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87話 敏感な部分

後書き修正

 抵抗も虚しく、俺はとても敏感な部分をラズマに触れられている……はあ、大精霊になったお祝いがこの程度で済んで良かったと思おう。


 そういえばさっきから何か飛んでいるなと思っていたけど、それはラズマの周囲を飛び回っている物だった。綺麗な石が嵌め込まれた、それぞれ形の違う鍵が5つ。鍵は俺に当たらないように飛んでくれている。当たると痛そうだからありがたい。


 特級精霊の時にはなかったから大精霊になるとこういうのが出てくるんだろうか。ロポリスもモーブもそうだし。


「この感触いいよねー。ボクね、ふにゃふにゃで柔らかいのも固めのもどっちも大好きだよー」

 

 そう言ってラズマは触っている部分にふっと息を吹き掛ける。


 俺は少し身震いしてしまった。うう、ただただ恥ずかしい。早く飽きてくれないかな。


「……兄様、ラズマ様とお楽しみのところ悪いんだけどちょっといい?」


 コルキスが俺達の前までやって来たようで声をかけてきた。


 チラッとコルキスを見ると、何とも言えない表情で俺とラズマを見ている。まあそうだろうよ、この状況だもんな。でも助かった。


「勿論だ! おいラズマ、コルキスと話すからもう離れてよ」


「は? 何言ってんの? 話ならこのままでもできるよね? それともボクの前では話せない事なのかな?」


 前半は俺に言い、後半は振り向いてコルキスに言う。はあーあ、今度は怒りモードかよ。


 こらこら、振り向き様にコルキスを威嚇するなよ、ちょっと怯えてるじゃないか。


 それと、ラズマは怒り出したのに俺を触る手は止めないのな。


「コルキス、このままで聞くよ。何だ?」


「あ、えと、フーラがグルフナを貸して欲しいって。たぶんグルフナを欲しがると思うけどそれはちゃんと断るから、いーい?」


 ロポリスの入った人形と、ラズマに視線をやりつつコルキスが遠慮がちに聞いてくる。


 おや、半分に千切れてた人形がくっついてるじゃないか。一体いつの間に……あ、小龍の腕輪もしてるし箒も持っている。大きさまで人形に合わせるなんて芸が細かいな。


「へぇ、ふーん、コルキスはグルフナを貸す代わりに何のお願いを聞いてもらうのかな? フーラだなんて白々しい呼び方しちゃってさ、ボク気になるなー」


 だからコルキスを威嚇するなって。


 バチッバチッと音を立てる青紫色の雷球に囲まれて泣きそうになってるじゃないか。何でそこまでするんだよ。


『コルキスはあのセレネヴァンパイアに月魔法のリメリエラをかけて欲しいのよ。じゃないと安心して私と一緒に居られないんでしょう』


「それは、その……」


 ロポリスが地面に転がったまま言うと、コルキスが動揺し始める。


「うん? セレネヴァンパイア? それってフーラの事か?」


 フーラは月神族だよな。ていうかセレネヴァンパイアって何?


 俺は何となくフーラの方を見ると、そこに居たのはフーラによく似た雰囲気の長身の男だった。


 やたら整った顔をしている……負けた。


「だ、誰だあれ?」


「フーラだよ。本名はピト=フーラ・アンドロミカ。コルキスの叔父でメファイザの弟」


 ええ!? 初耳だ……いたんだ、弟。メファイザ義母上に。


 確かアンドロミカってメファイザ義母上の母親で、かなり昔に月神族に殺され、今は実家の地下に頭蓋骨だけが埋葬されているって話だったよな。


「ロポリス様、お許し頂けないですか? ぼく……いえ、闇属性の私にはロポリス様のお力は強力過ぎて、近付いただけで消えちゃいそうになるんです」


 おいおいおい、どうしてそうなるんだよ。


「闇属性と聖属性ってどっちか一方が強いとかじゃないよな。そりゃロポリスは大精霊だけど、近付いただけで消えるとかあるのか?」


「あのねぇ、ロポリスは聖光・・の大精霊なんだよ? ただの大精霊じゃないんだからね。それに消えちゃいそう、であって消えるんじゃないのー」


 うわ。ラズマのやつ、今度は心底呆れたって顔してるよ。この俺を馬鹿にした感じ、ドリアードみたいだ。


『アルフはそんな事まで……ああ面倒臭い。コルキス、説明して』


「はい。あのね兄様、大精霊様の中でもロポリス様は特殊なんだよ……」





 コルキスの説明を纏めると、幾つかの属性の大精霊は3段階の進化をするらしい。ロポリスは光の大精霊、聖の大精霊、聖光の大精霊と進化してきたらしく、第3段階にあるロポリスは超絶凄い力なんだという。


 そしてモーブは闇の大精霊、第2段階らしい。だから闇の眷属であるコルキスはロポリスの力に圧されしまうと。


 凄いとは思っているけど……これが? そこまで? 本当に?


 ロポリスのやる気のない一面ばかり見ている俺はそんな印象の方が強い。現に今も人形に入ったっきり動く気配がない。


『何よ、アルフ』


「本当かなって思ってるだけ」


『失礼ね。私はやればすごーく出来る子なのよ』


 いや……横寝で尻を掻きながら言われても。やっと動いたと思ったらこうだもんな、説得力は皆無だ。


 しかも、動いているのが人形で、少し可愛らしく見えるのが腹立たしい。


「あはっ! 大精霊になるまであんなに時間がかかったのに?」


『ラズマだって私の事どうこう言えないでしょ』


 ラズマがロポリスをイジり出し、またケラケラ笑い始めた。


 同時にコルキスを囲っていた雷球も消える。ただ、ラズマは相変わらず俺の身体を触っている。今度はお腹を重点的に。


 お、コルキスがホッとした表情になったな。

 

「ちなみに、モーブ様はあと少しで常闇の大精霊様になれるんだよ。だからぼく頑張るんだ」


 モーブの第3段階は常闇の大精霊っていうんだ……ん? 足をトントン叩かれた思ったら、足元でグルフナが何か言いた気にしていた。


 そういや、グルフナの話をしてたんだっけ。すっかり忘れてたよ。


 俺としてはグルフナに危険がなくて、ちゃんと戻ってくるならグルフナの判断に任せればいいと思う。


 グルフナを拾い上げてやると、フーラの方へ行きたそうな素振りを見せた。


「あの、ロポリス様――」


『好きにしなさいよ。あと面倒臭いから大精霊とも普通に喋っていいわよ』


「えー!? 酷い、酷いよ。そういうのはボクに相談してから決めてよ。ロポリスのバカー!」


『……』


 またラズマが泣き出した。煩いなあもう。


「あ、ありがとう……ございます。じゃあ兄様、グルフナを借りるね」


 コルキスはグルフナを掴むと、そそくさとフーラの元へ行ってしまう。


 とりあえず俺は、再び無視を決め込むロポリスを拾い上げて鞄に仕舞った。相変わらず俺が触ると人形はとても嫌そうな顔をする。


 そんな少しの時間でラズマは豹変し「ぷんすこぷんすこ」とか言いいながら、また俺のあそこ、耳たぶから軟骨部分にかけてを触り始めた。

【セレネヴァンパイア】

月神族とヴァンパイアの混血。

1500年の前に誕生した新たな種族と言われており、今のところ1人しか存在が確認されていない。セレネヴァンパイアは両親の力を余すことなく受け継いでおり、潜在能力は凄まじいと推測されるが詳しい事は分かっていない。また、余談だが父親の月神族はセレネヴァンパイア誕生後数ヵ月で寿命のため死亡。母親がヴァンパイアとして育てようとするも、弟の忘れ形見を欲した月神族の王が彼女を殺害し拉致。激怒したヴァンパイア達の報復は苛烈を極め、双方に甚大な被害をもたらした。それには月神族の王の死亡も含まれる。以後、月神族とヴァンパイアが交わる事は禁忌とされている。


~~~~~~~~~


【大精霊】

各属性の最上位精霊。

現在知られているのは下記の4つである。

①どの属性でも1人しか存在せず強大な力をもっている

②属性によっては3段階の進化をする場合もある

③大抵の大精霊の周囲には常に飛び回っている何かがある

④特級精霊が大精霊になる

余談だが大精霊に関して最も詳しく知っているのは、誰よりも長く精霊と契約しているクランバイア魔法王国の王妃だと巷では囁かれている。


~~~~~~~~~


【名称】リメリエラ

【分類】上級月魔法

【効果】☆☆☆☆☆☆☆☆

【詠唱】ナールロッポトルト魔法言語/乱文不可

【現象】

選択した属性が一定期間吸収可能になる。選ぶ属性が多いほど吸収可能な期間は短くなる。最長で月の満ち欠けが1周するまで効果が持続する。

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