81話 黄色い宝箱を開けたらば
後書き修正
げっ!! あれってもしかして……アルコルの奴、何してくれてんだよ。ヒウロイト王国へすぐ行けるよ、みたいな言い方だったけど、なんというありがた迷惑。
「りくこんき? 兄様、ぼくあれ初めて見る魔物だ。1本足のドラゴン……には見えないけどヒストリアではそうなってるね。変なの、どう見たって1本足の牛だよねあれ」
コルキスが俺の腕の中で呑気な声で言う。
やっぱり六魂夔かよ。前に父上がもう1人では戦いたくない魔物って言ってたやつだ。
「違うぞコルキス、あれは間違いなくドラゴンの仲間だよ。父上が言ってたんだ。龍っていうドラゴンの1種でべらぼうに強いって。6体同時に攻撃しないと無傷だし、各々弱点の属性が違うし、魔法防御も物理防御もぶっちぎってるらしい。おまけに特級魔法を連発してくるって言ってた」
どうする!? これは本当にマズイぞ。話を盛ってたのかもしれないけどあの父上が倒すのに苦労したって魔物だ。たぶんまともに戦えるのはアクネアとティザーだけだよ。
「あー、うん。言われなくてもぼく分かってるよ。ヒストリアで見てるからね」
『えげつないのう。あんな魔物に守護させておきながら、あの宝箱はハズレの転移トラップなんじゃからの』
『まあここまで来れる冒険者なんてほぼいないだろうけどな。よし、いっちょやるかー。分かってるなコルキス』
「うん、任せて!」
えぇ!? ちょっと待ってよ。まだ心も準備ができてない……ていうか皆どうしてそんな呑気な声で話してるんだ。めちゃくちゃピンチなの分かってるのかよ。
「何してるの兄様? 早く」
コルキスが不満げに俺の胸を叩いてくる。
「い、いや、早くって言われても……」
どうする!? どうすればいいんだ!?
「もー、早く降ろしてよ!」
「ぐえぇ!!」
自分から俺の腕に収まっておきながら、早く降ろせと魔法で俺をふっ飛ばすとはなんたる理不尽。
「兄様、大袈裟。これ痛くない魔法だよ」
『なんじゃ、ミステリーエッグを発動しておらんかったのか? これから戦闘じゃというのに呑気なことじゃて』
『まったくだぜ。ま、アルフはそこでグルフナと一緒にディオスに守られてろ。多分すぐ終わるからな』
アクネアとティザーは呆れた声で言うと、コルキスの方へ行ってしまった。コルキスに指示を出されたのか、2人と入れ違いでディオスがのそのそこちらにやって来た。
「おい、ずいぶんと不本意そうだなディオス。何て言うか、動きにやる気が感じられないぞ」
あからさまにプイって顔を背けられた。本当にあそこが顔なのかは知らないけど……。
「じゃあ、ティザーとアクネアはいらないアイテムをじゃんじゃん出してねー」
ん、なにしてるんだあれ。コルキスたちがアイテムをとんでもない早さでブチ壊して……一瞬だけアイテムが何かに変化したように見えなくもないけど、早すぎるし距離もあって全然分からないな。
守りを任されたディオスも、しれっと身体を伸ばして破壊行為に参加してるし。
『それにしても不完全――』
『だなだな。コルキスは――』
『それに比べて――』
『兄貴なのに――』
コルキスと違って小声でアクネアとティザーが何か言いながらこっちをチラ見してくる。きっと悪口に違いない。長い付き合いだからな、俺には分かるんだぞ。なんてことを考えていると、アイテムの破壊行為がピタリと止んだ。
「兄様終わったよー」
えっ? もう? 結局何をしてたんだ?
アイテムを壊してるだけで何も――て、嘘だろ。本当に六魂夔を倒してる。血塗れでビクビク痙攣してるじゃないか。どうなってんだよこれ。
驚く俺をよそにコルキスは倒れた六魂夔に近付いてもぞもぞしている。
うえ、何だ? コルキスの顔が6つあるように見える――いや、見間違えかな。とにかく分からないことだらけだ。
「あー! 皆来て来てー!」
コルキスに呼ばれて行ってみると、六魂夔は消えていて、そこには汚い箱が落ちていた。
「まさかこれって」
「そうだよ、りくこんきのドロップ品」
うーん、見た感じは薄汚れた箱だな。きっと価値のある物なんだろうけど、正直そうは見えない。ていうか、今気付いたけど塔の内装って相変わらずコルキスの趣味丸出しなんだな。気味が悪いし難解な装飾だ。
『ほう、これはドゥーマトラからの餞別かのう』
『あいつはそんなことしねぇだろ。偶然だよ偶然』
お、何だ? やけにグルフナがドロップ品にすり寄ってるな。そんなに気になるのかな。
「くふふ、グルフナってば中身が気になるの? じゃあさっそく開けるね」
ほう、ドロップ品は箱じゃなくて中身なのか。どれどれ……ふーん、模様の描かれた円盤か。
「なあコルキス、それって何だ?」
「えっとね、これは夔鳳鏡。危ないけど良いものだよ、たぶん。ぼくはいらないけどね。はい、しまっといて」
『ティザー、任せた』
『ほいほい』
コルキスは興味無さそうに夔鳳鏡とやらをティザーに渡すと、転移トラップの黄色い宝箱に向かって歩き始めた。
使い道とかを知りたかったんだけどなあ。グルフナも気になるのか、ティザーにまとわりついている。
「ねぇ早く行こうよ」
さっきはもっと遊びたいとか言ってたくせに、コルキスが急かしてくる。自由だな……はあ、行くか。
俺たちは黄色い宝箱の前に集まると、念の為に全員くっつくことにした。コルキスを抱っこして、両肩にアクネアとティザーの入った人形、背中にディオスでグルフナを咥えている。
皆でディオスの中に入ったらいいと言ったんだけど、ディオスが断固拒否したせいでこうなった。重い。
「転移ってどんな感じかな。ワクワクするね兄様」
確かに。転移ってどんな感じなんだろう。ま、開ければ分かるか。
「ふがふが、ふがふがふが」
「え? 何言ってるか分かんないよ兄様。もういいから早く開けて」
俺の状況を知ってて自分から話しかけてきたのに、コルキスめ。さっきの吹っ飛ばしも含めて後で何かしらの仕返しをするからな……ま、それはさておき開けるか。
「ふが!? ふがふがふがふがーーー!!」
足で黄色い宝箱を開けると、中には無数の小さな手が蠢いていた。あまりのおぞましさに叫んでしまい、グルフナを落としそうになった。何とか踏ん張りグルフナを咥えなおして一瞬安心したところで、その手が一斉に飛び出してきた。
じっとり湿った小さな手に絡めとられ宝箱に引きずり込まれる。あまりの気持ち悪さに、改めて何でアイテムを壊してただけで六魂夔を倒せたんだろう、と知らず知らず現実逃避していた。
~入手情報~
【種族名称】
六魂夔
【先天属性】
必発:全属性からランダムで六属性
偶発:-
【適正魔法】
必発:全属性からランダムで六属性
偶発:-
【魔核錬成】
初期等級:S
消費下限:?
迷宮刻印:?型アルトル
魔法円種:?
仮象加工:??リクコンキ
進化意欲:☆
変異体質:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【初期スキル】
眼光/魔法威力上激昇/集合と離散/シクスブレインジャック
【固有スキル】
威嚇/鳴声/六心同体/縄張り/風水雷聖吸印/六魂ブレス/エレメントシャッフル
【通常ドロップ】
牙/革/六蹄/夔鳳鏡/六魂色の外套
【レアドロップ】
魔核/六魂魔石/六眼/六色結界符/六魂杖
【アルフのうろ覚え知識】
6体合わせて1体の龍種と呼ばれる魔物。
各々が1本足の牛のような外見をした龍。先天属性はすべての属性からランダムで6属性が必ず発現する。そういう意味で変異種しか存在しないといえるだろう。6体に対し同時に攻撃しなければダメージを与えらないが、1体1体の先天属性が違う為、属性を持った攻撃をするとダメージにバラつきが生じる。しかもその内の最低ダメージしか与えられない。また、風属性、水属性、雷属性、聖属性は吸収されてしまう。そもそも魔法防御、物理防御の両方が恐ろしく高いせいで大抵の攻撃は弾かれてしまう。唯一の救いは、一定距離に近づかない限り威嚇しかしてこない事だろう。不用意に近付くと、特級魔法を次々に繰り出し襲い掛かってくる。余談だが、鳴き声は極上の音楽と言われている。
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【名称】夔鳳鏡
【分類】魔変鏡
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】-
【効果】
魔神銅でできており、六魂夔と黒鳳という鳥が配されている。使用すると鏡に映ったものに10%の確率で先天属性を6つ、適正魔法はランダムで1~6個増やす事ができる。膨大な魔力を秘めているため、使用者の魔力操作技術が極めて高くなければ、瞬く間に暴走し周囲に甚大な被害をもたらす。また、使用後は必ず砕け散ってしまう。




