96話 兄と怒る弟と大きな鳥と
後書き修正
ウォーターペイロンを後にして暫くは、グニャリとした景色の中を漂っていた。
お土産や手に持った瓢箪が、どこかへ飛んで行きそうになるの必死で抑えていたら、急に身体の感覚が戻ってきた。
「ラズマのバカバカー! 兄様はぼくが1番好きなんだからね!」
『そんなわけない! アルフはボクの恋人なんだからー! 邪魔するなんて許さないぞ!』
うーん……騒がしいな。ていうかコルキスはそんな風に思ってたのか。
『目が覚めたの? でも、危ないからそのままでいるのよ。ラズマとコルキスが喧嘩し始めちゃって』
喧嘩してる? 危ない?
いや、まあ、どうでもいい。そりゃあ轟音が聞こえるし、ラズマがグルフナを振り回してるし――正確には人形の手がだけど――、コルキスがディオスと一緒に本気で戦闘モードだ。
だけど、どうでもいい。だって今は凄く気持ち悪いから。世界がこう、ガクガクと――うぷっ!
完全に身体の感覚が戻り、自分の重さを感じた瞬間、ウォーターペイロンで食べた物が全部出そうになった。けど、ギリギリのところでブチ撒けなかった俺は偉い。
「兄様はぼくのなの!」
『うるさーい!』
「ねぇ、止めてよぉ。セントの部屋で暴れないでよぉ」
『アンタも災難ね』
「うぅ、占い通り最悪の日だよぉ……うん? なんか甘い匂いがする……?」
このやり取りに既視感が――あ、ヂァンの占いで見たんだっけ。いや、それよりも前だっけ?
ただ、所々記憶と違う箇所が有るような無いような……でも先ずは――
「ロポリス、凄く気持ちが悪いんだ。何とかして」
『まったく、あんなに飲むからよ。丁度いいわ、ラズマ! コルキス! アルフが起きたわ、二日酔いを治してあげなさい。先に治した方が勝ちよ!』
「兄様! ぼくだよ!」
『アルフー!』
ロポリスの声を聞いた2人が、とんでもない速さで近付いてくる。
2人を受け止める自信はない……これは怪我をするかもしれないな。覚悟しておこう、俺は痛みに備えそっと目を閉じることにした。
『――――――』
おや、急に2人の声が聞こえなくなったな。代わりにガンガン何かを叩く音と、ガサガサした音が聞こえてくる。
「ねぇ、もしかしてこれってウォーターペイロンの料理?」
この声はあの紅白色の鳥だな。
「そうだけど……!?」
返事をしながら目を開ければ、目の前にいかにも鳥ですって動きで首を動かす、俺と同じくらいの大きな鳥がお土産の袋を突ついていた。
「気持ち悪いなら、セントが治してあげるよ。だから代わりにこれを貰ってもいい?」
セント? ああ、自分の名前か……この気持ち悪さをどうにかしてくれるなら何だってあげるよ。
「いいよ――うぷっ」
「本当!? セント嬉しいな! じゃあこれ食べて」
どこから取り出したのか、嘴に加えた綺麗なグミを俺の口に捩じ込んでくる。と同時に、何かが崩れる音とコルキス達の叫び声が聞こえてきた。
「クソ鳥ぃぃぃ!!」
『テメェ!! 1000000回殺しても許さねぇ!!』
「え? うわぁぁぁ!」
嘘だろ……コルキスは左腕を黒いドラゴンに、右腕を黒い六魂夔に変えて、ラズマは巨大な紫電の玉でセントを攻撃しやがった。
その衝撃で俺も吹き飛ばされ――あ、ロポリスが受け止めてくれてる。助かったよ。できれば、箒じゃない部分でそうして欲しかったけどさ、背中がチクチクする。
「大丈夫兄様? 今ヒストリアで何されたか見てあげるからね」
『そんな必要ない! 何をされててもボクが治してあげる』
コルキスとラズマが飛び付いて揉みくちゃにしてくる。俺はそんな2人を押し退けて、倒れて動かないセントに駆け寄った。
「大丈夫か!?」
たぶん、コルキスとラズマは本気で殺しにかかっていたと思う。なのに羽が焦げて背中から血を流す程度の傷で済むなんて、セントは相当強い魔物なんだろう、喋ってもいたし。
『大丈夫よ。私がいい感じに守ってあげたから。きっと上手くいくわ、お礼は50時間の睡眠でいいわよ』
「どこがいい感じなんだよ!」
えっと、何かポーションとか薬草が――ふと、ウォーターペイロンから持ってきた瓢箪が目に入った。
何でか分からないけど、気が付くと俺はその瓢箪に入っているお酒をセントの傷にかけ、飲ませもしていた。
「なんでそんな奴……」
『ボクとの再会を喜んでくれないの?』
いじけた声が2種類聞こえてくるけど無視だ。
お酒の効果か、うっすらした光りがセントを包んでいく。
「あれ? セント死んだんじゃ……き、君が助けてくれたの?」
セントが潤んだ目で見てくる。
「え? ああ、助けたっていうか、まあ……たぶん」
まさか瓢箪のお酒に治癒の効果があるとは思わなかったけど、俺が助けたことになるのかなあ。
「ありがとう! 君はセントの命の恩人! 名前は?」
「ア、アルフレッドだよ」
「アルフレッドはセントの恩人! アルフレッドはセントの恩人! 大好きー!」
「あ、ちょっと!」
セントは嬉しそうな声をあげながら、どこかへ飛んで行ってしまった。
約束した、西王母印の蟠桃饅頭をまだ渡してないのに。
「兄様、どうしてアイツに治してもらったの!? 僕が治してあげたかったのに!」
『トルマリングミを口移しでなんて……酷い! 恋人のボクでさえしたことないのに!』
そうだ、この2人がどういうつもりか聞く必要がある。魔物とはいえ、俺を助けてくれている人、いや鳥をいきなり殺そうとするなんて。
とりあえず正座させよう。2人のせいで出来た沢山の瓦礫がある、あの辺りがいいだろう。
コルキス達はぶーぶー文句を垂れながらも言うとおり正座をしている……ラズマはもう何だか分からない体勢だけど、人形の足は正座っぽくなっている。
先ず、どうしてセントを攻撃したのか聞くと、2人はセントが俺にキスをしたと思ったからだと言う。
次に喧嘩の原因を聞くと、ロポリスが話し始めた、俺にとって1番可愛いくて大好きな存在は誰かという質問で意見が合わなかったからと。
「はあ……そんなことで」
「そんなことじゃないもん!」
『そーだ、そーだ!』
今なんとなく、父上の話を思い出した。
こんな時は、別々に話をしなきゃ酷い目に合うって父上が言っていた。妻が多いと苦労するとも。少し違う状況だけど俺もそれに倣った方が良さそうだな。
「そうだな、大事なことだよな。ごめん、今夜ちゃんと話し合おう。コルキスもラズマも、大事な話は2人っきりでしような」
「2人っきり……うん、いーよ!」
『やだなもう、2人っきりだなんてアルフは積極的なんだから』
流石、父上の言葉だ。驚くほど上手くいったな。母上と9人の義母上達、きっと父上は色んな修羅場を切り抜けてきたんだろうな。
『馬鹿ね、もっと上手くやりなさいよ。それはそうとアルフ、さっきの鳥、セントは何て魔物か知ってる?』
ん、分からないな。図鑑で見たこともないし、話で聞いたこともない。
「ぼく知ってる! ミツギカラスだよ!」
コルキスが立ち上がって教えてくれる。
『え、そうだったの? なんか鳥がアルフにちょっかいかけてるって思ってたけど……あちゃー、失敗しちゃった。ねぇ慰めて、アルフ』
ラズマは浮かんで俺の横に来た。
手足と歯と目玉しかないけど、心なしかモジモジして撫でて欲しそうにしている。撫でてやらないぞ、どこを撫でていいかも分からないし。
『もう、ラズマったら。昨日の帰り、一緒に見つけて話をしたじゃない』
『え? あー、覚えてたよ、当たり前じゃん!』
嘘だな、絶対忘れてたに決まってる。
あの表情はラズマが何かを誤魔化す時によくする表情……のような気がする。歯と目がそんな感じを醸しているから。
「あ、じゃあ、もしかして全部ロポリスの……」
コルキスは何か考え混む仕草をしている。
『ま、そういうことよ。ラズマはすっかり忘れてたようだけどね』
『覚えてたってばー』
くそ、ロポリス達もかよ。俺を置いてきぼりにして、どんどん話を進めて行くんだから。
「ロポリス、説明」
『嫌よ。ミツギカラス以外にも色々したし、私は疲れてるのよ。あとはコルキスの仕事よ、ヒストリアで私とアルフをもっとよく見て。今は許可するから私の事も少し前までなら見れるわよ。ラズマは話があるからこっちに』
『なーに、ロポリスー?』
大精霊達の入った感じの悪い人形が近付いていく。あ、元の可愛らしい人形に戻ったぞ……本当に良かった。
あんな気持ち悪い人形と一緒だと、人目が気になって仕方ないんだよ。
「じゃあ、兄様。中で説明するね」
コルキスが闇魔法のジェットブラックテントを使い、ディオスを連れて中へ入って行く。
俺もグルフナを伴って中に入ると、コルキスが胡座をかいて座るように言ってきた。
言われた通りに座ったら、即座にコルキスが俺の足の上に座ってくる。しかも俺の方を向いてだ。更に頭を撫でて欲しいと上目遣いで催促してくる。
俺はコルキスの可愛さに負けた。頭を撫でてやると、コルキスは満足そうな声で話し始めた。
~入手情報~
【種族名】ミツギガラス
【形 状】八咫烏型
【危険度】SS
【進化率】☆
【変異率】☆
【先天属性】
必発:風/冬/光
偶発:水/土/影/聖/毒/聖光/月
【適正魔法】
必発:風/冬/光
偶発:水/土/雷/火/聖/毒/聖光/月
【魔力結晶体】
すべて個体に発生
【棲息地情報】
不明
【魔物図鑑抜粋】
世界に数羽しかいない大きな3本足の鳥型魔物。
極めて珍しい魔物であり、幼体は高難度のマスターダンジョンで成長する。紅白色の身体で、場合によっては50メートル以上もの大きさに成長するが、成体は伸縮自在と噂されている。頭にポンポンの付いた帽子に似た飾り羽があるのも特徴的。幼体期に懐いた者に対し、宝石グミと呼ばれるマジックアイテム等を執拗に送り続ける習性がある。巣にも宝石グミや光り物を溜め込んでいる場合が多い。また、雌は産卵の時期になると、眠っている他種族の子供に一方的にプレゼントを送り付け、代わりに魔力を枯渇ギリギリまで吸い取る事もある。移動能力や言語能力、擬態能力も優れているが、戦闘は苦手。冬属性という氷属性の変属性を有している。その珍しさと宝石グミの有用性からSSランクの魔物とされている。
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【名称】トルマリングミ
【分類】宝石グミ
【属性】雷/土
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨100枚~
【コルキスのヒストリア手帳】
ミツギカラスが作り出す特別なお菓子。
食べると心身を浄化して正常な状態にリセットしてくれるよ。他にもランダムで活力を与えてくれる効果もあるみたい。色によってやや違いはあるけど基本的にはソーダ味で、見た目はトルマリンによく似たグミなんだ。
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【名称】ジェットブラックテント
【分類】中級闇魔法
【効果】☆☆☆☆☆
【詠唱】モデラドンナ型魔法言語/乱文可
【現象】
漆黒のテントを作り出す防御魔法で、テントは外部の攻撃を弾く効果と、その攻撃に含まれる魔力の3%をこの魔法の使用者に還元する効果がある。また、テントの周辺を自動で索敵可能になるが、発動時の魔力量によってその範囲は変化する。テントの強度は使用者のレベルに依存する。
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【名称】ヒストリア
【発現】コルキス・ウィルベオ・クランバイア
【属性】闇
【分類】過去視型/固有スキル
【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【効果】
目に見える全てのものを鑑定でき、少しの魔力を消費すればそれが辿ってきた歴史、歴史の中に出てきたものの名前を知ることが出来る。さらに、間接的にではあるが最上位精霊といった遥か格上の存在についてもその歴史を知ることも可能。この場合、魔力が相当量必要になる。ただし、本人が許可していればその限りではない。鑑定という非常に珍しい能力の上位互換であり、このような能力を持っているのは極めて稀である。




