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7話 勇者様と入浴

後書き修正

「勇者様。あの、まだウォッシュの魔法は終わりませんか?」


 抱き付かれたまま結構な時間がたってるような気がするけど。


「もう少しだけお待ち下さい――ウォッシュ」


 勇者様はそう言ってさらに俺を抱きしめた。


 2回も魔法が必要なほど樹液まみれなのか俺……そして勇者様はそのまま大きな手で俺の頭を筋肉質な自分の身体に押し付けてきた。


 スベスベの肌と逞しい筋肉が俺の顔を圧迫する。


 うん……じっとりしてて不快。そして苦しい。


 あと、ずっと俺のお腹に勇者様の勇者様が当たっている。正直、気持ちのいい気分ではない。なんか硬いし。


 うぅ早く離してくれないかなぁ。





「よし、ありがとうございますアルフレッド様。ウォッシュは終了しました」


 勇者様の言うとおり、やっとベタベタが消えた…………いや、終了したなら離してよ。


 俺は勇者様のバキバキに割れた腹筋に手を当ててグイッと身体を離そうとした。


「あー、やっぱりもうちょっとこのままで」


「いい加減にして下さい」


「あと1分だけ。それと、できればアルフレッド様も俺の背中に手を回してくれると嬉しいんですけど」


 はぁ? 何で俺がそんなことしなきゃいけないんだよ。


「弟は事故で死んでしまったんです。だから弟にそっくりなアルフレッド様に抱きしめてほしいんです。駄目ですか?」


 うっ……そんな言い方はズルいよ。


 俺は仕方なく勇者様の背中に手を回した。あ、背中も筋肉が凄い。まぁ勇者様だから当然か。


「アルフレッド様、ソウタ兄ちゃんって言って下さい」


 えぇー?


 あ、でも待てよ……


「言ったら離してくれますか?」


「……はい」


 よし、なら何でも言ってやろう。


「ソ、ソウタ兄ちゃん」


「ユウタっ!!!」


 勇者様の名前を呼ぶとギュッと抱きしめが強くなった。


 おぃぃぃ、離すんじゃなかったのかよ。


 俺は抗議の為に手で勇者様の背中をぺちぺち叩いた。


「くっ、、慰めてくれてるんだな。アルフは優しいな」


 え、いや違うよ。離して欲しいんだってば。


「あの、もうそろそろ。ちょっと苦しいです」


「あ、悪い。アルフは体力や防御力のステータスが低いもんな」


 ふぅ、やっと離してくれたか。


 でも今は俺の肩に手を置いてじぃっと顔を見てくる……気まずい。


 あと、なんか急に馴れ馴れしい言葉になったけど何でだ?


 さすがにこれ以上付き合ってられないから、勇者様の手を振りほどいて湯船に向かった。


 勇者様も着いて来る。


 けど……


「勇者様、もう抱き付くのは止めて下さい」


 普通にできないのかなこの人。今度は俺を後ろから抱きしめながら歩いている。


「頼むよアルフ。ユウタとまた会えたみたいで凄く嬉しいんだ。正直言うと、アルフはユウタが転生してこの世界に来たんじゃないと思ってる」


 また転生とか言ってる。


 何のことだよ。


「勇者様、さっきから転生とか前世の記憶って言ってますけど、それって何のことですか?」


 まったく離れようとしない勇者様のことはもう諦めて、気になったことを聞いてみた。


「アルフ、俺のことはソウタ兄ちゃんだ。あと敬語も無しな……よっと。ハハッ、アルフは軽いな」


 軽々と俺を持ち上げた勇者様が、そのまま俺を湯船に放り込んだ。

 

「ガハッゴホッゲホッ!!」


 何てことするんだ!!


 いくら俺がよく兄様たちにアクアボールやウォーターショットで水攻めされてるからって苦しくない訳じゃないんだからな!!


「な、何を――うぷっ、ゴホッゲホッ!」


 もう、何なんだこの人。


 勇者様は俺を放り込んだ後、自分も湯船に飛び込んで来た。


「一緒に銭湯へ行ったときこうやって遊んだよなぁ。すっごい怒られたけどさ、ハハハハ」


 セントウ? なにそれ?


 悪いがそんな遊びをした記憶は一切ない。


「何ですかそれ。こんな危ない遊びしたことないです。全然面白くないですし。勇者様は乱暴者ですね」


 俺は勇者様から距離を取りながらジト目で言ってやったぜ。


「アルフ、敬語は駄目だ。あとソウタ兄ちゃんって言うんだぞ」


 勇者様、いやこんな奴に様なんかいらないな。勇者が離れようとする俺の腕をガシッと掴んで自分の方に引き寄せながら強めに言ってくる。


 そしてしっかり肩を組んで俺を逃がさないようにした。この引き締まった腕、俺の力では振りほどけない。


「ソ、ソウタ兄ちゃん。痛いから離してよ」


「そうか、じゃあこれくらい大丈夫か?」


「まだちょっと痛い」


「それなら、こっち来るか?俺にもたれ掛かっていいぞ」


「いえ……このままでいいです」


 くそぉ、何がなんでもくっ付いていていたいんだな。


 誰が勇者の足の間になんか入るもんか。


「敬語止めろって。あ、それで転生と前世の記憶だったな……」


 勇者は何でそんなことを言ったのか教えてくれた。


 まず、勇者は異世界から召喚されたらしい。


 そしてその異世界では、死んだ人は神様に選別され別の世界に生まれ変わりとして送られる事があるそうだ。


 これが転生。


 転生者は死ぬ前の世界、つまり前世。その記憶を持っていて、しかも特別な力を持っているんだって。


 ラノーベとかいう書物にたくさんそういう記述があるらしい。


「じゃあやっぱり違いますよ。俺、特別な力なんて持ってないし」


「なに言ってるんだよ。アルフは凄いステータスじゃないか。魔力も素早さもそのレベルじゃあり得ない数値だ」


「でも俺、魔法使えないから意味ないもん」


 ステータスが異常なんてことはずっと前から知ってるよ。

 

 それを全く活かせないからこんななんだし……自分で考えてちょっと落ち込む。


 俺は顔を半分湯船に浸けて息をブクブクさせて気を紛らわした。


 わっ!?


 急に勇者が俺の身体を前に押しやって後ろに滑り込んできた。


 俺は慌てて離れようとしたけど、お腹に回された勇者の手がそれを許さない。


 あぁ、結局勇者の足の間に座らされてしまった。微妙に当たってるな、アレが……。


「アルフ、別に魔法が使えなくても固有スキルがあるじゃないか。えーと、なになに……」


 え? 固有スキルだって!?


 そんなもの父上に鑑定してもらったときは無かった。


 どういうことだ!?


 そういえばさっきから俺のステータス知ってるみたいだったけど……鑑定魔法が使えるのか!?


 凄い、やっぱり勇者様って凄いな。


「あ、あの勇者様――」


「ソウタ兄ちゃんだ!」


 ……食い気味で直された。


 俺は勇者様の方を向こうとした。けど、勇者様は俺のお腹にあった手を胸に移し、自分の身体にいっそう密着させる……くっ、もう不愉快な感触の事は諦めよう。


「ソ、ソウタ兄ちゃんって鑑定魔法使えるの?」


 ソウタ兄ちゃんって言うの何か恥ずかしいんだよな。


「ん、あぁ、俺のは魔法じゃなくてスキルだ。何でも鑑定できるんだぞ、凄いだろ?」


 本当に凄い事だ。しかも魔法じゃなくてスキルだなんて。


 鑑定魔法は魔道具を使わないとかなり魔力を消費するし、そもそも使える人もほとんどいない。


 鑑定の魔道具だってとても貴重で、国が1つ所有してるのさえ珍しいのに……それにスキルは基本的に魔力を消費しないから、鑑定がスキルだなんてとんでもないことだよ。


 俺は思わず振り返って……無理か。代わりに勇者様の手を期待を込めて叩く。


「あ、でも内緒な。鑑定スキル持ちなんてバレたら絶対面倒事に巻き込まれる。アルフだから教えたんだぞ」


 肯定の意味も込めてもう1度、勇者様の手を叩いた。


「わ、わかりました! 鑑定スキルなんてやっぱり勇者様って凄いんですね!! そういえばフレアドラゴンの討伐もされたんですよね? 私はそのフレア――」


「アルフ、何度も言ってるだろ。敬語禁止。勇者様じゃなくてソウタ兄ちゃんだ。これが守れないならアルフの固有スキルは教えてやらないぞ」


 呆れた声で勇者様が言ってきた。


 それは困る。


 どんな固有スキルか分からないけど、今より悪くなることなんてないはずだよ。


「わかった! じゃあ早く教えてよソウタ兄ちゃん!」


 固有スキルを教えてくれるならもうなんだっていいや。


 早く教えて下さい勇者様!!


「ソウタ兄ちゃんお願いって言って」


「ソウタ兄ちゃんお願い!!」


勇者様が俺の身体を回して向かい合わせにする……うわぁ、なんて顔してるんだよ。


 せっかく整った顔してるのに溶けたバターみたいになっちゃってる。


 いや、そんなどうでも良いことより固有スキル、早く固有スキル!!


「よし、じゃあ言うぞ。アルフの固有スキルは……孵化だ」


 孵化???

 

 なにそれ。孵化って卵を早く孵すことができるってスキルだよね。


 あーあ、なんだよ。使い道ほぼないじゃん。


 落ち込む俺を見ながら勇者様はニコニコして俺の頭を撫でてくる。


「それとな、アルフはレベル10になったらもう1つ固有スキルが発現するみたいだぞ」


 え、本当に!?


「ほほほ本当に!? 何て固有スキルなの!?」


 どうか孵化よりもいい固有スキルであってほしい。


「いや、さすがにそこまでは分からないな。でもそんなに喜んでくれて良かったよ。人の為に言ったことでも、受け取る側によっては怒られるからな。どんな固有スキルなんだろうな、楽しみだな」


「う、うん!! 凄く楽しみだよ!! 早くレベルアップしなきゃ!! じゃあ俺今からレベリングしてくるから!!」


 俺は勢いよく立ち上がろうとしたけど、勇者様にがっしり肩を掴まれて阻止された。


「アルフ、俺と一緒に行こう。俺が付いてれば安心だろ? だから今はゆっくり風呂を楽しもうな」


 うーー早く行きたけど確かに勇者様が一緒なら安全に、しかもすぐレベルアップしそうだな。


「分かったよソウタ兄ちゃん」


 俺はそう言って湯船に浸った。


 今なら大丈夫かなと勇者様から離れようとしたけど、あっさり捕まってさっきと同じ体勢になってしまった。


 それから4時間、勇者様の氷魔法で涼みつつ勇者様が満足するまで、お風呂で色々話すことになった。

~入手情報~


【名 称】鑑定鏡

【分 類】魔道具

【希 少】☆☆☆☆☆☆☆☆

【価 格】クランバイア魔神貨100枚

【説 明】

登録された術者が呪文を唱えると鏡に写った物の鑑定結果が鏡に浮かび上がる。術者自身も鑑定結果を確認する為には鏡の裏にも鑑定結果を浮かび上がらせる必要があり、前述の場合より2・5倍の魔力が必要となる。


~~~~~~~~~


【名 称】フレアドラゴンのステーキ

【分 類】肉料理

【希 少】☆☆☆☆☆☆☆

【価 格】クランバイア金貨260枚/1g

【説 明】

SSレア食材

食べると数日間火魔力が使えるようになる。運が良ければ火属性のスキル取得や適正魔法に火魔法が加わる。


~~~~~~~~~


【名 称】フェリの木

【分 類】精霊樹

【分 布】-

【原 産】-

【希 少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【価 格】-

【説 明】

植物の大精霊が流した血が種となって生えた木。木の精霊をはじめ草の精霊や花の精霊などが多い場所に極稀に生えることがある。


~~~~~~~~~


【名 称】フェリの木の樹液

【分 類】樹液

【希 少】☆☆☆☆☆☆☆

【価 格】-

【説 明】

深緑色の樹液。

植物関係の精霊には極上の味に感じる。人間には酸っぱく生臭い味らしい。精霊以外が摂取すると固有スキルに変化が生じる場合がある。


~~~~~~~~~


【名 称】ドリアードのサラダ

【分 類】精霊のサラダ

【希 少】☆☆☆☆☆

【価 格】-

【説 明】

木の精霊ドリアードが自らの身体から生やした植物を千切って作ったサラダ。使われた植物によって効果が異なるが人間が食べらる機会はほとんどない。


~~~~~~~~~


【名 称】アクアボール

【分 類】中級水魔法

【効 果】☆☆☆

【詠 唱】ミューレ型基礎言語/乱文可

【現 象】

対象を中心に水球を発生させ、水の魔力で攻撃する。窒息をさせたり水圧をかけてダメージを与えることもできる。


~~~~~~~~~


【名 称】ウォーターショット

【分 類】初級水魔法

【効 果】☆

【詠 唱】ミューレ型基礎言語/乱文可

【現 象】

水を飛ばして対象にダメージを与える。

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