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6話 浴場の怪しい男

後書き修正

 私はアーシャ、25歳。


 クランバイア魔法王国第13王子アルフレッド様付きのメイドとして召し上げられ早10年、ずっとアルフレッド様のお側にいるの。


 アルフレッド様は国民から残念王子とか顔だけ王子なんて囁かれ、同腹の姉ジル様以外の御兄弟様方からも良く思われていらっしゃらない。


 けれど私は知っているのです。


 アルフレッド様はとてもお優しく、とてもとても可愛らしいお方だと。


 勿論、その内面を体現したかのようなお美しいお姿です。ハッキリ申しますと、私の好みど真ん中。


 そして幼い頃から何かあると私に甘えにいらっしゃるアルフレッド様。

 

「アーシャ、頼みがあるんだけど……」

 

 と、少し上目遣いでお声をかけて下さると、抱き締めたい衝動を抑えるのに必死です。



 先ほど2週間ぶりにアルフレッド様がお目覚めになられたの。


 なんと、1番最初に私の所へ来てくださったのよ!! あぁ、何て嬉しいことかしら。


 ドリアード様が吐き出した樹液を頭から被られたそうで、これから入浴されるとのこと。私もお供しかったのだけれど、御部屋の掃除を任されたので仕方ないわ。


 アルフレッド様から頂いたドリアード様の苺は後でメイド仲間に自慢するつもり。


 表には一切出しませんが、アルフレッド様は私以外のメイドや執事からも人気が凄まじいの。


 だって私達のことを本当に大切にしてくださるんですもの。


 他の王子様や王女様も悪い訳じゃないけど、アルフレッド様と比べるとちょっと、ね。

 

 さてと、さっさと掃除を終わらせてアルフレッド様の入浴を覗き……じゃなくて、お手伝いしに行かなくちゃ。





 ##########




 うーん、どうしよう。風呂に誰か入ってるっぽいぞ。弟ならまだいいけど、兄上達の誰かだったら嫌だな。


 父上なら最高なんだけど、こんな昼間から風呂に入るわけないし。


 本当にどうしよう。でも、このままでいるのも……仕方ない、何を言われても我慢だ。いつも通り、いつも通り。


 それにしても浴場係の執事やメイドがいないのは何でなんだろう。


 えっと……脱いだ服をどうしようかな。これ、どこに置いてもそこがベタベタになる。


 まぁいっか。たぶん風呂を出る頃にアーシャが着替えを持って来てくれるだろうから、その時一緒に綺麗にしよう。


 うへぇ、服を脱ぐのも一苦労だ。


 樹液って凄い粘着質なんだな、知らなかった。早く洗い流したい。





 浴場に入ると湯船に浸かってる人影が見えた。本当に誰だろう。大きさから見て弟じゃないのは確かだ。


 湯気で良く見えないけど、ミラ兄上だといいな。


 基本的に俺のことは無視だし、室内で魔法を使わないから意地悪されない。

とりあえず、見つからないように流水場で樹液を落とそう。


「誰だ?」


 はい、バレました。たった1歩、歩いただけでバレました。


「ア、アルフレッドです」


 ザブンッと音を立てて兄上が立ち上がった。


「アルフレッド様でしたか。失礼しました。国王様、私はもう出ますのでどうぞごゆっくりなさって下さい」


 ん、聞いたことない声だ。


 本当の本当に誰だ?


「あ、違います。わ、私は第13王子のアルフレッドです」


 正体不明男が湯船から出てこっちに近づいて来る。


「あぁ、そっちのアルフレッド様ですか。私は勇者のソウタです。始めましてですね」


 勇者様!!?


「あ、え、勇者様ですか!? 失礼しました。私が出ていきますので、勇者様は寛いでいて下さい!」


「あ、待って待って」


 慌てて出ていこうとしたら肩に手をかけられた。


「アルフレッド様、本当に私は出ようと思ってたとこ……なっ!!?」


 俺が振り返ると勇者様が幽霊でも見たような顔で固まってしまった。


 どどどどうしたの?


 ていうか勇者様って大きいんだな。


「あ、あの勇者さ……どわっ!?」


「ユ、ユウタ!! どうしてお前がここに!?」


 痛い痛い!!


 勇者様が掴んでガクガク揺さぶってくる。久しぶりに目覚めた身には辛い振動だよ。いや、普段でもそうか。


 それにユウタって誰だよ。


「ユウタ……ユウタ!!」


 グゥッ!! く、苦しい!!


 勇者様、抱きつかないで下さい。これじゃまた倒れちゃうよ。


「は、離して……下さ、い」


 ううぅぅ、何でもっと強く抱き締めるんだよ。本当にマズイ。


 こ、こうなったら……


「うっ!」


 駄目だ、歯形すら付かない。顎も外れるかと思った。


 なら思いっきり突き飛ばそう――虚しい、ビクともしない。


「ゆ、勇者様、離して下さい!!!」


 大声で叫んだらようやく離してくれた。


「はぁはぁ。あ、危なかった……」


 俺はその場に崩れ落ちる。肩が自然と上下している、苦しい。が、よくよく考えたら兄上達の魔法虐めに比べたら何て事ないかもな。


 ただ、噛み付いても突き飛ばしても効果無しって。俺、本当にステータス低いのな。


「も、申し訳ない。アルフレッド様が弟にそっくりだったのでつい」


 呼吸を整えていたら勇者様が謝ってきて立たせてくれた。


「は、はぁ。弟様ですか……」


「あの、本当にユウタではないんですか!? 転生したとか、前世の記憶があったりとかしないですか!!?」


「違います。前世の……記憶? それも無いです」


「そうですか」


 勇者様、さっきまでの勢いが嘘みたいにしょんぼりしてる。


「あの、えっと……」


「すみません、ちょっと失礼します」


 そう言うと、勇者様は湯船に向かって走って行ったと思ったらそのまま湯船に飛び込んだ。



 えぇぇぇ!? 何やってるの!?


 お、俺このまま出ていった方がいいよな。


「ゆ、勇者様、じゃあ私は行きますね」


 まだ樹液まみれだけど出直そう。


 前世の記憶とか転生とか良くわからないこと言ってて何か怖いし。


「あ、待って下さい!! 少し話がしたいです。一緒に風呂に浸かりませんか?」


「え? いやぁ、でも……」


「お願いします! どうかこちらへ!! どうしても話がしたいんです!!!」


 うぅぅぅ、逃げたい。


 俺もドリアードみたいに空間移動ができればなぁ。



 仕方なく勇者様の方へ行こうとしたとき救いの声が聞こえてきた。


「アルフレッド様、何やら大きな声が聞こえたのですがどうかなさいましたか?」


 アーシャだ! ナイスタイミング!


「何でもないよ。すぐそっち行くから!」


 アーシャに返事をし、今度は勇者様にお詫びを言おうと湯船の方を向いたら目の前に勇者様が立ってた。


 うおぉぉ!!?


 ポンっと肩を叩かれたかと思ったら、勇者様は一瞬で浴場の入り口へ移動してアーシャを追い払ってしまった。


 あぁもう逃げられないな、諦めよう。


「さぁアルフレッド様、湯船に浸かる前にそのベタベタを落としましょうか」


 勇者様がゆっくり戻ってきながら言う。


 今、近付いて来ている勇者様はものすごい笑顔だ。決して逆らっちゃいけない笑顔だよ。


 で、両手を広げてまた俺を抱き締めようとしてる。


 どうしよう、何されるんだろう。


 でも結局どうにもできないのは分かってるから、俺はギュッと目をつぶって覚悟を決めた。


 恐らく目の前まで来た勇者様は小さく笑い、俺を抱き締めて――ウォッシュと唱た。


~入手情報~


【名 称】ドリアードの苺

【分 類】精霊苺

【分 布】-

【原 産】特級精霊ドリアード

【属 性】植物

【希 少】☆☆☆

【特 徴】

植物の特級精霊ドリアードが特に効果を意識せず自らの体に実らせた苺。甘酸っぱくてとても美味しい。魔力が60%回復する。



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