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94話 夢の料理

後書き修正

 ハイラル兄様は先に席に向かった。


 俺はヂァンと呼ばれた女の子に言われるまま彼女の方へ向かう。


 お店の中には俺達以外誰もいない。


 初めて耳にする音楽が静かに流れている……吊るされた提灯か、奇妙な形の置物から聞こえてくるのかな。


 店内を見回しながら歩いているうちに、ヂァンの前に着いた。


「いらっしゃい、死んだ弟君」

「あら、いい男ねぇ、ワタシとどう? 死んだ弟君」

「ダメ、ワタシとよ。あ、でも、大きさはいかほどかしら? よく見せて、死んだ弟君」


 3つの顔それぞれが俺に話しかけてきた。右手の顔は俺の顔をまじまじと見て、左手の顔は下半身を舐めるように見てくる。


「ちょっと、やめてよ姉さん達。はしたないわ」

「ふん、アンタが1番のヤりたがりのくせに」

「かまととぶっちゃって、いやぁね」


 両手の顔は姉さんなのか……ていうかどうすればいいんだ、これ。


「やめてったら、死んだ弟君が困ってるじゃない」

「アンタが焦らすからでしょ」

「ああん、若い男なんて久しぶり」


 両手の姉達は顔を赤らめてハアハア言い始める。


 聞いていたウォーターペイロンの話とちょっと違う……もっとこう、しっとり大人のお店って話だったのに。


「もう! 恥ずかしいから本当に止めて!」

「ちょっと! 何すんのよ!」

「1人占めなんて許さないわよ!」


 ヂァンは両手を腰の後ろに回して、姉達を俺から遠ざけてくれる。姉達はやいのやいの言っているけど、俺としては助かったよ。


「ごめんなさいね。それじゃあちょっと煩いけど始めるから」

「きゃ!?」

「何す――」


 見えないけど、姉達はモゴモゴとくぐもった声になった。


「ワタシの目をよーく見て……そう、上手よ……あ、ああん………はあん」


 ん、占うって言ってたよな? 何か悶え始めたんだけど……


「もっと、もっと奥に……ふぁっ、アアッ……」


 奥、とは? えっと、俺はこのまま目を見てればいいのか?


「アァァァァ!!」

「――――!!」

「――――!!」


 うわぁ、何だか見ちゃいけない表情を見た気がする。


 ヂァンが叫んだのと同時に姉達も何か言ったのようだけど、聞き取れなかった。


「はあ、はあ……終ったわ。ハイラルと一緒に待ってて」

「何よ何よ、結局アンタだけじゃない。狡いわ!」

「いっつもこうなんだから!」


 ヂァンは俺から代金であるメファイザ義母上のおやつを受けとると、ヨロヨロしながらお店の奥に行ってしまった。


 一体何だったんだろう?


 俺の知ってる占いじゃないってことは確かだな。


「アルフレッド、終わったならこっちに」


 ハイラル兄様が丸いテーブルの前で手招きしている。


「は、はい」


 席に着くと藁葺き屋根の家から3本の足が生えている手の平サイズの生き物……いや、魔物らしきものがスッと現れ、水の入った陶器を置くと消えていった。


「あの占い方はちょっと困るよね」


 苦笑いをしてハイラル兄様が言う。そしてテーブルの上にある小さな壺から緑色の物体を小皿に取り出して、勧めてきた。


「あ、ありがとうございます。えと、これは?」


「名前は知らない。でも美味しいから食べてみなよ」


 ぐにぐに動いているけど大丈夫かな?


 ま、まあ夢なんだし平気だろう。あ、コリコリしてる。ちょっと辛いけど……


「美味しい!」


「だろう? こっちも美味しいよ。ここってメイン料理以外は好きなだけ食べていいから、どんどん食べよう」


 別の壺からは黄色と青色の斑模様で四角いナニかが。噛むと中からジュワッと美味しい汁が出てくる。


 他にも正体不明の物をちょこちょこ食べたけど、黒い字で酒池肉林って書かれた湿った紙が1番美味しかった。


「少しお腹も満たされたし、お酒を頼もうか。アルフレッドとは飲んだことがなかったよね」


 ハイラル兄様が言い終わった瞬間、年老いた小人がテーブルの真ん中に現れた。


 頭が細かい蜂の巣状になっている……苦手な見た目だ。


「美味しいお酒を2人分」


「――――」


 小人は何かを言い、ハイラル兄様にお辞儀をする。


 うげっ、あの頭からお酒が出てくるのかよ。しかも、お酒はテーブルに直……じゃないか、球状になって浮いてた。


「ひぃっ!」


 次は俺の番かと思って見ていたら、小人からもう1つ同じ頭が生えてきた。ハイラル兄様にしたように、俺に向かってお辞儀をするとお酒が出てくる……怖いよ、これ。


 指でテーブルをトントンとハイラル兄様が叩いたら小人は消えた。


「さあ、乾杯しよう」


 その言葉を切っ掛けに、浮かんでいるお酒同士が軽くぶつかる。リンッとベルみたいな音が微かに響く。


 お酒はこっちに来ながら形を変えて、俺の手元まできた時には瓢箪(ひょうたん)になっていた。


 ハイラル兄様はそれを手にとってゴクゴクと飲んでいる……まさかとは思うけど、俺の方には毒が入っていて後で苦しむなんて事ないよな。


 成人した次の日にお祝いだって、くれたお酒がそうだったのを俺は忘れてないぞ。


 くれたのはジンジル兄様だったけど、ハイラル兄様と同腹だし、もしかすると……。


「飲まないの?」


「あ、いえ、頂きます」


 勇気を出せ俺――うお、すっごい美味しい!


 しかも、飲んでも飲んでも瓢箪ひょうたんは空にならない。アクネアとティザーがいたら泣いて喜ぶだろうなあ。


「アルフレッドは成人して1年も経たず死んでしまったもんな。お酒は美味しいよね、でも飲み過ぎ注意だよ」


 今まで俺に1回も見せた事のない優しい笑顔だ。危うく、本当は生きてますって言いそうになるくらいの。


「そんな顔をしなくても……あ、夢の中だから言うけど、アルフレッドが見ていた悪夢って私の仕業なんだ。ごめん」


 ハイラル兄様は身を乗り出して頭を撫でてきた。


 いつも俺の事をキツく睨んできてたのに、ギャップに戸惑うよ。


 にしても、悪夢なんて見てたかな? ほとんど記憶にないけど……


「よく覚えていないので、気にしないで下さい」


「ははっ、ずいぶん都合のいい夢だな」


 そう言って自嘲気味に笑うハイラル兄様は、一瞬だけ俺の知っているハイラル兄様の表情に戻った。


「お待たせ、料理ができたわよ」

「ハイラルは、麻辣粘土マーラーねんどの懺悔煮込みと偽り春巻」

「弟君のは、永久機関焼売と生怪奇醉人形なまかいきようにんぎょう、それと我儘沙拉わがままサラダの嫉妬餡掛けよ」


 何とも言えない空気感を誤魔化すようにお酒を飲んでいたらヂァンがやって来た。


 ヂァンの周りに浮かんでいるのが料理なんだろう……てことこは、小さい人形が山盛りになってるあれが俺の生怪奇醉人形なまかいきようにんぎょうってやつか?


 テーブルの上にあった使い終った小皿はいつの間にか消えていて、そこに料理が並べられていく……ああ、やっぱりこれが俺の料理か。


 この人形、全部泥酔したアクネアみたいな表情をしてて食欲が削がれる。


 で、毒々しい色の小さい牙に死んだスライムみたいなのが掛かってるこれが、我儘沙拉わがままサラダの嫉妬餡掛けかな。


 すると、この歯車だらけの固そうな金属が永久機関焼売か……まるで味が想像できない。


「ありがとうヂァン」


「ゆっくりしていってねハイラル。弟君も」

「ねえ、食後でいいからワタシとしましょうよ」

「お願いよ、弟君の大きそうなんだもの」


 ヂァンが奥に戻る途中、姉達が未練がましい声で誘ってきた。


 身体は前を向いてるのに両腕だけが俺達の方へ向いてる。関節どうなってるんだ?


「奥にいるから何かあれば呼んでね」

「アンタは気持ちよくなっ――へぶっ!」

「ワタシも大きいの欲し――ぎゃっ!」


 ヂァンは手をパンっと両手を叩いて姉達を黙らせた。

 

 結構な勢いだったな……痛そうだ。


 溜め息をついて、ヂァンが戻って来る。


「ごめんなさいね、姉さん達がしつこくて。これ、お詫びよ」


 開かれたヂァンの両手には綺麗な砂時計が1つ。


 それが白目を剥いた姉達の口から出てきていなければ、もっと有り難みがあったな、という言葉を飲み込んで受け取る。


「ありがとう」


 ヂァンはにっこり笑うと奥に引っ込んで行った。


「へえ、星雲の砂時計か」


 起きたらコルキスに見てもらおうと考えてたら、ハイラル兄様がどういう物か教えてくれた。


 面白そうだしコルキスと一緒に使ってみよう……あ、でもこれは夢だから起きたら持ってないか。


 じゃあ料理を食べ終わったら目が覚める前に使うべきだな。


「さ、冷める前に食べよう」


「はい」


 並べられた料理はどれも食べ物には見えない。


 ただ、確実に美味しいんだろう。さっきまで食べていた紙や正体不明の物がそう思わせる。


 先ずは、この中で1番食べ物っぽい見た目――あくまでもこの中で、だけど――をした我儘沙拉わがままサラダの嫉妬餡掛けから食べよう。


 あ、軟骨みたいな食感――!?


 小さい牙を噛んだ瞬間、頭の中に映像が流込んできた。


 コルキスとラズマが喧嘩してて、ロポリスが笑っている。俺と赤白色の大きな鳥もいる。


「ヂァンの料理は、占い結果を頭の中で直に見せてくれるんだよ」


 妙な既視感に混乱する俺を見たハイラル兄様が得意気に教えてくれた。

~入手情報~


【名称】永久機関焼売

【分類】ヂァンの夢料理

【属性】夢

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ヂァンのお品書き】

アルフレッド・ジール・クランバイア専用の料理。小さな歯車が複雑に噛み合わさった金属製の焼売で、決して腐らず永遠になくならない旨味と、熱々の金属汁がたっぷりでとても美味しい自信作よ。


~~~~~~~~~


【名称】生怪奇醉人形

【分類】ヂァンの夢料理

【属性】夢

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ヂァンのお品書き】

アルフレッド・ジール・クランバイア専用の料理。小指ほどの大きさの生き人形を強いお酒に浸し、踊り食いにする人形料理一種。風味豊かな綿や布、味のついた悲鳴や呻き声が癖になる。耳で味を感じる事もできる変わった料理でとても美味しい自信作よ。


~~~~~~~~~


【名称】我儘沙拉の嫉妬餡掛け

【分類】ヂァンの夢料理

【属性】夢

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ヂァンのお品書き】

アルフレッド・ジール・クランバイア専用の料理。ドス黒く小さな牙に妬ましい餡がかかっているサラダね。軟骨のような食感と野菜の風味に、心に絡み付くようなドロドロでじっとりした心地悪い餡がマッチしておりとても美味しい運命的な大傑作よ。


~~~~~~~~~


【名称】麻辣粘土の懺悔煮込み

【分類】ヂァンの夢料理

【属性】夢

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ヂァンのお品書き】

ハイラル・クランバイア専用の料理。痺れる辛さと旨味たっぷりの粘土を懺悔する者、される者、両者の気持ちのスープで煮込んでいるの。時には殺意や怒り、矛盾を感じる大変美味な粘土煮込み。今のハイラルにおすすめよ。


~~~~~~~~~


【名称】偽り春巻

【分類】ヂァンの夢料理

【属性】夢

【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ヂァンのお品書き】

ハイラル・クランバイア専用の料理。パリパリの食感と嘘や欺瞞に満ちた中身は他では決して真似できない味わいね。一口食べれば何も信じられなくなるほど、強烈な旨味を堪能できる大変美味な春巻の傑作よ。


~~~~~~~~~


【名称】星雲の砂時計

【分類】狭域魔石鉱脈

【属性】土地によって変化

【希少】☆☆☆☆☆☆☆

【価格】-

【ハイラルの教え】

中の砂が星雲のような姿になる砂時計。

使用すると砂の量に応じた時間だけ幻想的な色や形を楽しむ事ができる。一般に出回っている物はレプリカであり、ただただ美しいだけだが、本物は自然界に漂う魔素を取り込み砂に変え、短時間で魔石を生み出すばかりか、強烈な魅了の効果もある。過去に数多の戦争原因となった大変危険な代物である。

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