ切れ。
「アジラ…晴明、何かあったのか?やたらと機嫌悪くないか?」
晴明とショウトラの言い争いを抜けて、呆れてため息をついているその者に小声でアンチラが聞いた。
そう、この黒い髪の者こそ“晴明のお世話係のアジラ”であった。
しかし…
「俺も詳しい事は知らないのだけど…博雅様からまた除霊相談を受けた様でその除霊をするにはどうしてもハイラの力が必要だったみたいです。
ですが、それをハイラに伝えた所ハイラが拒絶したみたいです。それが昨日。
そしてそれを知らなかった俺が今朝方、晴明様を起こす際に“ハイキック”で起こしたので余計に機嫌が悪いかと推測されます」
平然とアジラは述べた。
「アジラ、もっと晴明を優しく起こしてやれよ。みっちゃんは優しく起こしてん
だろ?」
「俺は俺のやり方、密には密のやり方がありますから」
とアンチラに向かってニコッと笑った。
このアジラ、実は外見は女性だがれっきとした“男”
そして“密”というのが、アジラのお手伝いをしている式神である。
しかし、密はアジラと違い必要な時にしか人型にはならない。
つまり、普段は式紙という紙になっている。
そして、いつも晴明を起こすのは密の役目。
前の晩、晴明は式紙になっていた場合、密を人型に戻す。
こうして晴明の朝の平穏は保たれている。
だが密を人型にするのを忘れると、もれなく朝からアジラの過激な起こし方が炸裂する。
アンチラは晴明がショウトラに投げつけた巻物を拾い上げ晴明に声をかけた。
「晴明、もういいだろ?ショウトラも落ち着けって…またアジラに治してもらえ」
2人はブスッとした表情でアンチラを見た。ショウトラは部屋を出て行き、反対側の簾の裏から犬になって出てきた。そして、その直ぐ傍に座っていたアジラの所に行くとアジラの頬に顔を擦りつけた。
アジラはその行動の意味が分かっていた。夜になると見せる“甘えたい”という犬の行動。ショウトラは夜になるとアジラの所に行き撫でてもらいながら寝るのが
大好きなのだ。
好きな人には甘え、好きでない人には甘えない。興味すらもたない。
それがショウトラの性格であり“戌の神”としての本能なのかもしれない。
それでも晴明の式神である事には変わりはない。命令には従う。
それもまたショウトラの使命でもある。
「はぁ~アンチラ、俺は部屋を出ますので後の晴明様のご機嫌取りをよろしく
お願いします」
と言いながら立ち上がった。アンチラも恐らくアジラがそう言うと思っていた。
ショウトラはアジラの横にくっついて尾をフリフリ揺らしながら、一緒に出て
行った。
「相変わらず、甘え上手な奴」
出て行くショウトラの後ろを見ながら晴明は横目で簾を避けて出て行った
ショウトラに対して言った。
「晴明、ショウトラが言った言葉に対してムキになるなよ。
それで、何かあったのか?そのイライラの原因は?」
持っていた巻物を、漆机の上に置きながらアンチラが聞くと晴明は疲れ切った顔で
「博雅がまた余計な除霊相談持って来やがった」
晴明はアンチラを見上げ
「主上絡みか?」
「いや、博雅の個人的な相談だな。まぁ除霊をすること自体“おれは構わない”と
言ったさ」
「珍しいな…晴明がそんな素直になるなんて…」
「聞いた内容からお前たちがいれば出来ると思ったからさ。
ただ、それにはどうしてもハイラの力が必要になるから、おれが奴に言ったのさ。
“除霊依頼が来たから一緒に来い”ってな。
そうしたら奴がなんて言ったか分かるか?
“それ、どうせ主上からの命令除霊でしょ?俺、もうその関連の除霊したくないからアンチラやショウトラに頼めばいいじゃん。でも晴明様一人だって除霊出来るのにわざわざ俺やアンチラやショウトラとか連れて行くからみんな主上からの除霊相談手伝うの嫌がるんだよ。それで晴明様“自分一人で除霊しましたアピール”絶対してると思うんだよね。俺たちの事もちゃんと言ってくれるなら行ってもいいよ”
とかなんとかぬかしやがって…てめぇーは俺の式神だろ!!
何、偉そうな事言ってんだよ。おれは“お前の能力がないと困るから一緒に来い”って言ってるだけなのにそれを“除霊しましたアピール”ってなんだよ?」
晴明は怒涛の勢いでハイラに対する苛立ちを吐き出す様に早口で言った。
それを聞いていたアンチラは冷静に
「つまりハイラの言い分としては“自分の力も借りて晴明が除霊を行った”って事を素直に言ってほしいって事だろ?それを晴明が恰も“一人で行いました”って
ニュアンスで言うからハイラだって…そもそも晴明の言い方も悪い。
きっとでハイラは“除霊依頼=主上依頼”って思ったんだろうさ」
晴明は頬をピクリと上げて左足を立てた。
「おれがいつそんな事言ったんだよ。大体、ハイラは内裏には行った事はない
だろ?」
アンチラは呆れ顔をして少し考えてから
「今日、俺とショウトラが晴明と主上との謁見で
“私は都を脅かす妖を払う為に師賀茂忠行の元にて修行を積んだ身。
今後もこの力、京の人々を守る為に尽くしましょう”
と聞いていた内容からじゃあ、俺だってそう思った所もあるしな。
最後の言葉で
“今後も我が式とこの力を合わせ、京の人々を守る為に尽くしましょう”って言ってくれてたなら俺たちだって納得いくさ」
「お前な~おれが“頼まれた除霊に式神を連れて行って除霊しました”なんて言え
ねぇーだろ。
考え様によっては、おれが式神に助けられながら除霊を行ったって意味にもなる
だろ?」
「だから、そういう捻くれた考え方でいるからハイラも含めて俺たちは主上依頼の除霊に晴明と行くのがイヤなんだって言ってるんだ」
「は?イヤだったのか?おれはお前からそんな事一切聞いた事ないぜ」
「俺の気持ちからしたら晴明寄りかハイラ寄りかといえば、ハイラ寄りだよ」
アンチラは深い溜息と共に晴明に告げた。
晴明は横を向くと
―無駄に頭がいい式神なんて作るんじゃなかった
と思った。
だがそんなアンチラを一番信頼しているのは晴明だ。
なぜなら晴明が一番初めに自分の式神として生み出したのがアンチラだったからだ。
真っ暗な外廊下に誰か座っていた。
月明りを見上げている者。
細めた目で覆う前髪の隙間から見ていた。
「別に俺さ、晴明様の事嫌いじゃないんだけど...でも自分ばっかり棚に上げてる所が嫌~い」
体を反らして両手を支えに長い両足を伸ばして足首を前後にクイクイ動かした。
「それで…博雅の除霊相談ってのは何だったんだ?ハイラの力が必要って?」
アンチラは首を傾げながら言った。晴明は横を向いていた顔をアンチラに向けると
「“羅生門”」
「羅生門?あの朱雀大路の所だろ?」
「そうだ。あそこへはおれも師匠からは“絶対行くな”と言われていたからな。
だが詳細な部分は博雅から聞いてはいない。おれもその時急用があったからな。
確かな事はあそこにはずっと悪い噂しか聞かない所だからそうやすやすと、おれに倒されてくれる霊はいないだろうさ。おれは“主上依頼”だとは一言も言ってねぇーのにな...だからアンチラ、お前ハイラ説得して来い」
アンチラは目を丸くして自分を指差した。
「はい!?俺!!そういう事は晴明がするもんだろ?」
「だから、お前何聞いてたんだよ!?
おれが言おうとしたら何も聞かずに謁見に関して云々言って
聞きゃーしないから、今おれが言った事を簡単でいいから話して説得して来いって事だよ。
あの周辺はほとんど明りもない。松明を持って行った所で自然と消えちまう。
多少はおれも気配は分からなくもないが、確実に除霊をするには絶対にハイラの力が必要なんだ」
「じゃーとりあえず説得すればいいんだな?その内容を含めて俺的な言葉で晴明が伝えたかった事を」
「あーそれでいい」
晴明は投げやりに答えた。
「んじゃ、明日にでもハイラに話すか。直ぐには行かないんだろ?“構わない”と
言ったとしても」
「まだ博雅に返信の文を出してないからな。
その文は明日、ショウトラに持たせて内裏に行かせるからその後の返事次第だ。
とりあえず、今日おれはもう寝る。
今になって脇腹が痛くなってきやがった。アジラの野郎…」
晴明は立ち上がると脇腹を手で押さえよろよろしながら寝室に入って行った。
それを見ていたアンチラはボソッと
「いいところにマッチ入ったんだな…アジラの“ハイキック”」
【第二ノ巻に続く】
初めまして。栞と申します。
この度は私の時代小説「安倍晴明シリーズ」の“第一ノ巻”のご拝読ありがとうございました。
初めて“小説家になろう”サイトへのドキドキしながらの投稿。
読者様に受け入れて頂けるのだろうか...と必死にセリフや行動、情景等の幅を広げ
ながら書かせて頂きました。
元々こちらの作品は『pixiv』投稿の“二次創作小説”として書いておりました。
しかし、慣れない時代物。調べれば調べるだけ難しく版権キャラでは時代背景も
あり小説内で上手く表現しきれず諦めかけておりました。
そこで安倍晴明も源博雅も式神もオリジナルキャラとして私の世界観で再度小説を
書いてみようと思いました。
完全なる“一次創作小説”として書き上げ、こちらのサイトに投稿させて頂きました。
至らない点も多々あるかと思いますが、私自身楽しく書かせて頂いております。
一風変わった安倍晴明様のこれからの活躍を楽しんで読んで頂ければ幸いです。
次回はどの様な事が晴明や式神たちに起こるのでしょうか?
第二ノ巻もお楽しみに。