76話 抱っこ地獄
後書き修正
結局俺はコルキスとエルフィンスジャクが戦った日は何も聞かずに寝てしまった。
判断ミスだった。アルコルの塔から全く移動できていない。
なぜならコルキスはあれから眠り続けていて、今日で3日目だ。アクネアとティザーは急激な成長を遂げてるからだと言っていた。
前にも同じことがあったけど、前回と違うのはコルキスがずっと俺にしがみついていること。腰が、腕が、首が……いやもう全身が悲鳴をあげまくっている。
たまに眠ったまま俺を吸血したり頬擦りしてくるけど、全然起きてくれないし離れてくれない。
ディオスディオスで頂上のある場所で赤くなったり黒くなったりし続けている。
「明日には起きてくれるかな」
俺は頂上でコルキスに夕日を当てながら願いを込めて呟いた。するとティザーが欠伸混じりに『どうかのぅ』と答える。
『それよりコイツの方が問題だぜ』
「アクネアは俺よりそんなヤツの心配するのか。薄情だ」
とはいえ立ったまま衰弱していくエルフィンスジャクが問題なのはそのとおりだ。
「……何をやってるんだ?」
なんとなく視線をやると、アクネアはなぜかエルフィンスジャクの全身を囲むように薪を組んでいる途中だった。
『このままだと衰弱する一方だろ。俺は優しいからな、燃やしてやるんだよ』
そうか、燃やすのか。
それが優しさにどう繋がるかは知らないけど勝手にしてくれ……ん 燃やす?
「ちょっ、アク――」
疲労で鈍った頭が理解したときには、アクネアがリーサルフリントを使ってエルフィンスジャクを火だるまにした後だった。
「あ、あぁ……アクネア、どうしてそんなことを。コルキスが燃えカスになった配下を見たら悲しむだろ」
『大丈夫だっての。つか、心配するところがそこかよ。アルフも相当疲れてるな』
うん、疲れてる。寝不足だしコルキスは心なしか少しずつ重くなっている気がする。確かそんな魔物がいたな。
『まったくよー、仕方ねぇな』
アクネアが回復魔法をかけてくれた。
「お、おお……あれほど頼んでも使っててくれなかったのに、ようやく………」
消えていく疲労に涙が溢れる。だがしかしコルキスよ、お願いだから今日起きてくれ。兄様のメンタルはへしゃげそうだ。あ、エルフィンスジャクを包んでいた炎が弱まってきた。
「え、何あれ……怖っ!」
炎から出てきたエルフィンスジャクは、何とも言えない恍惚の表情を浮かべながら口をモグモグさせていた。
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俺の願いも虚しくコルキスが目を覚ましたのはあれから5日後の夕方だった。
「んー、良く寝たなぁ」
俺もエルフィンスジャクも酷い有り様だ。そんな俺たちに容赦なく吸血するコルキス。
「……本当に良く寝てたな。俺は今から寝る」
「えー、まだ夕方だよ?」
少しだけ少年っぽさの抜けたコルキスが、口を尖らせて抗議してくる。
「俺はコルキスを8日も抱っこし続けたんだぞ。もう色々限界なんだよ」
アクネアはあれから回復魔法を使ってはくれなかった。いい訓練だとか言って疲労に苛まれていく俺を肴に酒を飲んでいた。
「ぼくそんなに寝てたんだ、ごめんね兄様。お詫びにぼくが回復してあげるね」
コルキスは何故かもう一度俺を吸血した。
「え、何だこれ!? 疲れ一気に吹っ飛んだし、物凄く力が沸いてくる!」
「くふふふ。ぼくね、すっごくすっごく強くなったんだよ。50の祝福で固有スキルを選んだら、成長もしたし新しいのも発現したんだ」
コルキスはどうだと胸を張って得意気だ。いつの間にかコルキスの側に現れたディオスも同じように得意気な顔をしている。そして何故かグルフナまで……あ、ディオスに叩かれた。
「そ、そうなのか。良かったな。あと、ありがとう」
「うん。でもね、そのせいでコイツ要らなくなっちゃった」
俺の言葉に含羞みながらエルフィンスジャクに近付き、首に齧りつくと、そのまま塔から投げ捨ててしまった。
「何やってるんだ!?」
「あ、そうだった。捨てちゃダメなんだった」
コルキスは慌てて飛び降りて、エルフィンスジャクを回収してきた。見事な空中キャッチだったよ。
「もう1回吸血しとこうっと」
『ほうほう、コルキスはまたえらくえげつない固有スキルを手に入れたのう』
『その代わり他はあんまりだけどな』
『そこはディオスがカバーしておるじゃろ。いやはや、モーブ様の読みは流石じゃの。よし、祝盃じゃ!』
『おう!』
2人は勝手に盛り上がって酒盛りを始めてしまった。ずっと飲んでたくせになにが祝盃か。てか俺にも詳しく教えて欲しいんだけど。
「兄様もう眠くないでしょ。ぼくの固有スキルを見せてあげるね。あ、そうだ! ぼく兄様と戦ってみたいなぁ。卵は最初に何個か作っていいから。ね、いいでしょ?」
『それいいな!』
『旨い酒の肴に最高じゃわい』
え、何の返事もしてないのにコルキスと戦う流れになってしまった。
「いやいや勝負にならないって。コルキスの圧勝だってば」
どう考えてもコルキスの固有スキルで酷い目にあうだけなのでは?
『そうでもないんじゃないか?』
『兎に角やるんじゃ。儂等をしっかり楽しませるんじゃぞ』
コルキスを見ると既に準備運動を始めている。グルフナも戦う様子を見せたけど、アクネアにがっしり掴まれていた。
「はぁ……手加減してくれよ」
「死なないから大丈夫だよ」
てことは瀕死までは追い込むってことだよな。全然大丈夫じゃない。
『そんなに心配せんでよいぞ。もし、負けそうになったらおまじないを唱えるとよい。そうじゃの……hブーストがオススメじゃ』
何だそれ?
「あ、ダメだよ! 兄様、それダメだからね!」
コルキスが狡いだの、ぼく怒るよとか言っている。そんなことを言われても俺には何のことだかさっぱりなんだよな。
『おいアルフ! 卵は100個くらいでいいだろ。いくぞ!』
返事をする前にアクネアが魔法を放ってきた。
「ちょっ、アクネア」
「100個は多いよー!」
文句を言いたいのは俺の方だぞコルキス。
俺は慌ててミステリーエッグを発動した。
~入手情報~
【名前】コルキス・ウィルベオ・クランバイア
【種族】ヴァンパイアハーフ
【職業】王子・冒険者
【年齢】8歳
【レベル】50
【体 力】410
【攻撃力】733
【防御力】591
【素早さ】888
【精神力】399
【魔 力】5117
【通常スキル】
消費魔力減少/闇魔法威力増/体術/高速飛行/我儘/甘える
【固有スキル】
吸血/飛行/憤怒/長寿/魅了/不完全変身/不完全分身/不完全投影/闇属性吸収/兄好き/聖光被ダメージ激増/ヒストリア/オーラ/ダークネスミスト/デッドリージャーニー
【先天属性】
闇
【適正魔法】
闇魔法-中級
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【名前】ディオス
【種族】リキッドマナストーン
【職業】使い魔
【年齢】0歳
【レベル】51
【体 力】1329
【攻撃力】6006
【防御力】2328
【素早さ】2000
【精神力】777
【魔 力】8978
【通常スキル】
甘える/硬化/滅多打ち/隠形
【固有スキル】
自然界魔素吸収/無属性吸収/闇属性吸収/氷耐性/土耐性/水耐性/魔力栄養化/変形/飛行/分裂/物理ダメージ吸収/アブソリュートトレジャー
【先天属性】
無
【適正魔法】
無魔法-中級/闇魔法-下級/氷魔法-下級/水魔法-下級/土魔法-下級
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【名称】リーサルフリント
【分類】神力石
【属性】火/土/死
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】-
【効果】
死を招くの火打石。火精霊と土精霊が作り出す火打石に、死の女神が気紛れで力を与えたもの。カチッと石を打ち鳴らすと高温の炎で正面にあるものを焼き尽くしてしまう。2回打ち鳴らすと、使用者か周囲の誰かが即死するほどの炎に包まれる。アルフの卵から出てきた大変危険な火打石である。火打石としては失敗作だが、それを言葉にすると火精霊と土精霊に嫌われる他、死の女神の機嫌も損ねる可能性もある。
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【名称】50の祝福
【分類】神の御褒美
【効果】
レベルが50上がるごとに与えられる成長ボーナス。
下記のいずれかを選択できる。但し、レベルが50上がるまでの行動によっては何も得られないこともある。③を選択した場合、次にレベル1まで戻れるのは③を選択時のレベルに50を加算したレベルの時である。なお、稀に下記以外の選択肢が現れる可能性もある。
①『体力などのステータス値を上昇させる』
②『新たなスキルや固有スキルの発現を試みる』
③『レベルが100以上の場合、レベルを1まで戻し弱体化する代わりに、各ステータス値の上昇率増加、固有スキルの上位化を図る』




