80話 出発しよう
後書き修正
もの凄く嫌な夢を見た気がする。
昨日はコルキスに勝負を挑まれて……途中からはよく覚えていない。結局勝ち負けはどうなったんだろう。
うーん、覚えていないってことは俺が負けたのかなぁ。
「兄様ぁ、ぼく生きてるよぉ……むにゃむにゃ」
当たり前の様に俺の上で眠りこけてるコルキスが寝言を言いながら俺の服を掴んでくる。重いから早く起きてくれないかな。
「コルキス、おいコルキスってば」
声をかけながら揺さぶっても、コルキスは服を掴んだ手に力を入れるだけで全然起きない。
「ぼくは大事……くふふふふ」
まったく、さっきの寝言といい一体どんな夢を見てるんだよ。これはまだ起きそうないないな。やたらスッキリしてて二度寝するのも無理そうだから、これからの予定を整理でもしてみるか。
先ず、今日の昼までにアルコルの塔を出発するだろ。
となると次の町に到着するのは、空を進んだとしても3日~4日はかかるかな。確かケタイルテンクっていう猫獣人や狸獣人が多い町だっけ。
その次がホルガ山脈にあるダンセン洞窟を抜けた所にあるのが山羊獣人とスノーエルフが多いバルデミーナの町。
ここまでは10日あれば行けるかな。
さらに進んで主に氷麦を栽培してるブルウェイン大穀倉地帯を抜ければやっとヒウロイト王国に近いアプレビ辺境伯領に到着する。
できればアプレビ辺境伯の娘、クルフィ嬢には会いたくない。見合いを断るのが本当に大変だったし、俺は彼女と会ってから大猩々獣人が苦手になったんだよ。
ま、アプレビ辺境伯領は全力で駆け抜けるとして、ヒウロイト王国のすぐ近くにあるミュラウト古墳群で休憩するのがいいかな。ここは初代魔王のお墓だなんて話もあるけど、本当かどうかわかってなくて研究中らしい。
俺は違うんじゃないかと思うんだよなぁ。だってヒウロイト王国って初代勇者が作った国とされてるんだもん……いや待てよ。もしかしたら初代勇者が初代魔王を倒してそこに国を作ったとか?
まあそんなに興味があるわけでもないし、もし覚えてたらコルキスにヒストリアで確認してもらおうか。
他にも町や村がいくつもあるけど、立ち寄るとしたらこんなもんかな。途中でコルキスの我儘やアクネアとティザーの思い付きがあるかもしれなから、たぶん1ヶ月と少しくらいでヒウロイト王国に着くと思っておこう。
「ふぁ~あ……あ、おはよう兄様。元気になった?」
お、コルキスが起きたか。これからのことを考えたり悲しい思い出に浸っていると結構な時間が経っていたみたいだ。それにしてもコルキスの奴、成長したって言ってたけど相変わらず寝起きは舌っ足らずな喋り方になるんだな。
「おはよう。元気になったかな、よく覚えてないけど」
やっぱり俺がコテンパンにされて負けたんだろう。
「良かったぁ。それじゃあ今日は出発できるね」
コルキスは眠たそうにそう言うと、とても自然な流れで俺を吸血した。そして満足気な顔で俺に頬擦りすると、ディオスに身支度を手伝ってもらって塔の頂上へ行ってしまった。
「……もしかして、慣れてきたのかな」
嫌な夢は見たっぽいけど、体力的には辛くないしコルキスのあの表情は割りと可愛いと思う。少し寝苦しくて重いけどそれだけだ。
『おいおい、何言ってんだよアルフ』
『そうじゃぞ。コルキスが吸血でアルフを回復したからそう感じておるだけじゃわい』
「そ、そうなのか」
『お前、さては一緒に寝るのも悪くないな、とか思ってたな?本当にそう思うなら被虐趣味でもあるんじゃないのか?』
『儂ならヴァンパイアハーフに甘えられたら即逃げ出すぞい。前にも言ったが、あやつ等の甘えん坊っぷりを舐めたらいかんぞ』
さっきまで人形に入ったまま黙っていたアクネアとティザーが、浮かび上がりながら忠告してきた。
「ま、まぁ小さいうちはいいかなぁって思っただけだよ」
『はぁぁぁ、分かってねぇなー』
『後で儂等に絶対文句を言うでないぞ。ちゃあんと忠告したからの』
2人はそう言って俺に身支度をするよう急かすと、ドゥーマトラを呼びに行ってしまう。
何で? と思ったけど、一応塔でお世話になったしお別れの1つも言っといた方がいいよな。もしかしたら今後も何かお願いするかもしれないし。
ま、とりあえず俺も頂上に出ておこうかな。ちなみにグルフナはずっと側で待機してくれていた。使い魔らしさが少しだけ板についてきたように思う。
「うーん、気持ちいい朝だな」
頂上には朝特有の冷たく清しい風が流れていて、今日という日を期待させる。輝く朝日も、まるで俺たちの出発を祝ってくれてるみたいだ。目を閉じて思いっきり深呼吸をしてみた。
「くふふふ。ディオスってば――」
楽しそうな声に目を開けて振り返ると、コルキスがディオスと一緒にドラゴンの像に食べられた振りをして遊んでいる。どこら辺がそんなに楽しいのか後で聞いてみよう。
あ、そういえばコルキスが子分にしたっていうエルフィンスジャクはどこにいったんだろう? 昨日はあの辺りに立ってたと思うんだけど……
「今日出発して頂けるんですよね?」
「おわっ!?」
急に後ろから声をかけられてビックリした。心臓がキュッってなったじゃないか。えっと、誰だっけこの人。
『ドゥーマトラがアルコルを代わりにってさ』
「アルコル?」
『そうじゃ、此奴はここのダンジョンマスターなんじゃがドゥーマトラがアルコルと名付けての。ドゥーマトラがせっかくじゃからアルフにも会わせておけとな』
「へぇ、そうなんだ。よろしくねアルコル」
「こちらこそよろしくお願い致します。ではさっさと出発して頂きたいのですが、確かヒウロイト王国へ行くんでしたよね? でしたらいい方法がありますよ。皆さん、私の前に集まって下さい」
アルコルって妙に畏まった感じだけど、ちょっと胡散臭いな。
「やだー。ぼくもっと遊んでからがいい」
『……チッ! ロン、連れて来なさい』
ディオスと遊んでいるコルキスは集合せずに遊び続けている。まったく、早速コルキスの我儘が――おや?
「え? あ、ちょっと、何するんだよロン? 離してよ」
「拒否する。アルコル様の御命令だ。行くぞ」
アルコルみたいに突然現れたエルフィンスジャクが、コルキスとディオスを掴み上げてこっちに連れて来ている。コルキスとディオスは抵抗してるみたいだけど、なんか動きに切れがないな。
「ロンのバカ! ぼくの子分なのに何で言うこと聞かないんだよ! ぼく遊ぶって言ったでしょ!」
あー、このエルフィンスジャクはロンっていうのか。コルキスのやつ、ぷりぷり怒ってるわりに文句だけで済ませているところをみるに、ロンのことなかなか気に入ってるんだな。
「煩い。アルコル様に従うように言ったのはコルキス様だろ。今優先されるのはアルコル様だ」
ロンはそう言うとコルキスたちを俺に向かって放り投げた。
「むぅ、次からはぼくの言うことを優先しなきゃダメだからね」
俺の前で浮かんで止まったコルキスが不機嫌な声でロンに言うと、「次からはな」とロンが嫌そうに返事をした。
「あいつ生意気なんだよ」
コルキスは俺にそう言うと、キャッチしようとした体制のままだった俺の腕にすっぽり収まってしまった。
しまった。これはしばらくコルキスを抱っこし続けなくてはいけないヤツなんじゃないだろうか。またあの地獄が……。
「では皆さん集まったようですね。ヒウロイト王国へは107階にある黄色い宝箱型の転移トラップで行けますから、どうぞ御利用下さい」
「え? ちょ――」
何か言う前に一瞬でアルコルの塔内部に移動させられてしまった。そこは揺らめく薄明かりの浮かぶ広間であり、目の前には黄色い宝箱を守護する6体の魔物がいた。
~入手情報~
【名称】ミュラウト古墳群
【種別】コアダンジョン
【階級】☆☆
【場所】ヒウロイト王国よりメネメス国アプレビ辺境伯領方面の古墳地帯
【属性】-
【外観】洞穴型
【内部】地下道迷宮
【生還率】100%
【探索率】80%
【踏破数】21回
【踏破者】シュナウザー・クランバイア/ミラ・ヤゴコ・クランバイア
【特記事項】
等級指定:-
固有変化:罠設置場所変化/天候により通路構成素材変化
特殊制限:10分で灯りの消失/同時探索人数3人まで
帰還魔法:火属性のみ使用可
帰還装置:無し
最高到達:幼き掌の群生廊
安全地帯:未発見
【ダンジョン大図鑑抜粋】
ヒウロイト王国のすぐ近くにある遺跡群。
初代魔王ミュラウトの墳墓と言われているが確証はなく、現在も調査、研究中である。約1300年前に発見されたが、現在判明していることといえば、最も古い墳墓が約100000年前の物ではないかという事のみである。前方後円墳や八角墳、双方中央墳等様々な形の古墳が数多く存在しているのだが、実はすべて入り組んだ地下道で繋がっている。実はこの地下道、発見者により隠匿されたダンジョンであり、彼ら専用の素材収集場所と化している。なお、ダンジョンは今この瞬間もすべての古墳を侵食している最中である。
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【名称】氷麦
【分類】魔麦
【分布】メネメス国全域/ヒウロイト王国南部/他寒冷地等
【原産】セイアッド帝国フローネ氷河空域
【属性】氷/植物
【希少】☆
【価格】共通銅貨120/1kg
【特徴】
氷点下でしか育たない麦。
葉は白く茎は薄い青色で穂は透明な濃い青色をしている。栄養が豊富であり、メネメス国では多く流通している。氷麦自体は比較的安価で手に入るが、氷麦粉に加工した場合、周囲を凍らせてしまう性質を持ち途端に扱いが難しくなる。そのため氷麦粉の調理には資格が必要で、その加工品は大変高価になる。なお、先天属性が火のものが食べると一時的に軽度の目眩を引き起こすこともあり、水だった場合は極短時間だけ水魔法が氷魔法に変化することもある。
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【ケタイルテンクの町】
メネメス国の北東にある町。
猫獣人や狸獣人が多く住んでいる。独特な娯楽が存在している為、国内外から多くの観光客が訪れている。また、犬獣人や狐獣人はあまり近寄らないが居ないわけではない。
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【バルデミーナの町】
メネメス国の北北東にあるホルガダンセン地方の町。
険しい山脈の中腹に存在しており、町の中でも高低差がかなりある。山羊獣人とスノーエルフが多く住んでおり、チーズが特産品で数多くの種類がある。また、スノーエルフは氷属性を吸収できる体質の為、極地と言われる山頂まで易々と登ることができる。彼等が持ち帰る希少な食材や魔物の素材もここでしか手に入らない物も多い。また、楽器を演奏する悪魔が若者を連れ去り魂を奪うという伝承が有名。
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【ホルガ山脈】
ホルガダンセン地方にある険しい山脈。
あまりにも険しい山脈の為、決まったルート以外では越えられないと言われている。雪豹やアイスデビル等の凶悪な魔物も数多く生息している。また、アイスドラゴンやエルダーブリザードトレントといったSランクの魔物の目撃情報もある。
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【ダンセン洞窟】
ホルガ山脈を貫く洞窟。
複雑な作りで魔物も多くの生息しているがダンジョンではなく、普通の洞窟である。数少ないホルガ山脈を越えるルートの1つであり、中には小さな村も存在している。危険度はそこそこといったところで、ケタイルテンクの町からバルデミーナの町へ行く場合1番使われている。
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【ブルウェイン大穀倉地帯】
バルデミーナの町から北へ約80キロ進んだ地域。
メネメス国で1番の穀倉地帯であり、主に氷麦を栽培してる。氷麦の穂は透明な濃い青色をしており、収穫期の風に揺れている様子は輝くブルウェイン海と言われ絶景である。
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【アプレビ辺境伯領】
アプレビ辺境伯が治める領地。
メネメス国とヒウロイト王国が最も接近する場所の1つである。しかし両国は良好な関係であり、また、両国間には貴重な遺跡も存在している為、争いが起こったことは殆どない。実はメネメス国の辺境伯はヒウロイト王国内にあるダンジョンのスタンピード警戒しており、アプレビ辺境伯は絶望の階段アグアテスを担当している。
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【猫獣人】
猫の獣人。
大変気紛れであり気難しい種族だが、気の合う者とは一生の友となれるだろう。親しい者にしか見せない仕草があまりにも愛らしいと噂されている。素早さや魔力が高い種族でもある。狸獣人は平気だが犬獣人は苦手な者が多い。ケタイルテンクの町に住んでいるのは多くが大山猫族の猫獣人である。
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【狸獣人】
狸の獣人。
大変珍しい種族で世界中を探しても数が少ない。非常に臆病な種族であり、大きな音を聞いただけ気絶する場合がある。幻を見せたり変化が得意な種族でもあるが、その力を争いに使う事はほぼない。狐獣人が嫌い。
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【大猩々獣人】
大猩々の獣人。
身体が大きくがっしりしており非常に力が強い反面、魔力が低い種族。ドラミングという固有スキルを持っている。また、ごく稀に真っ白な体毛を持つ個体が生まれるが、この個体は魔力が非常に高く力も強い。また、大猩々獣人は愛する者に自らの排泄物をプレゼントしたり、投げ付ける習性がある。




