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90話 ココテシアの包み焼き

後書き修正

 パパルに連れられて来たお店は、入り組んだ薄暗い通りの奥の更に隅っこにあった。人通りはまるで無く、俺達しかいない。


「えっと……ここ?」


 お店の入り口はどう頑張っても小柄なパパルでさえ入れない大きさで、看板にはこれまた小さな文字で「大嫌いニベル」と書いてある。


 コルキスは地面に寝そべる様な体勢で小さな小さなお店の窓を覗こうと、もぞもぞしている。


 誰かに案内されないと絶対に見つけられないぞ、このお店。商売として成り立ってるのか? そもそもどうやって入るんだよ。


「ああ、ここの料理は最高なんだ。じゃあ、皆集まってくれ」


 言われるまま1ヶ所に集まった俺達。


 ちなみに、コルキスはパパルを無視して興味深そうに窓を覗き続けていたせいで、フーラに首根っこを掴まれて強制的に集合させられていた。


「ピク、ピク、ピクシー、ピピ、ピク、ピクシー♪」


 ……え? 一体何を見せられているんだろうか。


 集合した俺達を前に突然パパルが踊り出した。いや、いくらパパルが童顔とはいえ37歳のピクシーがやたら可愛らしい振付で……裏声で歌っているのも複雑な気持ちになる。


 しかし、妙に気になるな。パパルから目が離せない。


 あれ? 身体が……勝手に………動く。


「ぶふっ! いや、すまない。ふー、続ける」


 失礼なパパルは俺を見て吹き出し、深呼吸をすると再び踊り出した。途端に、周囲の景色が上に上がっていく……違うか。俺が小さくなっているんだ。


「よし、これくらいでいいだろ」


 ずいぶんと上からパパルの声が聞こえたかと思うと、すぐにパパルも俺達と同じ大きさになった。


「じゃあ入るぞ」


 少しだけ足早に俺の横を通り過ぎ、イアの手を取るパパル。


 なんか、コルキスも含めグリッターソールの皆が小刻みに震えている。


「……くそっ、駄目だ。天才かよコルキス」


 フーラはそう言ったかと思うと大声で笑いだした。


「フーラ、俺達だって我慢して……アハハハハ」


 何だ何だ? カエンも、そして他の皆も笑い始めたぞ。


「く、苦しい。まさかパパルのピクシーダンスにつられるなんておいらビックリだよ。そんな顔であんな踊り、耐えられないよ」


 そう言ってテリンダートがグルフナを差し出してきた。


「なっ!?」


 グルフナの金属っぽい部分に映った俺の顔には、とある模様が幾つも光っていた。これはリターンスペルで脱出した時の魔法円と同じ光……


「コルキス!!」


「ぼく知らなーい」


 コルキスはクスクス笑ながら、ディオスと一緒にお店へ駆け込んで行った。


「これで拭けよアルフ」


 まだ少し笑っているロッシュが、箱にした左腕からタオルを取り出してくれた。


 それを受け取り顔を拭きながら色々思い出す。


 あの時はテリンダートやカエンじゃなく俺を見て顔を反らしてたんだ、とか、すれ違う人達がやけに楽しそうだったのは、とか……全部これのせいか。


「くくっ、いい弟じゃないか」


 フーラは俺の肩を叩いてお店に入って行った。


 カエンやパパル達もそれに続き、残された俺もロッシュに顎で「行くぞ」と言われ入店した。


「ぼくこれとこれ! ディオスにはこれね!」


 お店に入るとコルキスが既に注文し始めていた。


 注文を聞いている店主は可愛らしいスモルルフェアリーだった。道理で入り口が小さい訳だよ。


 パパル達も席に着いて、メニューを見ている。


 俺もコルキスの隣に座りメニューを開いたけど、料理名を見ても何の料理だかさっぱり分からない。パパルにお勧めを聞いてみよう。


「ここは何でもイケるが、お勧めはココテシアの包み焼きだ。特に()()()ぞ」


「じゃあ俺はそれにするよ」


「え? 兄様いいの? 他にも美味しい物一杯あるよ」


 コルキスがディオスを撫でながら聞いてくる。


 いいのって言われても、知っている料理が1つも無いんだからお勧めを食べるのが無難だと思う。


 ココテシアが何か分からないけど、多分、何かのパイ包み焼きみたいな料理だろう。


 まあ、口に合わなかったらパパルに謝って別のを頼めばいいさ。


「ああ、これでいい」


「ふーん、兄様がいいならいいけど」


 俺やパパル、グリッターソールの面々も各々注文し終えると、先に出てきた飲み物で乾杯をした。


 意外にもお酒の入ったロッシュは饒舌で、会話の主導権を握り話を盛り上げていく。箱族のイメージと違うけど、パーティーを組んでるんだから仲間とは打ち解けてるのが普通か。


 そうこうしているうちに、どんどん料理がやってくる。どれも美味しそうだ。


 そして最後に着たのが俺の注文した料理だった。こんがりときつね色に焼かれていてる。やっぱり予想通りパイ包み焼きだな。かなり大きいのには驚いたけど。


 ナイフを入れるとサクッと軽い音を立て、割れたところから食欲をそそる良い香りが立ち上ってくる。


「パパルの言う通り凄く美味しそうだ」


「だろう? 今の俺はちょっと食べる気にならないが、味は本当にこの店で1番だと思うぜ」


 そうまで言われちゃ期待がどんどん膨らむじゃないか。


 もうちょっと切って中身を見てみようかな……お、なるほど、麺料理だったのか。珍しい料理だな。


 パイの中身は乳白色の細い麺がぎっしり詰まっている。


「ねえ兄様、本当に食べるの?」


「ああ、凄く美味しそうじゃないか」


「うん……」


 コルキスはパパルを見て複雑な表情をしている。ヒストリアで何か見たんだろうか。


「気にしなくて良い。ほら遠慮せずに食え食え」


 コルキスの視線に気付いたパパルは笑ながら言う。


 イアはそんなパパルの横で料理を切り分け、あーん待ちをしている。ごめん、邪魔しちゃったな。


「じゃあ、頂きまーす」


 うん、思ったより柔らかく茹でられた麺だな。穴がないブカティーニみたいな感じかな。噛むごとに中からスープがとろとろと溢れてきてとても美味しい。


「パパル、これ凄く美味しい!」


「だろ!」


 自分のお勧めを褒められてパパルも嬉しそうだ。


 ココテシアの包み焼きは結構な量があったけど、本当に美味しくて全部食べきることができた。


 デザートも食べ終わり、満腹で動きたくないなと思っていると、この大嫌いニベルは宿もしているとパパルが教えてくれる。


 本来はスモルルフェアリーと同じ大きさの種族専用らしいけど、小さくなった俺達なら問題ないらしい。


 それにピクシーダンスの効果は何もしなければずっと続くらしいので、急に元の大きさに戻る心配もないと。


 グリッターソールはこの町で拠点にしている宿屋があるそうで、そこへ戻るからとお別れになった。


 イアとパパルが抱き合って別れを惜しんでいる。


 俺は危うくベロベロに酔っ払ったロッシュにキスをされそうになったけど、コルキスがガードしてくれたお陰で貞操を守ることができた。ちなみに、ロッシュそのまま意識を無くしフーラに引きずられて行ったのは笑ったな。


 皆と別れた後、案内された部屋は可愛らしい部屋だった。


 花のベッドや葉っぱのソファー、雫のランプといったスモルルフェアリーの好みが全面に押し出されている。


「パパル、さっきアグアテスで話した通りエメラルドサーフェイトモスの影響がなくなるにはもう少し時間がかかると思うんだ。それまではぼくと兄様の秘密基地にいてね」


 コルキスはパパルにアルコルの塔での注意点等を伝え始めた。でもピポルの事は教えないんだな。


「それじゃあ、今からぼくの子分を呼ぶからね」


 コルキスが目を瞑ってぼそぼそと何かを呟き始める。

 ん、コルキスの声以外にも何か聞こえるな。


『チッ、出ていったかと思うとすぐにこれとは。食事中に面倒な……ロン、早く行きなさい』


 これはアルコル声か?


「何の用だコルキス様。言っておくが血はやらんぞ」


 うおっ!?


 気付いたら俺の横にロンが立っていた。


「血? 今はいいや。お腹いっぱいだもん。それよりね――」


「分かった。確認だが、アルコル様には伝わっているんだな?」


 コルキスからはパパルの事を聞いたロンはどこか不満そうだ。


「うん、さっき伝えたよ。ロン、パパルはお客様だからね、丁寧におもてなししなきゃダメだよ」


「……ああ」


 不満ていうより怒ってるのかな。ロンの表情は分かりにくい。


「パパルとか言ったな。行くぞ」


「あ、ロン――」


 パパルの腕を乱暴に掴んだロンに対して注意しようとしたんだろう。コルキスが少し非難めいた声を出すも、全部言い終わる前にロンとパパルは消えてしまった。


「むう、丁寧にって言ったのに……ま、大丈夫か。じゃあ兄様、お風呂に入ったらもう寝よう」


「そうだな」


 お風呂は別々に入るもんだと思ったら違ったみたいだ。コルキスと俺で入り、お互いを洗いっこした。


「ディオ、ディオ、ディオス、ディディ、ディオ、ディオスー♪」


 お風呂から出てコルキスの頭を拭いていると急にコルキスが歌いだす。すると歌に合わせてディオスが例の踊りを再現していく。御丁寧なことに俺に変形してだ。


「止めろよ」


「やだー」


 はあ、 羞恥心が蘇ってくるじゃないか、まったく……えりゃ!


「あ、兄様やめてよー、くふ、くふふふふふ」


 俺は小さな仕返しで、コルキスをくすぐり地獄の刑に処した。

~入手情報~


【スモルルフェアリー】

小さな妖精。

人間の小指の先程の大きさしかない種族である。魔力を豊富に持っているが、物理的なダメージに大変弱い。また、花の蜜や朝露、綺麗な湧水等を主食にしているが、中には昆虫を食する者も一定数存在している。


~~~~~~~~~


【大嫌いニベル】

岩窟の町アギルゲットのレストラン兼宿屋。

アギルゲットのサウヒルチ断崖側の奥に在り、小さな種族以外には殆ど知られていない。とにかく小さなお店で見付け難くいが、回復効果を伴った数々の美味しい料理を提供しているまさに隠れ家的なお店である。窓は魔道具で、外から中を見ることはできない。お花の部屋や虫さんの部屋等の数部屋しかないが、宿屋も兼業している。また、店名の由来はチルヒウサ断崖側に住む店主の元恋人の名前である。食の好みが合わず別れたらしい。


~~~~~~~~~


【とある模様】

少し卑猥な形の模様。

コルキスは詳しい意味を知らないが、平民の大人がこの模様を見てバカ笑いしているのを見て面白いものだと思っている。コルキスはヒストリアで確認するほどこの模様に興味があるわけではない為、いつか意味を知り恥ずかしい思いをするかもしれない。


~~~~~~~~~


【名称】ピクシーダンス

【発現】ピクシー

【属性】発現者の先天属性と同じ

【分類】ダンス型/固有スキル

【希少】☆☆☆☆

【コルキスのヒストリア手帳】

ピクシーの固有スキル。

全てのピクシーに発現する固有スキルで、踊りの種類によって対象に色んな効果を付与できるよ。ただ、踊りの種類は個体差の好き嫌いが激しくて、大抵は1人2~4種類の踊りしか踊らないんだって。この踊りを見た他種族は自然と同じ踊りを踊っちゃう場合があるよ。兄様みたいにね。


~~~~~~~~~


【名称】ココテシアの包み焼き

【分類】虫料理

【属性】命

【希少】☆☆

【価格】共通銅貨110枚

【コルキスのヒストリア手帳】

大嫌いニベルの裏メニュー。

正確には子コテシアの包み焼きらしいよ。寄生蜂コテシアの幼虫に寄生された蝶の幼虫を、それとは分からないよう上手に調理しているんだ。店主のスモルルフェアリーは花の蜜等より昆虫を好んでて、元は自分の為に作った料理らしいね。店主と同じ趣向のスモルルフェアリーたちに振る舞ったのが切っ掛けでお店でも出すようになったよ。材料が材料だけに裏メニューにしてるんだって。味は抜群に美味しくて精神的疲労の回復効果があるよ。いくら美味しくてもぼくは遠慮しとこうかな。

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