表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/201

95話 お土産とニコラ

後書き修正

 目の前のハイラル兄様が見えているのに、頭の中の映像もはっきり見えている。あまりにも鮮明な占い結果の映像に驚きを隠せない。


 これはあれだ。勇者が視覚を同期したとか言っていた時の感覚に似ている。


「あれ?」


 急に映像が途切れてしまった。


「料理を半分食べると占いは終了だよ。残り半分は、味が変わるから食べてみなよ」


 ハイラル兄様に言われるまま、残りの我儘沙拉の嫉妬餡掛けを食べる。


 あ、本当だ……さっきは色んな野菜の味がしたけど、今はそれに加えて魚介類の味もする。けど、何だろう、凄くもやもやした気持ちが沸き上がってくるぞ。


「美味しいけれど、不思議な料理ですね」


「そうだね。でもヂァンの料理は2度も3度も美味しいから。他のも美味しいはずだよ」


 そう言われて他の2品に目をやると、信じられないくらい美味しそうに見える。


 まさか、人形や歯車の集合体を美味しそうだと思う日がくるとは。


 生怪奇醉人形を食べると、感じの悪い人形にお説教されている映像が、永久機関焼売を食べると、小さな木片のネックレスを持った俺の映像が頭の中に流れていく。


 そして、とても美味しい。味が変わっていくのも楽しくて仕方がない。


 気が付くとあっと言う間に全部平らげていた。こうなってくると、ハイラル兄様の料理も食べてみたくなる。


「そんなに見つめてもあげられないよ。ウォーターペイロンの料理は他人には食べられないんだ。その人専用の料理だからね」


 なんだ、そうなのか……残念だな。


「じゃあ、追加で頼めますか?」


 もっとヂァンの料理が食べてみたいし、できることならコルキスにも食べさせてあげたい。


 またここに来られるかどうかも分からないんだ、せめてお土産があれば……いや、夢だから持ち帰れないか。


「うーん、代金があるなら頼めるけど……あ、ごめんアルフレッド、そろそろ起きないといけないみたいだ。勇者が近付いてくる」


 ハイラル兄様は少し焦り、勢いよく自分の料理を食べ始めた。


「え、勇者って――」


 城では見たことのない食べっぷりのハイラル兄様は、俺の問いには答えず完食すると、足をバタバタ、口をモグモグさせながら消えてしまった。


 消える時に軽く手を振っていたけど、あれは神蜂族が今生の別れの時にやる仕草だ。


 本当に俺が死んだと思っているんだろう。


 どうして勇者がハイラル兄様に……うーん、まあいっか。勇者とはミュトリアーレで合流するみたいだし、その時に聞こう。


 にしても、お代わりをするには代金が必要なのか。他人から貰ったプレゼントは、さっきヂァンから貰った星雲の砂時計しかない。


「それは勿体ないから、とっておいた方がいいわよ」


 テーブルの端に置いていた星雲の砂時計を見て悩んでいたら、声をかけられた。


 女の子の声だと思うんだけど、どこにも姿が見えない。


「君さ、このお店初めてでしょ、こっちよ」


 こっちよって言われても……声がする方を見たって、大きな壺だったり、縦長の絵だったりがあるだけだ。


「あら、誰かと思ったらニコラじゃない。いらっしゃい、少し前にロナスも来てたのよ」

「今は女の気分じゃないのよねぇ」

「私はいいわよ。早くシたいわ、疼いてしょうがないもの」


 俺が女の子を探しているとヂァンがやって来た。


 大きな巻き貝と洞窟が描かれた、白と黒しか色のない縦長の絵に話しかけているようだ。


「もう、ヂァンったら来るのが早いわよ」


 絵の中の巻き貝から、女の子の上半身が現れもぞもぞ動き始める。


 驚いていると、女の子はそのまま巻き貝ごと絵から這い出てきた。


 ああ、このニコラって子はヤドカリ族だな。巻き貝から出てる上半身と大きな腕がその証拠だ。


 たぶん、ウルユルト群島国に住んでいるんだろう。あそこは海洋種族が多い。


 少し前に会った、白い砂浜亭の女将さんと似たような格好をしてるし、間違いないと思う。


「でも非常口を使うなんて困るわ、それに他のお客さんで遊ばないで」

「どうせなら男を連れて来なさいよ」

「ニコラは私とがいいわよね? そうよね?」


「相変わらず口うるさいわね。ちょっとくらい良いじゃない、久しぶりに来れたんだし大目にみてよね」


 ニコラは姉達を無視して貝殻ごと大きな椅子に座ると、アイテムボックスから何かを取り出してヂァンに渡していく。


「そうだ、君! これをあげるわ。これで追加注文するといいわよ」


「わわっ」

 

 いきなり物を投げてくるなんて危ないじゃないか。


 ニコラが投げて寄越した物は、網に入った曇りガラスだった。キャッチした手の平が少し痛む。


「まあ、海鳴りの欠片じゃない」

「何を企んでるんだ? ニコラも弟君とヤりたいのか?」

「ねえ、ニコラお願いよ、私を選んで」


 ヂァンが俺の手の平を覗き込んで目を丸くした。


 姉達はニコラの方を見てヤるのヤらないのと言い続けている。


「どうして俺にくれるんだよ」


 右手の姉じゃないけど、ニコラは何か企んでいるのか?


 海鳴りの欠片なんて初対面の相手にホイホイあげていい物じゃない。


「え? そんなの、ウォーターペイロンで誰かに奢るのは、大吉夢だからに決まってるじゃない」

 

 何言ってんの? という顔をされてしまった。


「それじゃあ、弟君はお代わりかしら?」

「お代わりじゃなくて、別の注文にしなさいよ」

「そうよ、そしたら今度こそ私とヤるのよ」


 ニコラを見ていた姉達が、勢いよく振り向いてくる。ギラついた目が怖い。


「お、お代わりじゃなくて、もしあればお土産をお願いできるかな?」


「あるわよ、お土産ね」

「ああん、やったわ。あの大きいのを堪能できるのね」

「はあ? アンタじゃなくて私が堪能するのよ」


 言い争う姉達に溜め息を付いたヂァンは、俺を占った時のように姉達を黙らせニコラを占い始めた。


 その後、上気した顔をのまま、もう1度俺を占い代金を持って裏へ下がって行った。ヂァン、さっきよりも恍惚具合が酷い表情だったなあ。


 お土産ができるまで、ニコラとお喋りをすることにした。


 というより、ニコラが積極的に話しかけてくるから自然とそうなったんだ。


 ニコラは予想通りウルユルト人で、パバラオファ島を拠点に活動しているらしい。


 パバラオファ島といえば、島の中心にあり得ないほど透き通った湖と、そこから空に向かって立ち上る巨大回転雲のダンジョンがあることで有名だ。


 巨大回転雲の天辺が海に向かって湾曲してるのに加え、島の周囲が反り返った特徴的な山に囲まれているため、遠くから島を見ると傘を引っくり返したように見えることでも知られている。


 お店もやっているそうで、もし訪れる機会があればサービスしてくれると言ってくれた。

 

 ニコラは話上手でお酒も強い。俺もつられてどんどん飲んでしまった。お陰で世界が揺れている……


「あ、ヂァンが出てきたわね。今回はどんな料理か楽しみだわ」


「ヒック……それじゃあ、お土産を受け取ったら起きるよ。本当にありがとう、絶対お礼しに行くから」


「ふふ、期待せずに待ってるわ」


 ニコラが優しげに笑って答える。


「まあまあ、弟君はだいぶ酔っぱらってるわね」

「ほら、注文のお土産よ。西王母印の蟠桃ばんとう饅頭……ねえ大丈夫?」

「このまま泊まっていきなさいよ。私のベッドへ案内――キャッ」


 ヂァンと右手の姉がお土産を持たせてくれる。甘くていい匂いだ。左手の姉は俺を自室に連れ込もうと提案して、ヂァンにお仕置きされている。


「さっき教えた通りにすれば安全に帰れるわよ。またね」


 話の途中でウォーターペイロンの帰りは、普通に帰ると高確率であの左側のお店の女主人に襲われると教えてもらっていた。もちろん回避の方法も。


 えーっと、星雲の砂時計はお土産の袋に入れたから……よし、じゃあ行くか。


 確かお酒の出てくる瓢箪を持って、禹歩うほとかいうステップを踏むめば良いんだったっけ。


「あれ? 何も起きない……」


「変ね、じゃあ私が代わりにしてあげるわ」


 食事の手を止め貝殻から出てきたニコラは、なかなか刺激的な格好だった。俺の戸惑いを気にもせず、目にも止まらぬ速さでステップを踏んでくれる。


 お、身体が軽い。感覚も曖昧になって薄れていく。ほんの少しだけ浮遊感もあるなと思っているたら、目の前がぼんやり霞んできた。


「ちょっと!? それは持っていっ――」

「ニコラ! アンタの仕業――」

「代金はアンタに――」


 どういうわけかヂァン達が慌てていたけど、最後まで見聞きできなかった。

~入手情報~


【ヤドカリ族】

ヤドカリの海洋種族。

産まれた時は人間と変わらぬ見た目をしているが、幼少期を過ぎた辺りで腕が強大化していき、背中からは貝殻が生えてくる。貝殻は成長に合わせて大きくなり、強固な守りを発揮するが、拘りがなければ別の物を貝殻の変わりにする事もある。動きは鈍いが水魔法や土魔法が得意な種族である。


~~~~~~~~~


【禹歩】

歩き方による呪法。

魔力を消費しながら決められたステップを踏む事で多種多様な効果を発揮する。本来は才能のある者だけが使用できるが、ウォーターペイロンの料理を食べた場合は店内限定で、目覚めの呪法を使用できる。


~~~~~~~~~


【パバラオファ島】

ウルユルト群島国内に存在する島。

1年を通して温暖な気候だが、比較的北に位置しているせいか、年に数回は雪が降る事もある。島の中心には、空に向かって立ち上る巨大回転雲のダンジョンや、その一部と言われる異常な透明度を誇る湖があり、その周辺が特に栄えている。反り返った山に囲まれており、島であるにもかかわらず、砂浜が極端に少ない。1日1回、島の近くで必ず竜巻が発生し、海産物や低ランクの魔物が島内に降ってくる。


~~~~~~~~~


【名称】海鳴りの欠片

【分類】海風石

【属性】風/水

【希少】☆☆☆☆☆

【価格】共通金貨35枚

【アルフのうろ覚え知識】

海鳴り石の出来損ない。

長い年月海鳴りを浴びた石は海鳴り石に変じるが、海鳴りの欠片はその出来損ないである。出来損ないとは言っても、珍しい物ではあり、使用すれば対象を一定時間恐慌状態に陥れ、時間差で小規模の嵐を発生させる事ができる。


~~~~~~~~~


【名称】西王母印の蟠桃饅頭

【分類】ヂァンの夢料理

【属性】夢/聖光/植物

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ヂアンのお品書き】

西王母が管理する蟠桃園の蟠桃を使った饅頭。

蟠桃とはいわゆる仙桃と呼ばれるものであり、食べるといくつかの恩恵を授かる事ができるの。ただし、この饅頭には極僅かな量しか使用しておらずその効果はあまり高くない。その代わり誰でも食べることができるのよ。甘い香りと仄かな酒精の風味が病み付きになるとても美味しい饅頭に仕上げたわ。


~~~~~~~~~


【名称】お酒の出てくる瓢箪

【分類】夢瓢箪

【属性】夢/水

【希少】☆☆☆☆☆

【価格】-

【ニコラの忍ばせメモ】

紫金紅葫蘆しきんこうころの模造品。

本物の紫金紅葫蘆しきんこうころは、呼びかけた相手が返事をすると中に吸い込んで溶かしてしまう瓢箪よ。ウォーターペイロンの瓢箪はこれを模してて、空気中の魔素や魔力を吸い込みお酒にしてるわ。出来上がるお酒は、魔素の量や魔力の属性によって様々に変化するのだけど、ウォーターペイロンでは客の好みに合わせた酒が作られるよう、ヂァンが管理しているわ。あなたお酒が大好きみたいだから持って帰っちゃいなさい。上手くやっとくから。お礼は次に会った時でいいわよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ