70話 仮の寝床が魔改造された
後書き修正
ピポルたちと別れたあと、俺たちはマクルリアの町からこっそり抜け出した。昨日はコルキスがいなかったけど、今日は一緒にだ。やっぱりディオスに包まれている。そんなに寒いのが苦手とは知らなかったな。
「よし、ここら辺りでいいんじゃないか?」
今日の寝床は丘陵地帯と反対側に進んだ場所にある川の近くに決めた。マクルリアの遺跡でメファイザ義母上の話を聞いて、念の為に今日も町から離れた場所で寝ることにしたんだ。
『昨日は地下に潜ったあら今日は上を目指そうれ!』
少しだけ酔ってるアクネアの思い付きに乗っかったティザーが土や石でパパッと塔を作る。
「こんなに高くしなくてもいいんじゃないか?」
「何で? カッコいいよこれ」
マクルリアの町を囲っている壁の3倍くらいあるんじゃないかな。ティザーは暗いから分からないって言うけど、どうなんだろ。
「ねぇ、塔の壁が寂しいからもっとカッコ良くしようよ」
コルキスはこの塔をいたく気に入ったみたいで、ティザーにあれこれ注文し始めている。コルキスには言ってないけど、ティザーやアクネアが魔法を使えば俺の魔力を持っていかれるんだよなぁ……まぁコルキスの機嫌が直ったからいいけどさ。
コルキスはさっき俺が遺跡で1人でアイテムを売ってくるように言ったのをずっと怒ってた。いや、拗ねてたのかな。
「なあ、もういいだろ。やり過ぎだよ。どこのダンジョンだってくらいあり得ない装飾になってるじゃないか」
シンプルな塔だったのに、コルキスが提案した全部を再現したもんだから、どこからどう見てもダンジョンだよこれ。
入り口には大きく荘厳な扉がついてるし、一定の間隔で魔物の像が並んでる。しかも、そこから頂上まで色んな魔物の像がくっついているし。上に行けば行くほど、強い魔物になってるのは何かこだわりでも有るんだろうか……特に頂上の4体のドラゴンが外向きに羽ばたいてる像は生きてるみたいだよ。
「えー、もっとカッコ良くしようよー! ぼく、頂上の真ん中には眠らないドラゴンが勝利のポーズをとってる像を置きたいな」
『いいじゃれーか! やれやれー!』
『儂ばっかり、働かせおって。アクネアも何かせんかいな』
『俺は仕上げをやるろら』
俺が止めるのも聞かず、結局やりたいように最後までやり遂げた3人は達成感に溢れている。塔の中へ入ると内装もダンジョン顔負けの複雑さになっていた。
おまけにコルキスが最上階で寝たいと聞かなかったから、俺達は一旦外に出て頂上まで浮かび上る事になった。
頂上に着くと我が目を疑った。あーあ、何か滝みたいなのがあると思ったら、眠らないドラゴンの口から水が流れ出ててるじゃないか。
本当、何がしたいんだコルキスたちは。
「俺はダンジョンと遺跡を移動してヘトヘトなんだよ。早起きしなきゃいけないし、もう寝るぞ」
「何で早起きするの? お店屋さんはお昼にするんでしょ?」
何でってコルキスたちのせいだろ。
「夜が明ける前にこの塔を消さなきゃいけないだろ。このままじゃ大騒ぎになるじゃないか」
俺の言葉を聞いたコルキスが、信じられないとでも言いたげな顔をした。
「……壊しちゃうの? ぼくが頑張って作ったのに、これ壊しちゃうの?」
いや、そんな泣きそうな顔をされてもな。駄目に決まってるだろ。それに作ったのはティザーたちだ。あと間接的にだけど俺の魔力な。
『アルフはひろい兄貴だらー』
『その通りじゃわい。儂が老体に鞭打って作り上げた傑作を何だと思っておるんじゃ』
アクネアとティザーもコルキスの味方するのかよ。ついでにディオスも自分の像を指して抗議してくる。
俺の味方はグルフナだけ――あ!?
なんてことだ。グルフナも自分の像にすり寄って泣きそうな雰囲気を醸し出してるじゃないか。
「はあ……どうなっても知らないからな」
もうこれ以上疲れたくなかったから、なにもかも諦めて眠らないドラゴンの胴体下にある隠し階段を使って部屋に入った。これもなぜ隠す必要があるのか理解に苦しむ。
こじんまりした部屋の窓際に並んで置かれた箱形のベッドに入り横になるとコルキスも潜り込んできた。
「悪いコルキス。今日は1人で寝かせてくれ。本当に疲れたんだ」
コルキスの頭を撫でながらお願いしたけど「いつでも一緒に寝てくれるって言ったのに!」って怒り出したからこれも諦めた。
本当に眠かったから。
朝、寝苦しくて目が覚めた。思った通り、コルキスが俺の上で熟睡している。そのせいか疲れの残り具合が異常だ。
『安請け合いするなと儂等が忠告したじゃろう』
『ヴァンパイアハーフの甘えん坊っぷりを舐めてるからこんな事になるんだ。二度と安眠できないと思った方がいいぞ』
自分たちが入っている感じの悪い人形を近付けて、やれやれって仕草をしながら、ティザーとアクネアが溜め息をつく。
え、もしかしてこれから毎日コルキスと寝ることになるのか!?
「ん、ううん……おはよう兄様。どうしたの、そんな遠くを見詰めて。何か飛んでた?」
俺が思わず起き上がったせいでコルキスが目を覚ましてしまった。
「いや……何でもない」
俺の顔を不思議そうに見たあと、コルキスは朝ごはんと呟いて、血を吸うとディオスを連れて頂上に出て行った。
「もしかしてコルキスが大人になってもこれが続くのか?」
慣れない痛みに自然と首を擦ってしまう。
『そうじゃ』
『だな』
「コルキスには何がなんでも独り立ちしてもらおう」
俺も軽く朝食を食べて頂上に出た。清々し風が気持ちいい。
「朝焼けが凄く綺麗だ。今日は良いことがありそうだなコルキス」
ディオスと一緒にドラゴンの像に乗ったり、食べられた振りをして遊ぶコルキスに声をかけた。
「朝焼けは綺麗だけど、良いことは無いと思うな。普通そういうのは夕焼けのときに感じるものじゃないの?」
へぇ、ヴァンパイアの血がそう感じさせるんだろうか。それからコルキスが遊びに飽きるまで待ってから、雪原の輝きのメンバーが喜びそうな物を選び始めた。
実は今、アイテムが凄い量になってる。ドロップ品もだけど遺跡にいた火精霊は皆、俺の固有スキルのことを知っていて、会う度に片っ端から卵を作らされたんだよ。
火精霊ってば欲しい物以外は俺に押し付けてどっかに行くんだもんなぁ。8つ目のダンジョンを出た時、まさかぶちギレしたドゥーマトラが直接俺の所に来るとは思わなかったよ。めちゃくちゃ怖かった。
コルキスは手早く目玉商品を選ぶとすぐ、また遊びに行った。あの遊びのどこが面白いのか理解できない。
「え~っと、マナハットピストル、ドールフォーク、クリスタルフランベルジュ、エナジージュボーク、ポマエ茸、ニャーテ、ダイロニアチョーカー、紅緋月牙鏟……なんかよくわかんないものばっかりだな」
できればこれらの他にも雪原の輝きの皆には、冒険者の必需品や何かをできるだけたんくさん買って欲しい。
売れなかったら、雪原の輝き以外にも買ってもらえるように店を出そうかな。またドゥーマトラに怒られたくないし。
『そろそろ時間なんじゃねーの?』
退屈そうなアクネアが時間を教えてくれる。
「わかった。じゃあ行こう。お~い、コルキス出発するぞ」
呼ぶとコルキスはディオスをもにもにしながら飛んできた。たぶんもっと遊んでいたいんだろう。
「はっ!? この塔を残すだって!?」
出発直前のコルキスの言葉につい大きな声が出た。
「もちろんだよ! 名前つけたんだ。アルコルの塔だよ」
『もう保存の魔法はかけてあるぜ』
『ついでにアルフに要望通りダンジョンにしておいたからの』
はぁぁぁぁぁ!?
俺がいつダンジョンにしてくれ何て頼んだんだよ!
「いくらなんでもそれは駄目だろ!」
『でもよー、アルフはマクルリア遺跡はそっとしときたいって言ってたじゃねーか。蜥蜴獣人たちには口止めしたけど、代わりを用意してやったら万全だと思わねーか?』
『遺跡が荒らされると火精霊が何をするか分からんしのう。それに昨日、ダンジョンダンジョンと煩かったではないか』
うーん……確かにあそこは、これまで通りの方がいいと思う。マクルリアの町の為にも。万が一にもヴォルキリオ封印が解けたらと思うとゾッとする。
そもそもあんな危険すぎるダンジョンは特級精霊でもいなきゃ即全滅だ。それに遺跡の火精霊たちは本当に楽しそうで平和そうで……あれを邪魔して火精霊が怒ったら、犠牲はマクルリアの町だけじゃ済まないだろうし。
「じゃあ良いのかな」
「良いに決まってるよ! こんなにカッコ良いんだもん、皆も喜ぶよ!」
そうかなぁ……あれ? ちょっと待てよ。
「ダンジョンって作れるものなのか?」
『普通は無理だっての。今回はダンジョンボスの魔核があったし、俺とティザーがかなり無茶したんだ』
『寝ておるアルフにマジックポーションを飲ますのは大変じゃったわい。コルキスも起こさんように気を使ったんじゃぞ』
え、何それ、どういう……あっ、もしかしてこの異常な疲労感ってアクネアとティザーのせいなのか?
『1万回くらいはアルフの魔力を全快させたんだぜ。ったく、契約者でもないのにアルフの願いを叶えてやったんだ。俺たちって本当に優しい精霊だよな』
『まったくじゃ。願いの対価は酒で良いからのー。旨い酒をたーんと買っとくんじゃぞ。儂は疲れたから寝るぞ』
『そういうことだアルフ。商売が終わったら酒を買って、さらにミステリーエッグで酒作りだからな!』
「くふふ、願いが叶って良かったね兄様」
これは、ありがとうと言っておくべきなんだろうか……俺はダンジョンを作ってくれとは願っていないと思うんだよな。
それに1万回も魔力が全快するマジックポーションなんか飲まされて、俺の身体は大丈夫なのか?
もしかしたら今日、俺はいきなり倒れたりするかもしれない。さっきまで良いことがありそうだって思ってたけど、俺も夕焼け信者に変わろうかな。
「兄様早くして! ぼくお店屋さん楽しみなんだから!」
急かされても足取りの重い俺を見たコルキスは、あっという間に俺を霧にしてマクルリアの町を目指した。
~入手情報~
【名称】マナハットピストル
【分類】魔銃帽
【属性】10日おきにランダム変化
【希少】☆☆☆
【価格】テラテキュラ銀貨150枚
【コルキスのヒストリア手帳】
帽子とピストルが1つになった防具兼武器。
魔力をピストルの弾として使うことができるよ。魔法を使う際の消費魔力もちょっぴり減るみたい。デザインは見る人が見ればお洒落なのかもしれないね。ぼくなら絶対被らないけど。
~~~~~~~~~
【名称】ドールフォーク
【分類】人形カトラリー
【属性】魔物の先天属性と同じ
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】テラテキュラ金貨3枚
【コルキスのヒストリア手帳】
ティータイムドールのレアドロップ品。
基本3体以上で行動しているティータイムドールっていう魔物が、1体でこっそりおやつを食べている時に倒すと稀にドロップする小さな武器だい。敵に与えるダメージは装備者の最大魔力値に依存しているから兄様が使えばすごく強いかもね。でも兄様は戦い慣れしてないからオークに真珠だね。このフォークで魔物を倒すと、魔物の一部が御菓子になることがあるよ。それを食べると1分間だけその魔物の固有スキルが使えるようになるんだって。大きさは普通のデザートフォークと同じだよ。
~~~~~~~~~
【名称】クリスタルフランベルジュ
【分類】宝石剣
【属性】土/水
【希少】☆☆☆
【価格】テラテキュラ銀貨290枚
【コルキスのヒストリア手帳】
波打つ刀身をもった特別なクリスタルで作られた剣。
攻撃が当たった瞬間に微細なクリスタルの破片を埋め込むことができるよ。その傷に装備者の魔力を浴びせると体内のクリスタルが増大して内側から飛び出してくるんだ。通常の攻撃をした場合でも、この刀身でつけられた傷は治療が難しいし治癒も遅いよ。死よりも苦痛を与える剣なんだって。
~~~~~~~~~
【名称】エナジージュポーク
【分類】ジュポーク武器
【属性】風/火
【希少】☆☆
【価格】テラテキュラ銅貨710毎年
【コルキスのヒストリア手帳】
柔らかい球状の武器。
体力を注ぐと硬くなって、魔力を注ぐと好きな形に変型させられるよ。どっちも消費が多いほど硬く、複雑な形にできるみたい。攻撃した後は勝手に手元まで戻って来るけど、装備者の素早さが1700を越えてると、この武器を自在に動かせるんだって。
~~~~~~~~~
【名称】ポマエ茸
【分類】魔物キノコ
【属性】無し
【希少】☆☆☆☆☆
【価格】テラテキュラ金貨20枚
【コルキスのヒストリア手帳】
キノコのダンジョンに現れる茸型魔物のポマエチーニを倒すと稀にドロップするキノコだよ。食べると幻覚や幻聴を引き起こして、数時間後には腹痛を嘔吐を繰り返すようになるんだって。しんどいけどそれに耐えきればスキルがランダムで1つ強化されるんだよ。でも固有スキルは強化されないからね。
~~~~~~~~~
【名称】にゃ~て
【分類】鉤爪
【属性】火
【希少】☆
【価格】テラテキュラ銅貨50枚
【コルキスのヒストリア手帳】
猫の爪のように出し入れできる鋭い爪型の武器。
指にはめて使用する武器で、鋭い爪部分に毒や魔力仕込むことができるよ。攻撃力と素早さが高いほど威力が増していくけど限界はあるよ。装備しっぱなしだと、掌が肉球のようになって治らないから注意してね。
~~~~~~~~~
【名称】ダイロニアチョーカー
【分類】首飾り
【属性】毒
【希少】☆☆☆☆☆
【価格】テラテキュラ銀貨980枚
【コルキスのヒストリア手帳】
魔獣ダイロニアの粘膜で作られたチョーカー。
ちょっとじっとりしてるけど、装備者の防御力と体力を上昇させる効果があるよ。かぶれやすいから、こまめに着け外しするといいかな。
~~~~~~~~~
【名称】紅緋月牙鏟
【分類】魔鏟
【属性】土/火/月
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】テラテキュラ金貨300枚
【コルキスのヒストリア手帳】
紅緋色の月牙鏟。
三日月型の刃と鏟ってスコップみたいな物がついてる槍みたいな武器だよ。絶滅した河童獣人が愛用してた物に似てるんだって。2メートルくらいの長さで、土と火の魔力が宿ってるね。装備者の適正魔法に土魔法や火魔法があれば、中級魔法までの消費魔力が1/4になるよ。やったね。あと、三日月の日には魔法の等級が消費魔力をそのままに1つランクアップするよ。でも上級魔法が特級魔法になることはないんだって。もしこの効果が影魔法だったらぼくが欲しかったなぁ。




