89話 町へ行こう
後書き修正
コルキスはカエンに何かをせがんでいるようだ。
ただカエンは困ったような表情をしながら断っている。
まだ眷属のままなんだし、強引に言うことを聞かせることもできるだろうに、それをしないコルキスはやっぱり少し成長しているのかな。
俺に引っ付いて離れないグルフナを撫でながらそんな事を考えていたら、フーラに声をかけられた。
「おい、コイツをどうにかしてくれないか?」
ディオスがフーラの背中に張り付いて小刻みに震えている。グルフナも怯えるように震え始める。
そういえば、ディオスは途中から見当たらないなと思っていたけど、そんな所で何をしているんだろう。
「ごめん、ディオスは俺の言うこと聞かないからコルキスじゃないと……」
「そうか。カエンも困ってるようだし行ってくる」
フーラはグルフナに向けてウィンクをすると、カエンに引っ付いて首を横に振っているコルキスの元へ行き……あ、コルキスを引っぺがした。
何やら言い合いをしたようだけど、コルキスはディオスを連れて俺の所へ向かって来る。
ちなみに、グルフナはよっぽどフーラが怖かったのか、ウィンクをされると俺の服の中に隠れてしまった。
「あーあー、あんなに頬っぺたを膨らましちゃって」
そんなに全身から茸が生えたカエンが気に入ったのか。相変わらず不可解な美的センスをしてるよな。
「兄様、抱っこ。あと吸血。頭も撫でて」
はいはい。さっきのウキウキ顔がまるで嘘のような不機嫌顔だな。
「仕方ないな。ほら」
両手を広げてコルキス迎え入れてやる。
俺の腕に収まると即吸血していく。拗ねながら俺に甘えるコルキスがちょっと可愛い。これ、言われなくても頭を撫でただろうな。
「……」
ん、何だ?
ロッシュが何か言ったのかと思って見てみると、森の水を床に並べていた。
こっちも不機嫌な様子だな……森の水は少し分けて欲しいけど今は放っておこう。
「兄様、叔父上って本当にムカつくんだよ。足りないのがあるのはぼくのせいじゃないのに、それにカエンを連れて行っちゃダメって言うんだもん」
首の反対側に噛り付きながら文句を垂れるコルキス。
血って左右で味の違いとかあるのかな。
「そうだな。でも、カエンはフーラの仲間なんだし、テリンダートのお嫁さんだろ? 離れ離れは可哀想だよ。俺もコルキスと離れ離れになったら悲しい」
コルキスの言う事はちょっと意味が分からなかったけど、真っ向から否定するともっと機嫌を損ねかねない。それっぽい事を言ってみた。
「うう……そうだけど。テリンダートはどうでもいいよ。けどカエンは――」
「おい、こっちを見ろ!」
え?
声のする方へ振り返ると、森の水がこれでもかと床に並べられていた。
「これを全部お前にやる! だから、その……」
ロッシュはどうしたんだ? 怖い顔で睨んできたり、今みたいにちょっと恥ずかしそうにしたり……あ、でも森の水をくれるのは嬉しい。
「ありがとうロッシュ。コルキス、仕舞ってくれるか?」
「わあ、森の水だ。今飲んでもいい? ぼく、しばらく飲んでないんだ」
「ああ、ちゃんとロッシュにお礼言うんだぞ」
ロッシュがお前にやるんじゃないって言い出しそうだったから、先手を打っておいた。
案の定、何も言えないって顔をしている……あれ? 近付いて来る。文句を言われるのかも。
「ディオスも1つ飲んでみなよ。これすっごく美味しいんだよ」
コルキスはロッシュを気にもかけず、ディオスに森の水を渡している。
「グ、グルフナにもあげてくれ」
ロッシュを避けるようにして服から引っ張り出したグルフナをコルキスに渡したところで、腕を掴まれた。勿論ロッシュにだ。
「お、俺にもさっきのやつを……」
小声でロッシュが言ってくる。さっきのやつって何だ?
「そこまでだ、ロッシュ。コルキスも、のんびりしてないで早く眷属化を解け。解毒は終わってるんだろ」
皆を連れたフーラが呆れ声で言うと、ロッシュはまた不機嫌な顔で俺を睨み離れて行った。
コルキスも不機嫌な顔になったけど、森の水を仕舞い終えるとグリッターソールの眷属化を解除した。
「それじゃ、脱出するぞ」
皆を1ヶ所に集めたフーラがリターンスペルを唱えると、淡い光が俺達を包み込む。
へぇ、月魔法のリターンスペルは何人も同時に送還できるんだ。普通は2人までなのに、さすが幻の魔法だな。
脱出先はアグアテスの入り口横に設けられた、だだっ広い広場だった。
幾つもの魔方陣が描かれており、その1つに俺達も立っている。
「珍しい仕組みだね。普通は適当にダンジョンの周りとかに出るのに」
コルキスがしゃがんで魔方陣を触り、手の平を見ながら言う。
俺もそう思う。
「ここは人の出入りが激しいからな。ダンジョンへ入る前にリターンスペルの転移先とメンバー情報をここに設定するんだ」
「ヒウロイト王国のダンジョンは、基本的にリターンスペルで脱出しなきゃいけないのよ。入出管理の為にも、ダンジョンに入る冒険者の選別の為にもね」
パパルとイアがイチャイチャしながら教えてくれる。
そっか、リターンスペルって中級以上の魔法が使える実力がないといけないもんな。ヒウロイト王国のダンジョンは超難関で有名だから、そうやって実力者だけを選別してるのか。
「ねえ兄様、じゃあぼく達マズいんじゃない?」
「何がだ?」
コルキスは浮かび上がると俺の顔をペタペタ触りながら答えた。正気か? みたいな顔をするの止めろよな。
「だってぼく達はアルコルの塔から来たんだよ」
ああ、そうか。こっち側では何も手続きしていない。面倒臭いことにならなきゃいいけど……。
「大丈夫だよー。そんなに厳しく取り締まってる訳じゃないからね。あくまでも、出入りした人数を数えてるだけ。それで死んだ人数を予測してるんだよ」
今度は隣に居るテリンダートがカエンにキスしながら教えてくれる。カエンは諦めの境地に達した顔をして前だけを見ている。
他のメンバーも慣れっこなのか、ちらっと見るだけで顔を反らしていく。
「よし、そしたら先ずは約束の件だ。上手い飯屋に案内する。早く町へ行こう」
パパルが少し笑いながら皆を促した。
イアのお陰もあるのか、少しは元気になったのかな。
町まではゴーレムトロッコで20分ほどの距離だった。
俺達はヒウロイト王国第3都市、岩窟の町アギルゲットに到着した。
ん、そういえば何か忘れているような気がする。
うーん……ま、思い出せないって事はたいした事じゃないか。
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「おい、聞いたか? なんでも、今日アグアテスで今までに見たこともない魔物が現れたんだってよ」
「私達も聞いたわ。自分を殴り続ける人形でしょ? 倒すとレアなアイテムを落とすって話じゃない」
「いや違うだろ。四肢が千切れていて胴体と戦ってる人形だって」
「ちげえよ。俺達が見たのは腹からドラゴンが飛び出てる頭の無い人形だったっての。気色悪い魔物でよ、そいつが頭と戦い始めたら周りの階段が崩れ始めたんだぜ」
「急いでリターンスペルを使って脱出したのよ。でも、噂話ってこうも改変されちゃうのね」
「いやいや、俺達が見たのは……」
この日、絶望の階段アグアテスに挑んでいた複数の冒険者パーティーから新種の魔物を見たいう話が冒険者ギルドに報告され、ギルド併設の冒険者専用宿屋では様々な噂話が飛び交っていた。
【岩窟の町アギルゲット】
ヒウロイト王国第3の都市。
王国の東に位置しており、サウヒルチ断崖とチルヒウサ断崖という2つの断崖に築かれた岩窟の町である。崖の岩をくり貫いて作られている為、緑は少ない。町にはゴーレムトロッコと呼ばれる移動手段が張り巡らされており、其々が独立した地形にも関わらず行き来しやすい。また、2つの断崖から中心に位置する比較的小さなテーブルマウンテンには、東のダンジョンと呼ばれる絶望の階段アグアテスが聳え立っている。
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【名称】ゴーレムトロッコ
【分類】トロッコ型ゴーレム
【属性】土
【希少】☆☆☆☆☆
【運賃】1人共通木貨3枚~
【アルフのうろ覚え知識】
岩窟の町アギルゲットに張り巡らされた移動手段。
トロッコ自体がゴーレムになっており、お金を支払えば誰でも乗ることができる。基本的に数人で乗り合わせる乗り物であり、起動に必要な魔力は乗車する者が負担する。追加料金を支払えばその魔力を負担しなくてもよい。2つの崖やアグアテスがあるテーブルマウンテンを行き来するゴーレムトロッコからの景色は絶景であり、それ目当ての観光客も多い。世界百景の1つに数えられている。




